Archive for category 真空管アンプ

Date: 5月 27th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その5)

三極管と五極管の電気特性の違いは、はっきりとある。
五極管を三極管接続にすることで、その電気特性の違いをまったくなくすことはできないにしても、
ある程度は近づけられる。

けれど三極管と五極管の違いは、電気特性だけではない。
三極管、五極管という言葉が表わしているように、真空管の内部構造の違いがある。
三極管よりも五極管の方がエレメント(電極)の数が少なく、構造もその分シンプルといえる。
このことは電気特性に関係するだけでなく、機械的共振の違いにも関係してくる。

真空管パワーアンプの初段管を指で弾くと、
入力信号はゼロであってもスピーカーから音は出る。
初段管のすぐ近くで、あっ、とか、わっ、といった大きな声を出せばそれを拾ってしまう。

真空管は構造上、この性質をなくすことはできない。
ならば内部構造がシンプル、つまりエレメントの数が少ない方が、
その影響は少なくなるという考え方もできる。

この機械的共振の影響は、三極管接続にしてもなくすことはできないし、
この機械的共振を含めて五極管の特質として捉えるのであれば、
五極管は三極管接続にせず、五極管接続、もしくはUL接続としたほうが、
わたしにとってはすっきりした使い方ということになる。

くり返すが三極管接続を否定はしない。
お好きな人はやればいい。
けれど、私は三極管接続は選ばないだけである。

Date: 5月 20th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(余談・KT120のこと・その2)

UL接続でもなく五極管接続を、私はKT120を使うのであれば選ぶ。
UL接続を嫌っているわけではなくて、
KT120という球の形からの印象として、なんとなく五極管接続が合いそうな気がする。
その程度の理由である。

五極管接続でポイントとなるのは、スクリーングリッドの給電である。
20年かもっと以前のことになるが、
無線と実験かラジオ技術で、
スクリーングリッドの給電を専用の電源トランスを設けて、という製作記事があった。

五極管の理屈からいっても、スクリーングリッドにかかる電圧は重要といえるから、
スクリーングリッド専用電源トランスという手法は、非常に有効であると考えられる。

これをやると電源トランスが最低でもふたつ必要になる。
でもスクリーングリッドに必要な電流はわずかである。
電源トランスの容量も大きなものは必要ではない。
もちろん整流回路、平滑回路がまた必要になるけれど、この手法は、ぜひ試してみたい。

専用電源トランスを用意しなくとも、
これまでのような安易な方法ではなく、充分な配慮のうえでスクリーングリッドに給電すべきである。

Date: 5月 19th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(余談・KT120のこと・その1)

「五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか」について書いていると、
いま五極管シングルアンプを作るとなったら、どんなアンプにするかも考えている。

いわゆるラジオ球を使って小さくまとめるのもいいけれど、
もし作るのでなあれば、しっかりと使えるアンプとしたい、という気持もある。

となると出力もある程度は欲しい。
300Bシングルアンプが約8Wだから、それよりも大きな出力としたい。
20W程度あれば、私の場合、十分である。

それからいくつかの条件がある。
あまり高価な球、入手がめんどうなモノは避ける。
それから出力管の寿命は長い方がいい。

他にも細かな条件はいくつかあるが、それらを勘案して選ぶとなると、Tung-SolのKT120となる。
マッキントッシュのMC275、マイケルソン&オースチンのTVA1、ジャディスのJA80などに使われたKT88、
それでもいいじゃないかと思うけれど、
あくまでも私個人の印象で裏付けは特にないのだが、どうもKT88という球は寿命が短いような気がする。

いま入手できるKT88はそうではないのかもしれないが、
以前のKT88に対する印象は、私の場合、そうである。

KT120という型番からもわかるように、KT88のプレート損失43Wをこえる60Wのビーム管である。
最大定格での動作時にはA級シングルで25Wの出力が得られる。
KT120の上にKT150という球もあるけれど、こちらは形が気にくわないので、
私にとってはKT120ということになる。

このKT120という球を、私は五極管接続で使う。

Date: 5月 19th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その4)

五極管シングルアンプをステレオ仕様で作ることを考えてみよう。
出力管は、いわゆるラジオ球と呼ばれるモノから、
もう少し出力が欲しければ6L6系列の球でもいい。
入手簡単だし、価格も真空管のブランドにこだわらなければ安価である。

だからインターネットでみかけた6L6のシングルアンプを初心者にすすめるのはわからないわけではない。
けれど6L6を出力段に使ったとして、どうするのか。

三極管ならば三極管として使う以外の方法はないが、
五極管は五極管接続の他に、UL接続、三極管接続がある。

私の勝手な想像だが、おそらく6L6系列の球でシングルアンプは、
三極管接続のような気がする。
五極管をわざわざ三極管接続にすることによるメリットは、
オーバーオールのNFBなしでも問題が特に生じない、ということだろう。
五極管接続のまま、出力トランスを含めたオーバーオールでのNFBをかけないと、
一般的にダンピングのきかいな低音になりがちである。
伊藤先生もいわれているが、五極管の場合、適切なNFBをかけることが必要となる。

