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ワイドレンジ考(その64・補足)

6041のトゥイーターには、6041STという型番がついている。
3000Hはあったものの、本格的なトゥイーターとしては、アルテック初のものといえるけれど、
残念ながらアルテックによるトゥイーターではない。

作っていたのは日本のあるメーカーである。
それでも、この6041STが優れたトゥイーターであれば、OEMであったことは特に問題とすることではない。
でもお世辞にも、6041のトゥイーターは優秀なものとはいいにくい、と感じていた人はけっこういる。

たとえば瀬川先生は、ステレオサウンド53号で、
《♯6041用の新開発といわれるスーパートゥーイーターも、たとえばJBL♯2405などと比較すると、多少聴き劣りするように、私には思える。これのかわりに♯2405をつけてみたらどうなるか。これもひとつの興味である。》
と書かれていて、6041のトゥイーターがOEMだと知った後で読むと、意味深な書き方だと思ってしまう。

当時の、この文章を読んだときは、アルテックの604にJBLの2405なんて、悪い冗談のようにも感じていた。
瀬川先生が、こんなことを冗談で書かれるわけはないから、ほんとうにそう思われているんだろう、と思いながらも、
それでもアルテックにJBLの2405を組み合わせて、果してうまくいくのだろうか、と疑問だった。

1997年に、ステレオサウンドから「トゥイーター/サブウーファー徹底研究」が出た。
井上先生監修の本だ。
この本で、トゥイーターの試聴には使われたスピーカーシステムはアルテックのMilestone 604だ。
トゥイーター17機種のなかに、JBLの2405Hが含まれている。

2405Hの試聴記を引用しよう。
     *
このトゥイーターを加えると、マイルストーン604の音が、大きく変りました。まず、全体の鳴り方が、表情ゆたかに、生き生きとした感じになります。604システムそのものが、「604って、こんないい音がしていたかな?」というような変り方なんです。
(中略)TADのET703の場合には、もう少し精密工作の産物という感じの精妙さがあり、システム全体の音に少し厳しさが感じられるようになり、アルテックらしさというよりは、昔のイメージのJBLというか、現代的な音の傾向にもっていく。
ところが、2405Hでは、アルテックらしいところを残しながら、一段と広帯域型になり、音色も明るく、すっきりと、ヌケのよい音になり、表現力もナチュラルな感じです。
(中略)全体として、アルテックの良さを保ちながら、細部の質感や音場感、空間の広がりなどの情報量を大幅に向上させる、非常にレベルの高いトゥイーターです。
     *
6041に2405をつけてみたら、好結果が得られた可能性は高かったようだ。

Date: 6月 2nd, 2011
Cate: 6041, ALTEC, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その67)

アルテックの6041は完成度を高めていくことなく消えてしまった。
これはほんとうに残念なことだと思う。

6041につづいてアルテックが発表していったスピーカーシステム──、
たとえば6041のトゥイーターをそのままつけ加えただけのA7-XS、
A7を、ヴァイタヴォックスのバイトーンメイジャーのようにして、3ウェイにした9861、
30cm口径のミッドバスをもつ4ウェイの9862、
これらは、どれも大型フロアー型であるにも関わらず、ごく短期間にアルテックは開発していった。

開発、という言葉をあえて使ったが、ほんとうに開発なんのだろうか、という疑問はある。
なにか資金繰りのための自転車操業という印象さえ受ける。

当時は、なぜアルテックが、こういうことをやっているのかは理解できなかった。
2006年秋にステレオサウンドから出たJBLの別冊の210ページを読むと、なぜだったか、がはっきりとする。
アルテックは、1959年に、リング・テムコ・ヴォートというコングロマリットに買収され、
この会社が、1972年に親会社本体の収支決算の改善のためにアルテックに大きな負債を負わせた、とある。
それによりアルテックは財政的な縛りを受け、十分な製品開発・市場開拓ができなかった、と。

それならばそれで、あれこれスピーカーシステムを乱発せずに、
可能性をもっていた6041をじっくりと改良していって欲しかった。
6041の中心となっている604が、そうやってきて長い歴史を持つユニットであっただけに、
よけいにそう思ってしまう。

