Archive for category 「ネットワーク」

Date: 9月 22nd, 2012
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(情報量・その3)

S/N比は信号(signal)と雑音(noise)の比であり、
物理的なS/N比においては信号レベルが高く、雑音レベルが低ければS/N比は高くなる。

聴感上のS/N比でも基本的には同じであるわけだが、
例えば雑音(ノイズ)にしても、
耳につきやすい、つまりは音(信号)にからみつくような質(たち)のノイズと、
うまく信号と分離して聴こえ、それほど気にならないノイズとがあり、
測定上では同じ物理量であっても、聴感上のS/N比は後者のノイズのほうがいい、ということになる。

聴感上のS/N比がほんとうによくなってくると、
ボリュウムの位置はまったく同じでも、音量が増して聴こえるようになってくる。
これもよく井上先生がいわれていたことのくり返しなのだが、
つまりは聴感上のS/N比がよくなることで、ピアニッシモ(ローレベル)の音が明瞭に聴きとれるようになる。
それまで聴き逃しがちだったこまかな音まで聴きとれるようになると、
最大レベルは同じでもローレベル領域へダイナミックレンジが拡がったことにより、
ピアニッシモとフォルティッシモの差も明瞭になることによるものだ。

つまり、このことは聴感上のS/N比が劣化していく方向に音を調整していくと、
同じボリュウムの位置でも音量が下がったように聴こえるわけである。
聴感上のノイズレレベルが増しているわけだから、ピアニッシモの音が聴感上のノイズに埋もれてしまい、
聴き取り難くなってしまうからだ。

聴感上のS/N比がよくなれば聴感上のダイナミックレンジは拡がる。
聴感上のS/N比が劣化すれば聴感上のダイナミックレンジは狭くなる。

聴感上のダイナミックレンジが拡がれば、音量は増したように聴こえ、
聴感上のダイナミックレンジが狭くなれば、音量は減ったように聴こえるわけである。

このことは明白なことだと私は思っていた。
井上先生が聴感上のS/N比という表現を使われるようになって、すでに30年以上経つ。
誰もが口にするようになっている。
これも量に関することであるから、基本的なことを理解していれば間違えようがないはずだ、と。
そして、どちらがいいのかも明白なことのはず、である。

しかし、世の中には聴感上のS/N比を悪くしていく手法をチューニングと称している人がいる。
その人によると、音量が下がって聴こえる方が正しい、ということになる。

これはおかしな話だ。

Date: 9月 6th, 2012
Cate: 「ネットワーク」, 言葉

オーディオと「ネットワーク」(情報量・その2)

AとBのふたつがあり、
その差がほんのわずかであれば、どちらの量が多いかの判断では、
差がわからない、はっきりとしないということもある。
わずかな差に対して敏感な人もいれば、それほどでもない人もいる。

けれどあきらかな差があれば、敏感な人もそうでない人でも、
どちらかの量が多いということはすぐに判断できるのが普通である、と思っていた。

音に関する表現でも、量を表しているものはいくつかある。
最近では、多くの人が使うようになって「聴感上のS/N比」がある。
S/N比そのものが、信号とノイズの量の比であるわけだから、
物理的なS/N比のように90dBとか81dBといった数字でこそ表示できないものの、
ふたつのオーディオ機器、ふたつの音があり、比較試聴したうえでの聴感上のS/N比は、
はっきりと差が出ることも多い。

聴感上のS/N比のほかには、音場感に関する表現がある。
左右の広がりぐあい、奥への展開のぐあい、など、
ふたつのオーディオ機器、ふたつの音を比較して、どちらが左右の広がりが広いのか、
奥行き方向の再現性が深い、といったこともはっきりと差が出ることも多い。
もちろん音場感については、それだけですべてが語れるわけでもないものの、
音場感は、量に関係する要素がある。

けれど、このふたつ──、
聴感上のS/N比と音場感に関することでも、ときどき首を傾げたくなることがある。
なぜ、このオーディオ機器、この音を聴感上のS/N比が高い、といえるのだろうか、と思うことは少なくない。

量についてのものであっても「聴感上」とつくからそこには主観的なこともはいってくる、
だから聴く人によって、聴感上のS/N比の高い低いは異る、という人がいるかもしれないが、
私はそうは思わない。

