Archive for category 素材

Date: 9月 27th, 2014
Cate: 素材

羽二重(HUBTAE)とオーディオ(その2)

ステレオサウンドで働くようになって、色見本というものを知った。

音にも、音色という言葉があるように、色はある。
けれど、音の色見本というのは存在していない。

音の色見本がない状態で、われわれは音を言葉で表現しようとしている。
だから書き手と読み手とのあいだには、誤解も生じることになる。

先日もインターナショナルオーディオショウに行って、その感を強くした。
あるブースで、あるオーディオ評論家が音を鳴らしていた。
いい音ではなかった。そのことが問題ではなく、
音を鳴らし終った後に「素晴らしく滑らかな音でしたね」と、オーディオ評論家がいう。

椅子に腰かけて聴いている人の中には、頷いている人がいた。
ということは、この音が滑らかな音ということになっているのか、とびっくりするよりも呆れた。
どこをどう聴いても、いいように受けとめようとつとめても、
いましがた鳴っていた音は、決して滑らかな音ではなかった。

聴いていた人の中には、私と同じように感じていた人もいたであろう。
でも、この場に、オーディオに関心をもち始めたばかりの若い人がいたら、どうなるだろうか。

オーディオ雑誌に登場しているオーディオ評論家が
「素晴らしく滑らかな音ですね」と絶賛しているのを耳にしてしまったら、
やはり、その場で鳴っていた音が、滑らかな音ということになってしまうことだって考えられる。

これは憂慮すべきことである。
だが、このオーディオ評論家ばかりを責めたいわけではない。
このオーディオ評論家も、どこかでそういう体験をしてきたから、こうなってしまった──、
そう考えられるからである。

Date: 9月 26th, 2014
Cate: 素材

羽二重(HUBTAE)とオーディオ(その1)

久しぶりに六本木に行ってきた。
ここ数年、私にとっての六本木は、国際文化会館に行くことである。
前回も前々回も、国際文化会館に川崎先生の講演をきくために六本木に行っている。

今回も国際文化会館に行ってきた。
福井県織物工業組合と川崎先生による「羽二重」HUBTAE=新素材ブランドの発表会が行われたからだ。

羽二重といえば、多くの人は羽二重餅を思い浮べることだろう。
私だって、じつはそうである。羽二重が絹織物だということは知ってはいても、
羽二重餅がどうしても浮んでくる。

そういえば私が働いていたころのステレオサウンドは六本木五丁目にあった。
少し歩けば、青野という和菓子屋がある。
ここの羽二重餅を試聴の茶菓子としてよく買いに行っていたことも関係しているといえばそうなるかもしれない。

羽二重は餅ではない。絹織物であることを、
今日の川崎先生の話をきいて、オーディオマニアとして刻みつけることができた。

これからはずっと羽二重ときいて、餅を思い浮べることはなくなった。

川崎先生の話をきくまでは、羽二重とオーディオはどう結びついていくのか考えていた。
いくつかのことは浮ぶ。
それでも羽二重とオーディオが、鍵穴と鍵がぴったりと合うような感じではなかった。

なにか、もっと違うところに結びつけるところがあるような気だけがしていた。
今日「こんなところに扉があったのか」と、それに気づかされたような感じだった。

Date: 9月 18th, 2014
Cate: 素材

オーディオと金(その4)

金は金属だから電気を流せる。
ケーブルの素材となる。
ただ導体抵抗が銅よりも高いこと、それに高価なこともあって、純金製のケーブルはほとんどない。
デンマークのDual Connectから出ていたことは知っているが、それ以外にるのかは知らない。

それでもメーカーは試作品では金を使っている。
これも井上先生から聞いたことだが、あるメーカーがMC型カートリッジのコイルを金線で巻いた。

金でコイルを巻いた経験はないけれど、想像するに銅や銀よりも巻きにくいのではないか。

井上先生によれば、金コイルのカートリッジの音は、いい音だったそうだ。
この話も何度か聞いている。
つまり、それだけ井上先生のなかで印象に残っている音ということである。

井上先生は数多くの音を聴かれている。
その井上先生が金のことを話される。その意味をいまになって考えている。

金はオーディオにとって特別な素材である。

Date: 9月 17th, 2014
Cate: 素材

オーディオと金(その3)

金と振動の関係について、実際に耳で確かめられるのにSMEのトーンアームがあった。
3012-R Specialが好評だったため、SMEは3010-R、3009-Rを続けて出し、
さらに金メッキを施した3012-R Goldと3010-R Goldも続けて出した。

