Archive for 9月, 2016

Date: 9月 8th, 2016
Cate: 柔と剛

柔の追求(その10)

ステレオサウンドとその別冊に書かれていることに、間違いはない──、
そんなことは当時もまったく思っていなかった。
当時は巻末にお詫びと訂正が載っていた。

でもメーカーのスピーカーの技術者のページで、
技術的な間違いの記述があるとは、まったく思っていなかった。

私がハイルドライバーの動作原理を、あのころすぐには理解できなかった理由のひとつが、
HIGH TECHNIC SERIESでの
《背面も前面と同じ特性の音波を放射する(背面は逆相となる)》だった。

だからこそしっかりと記憶していて、いまここで書いている次第だ。

プリーツ状のダイアフラムが伸縮する。
そうやって音を出すのであれば、前面も背面も同相の音が放射されるはず……、
なのに、HIGH TECHNIC SERIESには逆相となっている。

しかも書かれているのが佐伯多門氏である。
ステレオサウンドだけでなく、他のオーディオ雑誌にもスピーカーの記事を書かれていたし、
技術系のオーディオ雑誌では技術解説もされていた。
当時は有名な人だった。

だから疑う気はまったくなかった。
疑っていたら、ハイルドライバーの動作原理の理解はすんなりいっていたはずだ。

HIGH TECHNIC SERIESのこのことに関する訂正記事はなかった、と記憶している。

Date: 9月 8th, 2016
Cate: 柔と剛

柔の追求(その9)

昨夜のaudio sharing例会の「主役」は、
ハイルドライバー(Air Motion Transformer)といえる。

五年前、ADAMのスピーカーについて書いたことに対して、ある方からコメントがあった。
ADAMはAMTユニットをX-ARTと、エラックはJETと呼んでいるが、
この方式・原理をリボン型と同じだと考えている人からのものだった。

たしかにダイアフラムは、どちらもリボンと呼べるところがある。
けれど動作原理はまったく違う。
ダイアフラムの形状が似ているからといって、動作方式まで同じと考えるのは短絡的すぎる。

そのときも書いたのだが、いまAMTに関する技術解説を行っている記事があるだろうか。
エラックのCL310が登場したのは1998年。
そのときから今日まで、オーディオ雑誌でこの方式についてきちんと解説されただろうか。

やっと登場した記事が無線と実験、2015年の記事である。
その他にあっただろうか。

リボン型とAMTは、はっきりと違う。
このことは何度でも書いていく必要があるのかもしれない。
しかも以前の記事でも、この方式への誤解もあった。

ステレオサウンド別冊HIGH TECHNIC SERIES、トゥイーターを取り扱った三冊目の巻末には、
ダイヤトーン(三菱電機)の技術者だった佐伯多門氏が、
トゥイーターの基礎知識として、
コーン型をはじめ、ドーム型、ホーン型、リボン型、コンデンサー型など、
ほぼすべての動作原理を解説されていた。

ハイルドライバー(AMT)についての解説もあった。
ハイルドライバーの構造図もあった。
構成要素に短い解説がついた厨である。

ダイアフラムのところにはこう書いてあった。
《背面も前面と同じ特性の音波を放射する(背面は逆相となる)》

これは間違いである。
本文は佐伯多門氏が書かれているのははっきりしているが、
構造図の解説は佐伯氏によるものなのか、ステレオサウンド編集部によるものなのかはわからない。

ここにもハイルドライバーをリボン型と同じに捉えているための誤解がある。
リボン型は背面に、前面と逆相の音を放射する。
けれどハイルドライバー(Air Motion Transformer)では、
前面と背面の音は同相である。

Date: 9月 7th, 2016
Cate: 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(ヴィソニック David 50・その8)

エラックのCL310とヴィソニックのDavid 50とに、いくつかの共通点を挙げることができるからといって、
CL310をDavid 50の系譜に置くのは間違っている、もしくはこじつけ、強引なこと──、
私はそうは思っていない。

CL310は奥行きこそ長いが、ミニスピーカーといえるサイズで、
驚く音を聴かせる。
知人宅でCL310のAudio Editonを聴いて、心底驚いたことをいまもはっきりと思い出せる。

