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Date: 8月 16th, 2018
Cate: オーディオの科学
1 msg

オーディオにとって真の科学とは(コメントを読んで)

その5)にコメントがあった。
リンクしていても、読む人は少ないのがわかっているから、
paunogeira氏からのコメントを、ここに転載しておく。
     *
100mを9秒台で走れる人がいるように、「ケーブルで音が変わる」のを聴き取れる人は、おそらく百人に一人か千人に一人かの割合で存在するだろうと思います。しかし、「ケーブルで音が変わる」ことがオーディオ装置を論じる上で見落とせない要素であると主張したいのであれば、

1. 事象が存在しないこと(消極的事実)の証明は大変困難なので、存在を主張する側が証明するというのが、議論をするときの一般的なルールであると考えられること(宇宙人がいないことの証明は実際上できません)。
2. 自己の能力が他人よりも優れていることを主張する場合、優れていると主張する側が説明を尽くすのが礼儀であると考えられること(お前は劣っていると言われる身になってみればわかります)。

以上の二つの観点から、「ケーブルで音が変わる」と主張する立場の方が、証明とまではいかなくてもそれなりに筋の通った説明をつける努力をすべきでしょう。それをしないで「ケーブルで音が変わることはない」と主張する人々を非難するのは、たとえその人々の言説がどんなに低レベルであったとしても、いわゆる逆ギレのように思われます。
    *
ケーブルに関しては、
《「ケーブルで音が変わる」ことがオーディオ装置を論じる上で見落とせない要素であると主張したい》
わけではない。

この項の(その1)に書いているが、
ケーブルによる音の違いが聴きとれるかどうかは、耳の音の変化に対する閾値の違いであり、
何もこまかな音の違いを聴き分けているから、オーディオでいい音が出せるとは限らないし、
そうでないからといっていい音が出せないわけでもない。

少し誤解があるようなのだが、音の聴き分けに関しても、
ケーブルの音の違いが聴きとれている人でも、違う音の変化にはひどく鈍感なこともある。

音の変化、違いといっても、実にさまざまだ。
あれこれ音を変えながら、誰かに一緒に聴く機会がある人ならば感じているはずだが、
その人その人によって、敏感なところと鈍感なところがあるものだ。

すべてに関して敏感な耳の持主は、私の知るかぎりでは井上先生だけである。
だから、鬼の耳といわれていたわけだ。

こんなことを書いている私も、敏感なところもあれば鈍感なところもある。
要は、それを自覚しているどうかである。

100mを9秒台で走れる人は、確かにすごい。
けれど、100mを9秒台で走れる人が、
どんなことにおいてもすごいかというと、それは違うのと同じことだ。

それから、(その1)で書いていることのくり返しなのだが、
音のこまかな聴き分けができるから、いい音が出せるとは限らない。
違いがわかるだけではだめであって、
細かな音の違いの聴き分けが苦手であっても、いい音は出せるものである。

能力と書かれているから、あえてオーディオマニアとしての能力とするが、
それは細かな音の聴き分けではなく、どういう音を鳴らせるかのはずだ。

書きたいことは、もう少しあるけれど、それらはすでに書いてきていることであり、
そのくり返しになるから、このへんにしておく。

Date: 8月 16th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その12)

Model 8とModel 8Bの違いについて細かなことは省く。
詳しく知りたい方は、管球王国 vol.12の当該記事が再掲載されているムック、
「往年の真空管アンプ大研究」を購入して読んでほしい。

以前の管球王国は、こういう記事が載っていた。
そのころは私も管球王国には期待するものがあった。
けれど……、である。

わずかのあいだにずいぶん変ってしまった……、と歎息する。

Model 8はよくいわれているようにModel 5を二台あわせてステレオにしたモデルとみていい。
Model 8は1959年に発売になっている。
Model 8Bは1961年発売で、前年にはModel 9が発売されている。