このGold仕様の製品が出ることは、製品が届く前から伝わっていた。
金メッキ? と私だけでなくほとんどの人が思っていた。

そんなとき、長島先生(だったと記憶している)が、
「金メッキといっても、日本と向うとではずいぶん違うから、想像しているような金メッキではないはず」
そんなことをいわれた。

実物はまさにそうだった。
イメージしていた金メッキのいやらしさは感じなかった。

3012-R Specialは持っていた。
欲しい気持はなかったといえばウソになる。でもあの時36万円だったはず。
手は出なかった。

この3012-R Goldは、オルトフォンのSPU Goldとペアで、Sound Connoisseurの表紙を飾っている。
この3012-R Goldは金メッキ以外は、どこも変更点はなかったはずだ。
だから通常の3012-R Specialと聴き比べれば、金の振動に対する効果が耳で確認できる。

まだハタチになる前だった、あのころは、良さは感じられても、無理としてまでも……、とは思わなかったが、
いま聴いてしまったら、どうなるかは、なんともいえない。
そういう、金ならではの魅力はあった。

Date: 9月 17th, 2014
Cate: 素材

オーディオと金(その2)

接点に使用した時の、それぞれの金属素材の特質を考えると、
AC電源関係の接点に金メッキをする意味は、いったいなんだろう、といいたくなる。

金メッキがされていると、それだけて高級そうに見える。
見えるから、それでいい、と満足できる人ならば金メッキのモノを購入すればいい。
だが現実にAC電源関係の接点に流れる電流値がどのくらいか計算すれば、
金メッキが、この部分にいかに不向きな接点材料であるからがわかる。

電気的にはそうなのだが、機械的に見た場合、
金はやわらかくひじょうに薄く伸ばせる素材であることはよく知られている。
金メッキを施すか施さないかで、その部分の振動モードは変化している、とはいえる。
そういうダンプ効果は認められるけれど、接点材料としてはどうか、ともう一度考えてほしいところだ。

金の振動を抑えることに関しては、以前、井上先生から興味深い話をきいている。
あるメーカーがシャーシーの試作を行った際に、
鉄ベースに銅下メッキをして、そのうえに金メッキをしたものと通常シャーシーとの比較試聴をされた話だった。

アンプの中身はまったく同じ。異るのはシャーシーの材質と処理。
これが驚くほどの音の差であり、鉄・銅・金のシャーシーの音の良さはほんとうによくて、
いまでも忘れられない、といったふうに話された。

しかもこの話は井上先生から何度もきいている。
それだけ井上先生の中に印象に残っている音だということでもある。

ただこのシャーシーは銅下メッキを施しているから、銅が金を吸収してしまうため、
かなりの量の金を使うことになり、コスト的に不採算で結局は市販品に採用されることはなかった。

Date: 9月 17th, 2014
Cate: 素材

オーディオと金(その1)

オーディオと金、といっても、金は(かね)ではなく、素材の金(gold)である。

オーディオ機器に金が採用されることになったのは、
RCAコネクターの金メッキが早かった。
それまでニッケルメッキだったRCAプラグとジャックが、一挙に金色になっていたのを憶えている。
ちょうど私がオーディオに興味を餅始めた時期とだいたいそれは重なっている。

この金メッキの流行りは日本から起っている。
当時の海外製のアンプは本国ではニッケルメッキなのに、
日本に輸入される製品は金メッキ仕様になっているモノもあった。
たとえばRFエンタープライゼスが輸入していたAGIのコントロールアンプ511もそうだった。

正規輸入品と並行輸入品はフロントパネルの色も違っていたが、
RCAジャックの色も違っていたのである。

なぜ金だったのか。
当時講読していた無線と実験に、興味深い記事(見開き2ページだった)が載った。
接点材料としての流せる電流値が表にまとめられていた。

なにかの専門書からの引用であったようだが、
確かに金は微小電流の流れる部分への使用は納得できる値が、その表にはあった。
30数年前のことだから値まではもう憶えいないが、
金は微小電流向きであり、銀は大電流向き、銅はその中間、
微小電流から大電流まで、という理想的な接点材料は水銀だった。

ことわっておくが、これは線材としての電流値ではなく、あくまでも接点材料としての値である。

Date: 9月 6th, 2014
Cate: 素材

素材考(カートリッジのダンパー・余談)