ミニサイズなのに音量が出せる──、低音が出る──、
そういったレベルではなく、そこでのエネルギーの再現性に驚いた。

CL310以前にも小型スピーカーで驚く製品はいくつもあった。
セレッションのSL6(SL600)、アコースティックエナジーのAE2などがあった。
それぞれに驚かされる面をもっていたけれど、
CL310ほどエネルギーの再現性に優れていたとは思えない。

AE2の方がCL310よりも最大出力音圧レベルはとれるかもしれないが、
ホーン型に一脈通ずるようなエネルギーの再現性は、AE2には感じず、CL310にだけ感じたものだった。

そういうCL310だけに、セカンドスピーカー、サブスピーカーという捉え方からは完全に脱している。
David 50はセカンドスピーカー、と書いているではないか。
そう思われるであろう。

でもヴィソニックがDavidシリーズで目指していたのは、良質のセカンドスピーカーではないはず。
David(ダヴィッド)の名は、巨人ゴリアテを見事に倒したダヴィデから名づけられているからだ。

ヴィソニックのエンジニアが目指していたCL310の領域にあった、と私は思っているし、
瀬川先生がCL310を聴かれていたら、どう書かれるかを想像するに、
ヴィソニックの系譜に沿って書かれた可能性があった、と思う。

Date: 9月 6th, 2016
Cate: 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(ヴィソニック David 50・その7)

ヴィソニックのDavid 50の外形寸法はW10.7×H17.0×D10.3cm、
David 502はW10.3×H17.0×D10.7cm。わずかな違いはあるが、同じといっていい。

エラックのCL310はW12.3×H20.8×D128.2cmである。
奥行きが三倍近くあるが、横幅と高さはDavid 50に近い。
ユニットもウーファーは11.5cm口径、トゥイーターはAMTの2ウェイ構成。

エンクロージュアの横幅はDavid 50同様、ウーファー口径よりもわずかに大きいだけである。
David 50もCL310もフロントバッフルいっぱいにユニットがある。
バッフルの余白はどちらもあまりない。

それからCL310のエンクロージュアのアルミ製である。
ここも同じである。

ヴィソニックもエラックもドイツのメーカーである。

CL310を最初に目にしたとき、David 50の系譜だと思った。
David 50は1976年に登場している。CL310は1998年である。
20年の開きが、David 50の系譜を、ここまで進化させたのか、と音を聴いて思っていた。

価格も違う。
David 50は67,600円(二本)、David 502は60,000円(二本)、
CL310は260,000円(二本)である。

それでもCL310は、David 50の系譜だ、と感じていた。

Date: 9月 6th, 2016
Cate: audio wednesday, 柔と剛

第68回audio sharing例会のお知らせ(柔の追求・その8)

このブログを書いた後に、
the re:View (in the past)の更新作業にとりかかる。
最近は画像のレタッチ作業ばかりをやっている。

1ページ広告のレタッチは比較的楽なことが多い。
それが2ページ見開きの広告になると、すんなりいく場合とそうでない場合とがある。
難しいのは、左ページと右ページをうまくつなぎ合せることだ。

掲載誌をバラしてスキャンしているのだが、
それでも中央付近の画像がもともとないことがけっこうある。
多少重なるようにしている広告もあれば、
ぎりぎりぴったりの広告もあるし、あきらかにその部分が欠如している広告もある。

うまくごまかせることもあれば、そうでないこともある。
そうでない見開きの広告のレタッチをやっていると、ひどくめんどうに思えて、
なぜこんなことをやっているのか、と自分でも思ってしまうほどだ。

それでも、おっ、こんな広告があったんだ、と思えることが偶にある。
昨晩もひとつあった。
ティアックが出したESSのamt1の広告である。

オスカー・ハイル博士が黒板の前に立っている。
製品のamt1よりもハイル博士の写真の方が、かなり大きく扱われている。
このamt1の、ハイルドライバーの説明文もわかりやすい。

明日(9月7日)のaudio sharing例会は、
ハイルドライバー(AMT)とハイレゾリューション再生がテーマである。

場所はいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 9月 5th, 2016
Cate: オーディオ評論

「商品」としてのオーディオ評論・考(その3)

