Noise Control/Noise Designという手法(その40)
十年ほどの前のことだ。
川崎市で、川崎先生の講演があった。
この日の講演は川崎先生だけでなく、
そのころ流行っていたNintendo DSのゲームソフト「脳を鍛える大人のDSトレーニング」で知られる川島隆太氏、
それからゴジラの作曲家で知られる伊福部昭氏の甥で、東京大学教授の伊福部達氏、
もうおひとかたは忘れてしまった。
私は川崎先生の講演が目的だったのだが、四人の方の講演を聞いた。
伊福部達氏の講演で、あるサンプルが流された。
ある音声波形を、櫛の歯を欠いたようにように処理したものが流された。
つまり音声波形が部分的に、いくつもの箇所で欠落しているものである。
これがまったく何を話しているのか、まったく聞き取れない。
人の声だということはわかっていても、である。
確か数回流されたと記憶しているが、何度聞いてもわからない。
ところが欠落している箇所にノイズを挿入する。
ノイズといっても前後する音声信号を読みとって相関関係にあるノイズではなく、単なるノイズでしかない。
なのにノイズが加えられただけで、何を話しているのか聞き取れるようになる。
さっきまでまったく聞き取れなかったのに、ノイズが加わっただけで聞き取れるのだから、
驚くしかなかった。
オーディオには、S/N比がある。
信号(signal)とノイズ(noise)の比率である。
信号レベルが高く、ノイズレベルが低いほど、S/N比は高くなる。
理想はノイズ・ゼロである。
ノイズは信号を阻害するものだという認識しかもっていなかったのだから、
伊福部達氏の実験は、ノイズについてのこれまでの考えを改めなくてはならないことを示してくれていた。