Archive for category Noise Control/Noise Design

Date: 10月 18th, 2016
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(45回転LPのこと・その5)

私がオーディオに関心と興味をもちはじめたときには、
すでに45回転のLPはあたりまえのように存在していた。

そのころは各国内レーベルからオーディオマニア向けといえる企画があった。
それらの中には45回転LPがあったし、ダイレクトカッティングでも45回転のモノがあった。

いったいいつごろ45回転LPが登場したのかについては、
岡先生の著書「マイクログルーヴからデジタルへ」の下巻に詳しい。
     *
 ハイファイ的な面にだけ的をしぼっても話題の選択に困るほどだが、忘れられないのは、野心的な試みで斯界にいろいろな刺激を与えたマイナー・レーベルの存在である。音楽あるいはハイファイに熱情を燃やす個人あるいは小グループが、彼らの止むに止まれぬ情熱を何らかのかたちでレコード化し、そのユニークさでアピールしようという現象は、近年ますますさかんになっているが、上巻に記したLP初期のバルトークやダイアル、EMSなどが、その僅かのレコードによっていまでも忘れがたい存在になっている古い例がある。エラートやヴァンガードなどは、準メイジャーまで大きくなったが、線香花火のように出現し、やがて消えてしまったというのも少なくない。メイジャーでは思いもよらぬ大胆な試みができるというのも、個人プレイのおもしろさであろう。
 話は少々時代を遡るが、一九六〇年代のはじめ、45回転ステレオLPを出してマニアをびっくりさせたのも、そういうマイナー・レーベルであった。