Model 8と8Bの回路図を比較すると、もちろん基本回路は同じである。
けれど細かな部品がいくつか追加されていて、
出力トランスのNF巻線が8Bでは二組に増えている。

そういった変更箇所をみていくと、Model 8Bへの改良には、
記事中にもあるようにModel 9の開発で培われた技術、ノウハウが投入されているのは明らかだ。

石井伸一郎氏は、Model 8Bはマランツの管球式パワーアンプの集大成、といわれている。
井上先生も、Model 8Bはマランツのパワーアンプの一つの頂点ではないか、といわれている。
上杉先生は、マランツのパワーアンプの中で、Model 8Bがいちばん好きといわれている。

マランツの真空管パワーアンプの設計はシドニー・スミスである。
シドニー・スミスは、Model 5がいちばん好きだ、といっている(らしい)。

ここがまた現代真空管アンプとは? について書いている者にとっては興味深い。

Date: 8月 16th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その11)

多素子のネットワーク構成ゆえに容量性負荷となり、
しかもインピーダンスも8Ωよりも低くかったりするし、
さらには能率も低い。

おまけにそういうスピーカーに接続されるスピーカーケーブルも、
真空管アンプ全盛時代のスピーカーケーブル、
いわゆる平行二芯タイプで、太くもないケーブルとは違っていて、
そうとうに太く、構造も複雑になっていて、
さらにはケーブルの途中にケースで覆われた箇所があり、
そこには何かが入っていたりして、
ケーブルだけ見ても、アンプにとって負荷としてしんどいこともあり得るのではないか。

QUAD II以外のアンプのほとんどは位相補正を行っている。
無帰還アンプならばそうでもないが、NFBをかけているアンプで位相補正なしというのは非常に珍しい。

大半のアンプが位相補正を行っているわけだが、
どの程度まで位相補正をやっているのか、というと、
メーカー、設計者によって、かなり違ってきている。

マランツの真空管アンプは、特にModel 9、Model 8Bは、
徹底した、ともいえるし、凝りに凝った、ともいえる位相補正である。

積分型、微分型、両方の位相補正を組合せて、計五箇所行われている。
それ以前のマランツのパワーアンプ、Model 2、5、8でも位相補正はあるけれど、
そこまで徹底していたわけではない。

私がオーディオに興味をもったころ、Model 8に関しては8Bだけが知られていた。
Model 8というモデルがあったのは知っていたものの、
そのころは8Bはマイナーチェンジぐらいにしかいわれてなかった。

ステレオサウンド 37号でも、
回路はまったく同じで電源を少し変えた結果パワーが増えた──、
そういう認識であった。
1975年当時では、そういう認識でも仕方なかった。

Model 8とModel 8Bの違いがはっきりしたのは、
私が知る範囲では、管球王国 vol.12(1999年春)が最初だ。

Date: 8月 15th, 2018
Cate: 「オーディオ」考

時代の軽量化(その8)

黒田先生の著書「音楽への礼状」からの、ここのところを引用するのはこれで四度目だ。
     *
 かつて、クラシック音楽は、天空を突き刺してそそりたつアルプスの山々のように、クラシック音楽ならではの尊厳を誇り、その人間愛にみちたメッセージでききてを感動させていました。まだ幼かったぼくは、あなたが、一九五二年に録音された「英雄」交響曲をきいて、クラシック音楽の、そのような尊厳に、はじめて気づきました。コンパクトディスクにおさまった、その演奏に耳を傾けているうちに、ぼくは、高校時代に味わった、あの胸が熱くなるような思いを味わい、クラシック音楽をききつづけてきた自分のしあわせを考えないではいられませんでした。
 なにごとにつけ、軽薄短小がよしとされるこの時代の嗜好と真向から対立するのが、あなたのきかせて下さる重くて大きい音楽です。音楽もまた、すぐれた音楽にかぎってのことではありますが、時代を批評する鏡として機能するようです。
 今ではもう誰も、「英雄」交響曲の冒頭の変ホ長調の主和音を、あなたのように堂々と威厳をもってひびかせるようなことはしなくなりました。クラシック音楽は、あなたがご存命の頃と較べると、よくもわるくも、スマートになりました。だからといって、あなたの演奏が、押し入れの奥からでてきた祖父の背広のような古さを感じさせるか、というと、そうではありません。あなたの残された演奏をきくひとはすべて、単に過ぎた時代をふりかえるだけではなく、時代の忘れ物に気づき、同時に、この頃ではあまり目にすることも耳にすることもなくなった、尊厳とか、あるいは志とかいったことを考えます。
     *
黒田先生が書かれている「あなた」とは、フルトヴェングラーのことである。