聴感上のS/N比は、私の知る限り、井上先生が最初に使われているが、
井上先生が定義した「聴感上のS/N比」とはかなり違う「聴感上のS/N比」がいくつも現れてきているようだ。

「聴感上のS/N比」は、本来、そういう曖昧な性質のものではなかった。
それがいつしか、本来の定義、意味などをシロウトもせずに、
なんとなく感覚的に、安易に使われることが増えてきている言葉のひとつである、と思う。

Date: 9月 5th, 2012
Cate: 「ネットワーク」, 言葉

オーディオと「ネットワーク」(情報量・その1)

インターネットが登場し普及し、
個人によるWebサイトの公開もまた一般的なこととなり、
さらにブログの登場・普及は個人による情報発信を、
インターネット登場以前では想像できなかったほどに容易にした。

結果、情報量は急激に増大したかのように見える。
情報の「量」は確実に増えているのだろうか。
情報の「質」の判断は難しい面があるが、
こと量の判断、つまり多いか少ないかの判断に何が難しいところがあろう、
量の判断において、判断する人によって多い少ないが逆転することなんか起こりえない。

基本的にはそうだと思う。
けれども絶対に逆転することはない、とは言い切れないことがあることを、
オーディオにおいて知っているからだ。

Date: 9月 4th, 2012
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(続々twitter)

木製脚のハークネスはステレオサウンド 144号に載っている、
というコメントをfacebookでいただいた。

安齊吉三郎氏のAudio Components GALLERYで紹介されているハークネスは、
たしかに木製脚のモノである。

私にとってのハークネスは、
ステレオサウンド 45号の田中一光氏のリスニングルームに見事におさめられているハークネスが最初であり、
ハークネスがどういうスピーカーシステムであるのか知るほどに、
私自身の音の好みとは必ずしも一致しないスピーカーシステムでありながらも、
つねに気になり続けてきているスピーカーシステムであるだけに、
そのハークネスはやはり金属脚のハークネスであった。

だから木製脚のハークネスのことは、うまくイメージできなかった。
でも安齊氏の写真による木製脚のハークネスを見ていると、
金属脚と木製脚のハークネス、どちらをとるかと問われれば金属脚は即答はするものの、
木製脚のハークネスも、写真を眺めていると、しっくりくるものを感じられる。

となると木製脚と金属脚は時代によって切り替ったのだろうか。

Lansing HERITAGEのサイトには、古いJBLのカタログがいくつか公開されている。
1957年のカタログに”THE HARKNESS/C40″がある。
ここに載っている写真は、木製脚のハークネスである。
前年の1956年のカタログにはハークネスはないけれど、
C25/C37、C36/C38が載っていて、これらも木製脚に見える。

1962年のカタログになると、ハークネスの脚はアルミ製の金属脚に変更されているのがわかる。
C37、C36、C38も金属脚になっている。
これ以降のカタログを見ても、木製脚は登場してこない。

ごく初期のハークネスにおいて木製脚だったようだ。
ヴァリエーションではなく、1960年ごろに木製脚から金属脚へと変ったのだろう。

となると牽強付会といわれても、
ハークネスが金属脚にしたのは、ミニスカートの登場と決して無関係ではないように思えてくる。

ウィキペディアによれば、ミニスカートはイギリスのデザイナー、マリー・クヮントが、
1958年ごろから売り出した、とある。
同時期にフランスでも、アンドレ・クレージュによってミニスカートが登場している。
アメリカにではどうなのかははっきりとしないけれど、
イギリスとフランスで1958年ごろ登場しているのだから、
そう時間はかからずにアメリカでもミニスカートは登場したとみていいだろう。

JBLがハークネスの脚を木製から金属製に変えた時期と重なるのではないだろうか。
それは単なる偶然なのかもしれない。
けれど時代の風潮として、ミニスカートによる素足を露出させるようになってきたことと、
木製脚から金属脚への変更は、どこかでつながっているのかもしれない。

Date: 9月 3rd, 2012
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(続twitter)

