オーディオと「ネットワーク」(その14)
ドラムスという複数形の名称が示しているように、ドラムスは数種類の打楽器の集合体であり、
これをひとつの楽器としてみた場合、その収録にもっともマイクロフォンの数が多く使われる楽器でもある。
楽器としての規模はグランドピアノのほうがドラムスよりも大きくても、
ピアノの録音に使われるマイクロフォンの数は、それがオンマイクで収録される場合でも、
ドラムスの収録に使われる数には及ばないだろう。
そしてドラムスの録音ではオンマイクでの収録も多い。
マイクロフォンの数が多いのだから、
逆にオフマイクで収録してはマイクロフォンの数を増やした意味も薄れるので、
マイクロフォンの数が増えるということは必然的にオンマイクになっていく傾向はある。
マイクロフォンの数が多く、距離も近い(オンマイクである)ということは、
マイクロフォンをフィルターとしてとらえれば、その遮断特性がより急峻なものとして使い方といえる。
たとえばシンバルを鮮明に録りたいから、シンバル用にマイクロフォンを選択し、設置する。
そのマイクロフォンにはできるだけシンバルの音だけをいれたい。
他の楽器の音は極力いれたくないわけだから、
これはマイクロフォンをシンバル用のフィルターをかけたような使い方ともいえる。
これは分岐とフィルターであり、
この分岐とフィルターの設定をうまくやらなければドラムスの音をうまく録ることはできないはず。
ドラムスという楽器のために複数のマイクロフォンが立てられる。
つまりそのマイクロフォンの数だけ分岐点とフィルターが存在している、ということでもある。
これをどう録音するのか。
マルチマイクロフォン・マルチトラック録音であるならば、
マイクロフォン1本に対し、テープレコーダーの1トラックを割り当てることができる。
いきなり2チャンネルのステレオ録音にするのであれば、ミキサーを通すことになる。
もちろんマルチマイクロフォン・マルチトラック録音でも、
最終的に2チャンネルにするためにミキサーを通す。
ドラムスの収録に10本のマイクロフォンに仮に使用したとすれば、
ミキサーを通すことで2チャンネルに統合されることになる。
ひとつの楽器を録音するのに、複数の分岐点とフィルターを設定して、
分岐点の数だけのラインがあり、それをミキサーによって2チャンネルに統合する。
これを図に描けば、ネットワークそのものである。
つまり、録音の現場にも、分岐点(dividing)と統合点(combining)、それにフィルターがある、というわけだ。