世の中には、上っ面だけの音楽への礼状もどきがある。
どうも増えているようだ。

黒田先生の「音楽への礼状」は、まさに音楽への礼状である──、
と強く感じる世の中になってきているようにも感じている。

「音楽への礼状」のなかの、フルトヴェングラーへの礼状は、
そのなかでも「音楽への礼状」と感じている。

《あなたの残された演奏をきくひとはすべて、単に過ぎた時代をふりかえるだけではなく、時代の忘れ物に気づき、同時に、この頃ではあまり目にすることも耳にすることもなくなった、尊厳とか、あるいは志とかいったことを考えます》
とある。

そうであってほしい、とおもう。
おもう、ということは、すでにそうではなくなりつつあるような気配を感じている。

時代の忘れ物に気づかなくなった人があらわれはじめ、増えてきたことこそ、
時代の軽量化なのではないだろうか。

Date: 8月 13th, 2018
Cate: ジャーナリズム

オーディオの想像力の欠如が生むもの(その43)

オーディオの想像力の欠如した耳に、インプレッショニズムの音は響かないし、届かないだろう。

Date: 8月 12th, 2018
Cate: ジャーナリズム

ステレオ時代 vol.12

ステレオ時代 vol.12が書店に並んでいる。

特集は「デジタルとアナログの間で ステレオ時代的 PCMプロセッサー特集」であり、
表紙にはソニーのPCM-F1が取り上げられている。

その下に「追悼特集第二弾 ありがとう中島平太郎先生」とある。
今回も、これが目に留った。

前号が第一弾で、今号が第二弾。
第一弾が好評だったから──、という安易な気持でつくられた記事ではない。
それにステレオ時代 vol.12を手にとればわかるが、
誰の目にも第一特集は「ありがとう中島平太郎先生」なのは明らかである。

しかも前号よりも力の入った記事だ。
編集者のおもいがしっかりと伝わってくる。

「ありがとう中島平太郎先生」、
こういう記事は、広告にはほとんど、というかまったく結びつかない。

売れていない雑誌だからやれる記事──、
そんな言い方をする人はいるだろうが、ほんとうにそうだろうか。

売れている雑誌にはやれない記事なのか。
売れている雑誌(そんなオーディオ雑誌があるのか?)こそ、やるべき記事ではないのか。

Date: 8月 12th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その10)

ステレオサウンド 3号のQUADのページの下段には、解説がある。
この解説は誰による文章なのかはわからないが、8号の特集からわかるのは、
瀬川先生が書かれていた、ということ。

QUAD IIについては、こう書かれている。
     *
 公称出力15Wというのは少ないように思われるが、これは歪率0.1%のときの出力で、カタログ特性で、〝OVERLOAD〟とある部分をみると、ふつうのアンプなら25Wぐらいに表示するところを、あえて控えめに公称しているあたり、イギリス人の面目躍如としている。コムパクトなシャーシ・コンストラクションと、手工芸的な配線テクニックは、実に信頼感を抱かせる。
 イギリスでは公的な研究機関や音響メーカーで標準アンプとして数多く採用されていることは有名で、技術誌のテストリポートやスピーカーの試聴記などに、よく「QUAD22のトーン目盛のBASSを+1、TREBLEを−1にして聴くと云々」といった表現が使われる。
     *
岡先生もステレオサウンド 50号で、
《長年に亘ってBBCをはじめ、イギリスの標準アンプとして使われていただけのことはある傑作といえる。》
と書かれている。

