Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 11月 23rd, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その13)

鉄は磁性体である。
だから、スピーカーやカートリッジなどの磁気回路、電源トランスや信号系のトランスの鉄芯、
そういった動作に必要なもの以外の磁性体をなくす方向できている。

シャーシーはもちろんネジの一本まで徹底して磁性体を排除する人にとっては、
スピーカーユニットのフレームといえど、なにもわざわざ鉄を使うこともなかろうに、と思われることだろう。

信号系からひとつずつ磁性体を排除していくことを否定しはしないが、たとえば真空管のピン、
トランジスターやFETのリード線なども、意外と磁性体が使われているものだ。

すべての部品を特註でもしないかぎり、磁性体を信号系から完全に排除することは無理であろう。

ならば鉄には鉄ならではのよさがあるはずで、それを積極的に利用しようという考えも、
一方にあってもいいはずだ。

Date: 11月 18th, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その12)

2404に採用されたTH4003については、「音像の前後移動のない大型ホーン」と、井上先生は書かれている。

見た感じはほとんど同じに見えるTH4001とTH4003だが、音像の前後移動があるかないかは、
比較的近い距離で聴くときには、大きな違いとなってくる。

音像の前後移動といってもホーン内部のことであり、それ以上にひろがるわけではないので、
スピーカーとの距離が数メートル以上とれる場合には、近距離で聴くときほどは気にならない。

つまりスピーカーとの距離が近くなればなるほど、音像移動の問題は気になってくるものであり、
TH4003を搭載した2404は、家庭内で聴くことも前提とした設計であり、
このことがスタジオでの使用を前提しているであろう2402との違いでもある。

そしてウーファーに関しては、「鋳鉄フレームの禁を犯したウーファー設計は、
確信犯的な技術成果で、少し硬質だがビシッと決まる低音はスリリングでもある」と、ステレオサウンド 133号にある。

Date: 11月 18th, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その11)

1983年に、パイオニアはTADのユニットを搭載したExclusive Model2401Twinと
Exclusive Model2402を発表している。

2401Twinは、型番末尾のTwinが示すようにTL1601aをダブル仕様、2404はシングルで、
ドライバーとホーンは、どちらもTD4001とTH4001の組合せ。

鋳鉄フレームのTL1601cを搭載したModel 2404は、外観、形態的には2402と同じに見えるが、
ユニットはすべて一新されている。
ドライバーとホーンは、TD4003とTH4003の組合せ。

2404に関しては、井上先生が、ステレオサウンド 124号に書かれている。

ここで、「大型のホーンでは音像が前後方向に移動する例が多く」とある。
これは、2404の前身2401に採用されたTH4001のことを指している。
2401Twinと2402が登場したころから言われていたことで、
ヴォーカルもの、それも声域の広い歌手の歌を聴くと、声の高さによって、音像定位が前後するのがわかる。

このことに気がつくと、ずっと耳につくようになる。意外と気持悪いものである。

Date: 11月 17th, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その10)

TAD(Technical Audio Devices)のウーファーに関しては、TL1601aとTL1601bは現行製品なのに、
最後に登場した、鋳鉄フレームのTL1601cだけが製造中止になっている。

ところで、TADの呼び方だが、私を含めてほとんどの方が、おそらく〝タッド〟だろう。

1983年ごろ、TADのスピーカーユニットが登場したときから、タッドと呼んでいた。
パイオニアの方も、そう呼んでいたと記憶している。

けれど、先週末の秋葉原で開催された音展でのTADのブースでは、
スタッフの方たちは〝ティエーディ〟と発音されていた。

JBLがジェイビーエルだし、KEFがケーイーエフだから、たしかにTADがティエーディでも不思議ではない。

以前はタッドでよかったのかもしれない。
どこかでティエーディに変ったのかもしれないし、実は最初からティエーディで、
勝手にタッドだと思い込んでいただけかもしれないが、
少なくとも現在の正しい呼び方は、ティエーディ、である。