オーディオでは、慎重のうえにも慎重にやっていかなければならないことがある一方で、
慎重になりすぎてしまうと、逆にダメなこともある。

そのひとつがカートリッジのレコード盤面への降し方である。
これについては、「私にとってアナログディスク再生とは(補足)」で、一度書いている。

三年前のことだし、読んでいない人がいたこともつい最近知ったので、
あえてここでもう一度書いておく。

レコードとカートリッジを大事にするあまり、
ゆっくりとカートリッジをレコード盤面に降ろす人がいる。
けれど、これがレコードを傷つけることになる。

カートリッジは針先が、あとすこしで盤面というところまでもってきたら、
ヘッドウェルの指かけから指を離して、あとは自然落下にまかせるものである。

溝に針先がリードインするまで指を離さないということが、
どういうことになるのか一度想像してみてほしい。

指かけから最後まで指を離さずに降ろす人は、ほとんどがリードインの音を聴いていないことが多い。
針先がリードインしてからボリュウムをあげるわけで、これはけっこうなことなのだが、
一度はリードインの音を聴いて、自分の操作がどのレベルにあるのかを確認した方がいい。

Date: 9月 5th, 2014
Cate: 素材

素材考(カートリッジのダンパー・その3)

カートリッジの針先がレコードの外周方向にふれる。
もしダンパーに使われているゴムの反発力が強ければ、
すぐさま反対方向(レコードの内周側)に戻そうとする力が生じる。

これはカートリッジのダンパーとして、望ましいのだろうか。

ステレオサウンド 61号の長島先生の記事を読んで、そう考えるようになった。
実を言うと、それまではダンパーはカンチレバーを中央につねに戻すための機構だと考えていた。
ゴムが使われているのだから、そうだと思い込んでいた。

だがよくよく考えてみると、勝手にカンチレバーを中央に戻されては、
カートリッジの針先(つまりカンチレバーの先端)が溝を追従するのを邪魔することになる。
カンチレバーは、つねに溝に対して自由な動きをできるようになっていなければならないし、
ダンパーがその動きを妨げてはならない。

長島先生は「ゴムの分子間の結合が切れて、半分ヤレたゴム」という表現をされている。
こういうゴムの反発力は、新品のときよりもずっと低下している。

つまり長島先生がいわれる、オルトフォンのSPUがいい音がしてくる時期のダンパーは、
なかば反発力が低下している状態である。
一般的なゴムのイメージからすると、ゴムらしくない、ともいえる。

ここまで考えて、ダンパーとは、いったい何のためにあるものか、と考えるようになり、
そのためのダンパーとして求められる性質とは、どういうものなのか、に考えがいたるようになった。

Date: 9月 5th, 2014
Cate: 素材

素材考(カートリッジのダンパー・さらに補足)

カートリッジとは直接関係のないことだが、ひとつ思い出したことがある。

マークレビンソンのアンプ、LNP2、JC2のモジュールはピッチで固めてあった。
それからしばらくして、日本でもコンデンサーをエポキシ樹脂で固める、という記事が出てくるようになった。

固めれば音が良くなる──、
ということで、ある海外製のコントロールアンプの内部をエポキシ樹脂で固めてしまった人がいる。
結果は、というと、故障してしまい修理に出してしまうことに。
しかも、そのアンプは正規輸入品ではなく並行輸入品であった、ということも、
そのアンプの輸入代理店の人から聞いている。

いまはどうなのか知らないが、
そのころは並行輸入品でも修理の依頼を正規代理店はことわれないように定められていた。
ただ修理代金は正規輸入品よりも高く請求してもよかったようだが。

そのアンプはマークレビンソンとはずいぶんと性格の違うンプである。
エポキシ樹脂で内部を固めて使うようなアンプではない。

それでも、すこしでも音が良くなる可能性があるのなら、試してみることを止めはしない。
けれど慎重にやってならなければならない。
このことは絶対に忘れてはならない。

私もオーディオ機器には手を加えることがある。
スチューダーのCDプレーヤーA727にも手を加えた。
当時40万円をこえていたから、安易に手を加えて故障させてしまうわけにはいかない。

だからA727と同じピックアップメカニズム、デジタルフィルター、D/Aコンバーターを搭載している、
他社製のCDプレーヤーを中古で手に入れて、これであれこれ試したあとでA727にとりかかった。

ステレオサウンド 61号で長島先生もいわれているように、
慎重のうえにも慎重にやっていかなければならないことがある、ということ。

ただあまりにも慎重になりすぎてしまい、
以前書いているように、着脱式の電源ケーブルがきちんと挿っていなかったという例もある。

この辺の力の兼ね合いは言葉で完全に説明できるものではない。
ややつきはなすようだが、自分であれこれやって身につけるしかない。

Date: 9月 4th, 2014
Cate: 素材

素材考(カートリッジのダンパー・補足)

