Date: 10月 18th, 2016
Cate: Noise Control/Noise Design
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Noise Control/Noise Designという手法(45回転LPのこと・その5)

私がオーディオに関心と興味をもちはじめたときには、
すでに45回転のLPはあたりまえのように存在していた。

そのころは各国内レーベルからオーディオマニア向けといえる企画があった。
それらの中には45回転LPがあったし、ダイレクトカッティングでも45回転のモノがあった。

いったいいつごろ45回転LPが登場したのかについては、
岡先生の著書「マイクログルーヴからデジタルへ」の下巻に詳しい。
     *
 ハイファイ的な面にだけ的をしぼっても話題の選択に困るほどだが、忘れられないのは、野心的な試みで斯界にいろいろな刺激を与えたマイナー・レーベルの存在である。音楽あるいはハイファイに熱情を燃やす個人あるいは小グループが、彼らの止むに止まれぬ情熱を何らかのかたちでレコード化し、そのユニークさでアピールしようという現象は、近年ますますさかんになっているが、上巻に記したLP初期のバルトークやダイアル、EMSなどが、その僅かのレコードによっていまでも忘れがたい存在になっている古い例がある。エラートやヴァンガードなどは、準メイジャーまで大きくなったが、線香花火のように出現し、やがて消えてしまったというのも少なくない。メイジャーでは思いもよらぬ大胆な試みができるというのも、個人プレイのおもしろさであろう。
 話は少々時代を遡るが、一九六〇年代のはじめ、45回転ステレオLPを出してマニアをびっくりさせたのも、そういうマイナー・レーベルであった。