その意味でQUAD IIは、業務(プロフェッショナル)用アンプといえる。
けれどQUAD IIはプロフェッショナル用を意図して設計されたアンプではないはず。

結果として、そう使われるようになったと考える。

同じ意味ではマッキントッシュのMC275もそうといえよう。
マッキントッシュにはA116というプロフェッショナル用として開発され使われたアンプもあるが、
MC275はコンシューマー用としてのアンプである。

それがCBSコロムビアのカッティングルームでのモニター用アンプとして、
それから1970年代初頭、コンサートでのアンプには、
トランジスターの、もっと出力の大きなアンプではなくMC275がよく使われていた、とも聞いている。

MC275もQUAD IIと、だから同じといえ、
それがマランツの真空管アンプとは、わずかとはいえはっきり違う点でもある。

Date: 8月 11th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その9)

オーディオ機器にもロングラン、ロングセラーモデルと呼ばれるものはある。
数多くあるとはいえないが、あまりないわけでもない。
スピーカーやカートリッジには、多かった。

けれどアンプは極端に少なかった。
ラックスのSQ38にしても、初代モデルからの変遷をたどっていくと、
何を基準にしてロングラン、ロングセラーモデルというのか考えてしまう。

そんななかにあって、QUAD IIはまさにそういえるアンプである。
1953年から1970年まで、改良モデルが出たわけでなく、
おそらく変更などなく製造が続けられていた。

ペアとなるステレオ仕様のコントロールアンプ22の登場は1959年で、
1967年に、33と入れ代るように製造中止になっている。

22とQUAD IIのペアは、ステレオサウンド 3号(1967年夏)の特集に登場している。
     *
 素直ではったりのない、ごく正統的な音質であった。
 わたくしが家でタンノイを鳴らすとき、殆んどアンプにはQUADを選んでいる。つまりタンノイと結びついた形で、QUADの音質が頭にあった。切換比較で他のオーソドックスな音質のアンプと同じ音で鳴った時、実は少々びっくりした。びっくりしたのは、しかしわたくしの日常のそういう体験にほかならないだろう。
 タンノイは、自社のスピーカーを駆動するアンプにQUADを推賞しているそうだ。しかしこのアンプに固有の音色というものが特に無いとすれば、その理由は負荷インピーダンスの変動に強いという点かもしれない。これはおおかたのアンプの持っていない特徴である。
 10数年前にすでにこのアンプがあったというのは驚異的なことだろう。
     *
瀬川先生が、こう書かれている。
ここで「選んでいる」とあるのは、QUAD IIのことのはず。

ただし52号の特集の巻頭「最新セパレートアンプの魅力をたずねて」では、
こうも書かれている。
     *
 マランツ7にはこうして多くの人々がびっくりしたが、パワーアンプのQUAD/II型の音のほうは、実のところ別におどろくような違いではなかった。この水準の音質なら、腕の立つアマチュアの自作のアンプが、けっこう鳴らしていた。そんないきさつから、わたくしはますます、プリアンプの重要性に興味を傾ける結果になった。
     *
実を言うと、これを読んでいたから、QUAD IIにさほど興味をもてなかった。

Date: 8月 11th, 2018
Cate: きく

音を聴くということ(グルジェフの言葉・その5)

