Archive for category テーマ

Date: 8月 23rd, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その17)

直熱三極管の交流点火ではハムバランサーが必ずつくといっていい。
この場合、電源トランスのヒーター用巻線の両端のどちらかが接地されることは、まずない。

傍熱管の場合でもハムバランサーがついているアンプもある。
マッキントッシュの場合は、モノーラル時代のモノ(つまりMC60までは)ハムバランサーがあり、
ステレオ時代になってからはヒーター用巻線の片側が接地されている。
MC3500ではハムバランサーが復活している。

同時代のマランツのパワーアンプは、というと、ヒーター用巻線にセンタータップがあり、
これが接地されている。ハムバランサーはない。

ハムバランサーがない場合でも、マッキントッシュとマランツとでは接地が違う。
正直いうと、この接地の仕方の違いによる音の変化を、同一アンプで比較試聴したことはない。

マランツの真空管アンプも聴いているし、マッキントッシュの真空管アンプも聴いているが、
これらのアンプの音の違いは交流点火における接地の仕方だけの違いではないことはいうまでもない。

なので憶断にすぎないのはわかっているが、交流点火の場合、
ヒーター用巻線にセンタータップがあり、ここを接地したほうが音はいいのではないのか。

交流点火が音がいい、という人がいる。
けれど理屈からは直流点火のほうがエミッションは安定化するように思える。
それでも──、である。

ということは交流点火で考えられるのは電流の向きが反転することであり、
この反転がヒーターの温度の安定化にどう作用しているのか。

交流点火になんらかの音質的なメリットがあるとしよう。
ならば交流点火でも、定電圧点火と定電流点火とが考えられる。
通常の交流点火ではヒーター用巻線からダイレクトに真空管のヒーターに配線するが、
あえてアンプを介在させる。小出力のアンプの出力をヒーターへと接続する。

そうすることで出力インピータンスを低くすることができ、
この場合は定電圧点火となるし、このアンプを電流出力とすれば、
交流の定電流点火とすることができる。
しかもアンプをアンバランスとするのか、バランスとするのかでも音は変ってこよう。

Date: 8月 23rd, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(パイオニア Exclusive 3401・その3)

習作的といいたくなる製品は、多くのメーカーに多かれ少なかれある。
特にスピーカーシステムに多くみられるが、
その中でもパイオニアのスピーカーシステムは習作的といいたくなる製品が、
他のメーカーよりもはっきりと多い、と感じていた。

習作的といっているが、興味深いことでもある。
こういうことを考えているのか、と感心する(反対に呆れるか)ことがあるからだ。
そこでの音はともかくとして、勉強になることは確かだ。

とはいえパイオニアのスピーカーシステムで、Exclusiveの名称がつくのに、
習作的なモノとなると、そこは否定的なことをいいたくなる。

Exclusiveのイメージは、アンプによってつくられていた。
そのイメージからすれば、3301と2301は習作的でしかなかった。
3401によって、どうにかExclusiveのスピーカーといえるモノが登場した──、
当時そんなふうに感じていた。

Exclusive 3401は、ステレオサウンド 46号の特集には登場していないが、
新製品紹介のページには出ている。

その後、47号のベストバイでは、井上先生が☆☆、山中先生が☆☆☆をつけられていた。
51号のベストバイでは誰にも選ばれていない。
けれど49号のSTATE OF THE ART賞には選ばれている。

聴いていないスピーカーだけに、そういう評価なのか、と思いそうになった。
Exclusive 3401Wが、ステレオサウンドの総テストに登場するのは、54号。

黒田先生、菅野先生、瀬川先生が試聴されていて、
黒田先生と瀬川先生が特選であった。

瀬川先生の試聴記の最後に、
《初期の製品の印象はあまりよくなかったが、ずいぶん練り上げられてきたと思う》とある。
そうだったのか……、と納得したものだった。

54号に登場しているのはExclusive 3401W。
Exclusive 3401との違いはエンクロージュアの仕上げだけでなく、
3401Wにはハカマがついているし、トゥイーターの取り付け位置は最初から固定で、
つまり左右対称のユニット配置になっているから、メクラ板はない。

そして、そこにはExclusiveのネームプレートがついている。

Exclusive 3401は、写真をみるかぎり、フロントバッフルのどこにもExclusiveの文字はない。
国産スピーカーだけでなく、海外のスピーカーであっても、
フロントバッフルに型番やメーカー名が入っているモノはある。