 45回転ステレオLPのオリジネーターのレーベル名Q−Cは、フランス語の Quarante-Cinq(45)というそのものずばりである。フランスでいつ出たかはわからないが、『アメリカン・レコード・ガイド』一九六二年五月号、『ハイ・フィデリティ』六月号の月評欄にとりあげられている。そして、『ステレオ・レヴュー』十月号でデイヴィッド・ホール、が、「そして、いまや45回転12インチ・レコードの登場!」という題で、この新しいフォーマットのステレオLPのことを二ページにわたって論じていた。それによると、このレーベルはフランス語であり、マスター・テープはヨーロッパ録音だが、レコード化はアメリカであるらしい。Q−Cの45回転レコードはつぎの五枚が発売された。
 #四五〇〇一=《シャブリエ管弦楽曲集——スペイン、他四曲》 ルコント指揮、パドルー管弦楽団/アダン《我もし王者なりせば・序曲》/ウェーバー《舞踏へのお誘い》 デルヴォー指揮、コロンヌ管弦楽団
 #四五〇〇二=《Bravo Tord!》 バルデス指揮、カディス闘牛場吹奏楽団
 #四五〇〇三=R・シュトラウス《ティル・オイレンシュピーゲル、ドン・ファン》 アッカーマン指揮
 #四五〇〇四=ストラヴィンスキー《火の鳥組曲》/ファリャ《恋は魔術師》 ゲール指揮
 #四五〇〇五=チャイコフスキー《白鳥の湖、眠りの森の美女組曲》 ゲール指揮
 このうち、四五〇〇三以降の三枚はLPとしては一九五〇年代中頃にコンサート・ホールからモノーラルLPが発売されていたもので、その後ステレオ・テープ(4トラック以前のもの)でも出ていた。ステレオ録音ではごく初期のものであったらしい。したがって、ホールは、とくに音の条件のよい45回転LPらしい録音内容をもっていたのは最初の二枚だけだ、といっている。
 ところが、ホールがこの文章で注目したのは、Q−Cを追いかけて45回転ステレオLPを出したコニサー・ソサエティという新レーベルであった。このレーベルでホールが紹介した新譜はつぎの二枚であった。
 CS三六二=《一八世紀パリのフルート協奏曲(ボアモルティエとコレットの作品)》ランパル(fl)、ヴェイロン=ラクロア(hc)、ソーヤー(vc)ほか
 CS四六二=《インドの名演奏家アリ・アクバール・カーン》
 コニサー・ソサエティは六〇年代後半からフィリップス・レーベルで日本盤が出ているが、一九六二年という時点ではまったく彗星のように出現したマイナー・レーベルであった。創立者のアラン・シルヴァーについてはくわしいことはわからないが、スプラフォンのアメリカ発売権をもってレコード界に乗り出した人らしい。なかなかの音楽狂で一九六一年にコニサー・ソサエティを創立した。この社の番号のつけかたが非常に独特で、あとの二ケタは録音(あるいは発売)年度を示すというおもしろいシステムをとっている。
 この二枚の45回転ステレオLPについて、ホールは、76cm/secのマスター・テープ録音による素晴しい音で、Q−Cにくらべると45回転の威力を発揮していると、賞讃していた。コニサー・ソサエティの名前を有名にしたのは翌年春に出たイヴァン・モラヴェッツの二枚のレコードである。
 CS五六二=ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第二三番《熱情》/モーツァルト:ピアノ・ソナタ第一四番(K.457)
 CS六六二=フランク:前奏曲とコラールとフーガ/ショパン:バラード第三番、スケルツォ一番
 この二枚も45回転ステレオLPとして出たものである。『ハイ・フィデリティ』は六三年四月のベスト・レコードとして別扱い、『ステレオ・レヴュー』も推薦盤に挙げていた。
 どういう経緯かはっきりはおぼえてないが、ぼくがこの二枚のモラヴェッツの45回転の方を入手したのは六六年頃のことだったとおもう。実は、それ以前に、このレーベルのレコードをひそかなあこがれをもって探していた。それは、幻のフラメンコ・ギターの名手と騒がれはじめていたマニタス・デ・プラタがこのレーベルに入れていたのを『アメリカン・レコード・ガイド』で知っていたからである。それはCS二六二という番号だった。その頃、フラメンコの、とくにギターのレコードを集めるのに夢中になっていたので、何とかしてほしいものだと思いながら目的を果たせずにいたのである。もひとつは、当時ARのスピーカーの輸入をはじめていた今井商事の今井保治さんが、アメリカでインドの太鼓の素晴しい録音のレコードがマニアのあいだで大騒ぎされていると話されたことがあった。それがアリ・アクバール・カーンの録音に参加しているタブラの名手ウスタド・マハプルーシュ・ミスラの《インドの太鼓》(CS1466)だとわかった頃に、モラヴェッツの45回転LPを入手したのだと思う。
 コロムビア洋楽部の繁沢保さんや増田隆昭さんなどがわが家に遊びにきて、いろいろなレコードを鳴らしたなかで、アメリカでこんなレコードが出てるよ、と45回転のモラヴェッツを聴かせた。ふたりともかなり感心した様子で帰ったのだが、半月かひと月もたった頃、うちでも45回転ステレオを出すことにしたから解説を書くように、という電話がかかってきた。そのコロムビアの45回転LPステレオは六七年五月新譜で発売されたのである。御両所がわが家にこられたのは多分一月中旬ぐらいではなかったかとおもう。
 そのコロムビアの45回転LPの第一回新譜はつぎの五枚であった。
 四五CX−一=モーツァルト《フルートとハープのための協奏曲》ランパル/ラスキーヌ/パイヤール合奏団
 四五CX−二=《バーンスタイン・スペイン音楽の祭典》(シャブリエ、ファリャ)
 四五CX−三=チャイコフスキー《イタリア奇想曲》/リムスキー=コルサコフ《スペイン奇想曲》オーマンディ/フィラデルフィアO
 四五CX−四=ベートーヴェン《第五 運命》ワルター/コロムビアSO
 四五CX−五=ジョリヴェ《トランペット協奏曲》アンドレ/ジョリヴェ指揮、デュルフレ《前奏曲、シチリアーノ》デュルフレ(org)
 コロムビアはすでにマスター・プレスのデラックス盤などを出して、ハイファイ・レコードにはとくに意欲的だったが、この45回転LPもかなりマニアの注目を集め、二年ちかくの間に三十枚以上出したとおもう。
 コロムビアが出したのを追いかけて六七年夏にビクター(アクション・サウンド・シリーズ)、キング(プロジェクト3、コマンド)、フィリップスなどもこれを追い、45回転ステレオLPは、ハイファイ・レコードとしてブームの感を呈した。
 その後、コロムビアは最初のダイレクト・カッティングも45回転で行っている。七〇年代には忘れられた感があったが、七〇年代末にCBSソニー、その他のレーベルが復活させていることは御承知のかたも多いだろう。
     *
意外に古くから45回転LPが存在していたことを知って、
「マイクログルーヴからデジタルへ」を読んで驚いた記憶がある。

レコードの回転数を33 1/3から45へあげることの物理的なメリットとしては、
歪が1/1.8に減少し、ヘッドルームの2.6dB増加、周波数特性は1.8倍に拡大される。
これらの値は、あくまでも理論値としての最大であって、
実際の45回転LPで、物理的メリットを理論値通りに満たしているのはほとんどないであろう。

