Archive for category 真空管アンプ

Date: 8月 26th, 2022
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(50CA10単段アンプ・その9)

ある時期まで、日本で最も多くオーディオマニアに聴かれた真空管(出力管)といえば、
50CA10だったのかもしれない。

ラックスのSQ38シリーズでの採用、
MQ60、そのキット版のKMQ60でも使われている。

以前のステレオサウンドのベストバイでは、
読者の現在使用中の装置というアンケート結果が載っていた。

プリメインアンプでは、SQ38シリーズが一位だったことが続いていた。
そのころはパワーアンプでも、MQ60、KMQ60もけっこう高いところにランクされていた。

私がステレオサウンドにいたころ、井上先生は、
日本における真空管アンプの音の印象というのは、
ラックスのSQ38シリーズによって作られた、といってもいい──、
そんなことを何度かいわれていた。

あたたかくやわらかい音。
すべての真空管アンプに共通する音ではない。

真空管アンプでも、硬い音のアンプもあったし、あたたかくはない音もあった。
にも関わらず、日本では真空管アンプはあたたかくやわらかい音というのは、
やはりSQ38シリーズの影響がそうとうに大きい、といっていいだろう。

いうまでもなくSQ38シリーズ、MQ60に使われていたのが、50CA10である。

SQ38シリーズが製造中止になって、後継機種のLX38も製造中止になっても、
それまでにはかなりの数の、これらのアンプは売れていたのだから、
すぐに誰も使わなくなるということはなかったはずだ。

長い期間、これらのアンプの音は、日本の真空管アンプの音として現役だった。

いまでこそ50CA10を使ったアンプは聴いたことがない、という人が多いだろうが、
昭和の時代はそうではなかった。

だからといって、50CA10の単段シングルアンプを自作して、
そういう音を再現したいわけでもない。

Date: 8月 24th, 2022
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(50CA10単段アンプ・その8)

今回のアンプで流用する電源トランスには、
6.3Vのヒーター用巻線がついている。

電流容量も十分なので、6.3Vヒーターの出力管ならば、たいていのモノが使える。
EL34も使える。

50CA10よりもEL34のほうが、圧倒的には入手しやすい。
いまでもいくつかのメーカーがEL34を製造している。
古い時代のEL34も、少し高くなるけれど入手困難というほどではない。

ならば50CA10ではなく、
他の出力管(EL34など)で単段アンプを作った方が、楽になるところがある。

それでもヒーターが50Vという50CA10にこだわるのは、
最初に聴いた真空管アンプが、ラックスのLX38だということ、
そのLX38の音をいい音と感じてしまったことが、やはり大きい。

それに50CA10を採用したアンプで聴いているのは、ラックスのアンプしかない。
50CA10の音のイメージは、
私にとってはラックスの真空管アンプの音のイメージである。

それはそのままでもいいとは思っているけれど、
せっかく、こうやって私のところに50CA10のアンプが二台やって来たのだから、
自作アンプで、50CA10の音を自分なりに確認したいという気持が起ってきた。

それに武末数馬氏は、50CA10という出力管を高く評価されていたと記憶している。
でせ、だからといって、武末数馬氏のアンプに憧れたことは一度もなかった。

Date: 8月 23rd, 2022
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(50CA10単段アンプ・その7)

50CA10の規格表には、
自己バイアスのA級シングルの場合、
プレート電圧は250V、カソード抵抗は200Ω、
プレート電流は90mA(無信号時)〜95mA(最大出力時)、
負荷抵抗は1500Ωとなっている。

今回の単段アンプで使用(流用)する出力トランスは、
タンゴのU808である。

真空管アンプの自作に多少なりとも関心のある人ならば、
あぁ、あのトランスね、とすぐに思い浮べられるほどよく知られたモノ。

高価なトランスではなく、むしろ安価なトランスで、
ユニバーサル型を謳っていて、一次側は2kΩ、2.5kΩ、3kΩ、5kΩに対応しているが、
トランス本体にも表記してあるように、
一次側の巻線のタップを切り替えることでの対応ではなく、
二次側の巻線のタップをどう使うでの対応になるため、
2kΩと2.5kΩでは二次側は4Ωと8Ω、
3.5kΩと5kΩでは二次側は8Ωと16Ωの対応となる。