Exclusive 3401には、それがない。3401Wにはあるのに。
そのことがグレイの塗装仕上げとともに、
このスピーカーがモニタースピーカーとして開発されたモノだと、私にはおもえる。

Date: 8月 23rd, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(パイオニア Exclusive 3401・その2)

Exclusive 3401の広告は、ステレオサウンド 46号に載っていた。
「曲は終り、針が止まった。雨の音だけが残った。」
というキャッチコピーがあった。

その下にサランネットを外した正面からのExclusive 3401、
その右ページにはサランネットを付けた状態で、少し斜めからの写真があった。

グレイといっても、JBLのスタジオモニターのグレイとは少し違っていた。
わずかに緑が入っているようにも感じた。

Exclusive 3401をみれば、JBLの4320、4333をそうとうに意識しているのことは、
誰の目にも明らかなくらい、ユニット配置、バスレフポートの位置、
エンクロージュアのプロポーションなど、近いところが多い。

トゥイーターの位置も左右どちらかに取り付けられるようになっているところもそうだし、
ウーファーの口径、外観もJBLのウーファーを感じさせるものだし、
スコーカーのホーンもExclusive 2301が、JBLの2397をおもわせるホーンなのに対し、
こちらはJBLのスタジオモニター共通のショートホーンである。

トゥイーターのホーン開口部は、エレクトロボイスのトゥイーターっぽい感じもあるが、
なんとなくJBL的にみえるといえば、そうみえなくもない。

JBLのスタジオモニターも、4331A、4333Aのように、
型番末尾にAがつくようになってから、
エンクロージュアの形状とフロントバッフルの色が変更された。
4320、4331、4333では六面すべてサテングレー仕上げだった。

Exclusive 3401も六面すべてグレー仕上げである。
そのためか正面からの写真では、やや平面的な印象も受けるし、
引き締まった印象は薄い。

それでもExclusive 3401は、気になった。
46号の広告ではExclusive 3401Wは登場してなかった。
グレーのExclusive 3401だけであったから、
パイオニアがモニタースピーカーを開発したのか、とも思っていた。

けれど46号の特集「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質を探る」では取り上げられてない。

Date: 8月 22nd, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その16)

ヒーターはカソードを熱している。
カソードとヒーター間に十分な距離があれば問題は生じないのだろうが、
距離を離していてはカソードを十分に熱することはできない。

カソードとヒーターとは近い。
ということはそこに浮遊容量が無視できない問題として存在することになる。
ということは真空管アンプの回路図を厳密に描くのであれば、
カソードとヒーターを、極小容量のコンデンサーで結合することになる。

それでも真空管が一本(ヒーターが一つ)だけであれば、大きな問題とはならないかもしれないが、
実際には複数の真空管が使われているのだから、浮遊容量による結合は、
より複雑な問題となっているはず。

仮に定電圧点火であっても定電流点火であっても、
エミッションが完全に安定化していたとしても、この問題は無視できない。

そこに定電圧電源をもてくるか、定電流電源をもってくるかは、
それぞれの干渉という点からみれば、
低インピーダンスの定電圧電源による点火か、
高インピーダンスの定電流電源による点火か、
どちらが複数の真空管の相互干渉を抑えられるかといえば後者のはずだ。

念のためいっておくが、三端子レギュレーターの配線を変更して定電流点火は認めない。

私は真空管のヒーターは、きちんとした回路による定電流点火しかないと考える。
けれど、ここで交流点火について考える必要もある。

交流点火はエミッションの安定化、つまりヒーター温度の安定化という点では、
どう考えても直流点火よりも不利である。

けれど交流点火でなければならない、と主張する人は昔からいる。
ここでの交流点火は、ほとんどの場合、出力管は直熱三極管である。

Date: 8月 22nd, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その15)

いまでこそアンプに面実装タイプの部品があたりまえのように使われるようになっている。
小さい抵抗やコンデンサーには、そのサイズ故のメリットがあるのはわかっていても、
それ以前のアンプでのパ抵抗やコンデンサーの大きさを知っている者からすれば、
デメリットについても考える。