いま一冊の本(マンガ)を借りている。
北北西に曇と往け」というマンガである。

北アイルランドを舞台としている。
第一巻の最後のほうに、主人公・御山慧にリリヤという音楽をやっている女性が話しかける。

 あの子が話すと
 汚れた音がして
 気持悪い

 日本語だから何 話してるかわからないけど
 嘘ついている

 聞かないほうがいい

そういうセリフがある。
嘘を言っている日本語は、意味はわからなくとも気持が悪い。

あからさまな嘘ならば、すぐに見抜けることがある。
けれどわかっているつもりで、結果として嘘をいってしまう人がいる。
わかったつもりなのだから、嘘を言っている本人にしてみれば、嘘ではない。

わかったつもりは思い込みや刷り込みによるものだったりする。

いろんな嘘がある。
すぐには見抜けない嘘もある。

けれど嘘は常に汚れた音なのかもしれない。
怒りもなければ、愛もないのが嘘なのか。

Date: 8月 11th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その8)

1983年に会社名も変更になり、ブランド名として使われてきたQUADに統一されたが、
QUADが創立された当初はThe Acoustical Manufacturing Company Ltd.だった。

QUADとは、Quality Unit Amplifier Domesticの頭文字をとってつけられた。
DomesticとついていてもQUADのアンプは、BBCで使われていた、と聞いている。

BBCでは、真空管アンプ時代はリーク製、ラドフォード製が使われていた。
QUADもそうなのだろう。
このあたりを細かく調べていないのではっきりとはいえないが、
それでもBBCでQUAD IIが採用されていたということは、
QUAD初のソリッドステートアンプ50Eの寸法から伺える。

QUAD IIの外形寸法はW32.1×H16.2×D11.9cmで、
50EはW12.0×H15.9×D32.4cmとほぼ同じである。

それまでQUAD IIが設置されていた場所に50Eはそのまま置けるサイズに仕上げられている。
50Eは、BBCからの要請で開発されたものである。

しかも50Eの回路はトランジスターアンプというより、
真空管アンプ的といえ、真空管をそのままトランジスターに置き換えたもので、
当然出力トランスを搭載している。

50Eの登場した1965年、JBLには、SG520、SE400S、SA600があった。
トランジスターアンプの回路設計が新しい時代を迎えた同時期に、QUADは50Eである。

こう書いてしまうと、なんとも古くさいアンプだと50Eを捉えがちになるが、
決してそうではないことは二年後の303との比較、
それからトラジスターアンプでも、
トランス(正確にはオートフォーマー)を搭載したマッキントッシュとの比較からもいえる。
これについて別項でいずれ書いていくかもしれない。

とにかくQUAD IIと置き換えるためのアンプといえる50Eは1965年に登場したわけだが、
QUAD IIは1970年まで製造が続けられている。
QUAD IIはモノーラル時代のアンプで、1953年生れである。

Date: 8月 11th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その7)

QUAD IIの存在に目を向けるようになって気づいたことがある。
ここでは現代真空管アンプとしている。
最新真空管アンプではない。

書き始めのときは、現代と最新について、まったく考えていなかった。
現代真空管アンプというタイトルが浮んだから書き始めたわけで、
QUAD IIのことを思い出すまで、現代と最新の違いについて考えることもしなかった。

最新とは、字が示すとおり、最も新しいものである。
現行製品の中でも、最も新しいアンプは、そこにおける最新アンプとなるし、
最も新しい真空管アンプは、そこにおける最新真空管アンプといえる。

では、この「最も新しい」とは、何を示すのか。
単に発売時期なのか。
それも「最も新しい」とはいえるが、アンプならば最新の技術という意味も含まれる。

半導体アンプならば、最新のトランジスターを採用していれば、
ある意味、最新アンプといえるところもある。
けれど真空管アンプは、もうそういうモノではない。

いくつかの新しい真空管がないわけではないが、
それらの真空管を使ったからといって、最新真空管アンプといえるだろうか。

最新アンプは当然ながら、時期が来れば古くなる。
常に最新アンプなわけではない。
いつしか、当時の最新アンプ、というふうに語られるようになる。

そういった最新アンプは、ここで考える現代アンプとは同じではない。

Date: 8月 10th, 2018
Cate: アナログディスク再生

リマスターSACDを聴いていて(その1)