それでも歪は減り、ヘッドルームは増し、周波数特性も拡がるのは事実である。
と同時にサーフェスノイズのピッチも高くなる。

Date: 6月 10th, 2016
Cate: Noise Control/Noise Design

聴感上のS/N比と聴感上のfレンジ(その6)

聴感上のS/N比と聴感上のfレンジについて語る上で見過してはならなのは、
JBLの2441というコンプレッションドライバーは、
基本的にS/N比の良いユニットである、ということ。

この金属の塊といえるユニットは、どこを叩いても雜共振などしない。
しっかりとどっしりと、かっちりとしている。
こういうユニットこそ、S/N比の良いユニットである。

往年の高能率のスピーカーユニットを、
S/N比が悪いと思っている人が少なからずいるようだが、むしろ逆だといいたい。

往年の高能率のスピーカーユニットすべてがS/N比が良いとはいえないけれど、
総じてS/N比の良いモノが多い。

ただ高能率であるがためにアンプの残留ノイズは目立つことになるし、
エンクロージュア、ホーン、ネットワークを含めたユニット周辺のつくりによって、
スピーカーシステムとして仕上がった場合のS/N比は左右されるのだから、
誤解が生れるのもやむなし、とは思う。

JBLのコンプレッションドライバーはS/N比の良いユニットである。
2441だけでなく、375(376)もそうだし、LE175、2420(2421)などもそうだ。
S/N比に関しては、アルテックのコンプレッションドライバーよりもJBLの方が少しばかり上だともいえる。

2441は高能率で高S/N比なユニットである。
このユニットで、しかもトゥイーターをつけずに鳴らしたからこそ、
聴感上のS/N比と聴感上のfレンジの関係がはっきりと浮びあがってきた、ともいえよう。

Date: 6月 9th, 2016
Cate: Noise Control/Noise Design

聴感上のS/N比と聴感上のfレンジ(その5)

聴感上のS/N比を良くしていくと、聴感上のダイナミックレンジは広くなる。
フォルテシモでの大きさは物理的には同じであっても、
ピアニシモがより小さな音まで聴こえてくるようになってくるために、
聴感上のダイナミックレンジは広くなる。

と同時にピアニシモの音が基準となるため、相対的にフォルテシモの音がより大きく聴こえてくる。
つまりボリュウムはまったく同じままであっても、
聴感上のS/N比の良くなれば、聴感上の音量は増して聴こえるようになる。

これは聴感上のS/N比を判断する上でのひとつの目安となる。

このことは以前からわかっていたことである。
このことと同時に、聴感上のfレンジものびて聴こえるようになるのではないか。
そんなふうに感じたことがなかったわけではない。

でも確信が持てなかった。
それまで聴いてきたスピーカーシステムは、
今回のaudio sharing例会で使ったような構成ではなかった。
トゥイーターと呼べるユニットがついていて、
少なくともカタログスペック上では20kHzまで出ている。

いわゆるワイドレンジ志向のスピーカーで聴いている分には、
聴感上のS/N比が良くなると聴感上のfレンジがのびて聴こえることに確信が持てなかったのだ。

今回のスピーカー、お世辞にもワイドレンジとは呼べないスピーカーで聴いて、
あれこれやってみて、ようやく確信が持てた。
聴感上のS/N比の良し悪しによって聴感上のfレンジははっきりと影響を受ける。

聴感上のS/N比を良くしていくと聴感上のfレンジがのびて聴こえる、と書いているが、
正確には聴感上のS/N比が劣化すると聴感上のfレンジが狭く聴こえる、だ。

Date: 6月 8th, 2016
Cate: Noise Control/Noise Design

聴感上のS/N比と聴感上のfレンジ(その4)

CR方法によるパーツを取り付けた後の音は、聴感上のS/N比が良くなっていることは、
誰の耳にも明らかだった。

抵抗とコンデンサーを直列に接続したものを、2441の入力端子に取り付けただけである。
パーツ代は片チャンネルあたり千円もかかっていない。
ハンダ付けが確実にできる人ならば、パーツを揃えればすぐに出来る。

ユニットによるが、2441への取り付けにはハンダはいらない。
改善されない、音が悪くなったと感じた人は、取り外せばすぐに元の状態の戻せる。

そんな手軽なことで、聴感上のS/N比は良くなる。
良くなったことで、山口百恵の声量が増したサビのところでも、
音像の不明瞭さが、完全になくなった、とまではいかないものの、相当に改善されている。
それに音像の膨らみにも同じことがいえる。