6041は消えてしまう。

Date: 5月 24th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その57)

オートグラフの設計思想は、バッキンガムに生きている、ということについては、
頭では理解できても、心情的には納得できない、ものたりなさを感じるところが、
オーディオマニアとしては、ある。

この時代のタンノイはハーマン傘下になっていた。
だから、とは断言できないものの、バッキンガムの同軸型ユニットの前面にとりつけられた音響レンズに、
時代におもねっているような印象を拭い去れないし、
エンクロージュアのつくりがすごいのはわかっていても、スピーカーシステムとしてとらえたときに、
ここがこうなっていたら、とか、あそこはこうしたら、とか(こういったことは素人の戯言であっても)、
そんなことをいいたくなってしまう。

バッキンガムのあとに、タンノイはスーパーレッドモニター(SRM)というモニタースピーカーを出す。
往時の同社のユニット、モニターレッドを思い浮ばせる名称のついた、このシステムは、
アーデンのエンクロージュアを、よりしっかりと作ったもの、といえる。

バッキンガムの音響レンズは、当時売れに売れていたJBLの4343の影響かしら、と勘ぐりたくなるし、
SRMは、タンノイのユニットを強固なエンクロージュアにおさめ、
タンノイ純正のシステムでは出しえない、味わえない、
そんなタンノイの同軸型ユニットの魅力を引き出したロックウッドの二番煎じ、というふうに受けとれなくもない。

どちらもすこし意地の悪い見方ではある、と自分でも思う。
けれど、オートグラフをつくっていた会社なのだから……、と心の奥底でタンノイには期待しているからこそ、
こんなこともいいたくなってしまう。

がんばってはいる、けれど……という印象がどこかに残っていたタンノイは、
1981年にハーマン傘下から独立し、GRFメモリーを発表する。

Date: 5月 24th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その56)

    ここで話は、この項の(その30)から(その36)にかけて書いているバッキンガムのことにもどる。

    ステレオサウンド別冊の「世界のオーディオ」のタンノイ号掲載のリビングストン氏のインタビューの中に、
    「オートグラフとGRFを開発した時と同じ思想をバッキンガム、ウィンザーにあてはめているわけで、
    オートグラフ、GRFの関係をそっくりバッキンガム、ウィンザーに置き換えられるようになっているんです。」
    と語っている。

    つまりオートグラフの思想を現代技術で受けつぎ、生きているスピーカーシステムがバッキンガム、ということだ。

    バッキンガムの構成については前に書いてるのでそちらをお読みいただきたいが、
    形態的にはオートグラフとバッキンガムは大きく異っていて、
    その思想も、短絡的に捉えてしまえば、同じとはいえない、といえそうである。

    1978年にオートグラフもバッキンガムも同時に開発されたスピーカーシステムだとしたら、
    このふたつのスピーカーシステムはまったく異るスピーカーシステムといえる。

    だがオートグラフは1953年に、バッキンガムは1978年に登場したスピーカーシステムだ。
    25年の隔たりが、オートグラフとバッキンガムのあいだには存在する。
    この間には技術は進化し、スピーカーシステムを置く聴き手側の環境も変化している。
    プログラムソースの変化も、いうまでもなく、大きいものとしてある。

    これらの変化が反映された結果が、
    オートグラフから25年目に登場したバッキンガムだ、と受けとることもできるはずだ。

    同じことがオートグラフとウェストミンスターにもいえる。
    オートグラフと1982年登場のウェストミンスターとのあいだには、29年の隔たりがある。
    オートグラフとウェストミンスターは同じ時期に開発されたスピーカーシステムではない、ということ。
    このことが、オートグラフとウェストミンスターの形態的には似ているけれど、
    設計思想においては、必ずしも同じものではない、ことにつながっていく。

Date: 5月 23rd, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×十四 K+Hのこと)

C-AX10の資料を眺めていると、C-AX10は、1999年のデジタル信号処理によって、思いつく信号処理のなかで、
できうるかぎり、やれることはやってみようというコンセプトから生れてきたように感じる。
そのために、どうしてもハードウェアが、ソフトウェアよりも前面にきている印象につながってしまう。