先日、あるSACDを聴いた。
CDで以前出ていて、そのころよく聴いていた。

今回のリマスターSACDは、丁寧な仕事がなされている、と感じる出来だ。
CDと直接比較はしなかったが、少なくとも悪くない、という消極的な評価ではなく、
かなりいいんじゃないか、と感じていた。

聴いている途中で、
そして聴き終ってから、そのSACDの音は、
良質のMM型カートリッジでの再生音に通ずるような鳴り方だったことに気づいた。

MM型カートリッジといって、
アナログディスク全盛時代は各社からいろんなグレードで数多く発売されていたし、
ひとつとして同じ音のカートリッジはなかったわけだから、
MM型カートリッジの音という括りは乱暴で危険なこととはわかっていても、
それでもMC型カートリッジの良質なモデルの音を聴いた直後では、
どんなに優れたMM型カートリッジでも、忘れてきている何かがある、と感じる。

音はすべて出ているように感じる。
今回のSACDもそうだった。
ケチをつけるところは、特にない。
でも、そう感じていた。

これまでもリマスターSACDは何枚も聴いてきている。
こんなふうに感じたのは初めてだった。

Date: 8月 10th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その6)

QUAD IIの出力は15Wである。
高能率のスピーカーならば、これでも十分ではあっても、
95dB以下ともなると、15Wは、さすがにしんどくなることも、
新しい録音を鳴らすのであれば出てくるはずだ。

実際には25W以上楽に出る感じの音ではあったそうだが、それでも出力に余裕があるとはいえない。
QUAD IIはKT66のプッシュプルアンプである。
出力管がKT88だったら……、と思った人はいると思う。

私もKT66プッシュプルアンプとしての姿は見事だと思いながらも、
もしいまQUAD IIを使うことになったら、KT88もいいように思えてくる。

実際、QUADはQUAD IIを復刻した際、
EF86、KT66とオリジナルのQUAD IIと同じ真空管構成にしたQUAD II Classicと、
EF86を6SH7、KT66をKT88に変更したQUAD II fortyも出している。

QUAD II Classicはオリジナルと同じ15Wに対し、
QUAD II fortyは型番が示すように40Wにアップしている。

QUADが往年の真空管アンプを復刻したとき、QUADもか、と思った一人であり、
内部の写真をみて、関心をもつことはなくなった。
それにシャーシーのサイズも多少大きくなっていて、
オリジナルのQUAD IIのコンストラクションの魅力ははっきりと薄れている。

ならば基本レイアウトはそのままで、
トランスカバーの形状を含めて細部の詰めをしっかりとしてくれれば、
外観の印象はずっと良くなる可能性はあるのに──、と思う。

QUAD II fortyはオリジナルのQUAD IIと同じ回路なのだろう。
位相補正は、やはりやっていないのか。

現代真空管アンプを考えるうえで、いまごろになってQUAD II fortyが気になってきている。
QUAD II fortyはどういう音を聴かせるのか。

QUADのESLだけでなく、
複雑な構成のネットワークゆえ容量性負荷になりがちなスピーカーシステムでも、
音量に配慮すれば不安定になることなくうまく鳴らしてくれるのか。

Date: 8月 9th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その5)

容量性負荷で低能率のスピーカーといえば、コンデンサー型がまさにそうである。
QUADのESLがそうである。

QUADはESL用のアンプとして真空管アンプ時代には、
KT66プッシュプルのQUAD IIを用意していた。

私はQUAD IIでESLを鳴らした音は聴いたことがないが、
ESL(容量性負荷)を接続してQUAD IIが不安定になったという話も聞いていない。

QUAD IIを構成する真空管は整流管を除けば四本。
電圧増幅に五極管のEF86を二本使い、これが初段であり位相反転回路でもある。
次段はもう出力管である。

マランツやマッキントッシュの真空管アンプの回路図を見た直後では、
QUAD IIの回路は部品点数が半分以下くらいにおもえるし、
ものたりなさを憶える人もいるくらいの簡潔さである。

