チューナー・デザイン考(その1)
オーディオに興味をもった1976年は、FM関連の雑誌が3つあった。
週刊FM(音楽之友社)、FM fan(共同通信)、FMレコパル(小学館)で、
そのあと名前は忘れてしまったが創刊されていた。
オーディオに関心のない友人も、FM誌は買っていた。
FM全盛時代だったようにも思う。
けれど当時住んでいた九州のいなかでは受信できるのNHK-FMだけだった。
民放FM局はなかった。となりの県にはあっても、
どんなに多素子のアンテナを立てても受信できないことはわかっていた。
FM放送の音はいい。
このころはまだAM放送のモノーラルだったし、
オーディオ誌やFM誌の読者相談のコーナーに、
LPを再生するよりもFMで同じレコードを聴いた方が音がいいのはなぜでしょう? といった質問も寄せられていた。
聴きたいレコードをすべて買えるわけではない、むしろ買えるのはほんのわずか。
だからFM放送は学生にとって貴重なプログラムソースであったわけだが、
チューナーに関しては、あのころ、それほど強い関心は持てなかった。
まずは1局しか受信できないこと。
それから九州と東京の距離は離れている。FMの電波が届く距離ではなく、
当然地方の放送局まではいくつかの中継局を経由して届き、
その中継によって多少なりとも劣化した音質で放送されてしまうということ。
このふたつのことによって、チューナーはNHKだけを雑音なく聴ければそれでいいや、ぐらいに考えていた。
もちろんFM放送で生中継の音が素晴らしいことは、五味先生の「五味オーディオ教室」で知っていた。
知ってはいても五味先生は東京、私は九州。上記の理由でたとえマランツ10Bを持ってきたとしても、
東京と同じ音質は得られないことを、それは体験ではなく知識として持っていると、
学生で使えるお金はバイトで稼いだ額だけだから、優先順位としてチューナーは後廻しになっていた。