そういう出力トランスなので、50CA10の単段シングルアンプでは、
2kΩにして最初は作る予定である。

50CA10のプレート電流は、少し減らすつもりでいる。
70mAちょっとあたりを予定している。

50CA10が四十数年前のように、
安価で入手しやすい球であれば、90mA流すのもいいけれど、
中国でも製造していないのだから、
そしてまれに出てくる新品は非常に高価なのだから、
規格的には余裕を少し持たせたいからだ。

Date: 8月 22nd, 2022
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(50CA10単段アンプ・その6)

倍電圧整流にSiC SBDの採用。
これをやってみようと思ったのには、別の理由もある。

いま押入れで眠ったままのQUADのESL63proの存在だ。
いうまでもなくESL63proはコンデンサー型なのだから、高圧を必要とする。
そのための回路も倍電圧整流である。

50CA10のシングルアンプで、SiC SBDによる倍電圧整流が好結果をもたらしてくれたら、
ESL63proにも使えるはず、と考えているからだ。

SiC SBDを全面的に使用したコンデンサー型スピーカーの音も、
なかなかに興味深い。

もうどこかのメーカーが出しているのだろうか。
それとも、まだなのか。

Date: 8月 20th, 2022
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(50CA10単段アンプ・その5)

たとえばジャディスのJA200やマイケルソン&オースチンのM200のような、
大規模な真空管アンプを手がけるとしたら、
整流管ではなく私でも整流ダイオードを選択するであろう。

けれど私が作りたい真空管アンプは、そんな大規模なモノではない。
数十Wクラス、それも50Wを切るくらいの出力のアンプだから、
いくつかの理由から整流管を選択するのだが、
今回の50CA10は、流用する電源トランスが倍電圧整流が前提ということもあって、
それに巻線の関係もあって、整流管をあきらめざるをえない。

ダイオードで整流するわけだが、
せっかくだから、それに実験的なアンプでもあることから、
ダイオードには、SiC SBDを使う。

SiC SBDとは、シリコンカーバイド・ショットキーバリアダイオードのこと。
自作に関心のある人ならば、数年前から使っているだろうし、
関心を寄せているとも思う。

整流ダイオードの種類と、その音については、
いろんな意見があるのは知っている。

SiC SBDは絶賛する人がけっこういる。
でも否定的な人もいるといえばいる。

でも、ダイオードとしては高価なほうだが、
絶対的な価格としてはさほど高いわけではない。

うまくいかなければ、一般的なダイオードにすればいいし、
私自身、SiC SBDを試してみたいのだから、
今回の50CA10の単段シングルアンプでは、まずはSiC SBDで作る。
すでに注文済み。

Date: 8月 19th, 2022
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(50CA10単段アンプ・その4)

50CA10単段シングルアンプのシャーシーには、鈴蘭堂のSL8を考えている。
鈴蘭堂といっても、いまでは会社がなくなっているが、
タカチがSLシリーズを引き継いで製造してくれている。

タカチの型番はSRDSL8である。
SRDは、鈴蘭堂の略。

できればもっと小さなシャーシーがほしいし、
伊藤先生のアンプに憧れてきた私にとっては、シャーシーの高さが50mmであれば、
もっといいのに、と思うのだが、それでもタカチはいまも製造してくれている。
このことは、ありがたい。

SRDSL8のサイズは、W350×H58.2×D224.5mm。
まだシャーシーは注文していないが、
トランス類はすべて自作アンプから取り外して、
SRDSL8の天板と同じサイズの紙の上に並べている。

こうやって全体のバランスをおおまかに決めていく。
そして次は発泡スチロールを用意して、真空管を挿せるようにして、
こまかく配置を決めていく。

こんな地味なことから、始まっていく。

Date: 8月 17th, 2022
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(50CA10単段アンプ・その3)

50CA10単段シングルアンプの構想を練っていると、けっこう楽しい。
回路に関しては、すでに出来上っている、というか、
単段シングルアンプを作ろうと思った時点で、すでに出来上った、といえる。

あれこれ考えて楽しいのは、全体の構成である。
電源トランス、出力トランス、チョークコイル、
これらはすべて私のところにやって来た自作アンプから流用する。

私としては整流管を使いたいところなのだが、
電源トランスの巻線の関係で、それは難しい。
ならば電源トランスだけでも買ってくれば──、となるわけだが、
そうすると構想が膨らんでしまう。