もちろんメリットとデメリットは、どちらか片方だけでなく、
サイズの大きな部品にもメリットとデメリットがあるわけだが、
昔から、抵抗は同じ品種であっても、ワット数の大きいほうが音はいい、といわれてきた。

1/4Wのの抵抗よりも1/2W、さらには1W、2W、5W……、というふうに音はよくなる、といわれていた。
富田嘉和氏はさらに大きな10W、20Wの抵抗を、アンプの入力抵抗に使うという実験をされていたはずだ。

ワット数が大きいほうが、なぜいいのか。
その理由ははっきりとしないが、ひとつには温度係数が挙げられていた。
音楽信号はつねに変動している。

1/4Wの抵抗で動作上問題がなくても、
大きな信号が加わった時、抵抗の内部はほんのわずかとはいえ温度が上昇する。
温度係数の、あまりよくない抵抗だと、その温度上昇によって抵抗値にわずかな変動が生じる。
それが音に悪影響を与えている可能性が考えられる──、
そういったことがいわれていた。

確かに抵抗であれば、ワット数が大きくなれば温度係数はよくなる。
この仮説が事実だとしたら、真空管のヒーターもそうなのかもしれない、と考えられる。

温度のわずかな変化、それによるヒーターの抵抗値のわずかな変動。
そこに定電圧電源から一定の電圧がかかっていれば、
ヒーターへの電流はわずかとはいえ変動することになる。

電流の変動はエミッションの不安定化へとつながる。
ならば安定化しなければならないのは電圧ではなく、電流なのかもしれない。

定電流点火によってヒーターのなんらかの変動が生じても、電流は一定である。
そのためヒーターにかかる電圧はわずかに変動する。

それでも重要なのはエミッションの安定であることがわかっていれば、
どちらなのかははっきりとしてくる。

Date: 8月 22nd, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(パイオニア Exclusive 3401・その1)

スピーカーは、いったい何組欲しいのだろうか、と自問自答することがままある。
予算も、置くスペースにも制約がなければ……、と夢みたいなことをおもいながら、
いま手元にあるスピーカーたちの他に欲しい(つまり鳴らしてみたい)スピーカーは、どれなのか。

記憶をたどりながら、あれこれ思い出す。
けっこうな数ある。
それでも日本のスピーカーシステムということに限れば、数はとても減る。
ヤマハのNS1000M、ダイヤトーンの2S305、ビクターのSX1000 Laboratory、
それからパイオニアのExclusive 3401ぐらいである。

この中で聴いたことがないのがExclusive 3401だ。
Exclusive 3401には仕上げが違うExclusive 3401W(ウォールナット仕上げ)もあるが、
私にとってExclusive 3401といえば、グレイ仕上げのExclusive 3401である。

パイオニアのカラー広告で、Exclusive 3401を最初に見た時の印象は、
ヤマハのプリメインアンプA1の広告の印象と並ぶくらいだった。

それまでのExclusiveの名称がつくスピーカーシステムは、3301と2301だった。
3301は中高域の同軸ユニットは、なかなか意欲的でおもしろそうだなとは感じたけれど、
システム全体の印象は、アマチュアの自作スピーカー的であり、
Exclusiveとつかないのであればわかるけれど、
なぜ、このシステムにExclusiveとつけるのか理解に苦しんだし、いまも、そう思う。

Exclusive 2301はExclusiveらしいといえば、まだそういえた。
それでもシステムとしての完成度は3301と2301、どちらも高いとは感じなかった。

コントロールアンプのC3、パワーアンプのM4で出来上っていたExclusiveの製品のイメージを、
どちらのスピーカーも、毀すとまではいかないが損うように感じていた。

その一年後か、Exclusive 3401が出た時は、
やっとExclusiveらしいスピーカーの登場だ、と思った。
それは、いまも忘れていない。

Date: 8月 21st, 2018
Cate: 「オーディオ」考

オーディオがオーディオでなくなるとき(その9)

マッキントッシュのゴードン・ガウの言葉だったと記憶している。

「quality product, quality sales and quality customer」だと。
どれかひとつ欠けても、オーディオの世界はダメになってしまう、と。

quality product(クォリティ・プロダクト)はオーディオメーカー、
quality sales(クォリティ・セールス)はオーディオ店、
quality customer(クォリティ・カスタマー)はオーディオマニア、
主にそういうことになる。