汎用のデジタル・コントロールアンプという形態を考えると理解できることというものの、
そのことがC-AX10の寿命に短さと関係している気もする。

K+HのO500Cはスタジオモニターとして開発されている。
O500Cに採用されたデジタル信号処理はそのために使われている。
ソフトウェアによって使用目的を特化することによるハードウェアの積極的活用例が、O500Cだと思う。

コントロールアンプとアクティヴスピーカーシステムという、異る形態ゆえに果してしかたのないことだろうか。
C-AX10のFIR型デジタルフィルターは、いわばパイオニアのスピーカーシステム専用といえるものだ。
なのに汎用性をどこかに残してしまっている印象が拭えないところがある。
O500Cのように踏み込んでパイオニアのスピーカーシステムの特性を積極的にコントロールすることで、
O500Cと同等の特性を得ることはけっして無理なことではなかった、と思ってしまう。

ハードウェアは文明で、ソフトウェアは文化である、という喩えをきく。
デジタルの技術が進歩し浸透すればするほど、オーディオ機器というハードウェアの寿命を左右するのは、
ソフトウェアなのではないだろうか。

Date: 5月 23rd, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×十三 K+Hのこと)

今日の時点では、まだO500Cの後継機種はでてくるのかどうかはわからない。
O500Cがなくなり、このまま後継機種がもし出てこなかったとしたら、
O500Cに投入されたデジタル信号処理技術は、そこでストップしてしまうことにつながる。
それはもったいないことである。

IIR型とFIR型デジタルフィルターを切替えられるパイオニアのC-AX10の登場は1999年、
IIR型フィルターとFIR型フィルター組み合わせたK+HのO500Cの登場は2000年、ほぼ同じ時期に出ている。

アンプとアクティヴスピーカーシステムというジャンルの違いはあるから、
C-AX10とO500Cの比較はしがたいところがあるけれど、このふたつのオーディオ機器の違いはなんだろうか、
どこにあるのだろうか、と考えてしまう。

C-AX10はコンシューマー用、O500Cはプロフェッショナル用、としてそれぞれ開発されている。
C-AX10の寿命はそれほど長くはなかったと記憶している。
製造中止になったのが、いつなのか正確には調べていないが、
ステレオサウンド誌でもその後あまり取り上げられることはなかったはずだ。

デジタル関係の技術の進歩は速い。
去年、最速の信号処理速度を誇っていたものが、今年はもうそうではなくなっていたりする。
同じ価格のものであれば、より速度は増していき、同じものであれば価格は安くなる。

C-AX10のようにデジタル技術を積極的にとりいれたハードウェアであればあるほど、
それこそコンピューターのように毎年ヴァージョンアップが必要になってくるのかもしれない。

O500Cのその点では同じのはずだ。なのにO500Cは2000年から2011年まで現役だった。
ほぼ同時期に世に出たC-AX10とO500Cのハードウェア的内容は、それほど大きくは違っていないと思う。
C-AX10とO500Cの大きな違いは、ソフトウェアにあるように思えてくる。

Date: 5月 23rd, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×十二 K+Hのこと)

O500Cのスペックで、ほかの機種との違いで目につくのは、インパルスレスポンスである。
このインパルスレスポンスは、ほかの機種で表示はない。
累積スペクトラムを表示しているほかの機種、O300、KH120、OL110のインパルスレスポンスはない。

O500Cのインパルスレスポンスが優れていることは、
累積スペクトラムの優秀性からもある程度推測できるとはいうものの、実際のそのグラフをみると、
やはり、これも累積スペクトラムのグラフ同様、驚く。

インパルスレスポンスは、ステレオサウンド 47号でも掲載されている。
理想のインパルスレスポンスは、パルスが1波すっと垂直に立っているだけで、
そのパルスの前後は完全に0dBでフラットというものだが、
スピーカーの発音原理が現状のままでは絶対に無理である。