NFBは19dBということだが、これもQUAD IIの大きな特徴なのが、位相補正なしということ。
NFBの抵抗にもコンデンサーは並列に接続されていない。

出力トランスにカソード巻線を設けているのはマッキントッシュと同じで、
時代的には両社ともほほ同時期のようである。

同じカソード巻線といっても、マッキントッシュはバイファイラー巻きで、
QUADは分割巻きという違いはある。
それにマッキントッシュのカソード巻線はバイファイラーからトライファイラーに発展し、
最終的にはMC3500ではペンタファイラーとなっている。

マランツの真空管アンプにはカソード巻線はない。
マランツのModel 8BのNFB量はオーバーオールで20dBとなっている。
QUAD IIとほぼ同じである。

Model 8BとQUADのESLの動作的な相性はどうだったのか。
容量性負荷になりがちな多素子のネットワークのシステムで大変になるということは、
ESLでもそうなる可能性は高い。

マランツとQUADではNFB量は同じでも、
それだけかけるのにマランツは徹底した位相補正を回路の各所で行っている。
QUAD IIは前述したように位相補正はやっていない。

マッキントッシュだと、MC240、MC275は聴く機会は、
ステレオサウンドを辞めた後もけっこうある。
マランツもマッキントッシュよりも少ないけれどある。

QUADの真空管アンプは、めったにない。
もう二十年以上聴いていない。
前回聴いた時には、現代真空管アンプという視点は持っていなかった。
いま聴いたら、どうなのだろうか。

MC275同様、フレキシビリティの高さを感じるような予感がある。

Date: 8月 9th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その4)

いまヒーターの点火方法について書いているところで、
この項はそんな細部から書いていくことが多くなると思うが、
それだけで現代真空管アンプを考えていくことになるとは考えていない。

現代真空管アンプは、どんなスピーカーを、鳴らす対象とするのか、
そういったことも考えていく必要がある。

現代真空管アンプで、真空管アンプ全盛時代のスピーカーシステムを鳴らすのか。
それとも現代真空管アンプなのだから、現代のスピーカーシステムを鳴らしてこそ、なのか。

時代が50年ほど違うスピーカーシステムは、とにかく能率が大きく違ってきている。
100dB/W/m前後の出力音圧レベルのスピーカーと、
90dBを切り、モノによっては80dBちょっとのスピーカーシステムとでは、
求められる出力も大きく違ってくる。

そしてそれだけでないのが、アンプの安定性である。
ここ数年のスピーカーシステムがどうなっているのか、
ステレオサウンドを見ても、ネットワークの写真も掲載されてなかったりするので、
なんともいえないが、十年以上くらい前のスピーカーシステムは、
ネットワークを構成する部品点数が、非常に多いモノが珍しくなかった。

6dBスロープのネットワークのはずなのに、
写真を見ると、どうしてこんなに部品が多いのか、理解に苦しむ製品もあった。
いったいどういう設計をすれば、6dBのネットワークで、ここまで多素子にできるのか。

しかもそういうスピーカーは決って低能率である。
この種のネットワークは、パワーアンプにとって容量負荷となりやすく、
パワーアンプの動作を不安定にしがちでもあった。

井上先生から聞いた話なのだが、
そのころマランツが再生産したModel 8B、Model 9は、
そういうスピーカーが負荷となると、かなり大変だったらしい。

現代真空管アンプならば、その類のスピーカーシステムであっても、
安定動作が求められることになり、そうなると、往年の真空管アンプでは、
マランツよりもマッキントッシュのMC275のほうがフレキシビリティが高い──、
そのこともつけ加えられていた。