クォリティ・セールスには、オーディオ店以外にも、
メーカーの売り方も深く関ってくるし、
海外で売られる場合には、その国の輸入元も含まれる。

メーカー、輸入元の売り方には、広報・広告が含まれる。
ここでの広報とは、オーディオ雑誌での記事の掲載、
インターネットでのなんらかの記事などが、そうだといえよう。

クォリティ・カスタマーは、売らんかな、だけのメーカー、輸入元にとっては、
クォリティがつかないカスタマーのほうが都合はいいだろう。

高価なモノをポンと買っていく客が、クォリティ・カスタマーなわけではないし、
誰しもが最初からクォリティ・カスタマーなわけでもない。

客(オーディオマニア)をクォリティ・カスタマーに導いていくのには、
クォリティ・セールスが重要となってくる。

Date: 8月 20th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(その11)

テクニクス、ヤマハを例に挙げただけで、
他のオーディオメーカーの新製品に、新鮮さ、驚きがあるかというと、五十歩百歩だ。

たとえばアキュフェーズ。
別項でC240という、ずいぶん前のコントロールアンプについて書き始めているが、
当時、C240の登場は新鮮であり驚きがあった。

それまでのアキュフェーズのコントロールアンプとは明らかに違っていたし、
だからといってアキュフェーズ以外の製品であったわけでもない。

はっきりとアキュフェーズの製品でありながら、
それまでの製品とは違っていたから、新鮮であり驚きがあった。

C240のデザインに、未消化に感じるところがないわけでもない。
それでも新鮮であり驚きがあった。

おそらくNS1000Mの登場もそうであったのではないか。
私がオーディオに興味をもったころには、すでに定評を得ていた。
発表当時のことは私は知らないが、新鮮であり驚きを受けた人は多かったのではないか。

NS100Mにも欠点はある。
具体例をあげれば、ウーファーを保護している金属ネットがそうだ。
NS1000Mを視覚的に印象づけているわけだが、この部分の鳴きはそうとう音に影響している。

だからといって、取り外してしまえば、もうNS1000Mではなくなってしまうはずだ。

過去の新製品すべてがそうだったわけではないが、
それぞれのメーカーに、数年に一機種か、十年に一機種か、
とにかく力を感じさせる新製品が登場していた。

そういう新製品に、新鮮さ、驚きを感じていた、ともいえる。

Date: 8月 20th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(その10)

その9)を書いたのが四年前。
2014年の9月にテクニクス・ブランドが復活している。
2016年にはヤマハがNS5000の販売を開始した。

ヤマハもテクニクスもインターナショナルオーディオショウに出展するようにもなった。
アキュフェーズ、ラックス、マランツ、デノン、エソテリック、フォステクス、TAD、
これらのメーカーも健在である。

インターナショナルオーディオショウではないが、OTOTENにも、
いくつものオーディオメーカーが、(その9)を書いたあとに登場したメーカーも出展している。

けっこうなことじゃないか、と素直に喜びたいのだが、
ほんとうに喜べる状況なのだろうか、ともおもう。

テクニクスの、この四年間の新製品、
特にアナログプレーヤーのSL1200、SP10の現代版は、
オーディオ雑誌、オーディオ業界だけのニュースではなく、
もっと広いところでのニュースとなっている。

復活したテクニクスを率いている小川理子氏は、メディアによく登場されているし、
本も出されている。それだけ注目されている。

これもけっこうなことじゃないか、と素直に喜びたいのだが、
ほんとうに喜べる状況なのだろうか、このことについても、そうおもう。

ヤマハのNS5000は、このブログでも書いているように2015年にプロトタイプが、
インターナショナルオーディオショウで登場した。
音も聴くことができた。

プロトタイプのNS5000の音に期待がもてた。
けれど製品としてできあがったNS5000の音に、私はがっかりした。
プロトタイプに感じた良さが、製品版からは感じられなかった。
もっとも世評は高いから、それはそれでいいのだろう。

結局、ヤマハはNS1000Mを超えるスピーカーをつくれないのか、と思ってしまう。
もちろんNS5000の方が、NS1000Mよりもいい音と評価する人は大勢いることだろう。