同じ商品であっても、オーディオ機器とオーディオ雑誌は同一視できない。
アンプしろスピーカーにしろ、ジャンルに関係なく、
オーディオ機器においての商取引は、メーカー(もしくは輸入商社)とユーザーとで成り立つ。

実際には流通系路の関係で直接取引ではなく、問屋、小売店が間にいるわけだが、
それでもメーカーの商取引の相手はユーザーである。

オーディオ雑誌も、出版社と読み手とのあいだで商取引は行われるが、
前回書いているように、出版社は広告主とも商取引をしている。

メーカー、輸入商社には、この商取引はない。

メーカー、輸入商社はオーディオ雑誌に広告を出している。
ということは出版社と商取引をしているではないか──、という反論は成り立たない。

ここでの商取引は、商品においての商取引である。
メーカーが製造したオーディオ機器、
輸入商社が輸入したオーディオ機器、
これらが商品であり、この商品においての商取引はユーザーとのあいだに成り立っている。

メーカー、輸入商社がオーディオ雑誌に広告を出すのは、別の商取引である。
けれど出版社にとっては、別の商取引とはいえない。

株式会社ステレオサウンドにとっての商品は、季刊誌ステレオサウンドであり、
他の雑誌、HiViであったり、管球王国であったりする。
ここでは季刊誌ステレオサウンドに絞って話を進める。

季刊誌ステレオサウンドという商品は、読み手とのあいだの商取引、
広告主とのあいだの商取引、このふたつの商取引をもつ。
これが雑誌という商品の特徴でもある。

同じ出版物でも書き下しの書籍は、雑誌とは違ってくる。
そこに広告はないからだ。
書籍の商取引の相手は読み手のみである。

Date: 9月 5th, 2016
Cate: 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(ヴィソニック David 50・その6)

ヴィソニックのDavid 50の系譜は、David 502、David 5000と続いていく。
日本ではDavid 5000で途切れてしまった感があるが、
David 5001まで続き、いまも購入可能(のようだ)。
ただしドイツ製なのかどうかは不明。

David 502のころに専用のサブウーファーSUB1が出てきた。
30cm口径ウーファーで、300Hzのカットオフ周波数のネットワークを内蔵していた。
重量は36kg。これを加えれば、低域の拡充が実現する。
ただしSUB1の価格は20万円だった。
David 502が一本3万円の時にである。

David 5000と同時期に、B&OからBeovox C75が登場した。
Beovox C75といっても、どんなスピーカーだったのか、思い浮べられる人は少ないだろう。
Beovox C75は、CX100のひとつ前のモデルである。

エンクロージュアの形状、材質も同じ。
ユニット構成もBeovox C75とCX100は同じである。

Beovox C75は一度も聴いていない。
CX100と同じ音だったのだろうか。
だとしたら、なぜ型番を大きく変更したのかだろうか、と思ってしまう。

瀬川先生はBeovox C75は聴かれていないのだろうか。
瀬川先生はCX100をどう評価されただろうか。

こんなことを考えながら、David 50のもうひとつの系譜といえるスピーカーのことを思い浮べている。
エラックのCL310である。

Date: 9月 5th, 2016
Cate: 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏のこと(ヴィソニック David 50・その5)

B&OのCX100を聴いてDavid 50のことを思い出した──、と書いた。
David 50のことを思い出すとともに、
あの時David 50という選択肢もあったのに……、とも思っていた。

私にとって最初ステレオサウンドとなったのは41号と「コンポーネントステレオの世界 ’77」である。
「コンポーネントステレオの世界 ’77」に、David 50は登場している。

「コンポーネントステレオの世界 ’77」では組合せの一冊で、
メインとなる組合せ記事のあとに、
ひとつの組合せ2ページで、30の組合せを紹介したページがある。
そこにDavid 50は登場している。

David 50の組合せは、もちろん瀬川先生。
アンプはサンスイのAU607、アナログプレーヤーはテクニクスのSL01。
カートリッジはオルトフォンのVMS20Eだ。

David 50が黒で、AU607、SL01も黒。
David 50はミニスピーカー、
SL01はミニとまでいえないが、ぎりぎりまで寸法をおさえたモデル。
組合せ合計は、244,400円。