スピーカーユニットを構成する金属部分を人の素肌とすれば、
それらスピーカーユニットをつつむエンクロージュア(木)はさしずめ服ということになる。

スピーカーとしての素肌(金属)を見せないように服(木)をまとっている。
そんなふうに見ようと思えば、見えてくる。

JBLのハークネスの脚はアルミで金属。
ということはハークネスの脚は素足だ。

ハークネスが現役のスピーカーシステムだった1960年代にミニスカートが登場し大流行している。
ハークネスの脚は、そんな素足のように見えてくる。

ハークネスには木製の脚がついたものもある、という。
実物も写真も見たことはない。
木製の脚のついたハークネスは、ミニスカート姿ではなくパンツルックということになる(?)。

Date: 9月 2nd, 2012
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(twitter)

ツイートすることは昨年より少なくなってしまったけれど、
twitterのタイムラインはEchofonというソフトで、ほぼ常時表示している。

最大で140文字のツイートは、
AMラジオのような感じがしてくる。
私がフォローしている人たちは、オーディオの人たちが多いけれど、
まったくオーディオとは関係のない人も多い。
そういう人たちのツイートが流れていく。

フォローしている人たちのすべてのツイートをすべて読むことは、もう無理かもしれない。
読み逃しているツイートも少なくないはずだと思う。
ならばフォローしている人たちを減らせば、それですむことでもないと考えているし、
すべてのツイートを読むことがtwitterの楽しみ方でもないのだから、
いまのようにAMラジオをなかば聞き流すように、読み流していると、
思わぬツイートがひっかかってくる。

そういうツイートが、あまり関係のないことと結びつくことがある。

今日の私のtwitterのタイムラインにひっかかってきたのは、
「好き! すき!! 魔女先生」という、1971年から1972年にかけて放送されたドラマのカラーイラストだった。
このドラマは見たことはない。
私がそのころ住んでいたいなかでは、この番組は放送されていなかったのではないか。

「好き! すき!! 魔女先生」は石ノ森章太郎氏の「千の目先生」が原作であり、
今日、そのカラーイラストをtwitterで見かけた。
スラッとした綺麗な脚の女性のイラストを見ていて、
私が連想していたのはJBLのハークネスの、アルミ製の脚だった。

ハークネスの脚が、石ノ森章太郎氏のカラーイラストの女性の脚と重なってみえてきた。
ハークネスの脚は、女性の脚だったんだ、と勝手に、いまは思っている。

「千の目先生」は1968年に連載されたマンガ。
ハークネスの登場はもう少し前のことだが、1968年、ハークネスはまだ現役のスピーカーシステムだった。
ハークネスだけではない、このころのJBLのスピーカーには脚がついているものがあった。

脚の形状、材質は違うけれど、あのパラゴンにも脚がある。
メトロゴンにもある。

ハークネスの同じシリーズといえるバロンなどにも、やはり脚がついている。
そういえばQUADのESLにも、木製の脚がついている。

どの脚も下にいくにしたがって細くなる脚である。

脚のあるスピーカーシステムは、ないスピーカーシステムよりも、どこかセクシーに映える。

そういえば──、と思う。
アンプにはゴム脚は以前からついていた。
最近では金属製に変ってきているけれど、スラッとした脚ではない。
ハークネスの脚のようなモノではない。

構造的に、その手の脚を必要としない、といえばそうなだろうが、
かならずしも必要としていないわけでもない、と思う。
ただ脚をつければいいわけではないにしても、
脚の存在によって解決できることがあるような気がしてならない。

Date: 11月 15th, 2011
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(その16)

ドラムスの収録を例にあげて、そこに分岐がある、と書いた。
けれど収録すべてが分岐というわけではないことも事実である。

ドラムスは「ひとつ」の楽器として見た場合にそこに分岐が生じるわけだが、
ほとんどの音楽の収録では複数の演奏者がいる。
つまりは「集中」させることも生じてくる。

2チャンネルにおいては、
必ずしも再生時の音像定位通りに収録時に演奏者がそのとおりに並んで演奏しているとは限らない。
そこでの音楽の種類や楽器編成の違いなどによってはマイクロフォンを中心に立て、
そのマイクロフォンを囲むように演奏者が位置し演奏が行われることもある。
だからといって、そうやって収録したものを再生したときに、
左右のスピーカーの中心を軸に演奏者が円をつくっているように聴こえるわけではない。