それでもNS1000Mを超えられない、と思ってしまうのは、
NS5000に新鮮さとか驚き、といったことを感じられないからだ。

少なくともプロトタイプには、それらはあった、と感じている。
同じことはテクニクスにもいえる。

SL1200、SP10の現代版をみても、新鮮さ、驚きは悲しいかな、感じられなかった。

Date: 8月 19th, 2018
Cate: audio wednesday
1 msg

第92回audio wednesdayのお知らせ(あるD/Aコンバーターを聴く)

喫茶茶会記のシステムは、そう高くはない。
むしろいまでは安い方に属する、ともいえる。

スピーカーはアルテックの2ウェイ中心としていて、
中古相場で計算しても片チャンネルあたり20万円ほどで揃う。

アンプはマッキントッシュのMA7900、SACDプレーヤーはMCD350。
スピーカーケーブルはカナレの実売80円(1m)くらいだし、ラインケーブルも数百円である。
私が作ったネットワークは部品代はそこそこかかっているけれど、
それでもシステムトータルでは200万円を超えない。

すべて含めて、このくらいで納まっている。
いまならスピーカーケーブルだけでも、喫茶茶会記のシステムより高価なモノがあるし、
そういうケーブルを使っている人もいる。

今回、とある会社から借用するオーディオ機器(D/Aコンバーター)は、
一台で喫茶茶会記のシステムよりも高価である。
音の入口にあたるところを、今回は大きくグレードアップすることになる。

どのメーカーのD/Aコンバーターなのかは書かないが、
私が聴きたいとおもっているD/Aコンバーターのひとつである。

9月5日のaudio wednesdayでは、このD/Aコンバーターを使っての音出しである。

場所はいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。
19時開始です。

Date: 8月 18th, 2018
Cate: re:code

re:code(その7)

ステレオサウンド 52号のオーディオ巡礼では、岩竹義人氏のリスニングルームを、
五味先生は訪問されている。
この回は「オーディオ巡礼」には収められていない。

その理由はわからぬわけではない。
けれどこの回は、
ハイ・フィデリティ・リプロダクションとは? について、
五味先生はどう捉えられているのかを知る上でも重要である。

終り近くで、こう書かれている。
     *
 このあと、フランクのヴァイオリン・ソナタをはじめはギトリスなる私の知らぬ人の演奏で、次にスークで、それからフェラスとバルビゼ、最後はオイストラフとリヒテルで聴いた。これが充分聴けたのだからそうわるい音なわけはないが、コンクリートホーンでヴァイオリンはやっぱり無理な感じは最後まで否めなかった。どうかするとヴァイオリンが二提もしくは三提で弾かれているようにきこえる。拙宅でも、以前にも述べたようにヴァイオリンがヴィオラかチェロにきこえることがある。だが弦の響きで胴が大きくふくらむものの楽器そのものは一つだ。岩竹氏のコンクリート・ホーンではそれが、まったく別の位置で演奏されるヴィオラやチェロにきこえる。つまりフランクの〝ピアノ三重奏曲〟イ長調ってわけだ。岩竹氏は以前、たとえばタンノイはどんなヴァイオリンの音色もすべて同じで、まさに白痴美の音だと申されたことがある。至言かもわからない。しかし、ヴァイオリン・ソナタがピアノ三重奏曲にきこえるのがどうして原音に忠実なのか。岩竹氏の人柄を心から好もしく私はおもうだけに、敢えてこれは言っておきたい。あなたは間違っている、今のスピーカーを先ず捨てなさい、即刻ウェスターンあたりに替えなさい。美しい再生音とは、どんなものかを、そしたら会得なさるはずだと。
     *
ヴァイオリン・ソナタがピアノ三重奏曲にきこえる。
それはモデリングがうまくいっていないからと捉えることができる。

私にとってオーディオの出発点となった「五味オーディオ教室」には、
《いま、空気が無形のピアノを、ヴァイオリンを、フルートを鳴らす。 これこそは真にレコード音楽というものであろう》
と書いてあった。

つまりモデリングであり、リモデリングであり、
ここにおいて五味先生はハイ・フィデリティ・リプロダクションを目指されているし、
MC275とMC3500の違いについて書かれている五味先生の文章は、
私にはレンダリングの違いというふうに読めるわけだ。

Date: 8月 18th, 2018
Cate: re:code

re:code(その6)