ステレオサウンド 61号の長島先生のSPUのエージング方法を読んで、
当時実際にやった人はいる。
私もSPUを使っていたわけではないが、同じオルトフォンのMC20MKIIでやってみた。

この時、注意しなければならないのは、記事中にもあるようにあたためすぎないことである。
うっかりしていると、周囲の温度によるがすぐにあたたまる。
あたためすぎの状態が続くと、ダンパーのエージングが進むのではなく、カートリッジそのものをダメにする。

実際にダメにしてしまった、という話をいくつか聞いている。
あたためすぎが原因である。

あたためればいい、ということで、あたためすぎる。
あたためすぎはダメだと書いてあっても、
その部分は読んでいるはずなのに、記憶になかった、ということが意外にもある。

しかも、そういう人に限って、あの記事でせいでカートリッジをダメにしてしまった、という。

くり返し書いておくが、あたためすぎはダメだ、と記事にはある。
この部分を読み落しているのは誰なのか、ということだ。

Date: 9月 4th, 2014
Cate: 素材

素材考(カートリッジのダンパー・その2)

ステレオサウンド 61号で、長島先生が次のように語られている。
     *
長島 SPUのAタイプを使って低域がモゴモゴするというひとが多いんですが、これは当然なんですね。というのは、買ってきてそのまま使っている。そうすればみんなモゴモゴしますよ。そして古くさい音がするというのね。
 SPU−A/Eがいちばんいい状態になるのは、非常に残念なことに、針が減って、使えなくなる寸前なんですね。これはみんなが知っていることだけど、そうすると、あまりにもはかないでしょう。やっと、よくなってきた、針が減って替えなければならない……。それの繰りかえしじゃね。だから、それを、もう少し早く、人工熟成させているわけです。こうすると、いい状態になってから、針が減るまで、かなり楽しめます。
(中略)
──それは、われわれでもできるんですか?
長島 できますよ。要するに、あたためるんです。そうすると(ダンパーの)ゴムが軟らかくなるでしょ。その状態で使っていると、ゴムの分子間の結合が切れて、半分ヤレたゴムになってくる。一種の老化ですね。エイジングというのはそういうことなんだけれど、それを早めてやるということです。だから、あたためては使い、あたためては使い、とそうやっていると、ひじょうに早くエイジングが進みます。
     *
具体的なやり方として長島先生は60W程度の電球の下にSPUを置き、温度にして40度ぐらいまであたためられる。
この40度くらいは、触って、あたたかいかな、というぐらいである。
熱く感じるようでは、あたためすぎ、ということになる。

そうやってあたためたカートリッジでレコードを再生する。
これをくり返すわけである。

その結果、SPUのダンパーは軟らかくなる。
これに関するやりとりも61号にはある。
     *
長島 S君、針先をちょっとさわってざらん。
──いいんですか? 指でさわっちゃって?
長島 いいよ、かまわない。
── アレッ? エッ!?
長島 ワッハッハッハ……。
── ナニッ!? こんなになります?
長島 なる。だって現になっているじゃない!
     *
これを読み、ダンパーの素材(ゴム)に対する認識が変化していった。

Date: 9月 3rd, 2014
Cate: 素材

素材考(カートリッジのダンパー・その1)

カートリッジにはダンパーと呼ばれる部分がある。
このダンパーには、たいていゴム系の素材が使われている。

ごく一部のカートリッジにはゴムのダンパーが使われていないモノもあるが、
ほぼすべてといっていいほど、ほとんどカートリッジにはゴムのダンパーが使われている。

ゴムときくと、反発する素材というイメージがある。
ゴムのボールを壁や床にぶつけると跳ね返ってくる。
輪ゴムを伸ばしていた指を離すと、即座に元の大きさに戻る。

そういうイメージが、ゴムにはある。

カートリッジにゴムのダンパーが使われている、と知って、
まずそういうゴムのイメージでカートリッジのダンパーをとらえていた。

けれどカートリッジの動作を考えると、そういうゴムの性質はダンパーとして理想化というと、
そうでもないことに気づく。

最初のきっかけはステレオサウンド 61号の「プロが明かす音づくりの秘訣」だった。
60号からはじまった、この企画、一回目は菅野先生、二回目は長島先生だった。

ここで長島先生はオルトフォンのSPU-Aのエージング方法を紹介されている。
これがきっかけである。