チューナーは含まれてないが、AU607とペアになるTU707(54,800円)を加えても、
30万円を超えない組合せだった。

いまでもいい組合せだと思う。
CX100を聴いて、David 50を思い出した約30年前も、そう思っていた。
David 50の組合せそのままでも良かったのではないか、
むしろこちらのほうが良かったのではないか……、
思ってもどうにもならないことを思い出していた。

当時David 50を聴く機会があったら……、
そうも思っていた。
David 50のサイズ、それに瀬川先生も記事の中でセカンドスピーカーと語られている。
ここがひっかかっていたのだろう、いまにして思えば。

でも続けて、
《このスピーカーは小さいながらも10センチウーファーとドーム型トゥイーターの2ウェイで、音のつながりとバランスがとてもいいんです。低音のスケール感さえ望まなければ、中音以上の音のクォリティやバランスのよさ、指向性のよさについては第一級のスピーカーと比べても決してひけをとりませんね。》
と語られている。

David 50を最初に買う。
次のグレードアップとしてウーファーを追加する。
そういう楽しみ、発展の仕方もあったのに気づかなかった。

あの時は若かった(幼かった)のだ。
CX100の音は、そんなことさえ思わせた。

Date: 9月 5th, 2016
Cate: prototype

prototype(NS1000X・その3)

1984年に登場したNS1000xの末尾のx(小文字)は、
NS1000Xの登場から10年目ということで、ローマ数字で10をあらわすxがついている。

ならば1974年のプロトタイプであるNS1000XのX(大文字)は、何を意味していたのか。

NS1000XからはNS1000Mだけが生れたわけではない。NS1000も登場している。

NS1000は、NS1000Mとは違い、ウーファー前面に金属ネットはない。
かわりにサランネットがついてくる。

NS1000MではNS1000XにはなかったYAMAHAの文字がフロントバッフルに大きくある。
トゥイーターのほぼ真横にある。
NS1000には、スピーカー本体にはYAMAHAの文字はない。
サランネット下中央に、ヤマハのマークとともに小さくあるだけだ。

NS1000XとNS1000はその点で似ているし、
レベルコントロールの位置もほぼ同じといえる(完全に同じではない)。
NS1000Mはロゴがあるため、レベルコントロールはふたつともスコーカーの真横にある。

NS1000Xの外形寸法はW37.5×H67.5×D32.4cm。
NS1000MはW37.5×H67.5×D32.6cmとほぼ同じである。
奥行きのみわずかに違うのは、NS1000Mのウーファーの金属ネットがあるためだろう。
つまりNS1000XとNS1000Mのエンクロージュアの寸法は同じである。

NS1000はW39.5×H71.0×D34.9cmとわずかに大きくなっている。
NS1000は仕上げにこだわったスピーカーでもある。
NS1000XとNS1000Mの黒塗装に対し、黒檀オイルフィニッシュとカタログには書いてある。

それだけでなくサランネットの固定方法も一工夫なされている。

Date: 9月 4th, 2016
Cate: オーディオ評論

「商品」としてのオーディオ評論・考(その2)

オーディオ評論家という書き手の商取引の相手は、誰かというと出版社である。
ステレオサウンドの書き手にとっての商取引相手は、株式会社ステレオサウンドという出版社である。

商取引に金銭の授受があるのだから、
書き手と読み手との間に直接的な金銭授受はないわけだから、
オーディオ評論家という書き手は出版社と商取引をしている。

その場合のオーディオ評論という「商品」は、
オーディオ評論家という書き手とステレオサウンドという出版社とで商取引されるもの、となる。

このことは今も昔は変らない。

出版社としての株式会社ステレオサウンドにとって、
季刊誌ステレオサウンドは、誰と商取引をするものなのだろうか。

読み手と株式会社ステレオサウンドとで商取引されるものが季刊誌ステレオサウンドなのだろうか。
厳密には読み手と直接商取引することは基本的になく、
取次と呼ばれる会社との商取引となるわけだが、
ここでは便宜上読み手ということにする。