ウーファーの416-8Cにも取り付けていれば、と思うほど、音は変った。
参加されていた人からも、ウーファーにも取り付けましょう、との声があった。

この状態で聴き続けていった。
誰からも、外しましょう、の声は挙らなかった。

CDを変える。
変えたことでよりはっきとしたのは、聴感上のS/N比が良くなったとともに、
聴感上のfレンジが上に延びているように感じられたことだ。

JBLの2441はエッジに、日本の折り紙から発想を得たといわれる形状になっている。
それ以外の変更はないにも関わらず、カタログスペックでは、
2440の500Hz〜12kHzから、500Hz〜18kHzへと変更になっている。

この周波数特性の変化は数値で見るよりも、グラフで比較したほうが、より顕著である。
2441は2440より素直に高域が延びているドライバーではあるが、
ワイドレンジ志向の私は、やはりトゥイーターの必要性を感じてしまうことが多い。

それがCR方法のパーツを取り付けると、トゥイーターの必要性を感じることが減っている。
完全に必要としない、とまではいかないけれど、レンジの不足感をさほど意識しなくなっている自分に気づく。

同時に大口径(2441のダイアフラムは4インチ口径)トゥイーターの良さを感じるようにもなっていた。

Date: 6月 5th, 2016
Cate: Noise Control/Noise Design

聴感上のS/N比と聴感上のfレンジ(その3)

CR方法を、今回のaudio sharing例会で実際にやってみた。
おそらく私以外の人は、誰も知らなかったようだ。

何も説明せずにスピーカーの後にまわりこんで取り付けて、音を聴いてもらった。
ちょうど山口百恵のCDをかけている時だった。

山口百恵が声量を抑え気味に歌っているところでは、いい感じで鳴ってくれていても、
サビの部分での盛り上りに伴い声量が増したときに、
どうしても定位が不鮮明になるし、声の表情に関しても抑えているときと比較すると不満も出てくる。

この問題はすべてスピーカー側に原因があるとはいわないが、
スピーカー側でまだまだ良くできる余地がある。

CR方法のパーツを取り付けたのは、今回はJBLの2441だけである。
できればウーファーのアルテック416-8Cにも取り付けたかったが、
416-8Cはフロントバッフルの裏側から取り付けられているために、
CR方法のパーツを取り付けるには、バッフル板を外して、ということになる。

電動工具を用意していれば、時間は短縮できるが、
手回しのドライバーではある程度の時間がかかってしまうため、2441だけにした。

エンクロージュアの入力端子に取りつけてもよさそうに思われがちだが、
あくまでもCR方法のパーツはスピーカーユニットの入力端子に最短距離で取り付けるものである。

それから安価な抵抗、コンデンサーを使うのもやめたほうがいい。
私が使ったのはDALEの無誘導巻線抵抗とディップマイカコンデンサーである。
どちらも秋葉原の海神無線で購入した。

Date: 6月 4th, 2016
Cate: Noise Control/Noise Design

聴感上のS/N比と聴感上のfレンジ(その2)

CR方法の抵抗値とコンデンサー値の算出方法を読んで、
高音域におけるインピーダンス補正と早合点された方もいるのではないだろうか。

スピーカーのボイスコイルのもつインダクタンスによって、
高音域ではインピーダンスが上昇する。
これを抑えインピーダンスをできるだけフラットにするために、
抵抗とコンデンサーを直列接続したもので補正する。

回路的にはまったく同じになる。
違うのは主にコンデンサーの容量の違いである。

実際に計算してみればすぐにわかることだが、
インピーダンス補正ではμFの容量となり、CR方法ではpFの容量である。
コンデンサーの容量が大きく違い、作用してくる周波数も大きく違ってくる。

インピーダンス補正は可聴帯域内で作用してくるが、
CR方法はコンデンサーの容量の小ささから推測できるように作用するのは可聴帯域外である。

それから抵抗とコンデンサーを直列接続したアクセサリーも、市場に登場したこともある。
それらを分解したわけではないが、コンデンサーの容量はpFではないと思われる。

CR方法のコンデンサーはpF。そんなに小容量のコンデンサーと抵抗を取り付けて、
どれだけの音の変化があるのか。
それに電波科学には電源トランスに対して使うものとして説明されていた。
それをスピーカーに応用したわけだ。