もっといい電源トランスにしたのだから、
出力トランスも、とか、チョークコイルも、とかになってくるし、
それに個人的にタンゴのトランスの外観は好きではない。

ラックス、タムラ、タンゴが、私が真空管アンプに興味を持った頃、
日本のトランスメーカーとして名が知れているのは、この三つのブランドだった。

まだサンスイのトランスも現役だったはずだが、
ラジオ技術、無線と実験で見る製作記事では、これらのトランスが大半だった。

野暮ったいな、がタンゴのトランスに対する印象だった。
それはいまも変らない。

でも、そんなことを言っていては製作は進まなくなる。
だから、ここはタンゴのトランス類をそのまま使うことで、
とにかく作ることを優先したい。

シャーシーも市販のモノを使う予定だ。
シャーシーも特註したい気持はあるが、
そこまですると予算オーバーだし、製作が止ってしまう。

市販シャーシーにタンゴのトランス。
それで、どうまとめるかを考えていると、けっこう楽しい。

Date: 8月 15th, 2022
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(と取り巻いていること・その6)

ここ数年、ソーシャルメディアで目にすることが増えてきたのが、
球ころがし、である。
真空管は、比較的簡単に交換できる。
それにいくつかの真空管は、複数のブランドのモノが手に入る。

手軽に挿しかえられ、あれこれ試せる(楽しめる)。
その行為を、球ころがしという人たちが増えてきているように感じている。

本人たちは喜々として、球ころがしといっているのだろうが、
球ころがしは、土地ころがしから来ているとしか思えない。

土地を安い時に買っておいて、高くなったら売る。
その投機的行為のなかでも悪質なのを、土地ころがしという。

球ころがしなんて言っている人たちは、
土地ころがしの意味を知った上で使っているのか。
だとしたら、真空管の転売屋だといっているようなものである。

交換して音の違いを楽しんでいるだけなのであれば、
球ころがしなんて表現は使わない方がいい、と思う。

Date: 8月 13th, 2022
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(50CA10単段アンプ・その2)

単段アンプは回路図を描く必要すらない。
そのくらい簡単な回路である。

だからこそ、試してみたいことがある。
アースに関係することで、少し実験的なアースの配線をやってみようと考えている。

回路がそのくらい簡単だし、部品数もほんとうに少ないから、
試してみたいと考えてきたことを実験するにはちょうどいい存在でもある。

Date: 8月 12th, 2022
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(50CA10単段アンプ・その1)

別項「ラックス MQ60がやって来た」で書いているように、
50CA10の自作シングルアンプも一緒にやって来た。

電圧増幅管は6AQ8である。
まだ中は見てないのではっきりしたことはいえないが、
オーソドックスな回路構成であろう。

シングルアンプだから、MQ60よりも使用真空管は少ない。
けれど自作ということもあって、シャーシーのサイズはMQ60よりも大きい。

もっと小さく、ぎゅっとした感じにまとめなおしたい、
そんなことを入浴中におもっていた。

使われているタンゴのトランス類はそのまま流用して、
どこまで小さくできるか、とともに、どこまで回路を切り詰めていけるのか。

50CA10の単段シングルアンプに仕上げてみるのもおもしろいじゃないか。
ふとそう思いついた。

単段アンプは、1980年前後に、池田圭氏がラジオ技術に何度か発表されている。
これ以上、部品を削ることができないまでの回路構成である。

ラジオ技術では、他の筆者による単段アンプの製作記事も載った。
そのいずれも入力トランスを必要としていた。

けれど出力レベルの高いコントロールアンプがあれば、入力トランスも省ける。
この入力トランスは汎用のモノではなく、タンゴの特註品が多かったと記憶している。

入力トランスがなければ、さらにアンプのサイズを小さくできるし、
コスト面に関しても、出費が少なくて済む。
私の手元には、GASのTHAEDRAがある。

ラックスにはMQ60を無帰還アンプとしたMQ60Cがあった。
ということは50CA10単段アンプも無帰還でいける。

THAEDRAはもともと8Ω負荷で約3Wの出力を持つ。
50CA10の単段アンプの出力は、自己バイアスにするつもりだから5.5Wほどで、
THAEDRAの出力の二倍弱。
それでパワーアンプと呼べるのか、となると、むしろブースターアンプという感覚である。

手頃なシャーシーが見つかれば、すぐにも完成できそうな回路である。

Date: 8月 11th, 2022
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(と取り巻いていること・その5)