コイルがあり、磁石があり、振動板があって、
フレミングの左手の法則にしたがいコイルに加えられた電気信号の強弱による前後運動で空気の疎密波をつくりだす。

コイルには質量があり、コイルをまいてあるボイスコイルボビンにも質量はある。
それに振動板にもとうぜん質量があり、空気にもある。
静止しているものはすぐには動かない。動いているものも急には静止できない。
だからパルスがボイスコイルに加わっても、ただちに振動板が前に動くわけではないし、
パルスがなくなったからといって、すぐに振動板が元の位置で静止するわけでもない。

O500Cのインパルスレスポンスは、そういうスピーカーとしては、理想的にもっとも近いといえるくらいに、
見事な特性を実現している。

この見事な特性をもつスピーカーシステムが、2000年には実現されていたこと、に正直驚いている。
ただ残念なことに、昨日まではK+Hのサイトでは現行製品のページに表示されていたO500Cは、
今日確認のためにK+Hのサイトをみたところ、現行製品ではなくなっている。
Historical Productsのページに移動している。つまり製造中止になっている。

それでも、O400、O100がそれぞれO410、O110となって現行製品にラインナップされているから、
O510Cというモデルが近いうちに登場してくるのかもしれない。

Date: 5月 22nd, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×十一 K+Hのこと)

新しい測定方法が開発されたときに市場に出ているオーディオ機器を測定した場合、
ステレオサウンド 47号の測定結果の累積スペクトラムの項目のように、決して良好な結果を示すものは少ない。
累積スペクトラムに関しては、ステレオサウンド誌上に載ることはなかったと記憶しているが、
スピーカーシステムの測定方法としては確実に浸透していっていたはずだ。

ときおり海外の雑誌でみかける累積スペクトラムのグラフは47号(1978年)とくらべ、
向上しているものが出てきていた。
測定方法が確立されれば、そこにメスが入り、確実に改良されていく。
オーディオ機器が工業製品である証しともいえよう。

ここ数年は不勉強で、最新のスピーカーシステムの累積スペクトラムがどのレベルなのかを知らないが、
それでもO500Cの結果は見事なレベルにあるといえるはずだ。

同じK+Hのスピーカーシステムをみてみると、
すぐ下のモデルのO410のスペックには、累積スペクトラムのグラフは残念なことにない。
さらに小型になるO300、KH120、O110はある。
これらのモデルは、いずれもエンクロージュア内部にディバイディングネットワークとパワーアンプをもつ。
構成上O500Cとの大きく異なるのは、デジタル信号処理をもつかもたないか、である。

O300、KH120、O110の累積スペクトラムは、O500Cと較べると劣る。
特に低域において、それは顕著に現れている。
とはいうものの30年前の特性とくらべると、格段の向上である。

O500CとO300のユニットを見比べる(といってもネットで得られる情報だけだが)と、
ウーファーの口径が12インチと8インチという差はあるが、
スコーカーは3インチ、トゥイーターは1インチと同じだ。
ユニットの詳細については不明だが、スコーカーとトゥイーターは同じものが使われている、とみていいだろう。
ウーファーに関しても、口径は異るものの設計方針は、O500Cに使われているものも、
O300に使われているものも同じのはずだ。

これらのことを念頭において、もういちどO500CとO300の累積スペクトラムを見較べれば、
この差を生み出している大きな要因は、O500Cに搭載されているデジタル信号処理と言い切ってしまいたくなる。

Date: 5月 18th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×十 K+Hのこと)

ステレオサウンドに載っていた累積スペクトラムの測定結果は、
いうまでもなく無響室でスピーカーシステムの正面の特性である。

累積スペクトラムは、いわばスピーカーシステムの「残響特性」だから、
エンクロージュアからの輻射、それに実際のリスニングルームに設置されたときのことなどを考慮すると、
水平方向30度、60度の位置にマイクをおいた累積スペクトラムも測定してほしいところだ。
正面の特性にくらべるとエンクロージュアからの輻射の比率が高くなるから、
累積スペクトラムのグラフは、減衰はさらに遅くなり、うねり、乱れが多くみられることだろう。