つい先日も別項で引用した五味先生の文章。
     *
 ところで、何年かまえ、そのマッキントッシュから、片チャンネルの出力三五〇ワットという、ばけ物みたいな真空管式メインアンプ〝MC三五〇〇〟が発売された。重さ六十キロ(ステレオにして百二十キロ——優に私の体重の二倍ある)、値段が邦貨で当時百五十六万円、アンプが加熱するため放熱用の小さな扇風機がついているが、周波数特性はなんと一ヘルツ(十ヘルツではない)から七万ヘルツまでプラス〇、マイナス三dB。三五〇ワットの出力時で、二十から二万ヘルツまでマイナス〇・五dB。SN比が、マイナス九五dBである。わが家で耳を聾する大きさで鳴らしても、VUメーターはピクリともしなかった。まず家庭で聴く限り、測定器なみの無歪のアンプといっていいように思う。
 すすめる人があって、これを私は聴いてみたのである。SN比がマイナス九五dB、七万ヘルツまで高音がのびるなら、悪いわけがないとシロウト考えで期待するのは当然だろう。当時、百五十万円の失費は私にはたいへんな負担だったが、よい音で鳴るなら仕方がない。
 さて、期待して私は聴いた。聴いているうち、腹が立ってきた。でかいアンプで鳴らせば音がよくなるだろうと欲張った自分の助平根性にである。
 理論的には、出力の大きいアンプを小出力で駆動するほど、音に無理がなく、歪も少ないことは私だって知っている。だが、音というのは、理屈通りに鳴ってくれないこともまた、私は知っていたはずなのである。ちょうどマスター・テープのハイやロウをいじらずカッティングしたほうが、音がのびのび鳴ると思い込んだ欲張り方と、同じあやまちを私はしていることに気がついた。
 MC三五〇〇は、たしかに、たっぷりと鳴る。音のすみずみまで容赦なく音を響かせている、そんな感じである。絵で言えば、簇生する花の、花弁の一つひとつを、くっきり描いている。もとのMC二七五は、必要な一つ二つは輪郭を鮮明に描くが、簇生する花は、簇生の美しさを出すためにぼかしてある、そんな具合だ。
     *
ここでのMC275とMC3500の音の違いは、
この二つのアンプの音の違いだけに留まらず、さまざまなことを考えさせられる。
ここでテーマにしていることにも、深く関係してくる。

五味先生はMC275の描く音を
《必要な一つ二つは輪郭を鮮明に描くが、簇生する花は、簇生の美しさを出すためにぼかしてある》
と表現されている。
これを読んで、どう思うか。

再生という行為を、モデリングとレンダリングというふうに考えてみると、
MC275もMC3500もモデリングにおいての違いはそれほどでもなく、
レンダリングにおいての違い、というふうに読める。

Date: 8月 18th, 2018
Cate: バランス

違いがわかっても、違いしかわからなかったりする

オーディオにとって真の科学とは(コメントを読んで)」で、
細かな音の違いがわかっても……、といったことを書いた。
ずっと以前からいわれていることである。
     *
 と、さんざんうるさいことを書いておいて、最後にちょっと補足しておくが、違う違うといってもその音の差はきわめて微妙。その微妙な差を大きな問題に感じるが音のマニアなのであれば、反面、ヘッドシェルを交換して聴いてもその差がわからずにキョトンとする人も決して少なくない。ヘッドシェルといいリード線といい、それらを変えてその音の差を聴き分けるのが高級な耳だなどとは誤解しないほうがいい。そういう差をよく聴き分ける人が、装置全体の音楽的なバランスをひどくくずして、平気で聴いている例もまた少なくない。ヘッドシェルの類いといい、またシールド線やスピーカーコードの違いといい、それらの細かな音を比較してよりよい方向を探すことも大切だが、装置全体を、総合的に良い音に調整するには、もっと全体を大きく見とおすような、全体的な感覚が必要で、それは細かな音の差を聴き分ける能力とはまた別の感覚だという点は、忘れないでおきたい。
     *
瀬川先生の「続コンポーネントステレオのすすめ」に、そう書いてある。
同じことを五味先生も書かれている。
     *
一流のアンプ製作者を何人か知っているが、面白いことにそんな連中の自宅のサウンドが素晴らしかったためしがない。なまじ専門知識があるため、高音や低域をいじりまわして、精神分裂症みたいな音にしてしまうのだろうと思う。さもなくば測定値に頼りすぎる。(音楽美は測定器ではでないのだ。)
(「いい音いい音楽」より)
     *
細かなところにこだわりすぎると、全体のバランスを見失ってしまう。