古くからのオーディオマニアの友人と話していて、
マッキントッシュの真空管パワーアンプでどれを選ぶ、という話題になったことがある。

彼はMC275も好きだけど、MC240も捨て難い、という。
その気持はわかるけど、私は、いま買うのであればMC275、と言った。

MC275とMC240、どちらがアンプとして優れているとか、
音が好みに合うとか合わないとか、そういうことではなく、
出力管の安定供給ということで、 MC275を私は、いまならば選択する。

MC275はKT88、MC240は6L6GCである。
真空管全盛時代に製造されたKT88、6L6GCを十分なストックしているという人ならば、
MC275、MC240、好きな方を選べるけれど、
どちらの出力管に関してもまったくストックしていない人ならば、
いまならばKT88のほうが、良質なモノが入手しやすい、というのが、
私がいまならばMC275を選ぶ、という理由だ。

いま流通しているKT88のすべてが良質とはいわないけれど、
PSVANEのKT88は信用できると感じている。

いまのところPSVANEのラインナップに6L6GCはない。

Date: 8月 9th, 2022
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(と取り巻いていること・その4)

ステレオサウンドにいたころ、あるメーカーの人に訊ねたことがある。
その人によれば、修理用の部品にも税金がかかる、とのことだった。
もちろん、それらの部品を保管する場所が必要だし、
部品を劣化させないためにも空調設備も必要になってくる。

製造したモノをいつまでも修理できるようにするのは、
そうとうにコストがかかる、ということだった。

上杉研究所は、ウエスギ・アンプに関しては、ユーザーは心配する必要がない。
素晴らしいことだけれども、これは上杉研究所の規模だから可能だった、ともいえる。

上杉先生は、真空管を十万本以上ストックされていた、と記憶している。
それだけの本数があれば、ウエスギ・アンプに関しては真空管の心配はなくなるけれど、
たとえばラックスの規模となると、そうではない。

50CA10が製造中止になるときに、ラックスは製造元のNECから十万本ほど購入している。
50CA10だけで、この本数である。

十分な数のように思った人もいるかもしれないが、
生産台数の桁が違えば、十万本のストックは底が尽きる。
実際、そうなってしまっているから、50CA10の新品の入手はまず無理である。

ちなみに50CA10を補修部品としてラックスから購入した場合、
1975年時点では、一本1,400円だった。
KT88が9,000円、6336Aが18,000円、EL34が1,200円(いずれも一本の価格)。

Date: 8月 9th, 2022
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(と取り巻いていること・その3)

上杉研究所の広告に、
《もし、一生安心して付き合えるアンプがあるとすれば……》、
というコピーが使われていた時期がある。

1970年代の終りのころである。
広告コピー本文には、こうも書いてあった。
     *
 大げさな言い方ですが、一生安心して付き合えるアンプがあるとすれば、それはどんなものだろうか、そんなことを考えながら、あれこれ試作を繰返しているうちにごく自然に固まったのが、これらの作品です。その意味では,よくもわるくも現代の消耗品的な発想から開発されたアンプとは、全く対照的です。決して新しいとはいえないが、それだけにまた古くもならない。──そんな製品が一つぐらいあってもいいじゃないか。という声に励まされて、商品化に踏み切りました。元はといえば、私自身のために設計したものばかりです。しかし最近では、人様に愛用していただくことの喜びを憶え、正直なところその方に魅せられています。
     *
上杉先生らしい文章である。
このころのウエスギの製品はU·BROS1(コントロールアンプ)、
U·BROS2(チャンネルデヴァイダー)、U·BROS3(パワーアンプ)だった。

U·BROS3はKT88のプッシュプルなのだが、出力は50W+50Wと、やや控えめに抑えられている。
KT88のプッシュプルといえば、マッキントッシュのMC275が75W+75W、
マイケルソン&オースチンのTVA1が70W+70W、ラックスのMB88が80Wの時代だった。

上杉先生は出力よりも製品寿命、真空管(KT88)の寿命を慮っての動作決定といわれていた。
そして上杉先生は、真空管のストックを、
ほぼ一生分といえるだけ確保してのアンプの商品化である。

ウエスギ・アンプには最初から生産台数が限定のモノがあった。
これらのアンプは出力管がやや稀少だったりするために、
メインテナンスに必要な分を確保した上での生産台数の決定であった。

ウエスギ・アンプを買えば、真空管に関しては安定供給してくれる、という安心があった。
だからこその《一生安心して付き合える》なのである。

このことも上杉先生らしい、と思う。
でも、だからといって、他のアンプメーカーに同じことを求めるのはどうかとも思う。

Date: 8月 8th, 2022
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(と取り巻いていること・その2)