いわば、これはマイクロフォンに向って音を集めているわけだ。

ひとつひとつの音を鮮明に収録するために分岐する一方で、
音をそうやって意識して集めていくのも録音である。

オーケストラにしても小編成のものにしても、マイクロフォンをうまい位置をみつけそこに立てることで、
音を集め録音されたものを、われわれ聴き手は再生時に、それを展げていく。

録音系と再生系には、ネットワークとしてとらえたときに共通する要素がある一方で、
録音(集める)系と再生(展げる)系というところに、矛盾するようではあるが対称性を感じる。

Date: 11月 13th, 2011
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(その15)

録音系はネットワークである、と私は捉えている。
そしてレコードやミュージックテープなどのパッケージメディアがつくられていく。
それが流通ネットワークにのり、そのパッケージメディアの聴き手であるわれわれのところに届く。

放送局ではパッケージメディアを音源として音楽を放送することが多いけれど、
放送局独自でコンサートを収録して放送することもある。
ライヴ放送だと、電波というネットワークを通じて、音楽の聴き手があるわれわれのところに届く。

これらの、収録された音楽を届けるネットワークもまた、ある種のフィルターともいえる。
アナログディスクにしてもCDにしても、
マスターテープに収録されているものすべてをそこに収録できるわけではない。
何かが抜け落ち、何かが附加される。
何かがなくなることは、そのパッケージメディアそのものがフィルターということになる。

マスターテープから直に一対一でダビングしたとしても、
それもマスターデッキと同じデッキを使って慎重に行ったとしても、
テープ間のダビングは、アナログであれば必ず劣化が生じる。
マスターテープと同じ形態、環境を揃えたとしても劣化は生じ、これもまたフィルターといえる。
FM放送もまた然りである。

ではデジタルで収録されたものをデジタルでコピーすれば、
そこに、ここでいっているフィルターは存在しなくなるのかといえば、そうでもない。
デジタル録音といってもサンプリング周波数、ビット数がパッケージメディアと違うことがある。
同じことも多い。
CDと同じ44.1kHz、16ビットで録音されたマスターであれば、それをそのままCDにコピーできるといえばできる。
データとしては同じものがCDにコピーされる。
でもマスターはテープという形態、CDはディスクという形態。
この形態の違いによる条件の違いが、結果としては音の違いを生むことになる。

そういう一種のフィルター的なパッケージメディアにおさめられている音楽を受け取るには、
アナログディスクにはアナログディスクプレーヤーが、
CDにはCDプレーヤーが、ミュージックテープであればカセットデッキ、オープンリールデッキ、
FM放送にはチューナー、というそれぞれ専用に設計製造されたハードウェアが必要となる。

これらの入力機器もけっして完全・完璧なモノは存在しないから、
ここでもそれぞれの機器がフィルターということになる。

これらの入力機器がつながれる先が、再生系においてはコントロールアンプということになる。
録音系の現場におけるミキサーと同じように、
再生系ではコントロールアンプが、そのネットワークの要的存在といえよう。

Date: 11月 12th, 2011
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(その14)

ドラムスという複数形の名称が示しているように、ドラムスは数種類の打楽器の集合体であり、
これをひとつの楽器としてみた場合、その収録にもっともマイクロフォンの数が多く使われる楽器でもある。

楽器としての規模はグランドピアノのほうがドラムスよりも大きくても、
ピアノの録音に使われるマイクロフォンの数は、それがオンマイクで収録される場合でも、
ドラムスの収録に使われる数には及ばないだろう。

そしてドラムスの録音ではオンマイクでの収録も多い。
マイクロフォンの数が多いのだから、
逆にオフマイクで収録してはマイクロフォンの数を増やした意味も薄れるので、
マイクロフォンの数が増えるということは必然的にオンマイクになっていく傾向はある。

マイクロフォンの数が多く、距離も近い(オンマイクである)ということは、
マイクロフォンをフィルターとしてとらえれば、その遮断特性がより急峻なものとして使い方といえる。

たとえばシンバルを鮮明に録りたいから、シンバル用にマイクロフォンを選択し、設置する。
そのマイクロフォンにはできるだけシンバルの音だけをいれたい。
他の楽器の音は極力いれたくないわけだから、
これはマイクロフォンをシンバル用のフィルターをかけたような使い方ともいえる。