ずっと以前にネスカフェのCMで「違いのわかる男」というのがあった。
そのことで思い出すのは、十数年前に音効の仕事をやっている人と話す機会があった。

その人いわく、いまの若いミキサーは音の違いはわかるけれど、
どちらがいい音なのか、自分で判断できない、といってくる。
どちらをとるかの判断を、こちらにまかせてくる──、
そんなことを聞いている。

たまたま、そういうミキサーと仕事をする機会があったのかもしれないし、
そういう人がそのころは現れはじめていたのかもしれないが、
違いがわかっても、それだけで、いい耳といってしまえるわけではない。

Date: 8月 17th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その14)

結局のところ、抵抗負荷での測定であり、
入力信号も音楽信号を使うわけではない。

上杉先生の検証も抵抗負荷での状態のはずだし、
マランツがModel 8Bの開発においても抵抗負荷での実験が行われたはず。

ほぼ原波形どおりの出力波形が得られた、ということにしても、
音楽信号を入力しての比較ではなく、
正弦波、矩形波を使っての測定である。

アンプが使われる状況はそうてはない。
負荷は常に変動するスピーカーであり、
入力される信号も、つねに変動する音楽信号である。

ここでやっと(その4)のヒーターの点火方法のことに戻れる。
おそらくヒーターも微妙な変動を起しているのではないか、と考えられる。
安定しているのであれば、定電圧点火であろうと定電流点火であろうと、
どちらも設計がしっかりした回路であれば、音の変化は出ないはずである。

ヒーターに流れる電流は、ヒーターにかかっている電圧を、
ヒーターの抵抗値で割った値である。

ヒーターは冷えている状態と十分に暖まった状態では抵抗値は違う。
当然だが、冷えている状態のほうが低い。

十分に暖まった状態で、ヒーターの温度が安定していれば抵抗値も変動しないはず。
抵抗値が安定していれば、かかる電圧も安定化されているわけで、
オームの法則からヒーターに流れる電流も安定になる。
定電圧点火でも定電流点火でも、音に違いが出るはずがない。

けれど実際は、大きな音の違いがある。

Date: 8月 17th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その13)

上杉先生は管球王国 vol.12で、
マランツのModel 8Bの位相補正について、次のように語られている。
     *
上杉 この位相補正のかけ方は、実際に波形を見ながら検証しましたが、かなり見事なもので、補正を一つずつ加えていくと、ほとんど原派生どおりになるんですね。そのときの製作記事では、アウトプットトランスにラックス製を使ったため、♯8Bとは異なるのですが、それでも的確に効果が出てきました。
     *
上杉先生が検証されたとおりなのだろう。
位相補正をうまくかけることで、NFBを安定してかけられる。
つまりNFBをかけたアンプの完成度を高めているわけである。

真空管のパワーアンプの場合、出力トランスがある。
その出力トランスの二次側の巻線から、ほとんどのアンプではNFBがかけられる。
つまりNFBのループ内に出力トランスがあるわけだ。

出力トランスが理想トランスであれば、
位相補正に頼る必要はなくなる。
けれど理想トランスなどというモノは、この世には存在しない。
これから先も存在しない、といっていいい。

トランスというデバイスはひじょうにユニークでおもしろい。
けれど、NFBアンプで使うということは、それゆえの難しさも生じてくる。

Model 8と8Bは、トランスの二次側の巻線からではなく、NFB用巻線を設けている。
しかも(その12)でも書いているように、8BではNFB用巻線がさらに一つ増えている。

上杉先生が検証されたラックスのトランスには、NFB用巻線はなかったのではないか。
二次側の巻線からNFBをかけての検証だった、と思われる。

それでも的確に効果が出てきた、というのは、そうとうに有効な位相補正といえよう。
なのに、なぜ、複雑な構成のネットワークをもつスピーカーが負荷となると、
マランツのModel 8B、Model 9は大変なことになるのか。

凝りに凝った位相補正がかけられていて、
NFBアンプとしての完成度も高いはずなのに……、だ。