パワーアンプから保護回路を取り外した音を、
ステレオサウンド時代に一度聴いたことがある。

もちろんメーカー製の、かなり高額なパワーアンプだった。
保護回路が音を悪くしている──、とは昔から言われつづけている。

だからジェームズ・ボンジョルノは頑なに保護回路をつけなかった。
そのためのリスクもとうぜんあるわけで、
最悪の場合、日本市場から徹底ということだって起りうる。

でも保護回路を外した音を聴いてしまうと、
ボンジョルノが譲らなかったのも理解できる。

売ってオシマイ、という商売のやりかたしかしないオーディオ店であれば、
音さえよければ、というアンプを、ためらいもなく売るであろう。

客も、そのアンプの音に満足していれば、それでも商売といえば商売なのだろう。
けれど、マッキントッシュのゴードン・ガウがいっていた、
「quality product, quality sales and quality customer」。
どれかひとつ欠けても、オーディオの世界はダメになってしまう──。

quality sales(クォリティ・セールス)は志をもつ販売店といいかえてもいい。
志もつオーディオ店は、満足だけでなく安心も、顧客に提供したい、と考えているはずだ。

満足と安心。
保護回路を外したアンプの音は、たしかに満足を与えてくれる。
けれど、安心はその分、というかかなり大きく損われる、ともいえる。

ボンジョルノのアンプが好きな私は、使ってきた。
The Goldも使っていた。

毎日、聴いていれば動作はそうとうに安定していた。
それでも何を思ったのか、何も考えてなかったのかとしかいいようがないが、
というよりも何も考えていなくても、そんなことはやらないのに、
その日は、なぜだかThe Goldの電源が入ったままで、
コントロールアンプの電源を落してしまった。

スピーカーを壊してしまった。
でも、これは完全な私のミスである。

The Goldの肩を持つわけではないし、
ボンジョルノの考えに100%賛同するわけではないが、
きちんと自分でアンプの調子を注意深く見ていけて、
場合によっては故障する前に劣化している部品を交換するくらいのことができれば、
ある程度の安心は、自分でなんとかできる。

とはいえそんなこと面倒だし、自分には無理、という人も少なくない。
そういう安心ではなく、手間いらずの安心。

故障しにくく、故障した際にもスピーカーを巻き添えにせず、
修理に出してもすぐに戻ってくる。
これも大事な安心であり、
このことを大事にするオーディオ店もあるわけだ。

Date: 8月 7th, 2022
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(と取り巻いていること・その1)

ラックス MQ60がやって来る(その7)」にfacebookでコメントがあった。

そのコメントには、
保守球の在庫保有についても配慮してほしい、というメーカーへの要望だった。

ラックスのLX380は、出力管に6L6GCを使っているが、
これはどうもロシア製のようだ。

いまラックスのウェブサイトをみると、
「真空管部品の交換修理について」というPDFが公開されている。

それによると6L6GCの在庫が切れているだけでなく、
今後の入荷予定が見えていないため、出力管に起因する修理は行えない、という内容だ。

おそらくとうぶん続くであろう。

1980年代、ステレオサウンドで働いていたころ、
地方のとあるオーディオ店は、
アンプはアキュフェーズかウエスギしかすすめない、という話をきいている。

どの店なのかも聞いているが、その店がいまもそうなのかはわからないので店名はふせておく。

この店がアキュフェーズかウエスギなのかは、安心して客にすすめられるから、
というのが大きな理由である。

この二つのブランドのアンプよりも音のいいアンプはあるけれど、
まず故障しにくいこと、それから故障した際の対応である。

それにアンプが故障した際に、スピーカーを巻き添えにしない、ということもある。

これらのことが音よりも重要なのか──、と首を傾げる人もいる。

あるオーディオ評論家が、アキュフェーズのラインナップでアンプを揃えられていた。
この人は、ホーン型を中心としたマルチアンプ駆動をやっていた。

この人のところに、あるオーディオ雑誌のえらい人が訪問した。
そのえらい人は、無遠慮に「なぜ、アキュフェーズなんか使っているんですか」と言った。

このえらい人が誰なのか、もちろんそのオーディオ評論家から聞いているから知っている。
確かに、そんなこと、いいそうだな、と思いながら聞いていたわけだが、
このオーディオ評論家がアキュフェーズで揃えているのは、
スピーカーユニットのことを第一に考えて、である。