これは分岐とフィルターであり、
この分岐とフィルターの設定をうまくやらなければドラムスの音をうまく録ることはできないはず。

ドラムスという楽器のために複数のマイクロフォンが立てられる。
つまりそのマイクロフォンの数だけ分岐点とフィルターが存在している、ということでもある。
これをどう録音するのか。
マルチマイクロフォン・マルチトラック録音であるならば、
マイクロフォン1本に対し、テープレコーダーの1トラックを割り当てることができる。
いきなり2チャンネルのステレオ録音にするのであれば、ミキサーを通すことになる。
もちろんマルチマイクロフォン・マルチトラック録音でも、
最終的に2チャンネルにするためにミキサーを通す。

ドラムスの収録に10本のマイクロフォンに仮に使用したとすれば、
ミキサーを通すことで2チャンネルに統合されることになる。

ひとつの楽器を録音するのに、複数の分岐点とフィルターを設定して、
分岐点の数だけのラインがあり、それをミキサーによって2チャンネルに統合する。
これを図に描けば、ネットワークそのものである。

つまり、録音の現場にも、分岐点(dividing)と統合点(combining)、それにフィルターがある、というわけだ。

Date: 10月 19th, 2011
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(その13)

マルチマイクロフォンによる録音のなかでも、
楽器にマイクロフォンを近づけるオンマイクになればなるほど、分岐とフィルターという面が強くなってくる。

オンマイクに関しては否定的な人もおられるが、
オンマイクのおかげで収録できるようになった音があることも事実である。
たとえば歌手が、耳もとでそっとささやいてくれるような吐息のような歌はオンマイクならではのものであり、
録音の表現を広げている面がある、ともいえる。

こういう極端なオンマイクでは、対象とする楽器、歌手が発する音のみを拾おうとする。
できるだけ他の楽器の音は収録しないようにしているわけだから、
これはフィルターの、いわばスロープ特性を急峻にしているのに近いともいえなくもない。

歌手の歌を収録するには1本のマイクロフォンで事足りるけれど、
これがドラムスとなると、1本のマイクロフォンで十分とはいえない。

ドラムスは、基本的にはバスドラム、スネア、タム、バス(フロアー)タム、シンバル、
ハイハットといったユニットから構成されている。
演奏者によっては、シンバルやタムの数が増えていく。

つまりベースやチェロやヴァイオリンといった楽器が単一のものなのに対して、
ドラムスという複数形の名称が表しているように、大きさも音を発する材質も違う楽器の組合せであるだけに、
うまく録音することの難しい楽器のひとつだといわれている。

しかもドラムスは、それぞれの楽器ユニットの向きが異る、という面ももつ。
バスドラムは正面を向いているが、それ以外のユニットは基本的には上向きだが、
これらも真上を向いているわけではなく、それぞれ微妙に異る角度で設置されている。

こういう楽器であるドラムスを録音しようとしたとき、
最少単位のマイクロフォン(つまりワンポイント)でやろうという人はいないはず。

Date: 10月 18th, 2011
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(その12)

ステレオ録音用にセッティングされた2本のマイクロフォン(つまりワンポイントマイク録音)は、
その距離がそれほど離れているわけではない。
それでもそれぞれのマイクロフォンが拾う音は、重なり合う音もあり違う音もある。
だからこそステレオ録音になるわけだが、
いいかえると、このことは録音の場で鳴り響いている音のすべてをマイクロフォンが拾っているわけではない。
拾い洩らす音がある、ということだ。

つまりマイクロフォンの周波数特性の範囲内においても、
マイクロフォンがたてられた場所によってマイクロフォンが拾える音と拾えない音がある、
ということは、これもバンドパスフィルターとはまた違う意味でのフィルターということになる。

それにマイクロフォンには指向特性がある。無指向性のマイクロフォン、双指向性のマイクロフォン
単一指向性のマイクロフォン、超指向性のマイクロフォンがあり、
この指向特性も、フィルターとして捉えることができる。

マイクロフォンの感度もある。
感度の悪いマイクロフォンではごく小さな音まで拾うことはできないし、
やわなマイクロフォンでは、反対に大音圧に耐えられないこともある。
つまり、これはレベル的なフィルターといえる。