Date: 11月 16th, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その9)

VC7の、口径13cmのウーファーは、振動板にはカーボンとアラスカ麻を使い、
フレームには、一般的なアルミダイキャスト製ではなく、響きと剛性を重視して、鉄である。

鉄といえば、安もののスピーカーユニットのフレームは鉄板プレスが多いが、
VC7のウーファーは、おそらく鋳鉄であろう。

ユニットを取り外して実際に見たわけではないが、ベーゼンドルファーがピアノメーカーであること、
約20トン前後の張力に耐えるピアノのフレームは、鋳鉄製であるからだ。

ピアノの音を大きく支配すると云われているフレームが鋳鉄なのは、
外側が硬いにも関わらず、内側はある程度の柔らかさをもっているから、だそうだ。

鋳鉄フレームのウーファーといえば、パイオニア/TADのTL1601cもそうである。
パイオニアのExclusive 2404に採用されているウーファーである。

Date: 11月 15th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その26)

オーディオの技術的知識について問われれば、
中途半端なレベルであれば、むしろ持っていないほうがいいように思っている。

もちろんオーディオ機器を正しく接続するための知識は必要なのは言うまでもないことだが、
それ以上の技術的知識となると、人によるとわかっていても、
知識を吸収している段階の、ある時期は、真摯に音を聴くときの害になる。
中途半端な技術的知識が、耳を騙す。

「だから素晴らしい」と語った人は、私の目にはそう映ってしまう。

耳が騙された人は、本人も気づかぬうちに、だれかを騙すことになる。
あるサイトの謳い文句に騙された人も、同じだ。
悪気は無くても、同じ謳い文句を口にしては誰かを騙している。

そういう人のあいだから発生してきた、まともそうにきこえても、じつはデタラメなことがらが流布してしまう。

Date: 11月 12th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その25)

それに6dB/oct.以外のネットワークでは、並列にはいるコンデンサーなりコイルの存在があり、
サイズ項の(その37)(その38)(その39)(その40)(その41)でふれた、
信号系のループの問題が発生してくる。

ネットワークはフィルターであり、そのフィルターの動作をできるだけ理想に近づけるためには、
アース(マイナス)線を分離していくことが要求される。

スピーカーのネットワークは、基本的にコンデンサーとコイルで構成される、さほど複雑なものではないのに、
スロープ特性だけをとりあげても、けっこう端折った書き方で、これだけある。

なのに、この項の(その11)でふれた人のように、「だから素晴らしい」と断言する人が、現実にはいる。

なぜ、その程度の知識で断言できるか、そのことについて考えていくと、ある種の怖さが見えてくる気がする。

Date: 11月 12th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その24)

カットオフ周波数以下(もしくは以上)の帯域こそ、すみやかに、そしてきれいに減衰させたいわけだから、
むしろこの帯域こそダンピング能力が、求められるのではないだろうか。

なぜ、マルチウェイのスピーカーシステムで、その周波数より上(もしくは下)をカットするのか、を考えれば、
ごく低い周波数近辺だけでの高い値のダンピングファクターは、ほぼ無意味であるといっても言い過ぎではないし、
この点からのみネットワークを判断すれば、12dB/oct.、24dB/oct.といった偶数次のものが有利である。

ただ偶数次の場合、たとえば2ウェイならばトゥイーターの極性を、
3ウェイならばスコーカーの極性を反転させなければ、フラットな振幅特性は得られない。
しかも、この部分で安易にスピーカーユニットの極性を、他のユニットと反対にしてしまえば、
音場感の再現力に関しては、大きなマイナスになってしまう面ももつ。

それに位相特性を重視すれば、6dB/oct.しかないともいえる。

Date: 11月 12th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その23)

にもかかわらず、ダンピングファクターの、単に表面的な数値のみにとらわれて、
このパワーアンプはダンピング能力が高い、と誇張表現しているサイトが、どことは名指しはしないが、ある。