スピーカーシステムに入力される音楽信号は、つねに変化している。
その変化に忠実に対応・追従していくのがスピーカーシステムとすれば、
累積スペクトラムはもっと重視されるべき測定項目だと思う。
でも、累積スペクトラムの測定結果が、理想的なものになるには、いったいどれだけの時間がかかるのだろうか……。
こんなことを、ステレオサウンド 47号の測定結果をみながら思っていた。

そのことを、K+HのO500Cの累積スペクトラムのグラフをみていて思い出した。
O500Cの累積スペクトラムのグラフは、この30年間の技術進歩をはっきりとみせてくれる。

ステレオサウンド 47号には、インパルスレスポンスの結果も載っている。
これもO500Cと47号に登場している10機種のスピーカーシステムの間には、隔世の感がはっきりとある。

O500Cの測定結果をみていると、これがスピーカーの特性なのか、とも思う。
なにかアンプの特性でもみているような気にもなる。
もちろん最新のアンプの特性に近い、とはいわないけれど、
ソリッドステート化される以前の真空管全盛時代のアンプなみの特性に近い、とはいっていいような気がする。

Date: 5月 18th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×九 K+Hのこと)

累積スペクトラムが一般に知られるようになったのは1970年代の後半だろう。
ステレオサウンドでも1978年夏号の47号で、46号で取り上げたモニタースピーカーを測定しており、
測定項目の中に、累積スペクトラムがある。
累積スペクトラムの測定結果がステレオサウンドに載ったのは、この号は最初だ。

累積スペクトラムとは、パルスを一波加えた後のスピーカーシステムから出る音の減衰していく様を、
立体的なグラフで表示したもの。
パルスが加わり振動板が動くことで音がスピーカーから放射される。
パルスはすぐになくなるが、スピーカーの振動板はすぐに動きが止るわけではない。
さらに振動板が動くことによって、さまざまな振動がフレームからエンクロージュアに伝わり、
これらからの輻射音も放射される。
さらにエンクロージュア内部にはウーファーの裏側から放射された音がある。
これも時間差をともなって放射される。

ステレオサウンド 47号の説明にもあるが、累積スペクトラムはスピーカーの残響特性ともいえる。
だから理想はパルスが加わった瞬間はフラットな音圧で、
次の瞬間からはすっとすべての帯域において音が消えてなくなっていることだが、
47号に掲載されているグラフを見ると、かなり長い残響特性を、どのスピーカーも持っている。
しかもその残響特性がきれいに減衰していくものはすくなく、うねりや乱れが生じている。

47号には、アルテック620A、キャバス・ブリガンタン、ダイヤトーンのMonitor1、
JBLの4333Aと4343、K+HのO92とOL10、スペンドールBCIII、UREI・813、ヤマハNS1000M、
計10機種の特定結果が載っている。
このなかではNS1000Mが減衰が早いほうだが、それでも低い周波数では減衰が遅いし、
時間軸ごとの周波数のカーヴにはうねりが生じている。

ひどい特性ものについては……、いわないでおく。

Date: 5月 18th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×八 K+Hのこと)

スピーカーの物理特性は、オーディオ機器のなかでいちばん遅れている、というのが古くからの認識である。
アンプの周波数特性が定規で直線を引いたようにまっすぐなのに対して、
スピーカーの周波数特性はフリーハンドで描いた直線もどきにとどまる。
同じ変換系のオーディオ機器でも、振動系の質量が小さなカートリッジはスピーカーよりもいい特性だった。

スピーカーの物理特性は確実によくなっている。
それでもオーディオ機器のなかでは、やはりその進歩の歩みは遅く、
スピーカーの発音原理がなにか画期的なものに変りでもしないかぎり、
飛躍的な向上は無理だろうな、と実のところ思いこんでいた。

K+Hのサイトを探したのは、単にOL10の資料探しがおもな目的だった。
これは結局なにも得られなかった。
かわりにO500Cの存在を知った。

写真をみたときは、それほど興味はわかなかった。
英文の説明に”FIR”の文字を見つけた。
ほーっ、と思った。それですこし興味がわいてきた。
それで実測データ(Measurements)をみた。