実はCR方法は電波科学を読んで、一年くらいして試したことがある。
国産の3ウェイ・ブックシェルフ型スピーカーのユニットを外して、
まずはウーファーから試してみようと考えた。

けれどユニット取り付けネジを外してもユニットはバッフル板にくっついたままだった。
ウーファーがダメならばトゥイーターで試した。こちらもはずれない。
ゴム系の接着剤かなにかでくっついているようだった。

ゆっくり時間をかけてやってみれば外させたかもしれない。
けれどユニットのフレームは、そう頑丈そうでもなかった。
いわゆるプレスフレームだったから、あまり無理するとフレームが歪みそうでもあった。

それでしかたなくスピーカー入力端子にテスターをあてて直流抵抗を計った。
この場合は、ウーファーのユニットとコイルの直流抵抗の合成値となる。
当時は田舎暮らしだったから、ごく一般的な抵抗とコンデンサーでの実験だった。

正直、その効果ははっきりとはわからなかった。
やはりウーファーなりスコーカー、トゥイーターの入力端子に取り付けるべきであり、
使用する抵抗とコンデンサーも優秀なモノにすべきなのか、と保留することにした。

Date: 6月 3rd, 2016
Cate: Noise Control/Noise Design

聴感上のS/N比と聴感上のfレンジ(その1)

「五味オーディオ教室」にこう書いてあった。
     *
 くり返して言うが、ステレオ感やスケールそのものは、〈デコラ〉もわが家のマッキントッシュで鳴らすオーグラフにかなわない。クォードで鳴らしたときの音質に及ばない。しかし、三十畳のわがリスニング・ルームで味わう臨場感なんぞ、フェスティバル・ホールの広さに較べれば箱庭みたいなものだろう。どれほど超大型のコンクリート・ホーンを羅列したって、家庭でコンサート・ホールのスケールのあの広がりはひき出せるものではない。
 ——なら、私たちは何に満足すればいいのか。
 音のまとまりだと、私は思う。ハーモニィである。低音が伸びているとか、ハイが抜けているなどと言ったところで、実演のスケールにはかないっこない。音量は、比較になるまい。ましてレンジは。
 したがって、メーカーが腐心するのはしょせん音質と調和だろう。その音づくりだ。私がFMを楽しんだテレフンケンS8型も、コンソールだが、キャビネットの底に、下向けに右へウーファー一つをはめ、左に小さな孔九つと大穴ひとつだけが開けてあった。それでコンクリート・ホーン(ジムランのウーファー二個使用)などクソ喰えという低音が鳴った。キャビネットの共振を利用した低音にきまっているが、そういう共振を響かせるようテレフンケン技術陣はアンプをつくり、スピーカーの配置を考えたわけだ。しかも、スピーカーへのソケットに、またコードに、配線図にはない豆粒ほどのチョークやコンデンサーが幾つかつけてあった。音づくりとはそんなものだろうと思う。
     *
「五味オーディオ教室」を読んだのは中学二年の時。
テレフンケンS8型のスピーカーのソケットについている豆粒ほどのパーツがなんなのか、
実際にどのくらいの値のパーツが取り付けてあるのか、まったくわからなかった。

配線図にはない、と書かれているから、
S8の回路図を手に入れたいとも考えなかった。
これらのパーツがなんなのかを確かめるにはS8の実物にあたるしかない。

それでも豆粒ほどのパーツの正体を知りたい、とは思っていた。

「五味オーディオ教室」を読んでそれほど経っていなかったと記憶している。
電波科学にそれらしい記述があった。
後ろの方に掲載されている連載コラムに、CR方法について書かれていた。
確か出原眞澄氏の担当のページだった、と記憶している(記憶違いかもしれない)。

CR方法とは、まず電源トランスの巻線の直流抵抗値を計る。
仮に20Ωあったとしたら、20Ωの抵抗と20pFのコンデンサーを直列に接続したものを、
電源トランスの巻線に並列に接続する、というもの。

コンデンサー(C)と抵抗(R)とでCR方法というらしく、
私が読んだのは1970年代後半だったが、かなり以前から知られている手法と書いてあった。

記憶違いでなければ、CR方法は電源トランスの一次側巻線に対してだったのを、
試しに二次側にも試してみたら、二次側にも効果があった、と。

この記事を読んで思い出していたのが、テレフンケンS8型の豆粒ほどのパーツの正体である。
これなのでは、と直感した。

電源トランスとスピーカーユニットとでは違うと思われるかもしれないが、
片やトランスフォーマー、片やトランスデューサーである。
構造的にもコイルがあり、コイルの中心には磁性体が配置されている。