さらにマイクロフォンのフィルターと見立てた場合、そこには使い方も関係してくる。
これは分岐点とも関係してくることでもある。

これまではモノーラルでは1本、ステレオでは2本という前提で話してきたが、
録音にはマルチマイクロフォン録音がある。
マルチマイクロフォン録音は、
マイクロフォンの分岐点・フィルターとしての性格を積極的に利用したものでもあるし、
より明確にした使い方ともいえる。

Date: 10月 18th, 2011
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(その11)

マイクロフォンは1本、録音器が1台、これが録音系の最少の構成といえる。
とうぜんモノーラル録音しかできない。

そこでマイクロフォンに2本用意する。もちろん録音器もステレオ仕様のものを用意する。
これでステレオ録音が行なえる最少の構成となる。

モノーラル録音用もステレオ録音用も、マイクロフォンと録音器のみで、
マイクロフォンの本数も必要最少限だけ、ということでは同じ構成といえるし、また決定的に違うともいえる。

なにが違うかといえば、ステレオ録音ではマイクロフォンが2本になっていることだ。
ステレオ録音のためには最低でも2本のマイクロフォンは必要となるわけで、
この点ではモノーラル録音での1本と同じように見えても、
録音系をネットワークとしてとらえ、そこに分岐点とフィルターをあてはめていけば、
同じ最少単位の録音系でもモノーラルとステレオとでは、
前者には分岐点はなく、後者には分岐点がある、といえる。

それはスピーカーシステムのデヴァイディングネットワークの分岐点的ではないものの、
右チャンネル用の音を拾うマイクロフォンと左チャンネル用の音を拾うマイクロフォンがあるということは、
オーディオの録音系・再生系というネットワークの最初にあらわれる分岐点であり、
そしてこのマイクロフォンが最初にあらわれるフィルターでもある。

マイクロフォンにも他のオーディオ機器同様、周波数特性がある。
昔のマイクロフォンは電気信号に変換できる範囲が狭い(ナロウレンジ)だし、
特性もけっして平坦ではないものもあった。
その後登場してきたワイドレンジになってきたマイクロフォンでも、
すべての周波数を拾えるわけではない。
これはつまりフィルターであり、低域も高域も、どこかでなだらかに周波数特性は下降していくわけだから、
マイクロフォン自体が周波数的にバンドパスフィルターといえるのだが、
マイクロフォンのフィルターとしての捉え方は、これ以外にもある。

Date: 10月 18th, 2011
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(その10)

4ウェイのスピーカーシステムのデヴァイディングネットワークとして、
一度に4つに分割する方式とLo-DのHS10000に採用されている順次二分式はどちらが優れているのか、
正直はっきりしたことはいえない。

ただ順次二分式だと最初の分岐点は並列型となるが、その次にくる分岐点からは直列型にすることも可能になる。
一度に4つに分割する方式では並列型のみ、という構成になる。
たとえばJBLの4343のように、
スイッチでネットワーク・モードとバイアンプ・モードを切り替えられるようにするためには、
一度に4つに分割する方式になってしまう。

つまり4343でバイアンプ駆動を考えなければ、
順次二分式のデヴァイディングネットワークにしてみるのも興味深い。
4343ではウーファーとミッドバスはコーン型で振動板の材質は紙。
ミッドハイとトゥイーターはホーン型で振動板にはアルミが使われている。

下2つのユニットと上2つのユニットは方式と振動板の材質が異るわけだから、
順次二分式にして、まずミッドハイとミッドバスのクロスオーバー周波数で2つに分割する。
そのあとは直列型のネットワークにするというのはどうだろうか、と考えている。

つまりウーファーとミッドバス、ミッドハイとトゥイーター、
それぞれ2つの、同じ形式、同じ材質の振動板をもつスピーカーユニット同士を直列型のネットワークに接ぐ。
順次二分式では、こういう自由度もある。

最終的な結果である音がどうなるのかは、実際に試してみないことにはなにもいえないし、
順次二分式が優れている、といいたいわけでもない。
HS10000を例としてあげたのは、デヴァイディングネットワークは分岐点とフィルターの組合せであり、
その組合せ方も一通りではない、ということである。

しつこいようだが、オーディオのデヴァイディングネットワークは分岐点だけでは成り立たない。
必ずフィルターが必要になり、このフィルターの捉え方を拡大していけば、
録音現場におけるマイクロフォンもある種のフィルターとみなすことができる。