周波数特性(Frequency Response)、高調波歪率(Harmonic Distortion at 100dB SPL)、
累積スペクトラム(Cumulative Spectral Decay)、インパルスレスポンス(Impulse Response)などがある。

周波数特性も、いまやここまでフラットにできるのか、と思う。
周波数特性のフラットさにかけては、ジェネレックの、やはりDSPを搭載したアクティヴ型の新シリーズも見事だ。
周波数特性に関しては、数ヵ月に前にジェネレックの特性を見ていたから、見事だと思っても、
O500Cの周波数特性には、驚きはなかった。

私が驚いたのは、インパルスレスポンスと累積スペクトラムだ。

Date: 5月 17th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×七 K+Hのこと)

K+HのO500Cは、アナログとデジタルの入力に対応している。
デジタル信号は24ビット、48kHzに対応、アナログ信号はすぐさまA/D変換される。
O500Cの内部ではデジタルによって、当然行われている。

Acoustical Controlsは名づけられているセクションはふたつにわけられていて、
ひとつはIIR型、もうひとつはFIR型デジタルフィルターによって行われている。
そのあとにDSP Crossover(-48dB/oct.のスロープ特性)を経てパワーアンプ、スピーカーユニットとなっている。
詳細を知りたい方は、K+Hのサイトから資料がダウンロードできるので参照していただきたい。

K+Hのサイトには、Integrated digital controller with the latest FIR Filter technology という表記がある。

デジタルディバイディングネットワーク(DSP Crossover)は3ウェイではなく、4ウェイ仕様となっている。
専用のサブウーファーO900と推奨パワーアンプのKPA2220による拡張を行なえるようになっていて、
O500C単独では27Hz(-3dB)だったのが、15Hz(-3dB)と約1オクターヴ近く延びている。

O500CはW400×H750×D447mm。ヤマハのNS1000MがW375×H675×D326mmだから、
ほんの少し大きいだけだが、内容積はO500Cはデジタル回路やパワーアンプ、電源回路を搭載しているだけに、
NS1000Mとほとんど同じぐらいだろう。
ただ重量はNS1000Mは31kgだが、O500Cは65kgとかなり重い。

とはいえサイズ的にはO500Cは、国産3ウェイ・ブックシェルフ型とほぼ同じである。
ウーファーの口径も30cm、スコーカー、トゥイーターはドーム型は、構成、規模も似ている。

けれど、O500Cの特性は、3ウェイ・ブックシェルフ型というイメージからは遠いところにまで達している。

Date: 5月 17th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×六 K+Hのこと)

コンシューマー用オーディオ機器で、FIR型デジタルフィルターの搭載をはっきりと謳ったのは、
パイオニアのC-AX10が最初、だと思う。

けれど最初に搭載していたオーディオ機器は、
おそらくNECの最初のCDプレーヤーだったCD803ではないだろうか。
マランツ、ソニー、オーレックス、トリオ、Lo-Dといったメーカーから少し遅れて登場してきたCD803は、
音の面で話題になった。
お世辞にもスマートとはいえない武骨な外観で、遅れて登場してきたとは思えないCD803は、
でも音を聴いてみると、遅れて登場してきただけの違いを聴かせてくれた。
CD803の音には、少なからず驚いたことを憶えている。

でも動作にはやや不安定なところもあった。
ディスクをセットして最初から再生するのはよかった、
スキップキーで次の曲を再生するのにも問題はなかったけれど、
10キーによる操作をすると、パソコンでいうフリーズみたいに、たびたび固まってしまうことがあった。
そうなるとどうにもできずに、電源スイッチを切ってもういちど入れると問題なく動作した。
そういう使い勝手の未消化な部分はあったものの、井上先生は、当時CD803を試聴に使われていた。

CD803はデジタルフィルターを搭載していることを謳っていた。
とはいえ、デジタルフィルターを搭載した最初のCDプレーヤーではない。
デジタルフィルターを最初に搭載したのは、マランツ(フィリップス)のCD63である。
このときすでに4倍オーバーサンプリングのデジタルフィルターSAA7210を搭載し、
ここでノイズシェーピングを行い、
16ビットのデジタル信号を14ビット動作のD/AコンバーターTDA1540で処理できるようにしていた。

