オーディオと「ネットワーク」(情報量・その3)
S/N比は信号(signal)と雑音(noise)の比であり、
物理的なS/N比においては信号レベルが高く、雑音レベルが低ければS/N比は高くなる。
聴感上のS/N比でも基本的には同じであるわけだが、
例えば雑音(ノイズ)にしても、
耳につきやすい、つまりは音(信号)にからみつくような質(たち)のノイズと、
うまく信号と分離して聴こえ、それほど気にならないノイズとがあり、
測定上では同じ物理量であっても、聴感上のS/N比は後者のノイズのほうがいい、ということになる。
聴感上のS/N比がほんとうによくなってくると、
ボリュウムの位置はまったく同じでも、音量が増して聴こえるようになってくる。
これもよく井上先生がいわれていたことのくり返しなのだが、
つまりは聴感上のS/N比がよくなることで、ピアニッシモ(ローレベル)の音が明瞭に聴きとれるようになる。
それまで聴き逃しがちだったこまかな音まで聴きとれるようになると、
最大レベルは同じでもローレベル領域へダイナミックレンジが拡がったことにより、
ピアニッシモとフォルティッシモの差も明瞭になることによるものだ。
つまり、このことは聴感上のS/N比が劣化していく方向に音を調整していくと、
同じボリュウムの位置でも音量が下がったように聴こえるわけである。
聴感上のノイズレレベルが増しているわけだから、ピアニッシモの音が聴感上のノイズに埋もれてしまい、
聴き取り難くなってしまうからだ。
聴感上のS/N比がよくなれば聴感上のダイナミックレンジは拡がる。
聴感上のS/N比が劣化すれば聴感上のダイナミックレンジは狭くなる。
聴感上のダイナミックレンジが拡がれば、音量は増したように聴こえ、
聴感上のダイナミックレンジが狭くなれば、音量は減ったように聴こえるわけである。
このことは明白なことだと私は思っていた。
井上先生が聴感上のS/N比という表現を使われるようになって、すでに30年以上経つ。
誰もが口にするようになっている。
これも量に関することであるから、基本的なことを理解していれば間違えようがないはずだ、と。
そして、どちらがいいのかも明白なことのはず、である。
しかし、世の中には聴感上のS/N比を悪くしていく手法をチューニングと称している人がいる。
その人によると、音量が下がって聴こえる方が正しい、ということになる。
これはおかしな話だ。