Date: 10月 18th, 2011
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(その9)

HS10000はウーファーは30cmの金属コーン型、上の3つの帯域を受持つユニットはドーム型を採用している。
ただしフロントバッフル面に対して各スピーカーユニットの振動板の形状が、くぼんでいたり(くぼみ効果)、
逆にふくらんでいたり(ふくらみ効果)することによる周波数特性の乱れをなくすために、
各スピーカーユニットには振動板前面に発泡樹脂を充填することで表面を、フロントバッフルと同一面としている。

このころ日本のスピーカーシステムには平面振動板がひとつの流行になっていたが、
テクニクスやパイオニア、ソニーが新たに平面振動板のスピーカーユニットを開発したのに対して、
Lo-Dは従来からあるスピーカーユニットをベースにして、
振動板の形状からくる欠点を解消するために手を加え平面化しているところが異るところだ。

この設計思想がエンクロージュアの形式にまでとりいれられているからこそ、
壁に埋め込んで使うことを前提としているわけである。

この、平坦化が、HS10000の設計思想ともいえ、
デヴァイディングネットワークに順次二分式を採用しているのも、やはりそのためである。
通常の一度に4分割する方式ではバンドパスフィルターがはいる帯域が2つあり、
その帯域幅も広くないことから、理論的には平坦な周波数特性が得にくい、といわれている。

HS10000のデヴァイディングネットワークの構成を自分で描いてみればすぐわかることだが、
バンドパスフィルターは存在しない。
たしかにミッドバスとミッドハイはローパスとハイパス、2つのフィルターを通ることになるが、
ミッドバスのローパスとハイパス、ミッドハイのハイパスとローパスは分岐点によって分けられている。

ミッドバスを例に取れば最初の分岐点のあとにミッドバスのローパスフィルターがあり、
次の分岐点のあとにミッドバスのハイパスフィルターがある。
同じ4ウェイのデヴァイディングネットワークでも、一度に4分割する方式では分岐点が1つしかないため、
ミッドバスとミッドハイへいく信号は、
バンドパスフィルター(ローパスとハイパス組み合わせたフィルター)を通ることになるわけだ。

Date: 10月 17th, 2011
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(その8)

一度に4つに分けずに、まず2つに分け、さらに次の段階でさらに2つにわける方式を順次二分式という。
4ウェイのスピーカーシステムはJBLの4343をはじめ、いまとなってはかなりの数市場に登場しているが、
この順次二分式のデヴァイディングネットワークを採用したスピーカーシステムとなると、
もちろんすべてのスピーカーシステムのネットワークの回路図を見たわけではないから断言はできないものの、
その数はすくないのではないだろうか。

私の知る順次二分式のデヴァイディングネットワークを採用したスピーカーシステムには、Lo-DのHS10000がある。
1978年に登場した壁バッフルにとりつけて鳴らすことを前提として設計された、このスピーカーシステムは、
4ウェイ仕様が標準で、さらに特別仕様として5ウェイも用意されていた。

HS10000のクロスオーバー周波数は、630Hz、2.5kHz、4.5kHzとなっている。
通常の一度に4分割するネットワークでは、ウーファーには630Hzのローパスフィルター、
ミッドバスには630Hzのハイパスフィルターと2.5kHzのローパスフィルターによるバンドパスフィルター、
ミッドハイには2.5kHzのハイパスフィルターと4.5kHzのローパスフィルターによるバンドパスフィルター、
トゥイーターには4.5kHzのハイパスフィルターが、それぞれ設けられる。

これが順次二分式となると、まず2.5kHzで2つの帯域に分けられる。
そのつぎに630Hzで2つの帯域、4.5kHzで2つの帯域に分けられるわけだ。

一度に4分割するネットワークでは、ウーファーに入る信号は630Hzのローパスフィルターだけである。
トゥイーターも、4.5kHzのハイパスフィルターだけ、となる。

順次二分式では、この点が異る。
ウーファーに入る信号は、まず2.5kHzで分けられるわけだから、
この時点で2.5kHzのローパスフィルターを通り、さらに630Hzのローパスフィルターを通ることになる。
トゥイーターに関しても同じことがいえ、2.5kHzと4.5kHz、2つのハイパスフィルターを通る。