五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(50CA10単段アンプ・その9)
ある時期まで、日本で最も多くオーディオマニアに聴かれた真空管(出力管)といえば、
50CA10だったのかもしれない。
ラックスのSQ38シリーズでの採用、
MQ60、そのキット版のKMQ60でも使われている。
以前のステレオサウンドのベストバイでは、
読者の現在使用中の装置というアンケート結果が載っていた。
プリメインアンプでは、SQ38シリーズが一位だったことが続いていた。
そのころはパワーアンプでも、MQ60、KMQ60もけっこう高いところにランクされていた。
私がステレオサウンドにいたころ、井上先生は、
日本における真空管アンプの音の印象というのは、
ラックスのSQ38シリーズによって作られた、といってもいい──、
そんなことを何度かいわれていた。
あたたかくやわらかい音。
すべての真空管アンプに共通する音ではない。
真空管アンプでも、硬い音のアンプもあったし、あたたかくはない音もあった。
にも関わらず、日本では真空管アンプはあたたかくやわらかい音というのは、
やはりSQ38シリーズの影響がそうとうに大きい、といっていいだろう。
いうまでもなくSQ38シリーズ、MQ60に使われていたのが、50CA10である。
SQ38シリーズが製造中止になって、後継機種のLX38も製造中止になっても、
それまでにはかなりの数の、これらのアンプは売れていたのだから、
すぐに誰も使わなくなるということはなかったはずだ。
長い期間、これらのアンプの音は、日本の真空管アンプの音として現役だった。
いまでこそ50CA10を使ったアンプは聴いたことがない、という人が多いだろうが、
昭和の時代はそうではなかった。
だからといって、50CA10の単段シングルアンプを自作して、
そういう音を再現したいわけでもない。