いまどき、こんな陳腐な宣伝文句にだまされる人はいないと思っていたら、
意外にそうでもないようなので、書いておく。

ダンピングファクターは、ある周波数における値のみではなく、
注目してほしいのは、ダンピングファクターの周波数特性である。
つまり、そのパワーアンプの出力インピーダンスの周波数特性である。
何Hzまでフラットなのか、その値がどの程度なのかに注意を向けるのであれば、まだしも、
単に数値だけにとらわれていては、そこには何の意味もない。

ダンピングファクターから読み取れるのは、そのパワーアンプの、NFBをかける前の、
いわゆる裸の周波数特性である。

それにどんなに可聴帯域において、高い値のダンピングファクターを維持しているパワーアンプだとしても、
奇数次のネットワークが採用されたスピーカーシステムであれば、
カットオフ周波数以下(もしくは以上)の帯域では、ダンピングファクターが低下する。

Date: 11月 12th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その22)

ダンピングファクターによってのみ、スピーカーのダンピングが決まるわけでもないし、
必ずしもダンピングファクターの値が高い(つまり出力インピーダンスが低い)パワーアンプが、
低い値のパワーアンプよりもダンピングにおいて優れているかというと、そんなことはない。

現代アンプに不可欠なNFBを大量にかけると、出力インピーダンスは、けっこう下がるものである。
NFBを大量にかけるために、NFBをかける前のゲイン(オープンループゲイン)を高くとっているアンプは、
ひじょうに低い周波数から高域特性が低下していく。

良心的なメーカであれば、ダンピングファクターの値のあとに、(20Hz)とか(1kHz)と表示している。
つまり、そのダンピングファクターの値は、括弧内の周波数におけるものであることを表わしている。

ダンピングファクターの値が、200とか、それ以上の極端な高いパワーアンプだと、
たいていは数10Hzあたりの値であり、それより上の周波数では低下していくだけである。

つまりごく狭い周波数においてのみの、高いダンピングファクターのものがあるということだ。

Date: 11月 12th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その21)

スコーカー、トゥイーターのローカットについても、同じことがいえる。
6dB/oct.だと、コンデンサーがひとつ直列にはいる。
コンデンサーは、高域になるにしたがってインピーダンスが下がるということは、
いうまでもないことだが、低い周波数になればなるほどインピーダンスは高くなる。

12dB/oct.だと、コイルが並列にはいる。コイルは低域になるにしたがってインピーダンスは低くなる。
パワーアンプの出力インピーダンス+コンデンサーとコイルのインピーダンスの並列値が、
スコーカー、トゥイーターにとっても、駆動源のインピーダンスとなる。

カットオフ周波数よりも、ローカットフィルターならば低い周波数、ハイカットフィルターならば高い周波数は、
できるだけきれいに減衰させたいわけだが、その部分で駆動源のインピーダンスが上昇するとなると、
ダンピングファクターは低下する。

ダンピングファクターは、スピーカーのインピーダンスを、
駆動源(パワーアンプ)の出力インピーダンスで割った値である。

Date: 11月 11th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その20)

ウーファーのハイカットフィルターは、6dB/oct.だとコイルが直列にひとつはいる。
この場合、ウーファーユニットにとってのパワーアンプ(駆動源)の出力インピーダンスは、
パワーアンプの出力インピーダンス+コイルのインピーダンスとなる。

コイルは、高域になるにしたがってインピーダンスが上昇する。
この性質を利用してネットワークが構成されているわけだが、
つまりカットオフ周波数あたりから上の出力インピーダンスは、意外にも高い値となっていく。

これが12dB/oct.だとコイルのあとにコンデンサーが並列に入るわけだから、
パワーアンプの出力インピーダンス+コイルのインピーダンスとコンデンサーの並列値となる。
コンデンサーは、コイルと正反対に、周波数が高くなるとインピーダンスは低くなる。