トランスに効果的であるならば、スピーカーユニットにも効果的のはず。
そう考えた。

Noise Control/Noise Designという手法(45回転LPのこと・その4)

最初に聴いたCDの音に、驚いたことは前にも書いている。
発表前夜、ステレオサウンド試聴室で聴いた小沢征爾指揮「ツァラトゥストラはかく語りき」、
この音は、いまもすぐに思い出せるほど強烈な印象を残してくれた。

パイオニアExclusive P3とマランツ(フィリップス)CD63。
ディスクのサイズがコンパクトになったのと同じように、
プレーヤーのサイズもコンパクトになっていて、まさにコンパクトディスクなわけで、
それでも肝心の音が冴えなければ、それで終りである。

でも違っていた。

Exclusive P3が色褪てしまった。
私だけが感じていたのではなく、そのとき試聴室にいた編集者全員がそう感じていた。

Exclusive P3はよく出来たアナログプレーヤーである。
いまでも中古市場で人気があるのも、そうだろうな、と思う。

それでもテーブルの上にポンと置いただけのCD63から出て来た音は、
技術の進歩を感じざるをえなかった。

この時のディスクは一枚だけだった。
短い試聴時間だった。
それだからよけいに印象に残っていた。

その後CDは正式に発表され、各社からCDプレーヤーが一斉に登場した。
レコード会社からのタイトルも増えていった。

CDプレーヤーの総テストもあった。
各社のCDプレーヤーをほぼすべて並べて聴いていると、
あの日の衝撃はそこにはなく、けっこう冷静に聴いていた。

そうなってくると、CDとLPの音の違いについて、
初めてCDを聴いた後に、編輯部の先輩と話したことと、
その内容は変化していく。

いまから30年ほど前のことになるわけだが、
LPの音は気持ちいい、ということになった。
なぜ気持ちいい音のことが多いのか。

「それはこすっているからだ」と言った。
続けて「オーディオに限らず、こするのは気持ちいい行為でしょう」とも言った。

半分冗談でも半分は本気でいっていた。

CDは非接触で、LPは接触。
デジタルなのかアナログなのかという変調方式の違いも音に大きく関係していても、
非接触か接触か、という違いもまた音に大きく関係している、と思ったからだ。

そして接触することによって生じるノイズがある。
サーフェスノイズである。

Date: 1月 17th, 2016
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(その42)

ノイズに関することでいえば、今月6日に行ったaudio sharing例会での音の変化もそうである。
アルテックのホーン811Bにあることを施した。
実に簡単なことだけど、その効果(音の変化)は大きかった。

別項ですでに書いているように、
その時かけていたアナログ録音のテープヒスの聴こえ方が、ノイズリダクションをいれたように変った。

テープヒスが耳につかなくなっただけではない。
楽器の音色、人の声も変って聴こえてくる。

たとえばグレン・グールドのブラームスの間奏曲集は、
そのままで聴くと、あきらかにピアノの音色が変化しすぎている、と感じていた。

11月に初めて聴いたときからそのことは感じていた、
原因がどこにあるのかはおおよそ見当がついていた。

ここでのピアノの音色の変化は、
フレディ・マーキュリーの声の変化にもあらわれている。

ただしすべての楽器、人の声すべてで、ここまではっきりと音色の変化があらわれるとはかぎらない。
もちろんすべての音色が変化しているのだが、比較的はっきりとわかりやすく出る例と、
そうでない例とがある。

この種の音色の変化は、以前も体験している。
ソニー・ロリンズの吹くテナーサックスが、アルトサックスのように聴こえることもある。

そのスピーカーも鉄板も使っていた。
叩けば、いかにも鉄板の音がしてくる。
なんらダンプされていないスピーカーだった。

鉄のもつ固有音(これもノイズのひとつである)が、
楽器の音色を時として大きく左右することがある。
なにも鉄に限らない。

どんな物質にも固有音がある。
種々雑多な固有音というノイズを、つねに聴いている。

audio sharing例会で私がやったことは、ノイズコントロールの手法のひとつである。

Date: 1月 16th, 2016
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(その41)