 45回転ステレオLPのオリジネーターのレーベル名Q−Cは、フランス語の Quarante-Cinq(45)というそのものずばりである。フランスでいつ出たかはわからないが、『アメリカン・レコード・ガイド』一九六二年五月号、『ハイ・フィデリティ』六月号の月評欄にとりあげられている。そして、『ステレオ・レヴュー』十月号でデイヴィッド・ホール、が、「そして、いまや45回転12インチ・レコードの登場!」という題で、この新しいフォーマットのステレオLPのことを二ページにわたって論じていた。それによると、このレーベルはフランス語であり、マスター・テープはヨーロッパ録音だが、レコード化はアメリカであるらしい。Q−Cの45回転レコードはつぎの五枚が発売された。
 #四五〇〇一=《シャブリエ管弦楽曲集——スペイン、他四曲》 ルコント指揮、パドルー管弦楽団/アダン《我もし王者なりせば・序曲》/ウェーバー《舞踏へのお誘い》 デルヴォー指揮、コロンヌ管弦楽団
 #四五〇〇二=《Bravo Tord!》 バルデス指揮、カディス闘牛場吹奏楽団
 #四五〇〇三=R・シュトラウス《ティル・オイレンシュピーゲル、ドン・ファン》 アッカーマン指揮
 #四五〇〇四=ストラヴィンスキー《火の鳥組曲》/ファリャ《恋は魔術師》 ゲール指揮
 #四五〇〇五=チャイコフスキー《白鳥の湖、眠りの森の美女組曲》 ゲール指揮
 このうち、四五〇〇三以降の三枚はLPとしては一九五〇年代中頃にコンサート・ホールからモノーラルLPが発売されていたもので、その後ステレオ・テープ(4トラック以前のもの)でも出ていた。ステレオ録音ではごく初期のものであったらしい。したがって、ホールは、とくに音の条件のよい45回転LPらしい録音内容をもっていたのは最初の二枚だけだ、といっている。
 ところが、ホールがこの文章で注目したのは、Q−Cを追いかけて45回転ステレオLPを出したコニサー・ソサエティという新レーベルであった。このレーベルでホールが紹介した新譜はつぎの二枚であった。
 CS三六二=《一八世紀パリのフルート協奏曲(ボアモルティエとコレットの作品)》ランパル(fl)、ヴェイロン=ラクロア(hc)、ソーヤー(vc)ほか
 CS四六二=《インドの名演奏家アリ・アクバール・カーン》
 コニサー・ソサエティは六〇年代後半からフィリップス・レーベルで日本盤が出ているが、一九六二年という時点ではまったく彗星のように出現したマイナー・レーベルであった。創立者のアラン・シルヴァーについてはくわしいことはわからないが、スプラフォンのアメリカ発売権をもってレコード界に乗り出した人らしい。なかなかの音楽狂で一九六一年にコニサー・ソサエティを創立した。この社の番号のつけかたが非常に独特で、あとの二ケタは録音(あるいは発売)年度を示すというおもしろいシステムをとっている。
 この二枚の45回転ステレオLPについて、ホールは、76cm/secのマスター・テープ録音による素晴しい音で、Q−Cにくらべると45回転の威力を発揮していると、賞讃していた。コニサー・ソサエティの名前を有名にしたのは翌年春に出たイヴァン・モラヴェッツの二枚のレコードである。
 CS五六二=ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第二三番《熱情》/モーツァルト:ピアノ・ソナタ第一四番(K.457)
 CS六六二=フランク:前奏曲とコラールとフーガ/ショパン:バラード第三番、スケルツォ一番
 この二枚も45回転ステレオLPとして出たものである。『ハイ・フィデリティ』は六三年四月のベスト・レコードとして別扱い、『ステレオ・レヴュー』も推薦盤に挙げていた。
 どういう経緯かはっきりはおぼえてないが、ぼくがこの二枚のモラヴェッツの45回転の方を入手したのは六六年頃のことだったとおもう。実は、それ以前に、このレーベルのレコードをひそかなあこがれをもって探していた。それは、幻のフラメンコ・ギターの名手と騒がれはじめていたマニタス・デ・プラタがこのレーベルに入れていたのを『アメリカン・レコード・ガイド』で知っていたからである。それはCS二六二という番号だった。その頃、フラメンコの、とくにギターのレコードを集めるのに夢中になっていたので、何とかしてほしいものだと思いながら目的を果たせずにいたのである。もひとつは、当時ARのスピーカーの輸入をはじめていた今井商事の今井保治さんが、アメリカでインドの太鼓の素晴しい録音のレコードがマニアのあいだで大騒ぎされていると話されたことがあった。それがアリ・アクバール・カーンの録音に参加しているタブラの名手ウスタド・マハプルーシュ・ミスラの《インドの太鼓》(CS1466)だとわかった頃に、モラヴェッツの45回転LPを入手したのだと思う。
 コロムビア洋楽部の繁沢保さんや増田隆昭さんなどがわが家に遊びにきて、いろいろなレコードを鳴らしたなかで、アメリカでこんなレコードが出てるよ、と45回転のモラヴェッツを聴かせた。ふたりともかなり感心した様子で帰ったのだが、半月かひと月もたった頃、うちでも45回転ステレオを出すことにしたから解説を書くように、という電話がかかってきた。そのコロムビアの45回転LPステレオは六七年五月新譜で発売されたのである。御両所がわが家にこられたのは多分一月中旬ぐらいではなかったかとおもう。
 そのコロムビアの45回転LPの第一回新譜はつぎの五枚であった。
 四五CX−一=モーツァルト《フルートとハープのための協奏曲》ランパル/ラスキーヌ/パイヤール合奏団
 四五CX−二=《バーンスタイン・スペイン音楽の祭典》(シャブリエ、ファリャ)
 四五CX−三=チャイコフスキー《イタリア奇想曲》/リムスキー=コルサコフ《スペイン奇想曲》オーマンディ/フィラデルフィアO
 四五CX−四=ベートーヴェン《第五 運命》ワルター/コロムビアSO
 四五CX−五=ジョリヴェ《トランペット協奏曲》アンドレ/ジョリヴェ指揮、デュルフレ《前奏曲、シチリアーノ》デュルフレ(org)
 コロムビアはすでにマスター・プレスのデラックス盤などを出して、ハイファイ・レコードにはとくに意欲的だったが、この45回転LPもかなりマニアの注目を集め、二年ちかくの間に三十枚以上出したとおもう。
 コロムビアが出したのを追いかけて六七年夏にビクター(アクション・サウンド・シリーズ)、キング(プロジェクト3、コマンド)、フィリップスなどもこれを追い、45回転ステレオLPは、ハイファイ・レコードとしてブームの感を呈した。
 その後、コロムビアは最初のダイレクト・カッティングも45回転で行っている。七〇年代には忘れられた感があったが、七〇年代末にCBSソニー、その他のレーベルが復活させていることは御承知のかたも多いだろう。
     *
意外に古くから45回転LPが存在していたことを知って、
「マイクログルーヴからデジタルへ」を読んで驚いた記憶がある。

レコードの回転数を33 1/3から45へあげることの物理的なメリットとしては、
歪が1/1.8に減少し、ヘッドルームの2.6dB増加、周波数特性は1.8倍に拡大される。
これらの値は、あくまでも理論値としての最大であって、
実際の45回転LPで、物理的メリットを理論値通りに満たしているのはほとんどないであろう。

それでも歪は減り、ヘッドルームは増し、周波数特性も拡がるのは事実である。
と同時にサーフェスノイズのピッチも高くなる。

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