CD63のデジタルフィルターはIIR型だったはずだ。
CD803のデジタルフィルターを、NECはND(ノン・ディレイ)フィルターと呼んでいた。
当時はどんなことをやっていたのかまったくわからなかったが、
10年くらい前に、どこかでCD803のデジタルフィルターはFIR型だった、と読んだ記憶がある。

CD803の次にFIR型のデジタルフィルターを搭載したCDプレーヤーには、
Lo-Dの初のセパレート型のDAD001がある。

Date: 5月 16th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×五 K+Hのこと)

C-AX10のデジタルディバイディングネットワークにおけるIIR型とFIR型の音を比較するためには、
だからパイオニアのスピーカーシステム、たとえばExclusive 2404を用意しなければならない。
どれだけの人が、デジタルフィルターのふたつの方式の違いを比較試聴できたかというと、わずかかもしれない。
私も聴けなかった。

だからステレオサウンド 133号に載っている井上先生と朝沼さんの対談による記事を参考にするしかない。
朝沼さんはFIR型にしたときの音をこう語られている。
     *
非常に静かなんです。それから、音像定位と音場感がもっと精密になって、明確に録音の意図が分かる。未体験ゾーンを味わったという感じですね。
     *
井上先生はというと、
     *
これは今までにない音ですよ。デジタルで初めて体験できる音。だから、どう捉えたらいいか……。
録音側も、このリニアフェイズの FIRでモニターしてくれないと、録音モニターと再生モニターの相関性がなくなってしまうんです。そこまで考えないと簡単には言いきれない、何かとてつもないものを持っているんですよ。
(中略)この音を聴くと、そういう問題を提起させながら、これからオーディオは、また面白くなりそうな感じがしますね。
     *
この記事は書き原稿ではなく対談のまとめだから、断言はしにくいけれど、
私の編集経験からすると、井上先生がこれだけのことを発言されているということは、
C-AX10の可能性、つまりFIR型のデジタルディバイディングネットワークの可能性、それがもたらしてくれる、
これから先のオーディオの楽しみ、おもしろさについて感じとっておられることは伝わってくる。

Date: 5月 16th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続々続々K+Hのこと)

1999年秋に、パイオニアからデジタル・コントロールアンプとして、C-AX10が登場した。
DSPとA/Dコンバーターを搭載して、内部での信号処理はすべてデジタルで行うもので、
レベルコントロール、トーンコントロールはもちろん、アナログディスクの再生においてもデジタルで処理している。
その他の機能として、16ビット信号を24ビットに再量子化するHi-Bit、
デジタルディバイディングネットワークをもつ。
C-AX10の機能を、こまかく説明していると、それだけでけっこうな分量になってしまうほどの多機能ぶりだ。

C-AX10で、使い手側(つまりオーディオ機器のユーザー)は、はじめてIIR型とFIR型、
ふたつのデジタルフィルターの音の違いを聴くことが可能になった。

メーカーの技術者ならば、IIR型とFIR型を、ほかの条件は同一のまま聴き較べることはできても、
メーカーの製品を聴く側では、そんな機会はまずない。
C-AX10の機能のひとつ、デジタルディバイディングネットワークは、IIR型とFIR型の切替えができる。

C-AX10のデジタルディバイディングネットワークの機能をみると、
IIR型とFIR型の演算処理の違いが、間接的にではあるがわかる。

クロスオーバー周波数は、IIR型では70Hzから24kHzまでの25ポイントなのに対し、
FIR型は500、650、800、1000Hzの4ポイントだけ。
スロープ特性はIIR型では0、-6、-12、-18、-24、-36、-96dB/oct.に対し、
FIR型ではローパス側は-36、ハイパス側は-12dB/oct.に固定、となっている。
演算処理が増すことにより、設定の自由が狭くなっていることがわかる。

つまりIIR型のデジタルディバイディングネットワークは汎用型として使えるが、
FIR型デジタルディバイディングネットワークは、
基本的にはパイオニアのスピーカーシステム用に限定されてしまう。