伊福部達氏の講演の二、三年前に、ある記事を読んでいた。
人工内耳の記事で、2002年6月に公開されている。

この記事は、ある意味衝撃だった。
微弱な雑音を耳がつくり出している、ということ、
人工内耳に適切な雑音を加えることで、
聞き取れる音の領域が拡がる、ということもだ。

われわれ人間はノイズがまったく存在しない空間では生きられないのかもしれない。
なんらかのノイズを必要としているのかもしれない。

究極のS/N比は無限大であり、
ノイズが完全になくなってしまえば(0になってしまえば)、理屈としては無限大になる。
それが実現できたとして、快適といえる空間なのか、
人にとって自然といえる環境なのか。

別項で、女優の市毛良枝さんの記事のことを書いた。
週刊文春に載っていた記事で、住いに関するものだった。

バリアフリーの高層マンションに引っ越したものの……、という内容だった。
高層階になるほど種々の雑音から隔離されるような環境になる。
そのことで市毛良枝さんのお母さまは元気をなくされていった。
結局、一戸建ての家に引っ越したところ元気を取り戻された、と記事にはあった。

ノイズについて考えさせられるきっかけは、いくつかあった。
けれど、それがうまくつながっていかなったのが、伊福部達氏の講演がきっかけでつながりはじめた。

Date: 2月 16th, 2015
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(その40)

十年ほどの前のことだ。
川崎市で、川崎先生の講演があった。
この日の講演は川崎先生だけでなく、
そのころ流行っていたNintendo DSのゲームソフト「脳を鍛える大人のDSトレーニング」で知られる川島隆太氏、
それからゴジラの作曲家で知られる伊福部昭氏の甥で、東京大学教授の伊福部達氏、
もうおひとかたは忘れてしまった。

私は川崎先生の講演が目的だったのだが、四人の方の講演を聞いた。
伊福部達氏の講演で、あるサンプルが流された。
ある音声波形を、櫛の歯を欠いたようにように処理したものが流された。
つまり音声波形が部分的に、いくつもの箇所で欠落しているものである。

これがまったく何を話しているのか、まったく聞き取れない。
人の声だということはわかっていても、である。
確か数回流されたと記憶しているが、何度聞いてもわからない。

ところが欠落している箇所にノイズを挿入する。
ノイズといっても前後する音声信号を読みとって相関関係にあるノイズではなく、単なるノイズでしかない。
なのにノイズが加えられただけで、何を話しているのか聞き取れるようになる。

さっきまでまったく聞き取れなかったのに、ノイズが加わっただけで聞き取れるのだから、
驚くしかなかった。

オーディオには、S/N比がある。
信号(signal)とノイズ(noise)の比率である。
信号レベルが高く、ノイズレベルが低いほど、S/N比は高くなる。
理想はノイズ・ゼロである。

ノイズは信号を阻害するものだという認識しかもっていなかったのだから、
伊福部達氏の実験は、ノイズについてのこれまでの考えを改めなくてはならないことを示してくれていた。

Date: 8月 13th, 2014
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(その39)

ノーノイズCDのティボーは、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第三番で、
このディスクについては、岡先生はステレオサウンド 88号に、次のように書かれている。
     *
 興味ぶかくかつ、問題にもなりそうなのはティボーである。一部のふるいティボー・マニアのひとが、これはききなれたティボーの音じゃないといったという噂もきいたことがある。高域がわりとのびて、やや冷たい感じがする。それがイントネーションの感じまで変えているのだが、考えてみると、われわれがSPでききなれたティボーの音の艶というのは、ひょっとしたら、SP特有のサーフェイスノイズに変調されて生まれた味わいではなかったのではなかろうかとも考えたくなるのだ。筆者はティボーのナマはきいたことは勿論ないし、最晩年の久しぶりの録音で、彼のトーン自体も20〜30年代のそれとちがってしまっていたのかもしれないという気がする。それにしても、このシリーズでいちばん謎を感じたディスクであることはたしかであった。
     *
ノーノイズCDで聴けるティボーの音は、たしかに聴きなれたティボーの音は違っていた。
私の場合SPでティボーを聴いた経験はなかった。
SPからLPへの復刻、CDへの復刻で聴いた経験しかなかったが、
それでもティボーの音の変化(変質といえるような気もする)は、感じとれた。

ノーノイズの処理技術が、この時点では完璧ではなく、
すべての録音に対して一定の効果が期待できるというようなものでもないことは、
このティボーのノーノイズCDを、他のノーノイズCDと比較するまでもなくいえることだが、
それでも他のノーノイズCDでの音の変化からすると、ティボーのノーノイズCDにおける音の変化は、
岡先生も指摘されているように、謎を感じる。