読み手は株式会社ステレオサウンドにとって商取引の相手ではあるが、
読み手だけが商取引の相手ではなく、広告主もまた株式会社ステレオサウンドの商取引の相手である。

Date: 9月 4th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ヤマハNS1000M・その4)

測定で昂奮する。
そういうことがあるなんて予想だにしなかった。
昂奮していたのは私だけではない、長島先生も興奮されていた。

とある国産のセパレートアンプ(L02Aよりも高価である)は、
負荷インピーダンスを瞬時切替すると保護回路が働いてしまい、
データをとるのも大変だった。

そういうアンプばかりだと測定は、ほんとうに手間がかかる。
それに同じアンプを三回測定する。
しかも64号で行った、どこもやっていない新しい測定だと手間はよけいにかかる。

測定は地味な作業だ、と感じていた。
興味深い面も確かにある。でも地味な面もある。

負荷インピーダンスの瞬時切替での測定は、
国内メーカーからは否定的な意見もあった。
それでもアンプの優秀性は、はっきりと表していた、といえる。

プリメインアンプには、特に酷な測定であった。
そう思いはじめていたときに、L02Aの測定の番だった。
それなりに優れた特性であろう、というこちらの予想をはるかに上廻る優秀さだった。
ここで昂奮し、その後セパレートアンプの測定に移って、また昂奮していた。

セパレートアンプでL02Aを超えるアンプはなかったからだ。
匹敵するアンプもなかった。

L02Aよりも容量に余裕のあると思えるアンプはいくつもあった。
けれどL02Aの瞬時電流供給能力には及ばない。

L02Aは、トリオ独自のΣドライブをもつ。
スピーカーケーブルもアンプのNFBループにおさめてしまう方式である。
L02Aの優秀さは、Σドライブをかけてもかけなくとも変化しなかった。

Date: 9月 4th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ヤマハNS1000M・その3)

64号は1982年のステレオサウンド。
もう30年以上が経っているから書いてもいいだろうと思うことがある。

64号ではアンプの測定を行っている。
52号と53号ではダミースピーカーを使った測定だった。
64号では、負荷インピーダンスを急変させて測定を行っている。

誌面に掲載されているのは、
8Ωから1Ωに瞬時に負荷インピーダンスを切り替えた際の電流供給能力である。
グラフと実際の波形で表している。

これとは別に参考データとして、
8Ω/4Ω瞬時切替THD測定データが、九機種分載っている。
こちらはあくまでも参考データということで機種名はふせてある。

この全高調波歪で、一機種のみ圧倒的に優れた特性を示している。
これがケンウッドのL02Aである。

L02Aの瞬時電流供給能力の波形とグラフをみれば、
おそらくL024Aだろう、と推測していた人もいると思う。

64号では、電流供給能力の高さを謳っていた海外製パワーアンプもある。
マークレビンソンのML3、ハーマンカードンCitation XX(国内生産だが)、
クレルのKSA100などがある。
これらも良好な特性ではあるが、L02Aのデータと比較すると、
片やプリメインアンプで、片やセパレートアンプ。
価格も大きさもかなり違うにも関わらず、プリメインアンプのL02Aの優秀さには及ばない。

測定は長島先生が行われた。
私は補助で、傍らで見ていた。
L02Aの特性は、驚異的といえた。

何度測定しても見事なデータを示す。
驚歎していた。
どこまでL02Aは耐えられるのか、そんなふうになってしまい、
最後には燃やしてしまった。

こう書いてしまうと、L02Aを不安定なアンプ、危ないアンプと勘違いされるかもしれないが、
逆である。
おそろしく動作が安定していたからこそ無茶な領域での測定を試みたためである。

Date: 9月 4th, 2016
Cate: audio wednesday, 柔と剛

第68回audio sharing例会のお知らせ(柔の追求・その7)

今月のaudio sharing例会は、7日(水曜日)。
その6)に書いているように、
渡辺成治氏に来ていただく。

渡辺氏が無線と実験に発表された自作のハイルドライバーだけでなく、
13cm口径のウーファーを円柱状のエンクロージュアにおさめたウーファーと組み合わせる。
エンクロージュアも渡辺氏設計のもの。
この2ウェイのスピーカーシステムのクロスオーバー周波数は900Hz。
ハイルドライバーの後面が開放されているため、
後面を閉じている同サイズのハイルドライバーよりも低いところまで再生できている。