つまり6dB/oct.と12dB/oct.のネットワークの出力インピーダンスを比較してみると、
そうとうに違うカーブを描く。
18dB/oct.だと、さらにコイルが直列にはいるし、24dB/oct.だとコンデンサーがさらに並列にはいる。

6dB/oct.、18dB/oct.の奇数次と、12dB/oct.、24dB/oct.の偶数次のネットワークでは、
出力インピーダンスが異り、これはスピーカーユニットに対するダンピングにも影響する。

Date: 11月 10th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その19)

目の前にオーディオのシステムがある。
パワーアンプは? ときかれれば、「これ」と指さすわけだが、
スピーカーシステムから見たパワーアンプは、そのスピーカーシステムの入力端子に接がっているモノである。

つまりパワーアンプとともに、スピーカーケーブルまで含まれることになる。

そしてスピーカーユニットから見たパワーアンプは? ということになると、どうなるか。
スピーカーユニットにとってのパワーアンプとは、信号源、駆動源であるわけだし、
スピーカーユニットの入力端子に接がっているモノということになる。

つまりスピーカーユニットにとっての駆動源(パワーアンプ)は、
パワーアンプだけでなく、ネットワークまで含まれた系ということになる。

ということは、パワーアンプの出力インピーダンスに、
ネットワークの出力インピーダンスが関係してくることになる。
このネットワークの出力インピーダンスということになると、
6dB/oct.カーブのネットワークよりも、12dB/oct.仕様の方が有利となる。

Date: 11月 10th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その18)

この項の(その11)で書いたスピーカーシステムは、
6dB/oct.のネットワークとスピーカーユニットに音響負荷をかけることで、
トータル12dB/oct.の減衰特性を得ているわけだが、
これまでの説明からおわかりのように伝達関数:1ではない。

スピーカーシステムとしての出力の合成は、位相特性は急激に変化するポイントがある。
つまり6dB/oct.ネットワーク採用の技術的なメリットは、ほぼないといえよう。
もちろん12dB/oct.のネットワークを使用するのとくらべると、ネットワークのパーツは減る。
ウーファーのハイカットフィルターであれば、通常の12dB/oct.では、
直列にはいるコイルと並列に入るコンデンサーが必要になるのが、コイルひとつで済むわけだ。

パーツによる音の違い、そして素子が増えることによる、互いの干渉を考えると、
6dB/oct.のネットワークで、
12dB/oct.のカーブが、スピーカーシステム・トータルとして実現できるのは意味がある。

けれど、事はそう単純でもない。

Date: 11月 10th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その17)

チャンネルデバイダーを例にとって話をしたが、スピーカーのネットワークでも同じで、
ネットワークの負荷に、負荷インピーダンスがつねに一定にするために、
スピーカーユニットではなく、8Ωなり4Ωの抵抗をとりつけて、その出力を合成すれば、
6dB/oct.のカーブのネットワークならば、振幅特性、位相特性ともにフラットである。

他のカーブでは、伝達関数:1は実現できない。
ただし6dB/oct.のカーブのネットワークでも、実際にはスピーカーユニットが負荷であり、
周波数によってインピーダンスが変動するために、決して理論通りのきれいにカーブになることはなく、
実際のスピーカーシステムの出力が、伝達関数:1になることは、まずありえない。

ただインピーダンスが完全にフラットで、まったく変化しないスピーカーユニットがあったとしよう。
それでも、現実には、スピーカーシステムの出力で伝達関数:1はありえない。
スピーカーユニットの周波数特性も関係してくるからである。

ひとつひとつのスピーカーユニットの周波数帯域が十分に広く、しかもそのスピーカーユニットを、
ごく狭い帯域でのみ使用するのであれば、かなり伝達関数:1の状態に近づけることはできるが、
実際にはそこまで周波数帯域の広いユニットはなく、
ネットワークの減衰特性とスピーカーユニットの周波数特性と合成された特性が、
6dB/oct.のカーブではなくなってしまう。