この時の私は、謎を感じながらも、それ以上考えることをしなかった。
このティボーのノーノイズCDの謎を思い出すのは、20年ほど経ってからである。

Date: 8月 13th, 2014
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(その38)

1980年代後半にフィリップスから登場したノーノイズCD。
非売品だったサンプラーには、リヒァルト・シュトラウス指揮のベートーヴェンの交響曲第五番が、
ノーノイズ処理前と処理後の両方が入っていた。

これで聴きくらべると、ノイズは明らかに減っていることが認められるし、
細部の明瞭になっていることもはっきりとわかる。

アナログでは到底不可能な信号処理技術だということも実感できる。
この時点でのノーノイズの処理技術が完璧とは思わなかったが、
これから先有望な技術として、より進歩していくだろう、と思えた。

ノーノイズCDを聴けば、ステレオサウンド 50号に長島先生が書かれた文章を思い出した人もいることだろう。
創刊50号記念の記事として、「2016年オーディオの旅」というタイトルの、ひとつの未来予測である。

この中に、フルトヴェングラーのベートーヴェンの第五交響曲を聴くシーンがある。
しかも、そこでのフルトヴェングラーの演奏は、2016年の最新録音のように、申し分ない音で鳴った、とある。

旧いモノーラル録音のフルトヴェングラーのベートーヴェンを、
ステレオに変換し、波形の修復が加えられた、いわば復刻盤ではなく修復盤が、2016年には登場している。

1987年、フィリップスのノーノイズCDのサンプラーを聴いて、
そこへの一歩を踏み出している、と実感できるレベルにはあった。

このとき聴いたノーノイズCDで意外であり、謎のようでもあり、
いま思えば問い掛けであったのが、ティボーだった。

Noise Control/Noise Designという手法(45回転LPのこと・その3)

私がアナログディスク固有のノイズに注目したのは、
CDが登場したばかりのとき、サンプリング周波数が44.1kHzだから、20kHz以上はまったく再生できない。
だからアナログディスクよりも音が悪い。
人間の耳の可聴帯域は20kHzまでといわれているけれど、実はもっと上の周波数まで感知できる。

とにかく、そんなことがいわれていた。

確かにサンプリング周波数が44.1kHzであれば、
アナログフィルターの遮断特性をふくめて考えれば20kHzまでとなる。
それで十分なのか、となれば、サンプリング周波数はもっと高い方がいい。

だからといって、サンプリング周波数が44.1kHzで20kHzまでだから……、というのは、
オーディオのことがよくわかっていない人がいうのならともかくも、
少なくとも音の美を追求してきた(している)と自認する人が、
こんなにも安易に音の美と周波数特性を結びつけてしまうことはないはずである。

FM放送のことを考えてみてほしい。
FM放送でライヴ中継を聴いたことが一度でもある人ならば、
その音の良さ、美しさを知っているはずだ。

この体験がある人はFMの原理、チューナーの仕組みを大ざっぱでいいから調べてみてほしい。
FM放送の周波数特性はCDよりも狭いのだから。

それでもライヴ中継の音の良さには、陶然となることがある。

Noise Control/Noise Designという手法(45回転LPのこと・その2)

そのコメントには、こんなことが書いてあった。

クラブミュージック(ダンスミュージック)で、DJがテクノやハウスといわれる種類の音楽をかける。
従来は当然のことながらアナログディスクだったのが、
時代の流れにでCD、さらにはMP3に変っていった。

となると音も変る。
その違いが小さいものであったなら、問題となることもなかったけれど、
あまりにも違いが大きすぎるということで、
DJはあれこれ試行錯誤をした結果、アナログディスク特有のノイズを、
CD、MP3で音楽を鳴らす時にミックスすることにしたそうだ。

ここでのアナログディスク特有のノイズとは、プチッ、パッといったパルス性のノイズではない。
音溝をダイアモンドの針先が擦ることによって生ずる音(ノイズ)のことである。

何も録音されていない無音溝のレコードを、そのために製作して、
そのアナログディスクを再生して得られるノイズが、ここでいうアナログディスク特有のノイズのことである。

このノイズを加えることにより、アナログディスクをかけている感じに近づけることができた、とあった。

私自身は、これを試したことはないけれど、
私が5月7日に話したことも、基本的にはこれと同じことである。
だから、この話にはそのとおりだ、と思っている。