今回は、このスピーカーシステムとともに、ハイレゾリューション再生も行う。
D/Aコンバーターも渡辺氏設計のオリジナルで、
アンプも渡辺氏オリジナル。D級動作で出力は30W。

渡辺氏の経歴を知らない方は、アマチュアの自作システムの試聴なのか、と思われることだろう。
そういうレベルのモノではない。

今年行ってきた音出しとは、ずいぶん違ったシステムとなる。
私自身、ひじょうに楽しみにしている。

iPod、iPad、iPhoneで音源を持ってきていただければ再生可能である。

場所はいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 9月 4th, 2016
Cate: オーディオ評論

「商品」としてのオーディオ評論・考(その1)

8月は三人に訊かれた。
今年は、十人ちかい人に訊かれたことがある。

このブログで収入を得ているんですよね──、そんな感じで訊かれることがあった。
昨年まではほとんどそんなことはなかった(ゼロではなかった)。
でも、今年は訊かれることが急に増えた(といっても十人に満たないのだから少ない)。

このブログで収入は得ていない。
つまりここで書いていることは、「商品」として足り得ていない、ともいえる。
「商品」として認められれば収入となるだろうが、
「商品」ではないから、ここで書くことで収入を得ることはできない、ともいえる。

いつのオーディオ雑誌に載っているオーディオ評論と呼ばれている文章は、
それを書いている人たちに収入をもたらしているのだから、「商品」といえる。

商品とは辞書には、商取引されるもの、とある。
商取引には、買い手という対価を払ってくれる人がいなければ成立しない。

例えばこのブログを有料化してでも読んでくれる人がいるとすれば、
ここで書いていることは「商品」となる。
そうなった場合、読んでくれる人と私との間には誰も介在しないから、
ここでの商取引は、読み手と私のあいだで行われることである。
商取引の相手がはっきりとしている。

だがオーディオ雑誌の場合、そこまではっきりしているだろうか。
ステレオサウンド、オーディオアクセサリー、ステレオ、アナログといった雑誌には、
読者がいる。読者は二千円前後のお金を払ってこれらを買う。

けれどステレオサウンドなどに書いているオーディオ評論家の商取引の相手は、
読者なのだろうか。はっきり読者といえる人がどれだけいるだろうか。

Date: 9月 3rd, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ヤマハNS1000M・その2)

このころのケンウッドは、いまとは違い、メーカー名ではなく、
トリオの高級ブランドとしてケンウッドだった。
L02Aは、1982年当時55万円という、最も高価なプリメインアンプだった。

実際にはマッキントッシュのMA6200が68万円していたから、
正確にはもっとも高価なプリメインアンプとはいえなかったわけだが、

MA6200が海外製ということ、当時の為替からいっても、
L02Aがもっとも高価なプリメインアンプといって間違いではない。

L02Aはプリメインアンプ(インテグレーテッドアンプ)とは、素直に呼び難い面ももっていた。
電源部が別筐体になっていたからだ。

MA6200が常識的なプリメインアンプとすれば、
L02Aはプリメインアンプの最高峰をめざして開発されたというよりも、
アンプとして理想を追求した結果としての形態が、電源別筐体のプリメインアンプといえた。

このL02Aが鳴らすNS1000Mの音は、みずみずしかった。
NS1000Mは鮮明な音、もしくは鮮烈な音として、登場当時は評価されていたことは知っていた。

その鮮明鮮烈な音も、発売数年が経ち、こなれてきたおかげか、
それほどでもなくなってきたことも知ってはいた。
それでも、NS1000Mからみずみずしい音が聴けるとは知らなかった。

だからといって鮮度の低い音でもなかった。
水には水の鮮度があって、L02Aが鳴らすNS1000Mの音は、おいしく鮮度の高い水だった。

みずみずしいは、瑞々しい、と書くけれど、水々しい、とも書く。
水々しいのほうが、この時の音にぴったりとはまではいわないが、
瑞々しいと書いてしまうと、これも少し違うニュアンスを感じて、みずみずしいとしておきたくなる。