三極管接続であれば、NFBなしでもいける。
同じ球であっても、五極管接続、UL接続、三極管接続では音が違ってくる。
どの接続の音をとるのかは人によって違ってくる。

ただ私は、五極管の三極管接続はやらない。
お好きな人はやればいいし、そのことを否定はしないが、
私自身は五極管を使っているのだから、五極管接続かUL接続ということになる。

初心者だったころから三極管接続に対して、なぜこんなことをするのだろうかという疑問があった。
なにかすっきりしないものを感じていた。
それから数年後、伊藤先生にいわれたことがある。
「三極管接続にはするな」と。

伊藤先生もそうなのか、とすっきりした。

Date: 5月 13th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その3)

真空管アンプにおけるトランスの配置はパズルのようなものである。
トランス(チョークコイルをふくめて)は、相互干渉の大きな部品である。
どんな部品でも周囲の影響を受けない、周囲に影響を与えないものはないけれど、
トランスはその中でもっとも大きな部品だけに頭を悩ます存在である。

いちばん確実で簡単な解決方法は十分な距離をとることである。
だがそれでいいアンプが作れるか、という問題が生れてくる。
音さえ良ければ無様なアンプでもかまわないという人であればそれでいいだろうが、
そんなモノを自分で使いたいとも思わないし、作りたいとも思わない。

そしてそんなバラック的なアンプを、初心者にすすめることだけはやってはいけない。

とにかくトランスの配置を考えていくのは、
重量バランス、振動のことも含めてのことだけに、けっこう楽しい作業といえる。

トランスの配置ということでは、初心者にむいているのはステレオアンプではなく、
モノーラルアンプである。
モノーラルにすることでシャーシがふたついるし、電源トランスもそうなる。
いくつかの部品がステレオアンプよりも余計に要り、その分コストもかかるから、
初心者向きとはいいにくくなってくるけれど、アースの処理も含めて、モノーラルのほうが作りやすい。

けれどインターネットでときおりみかける「五極管シングルアンプは初心者向き」は、
おそらくステレオアンプのことであり、モノーラルで作ることではないように受け取っている。

この点に関しても、「五極管シングルアンプは初心者向き」には何も触れていないのが多い、
というかほとんどである。
それに初心者向き五極管シングルアンプとは、
特定の製作記事のことを指しているのかも、はっきりとしていない。

ただ五極管シングルアンプは初心者に向いている真空管アンプだ、と書かれているのが多過ぎる。

五極管シングルアンプの回路構成はどうするのか。
電圧増幅段は一段なのか二段なのか、
NFBはどうするのか、かけるとしたらどの程度かけるのか、
出力管をどう扱うのか(五極管接続なのか、UL接続なのか、三極管接続なのか)、
これらの基本的なことにふれずに、
「五極管シングルアンプは初心者向き」が増殖していっているような感じを受けている。

Date: 5月 12th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その2)

伊藤先生が晩年、無線と実験に6V6のシングルアンプを発表された。
手持ちのアンプがなくなったため、手持ちの部品で作られたアンプを記事にされていた。

このアンプ、最初はハムが出た、とある。
伊藤先生ほどの真空管アンプのベテランでも、ハムが出てしまう。
しかもあれこれハムを止めるためにやってみたけれどおさまらない。
結局チョークコイルを後付けして止った、とあった。

このくらいのアンプならばチョークなしでも大丈夫だろうと横着した結果がこれである、
そんなことを書かれていたと記憶している。

シングルアンプはハムが出やすい、というよりも、チョークコイルなしではほぼ出ると考えた方がいい。
プッシュプルアンプであればチョークコイルなしでもハムが出ることは、
よっぽどまずい設計か、よっぽどまずい配線の引き回しでもないかぎりハムに悩まされることはほとんどない。

シングルアンプもチョークコイルを使えばハムに悩まされることはないわけだが、
チョークコイルを使うのは初心者向きなのかどうかと考える。

チョークコイルを使うと、ステレオアンプだと鉄芯をもつ部品が、
出力トランス(二個)、電源トランス、チョークコイルと四つ使うことになる。
この四つを、どう配置するのか。

左チャンネルと右チャンネルのそれぞれのトランスを、どう配置するのがいいのか。
シャーシの左右両端に離すのか、それとも見映えも考慮して二個並べて配置するのか。
その場合に、トランスの向きはどうするのか。

初心者向きのアンプでは、コアが露出しているタイプのトランスが使われることが多い。
だからこそトランスの配置、向きは最初に押えておかねばならぬポイントであるにもかかわらず、
まったく触れていない記事の多いこと。

Date: 5月 11th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その1)

ときおりみかけるのが、五極管シングルアンプ製作は、
真空管アンプを製作したことのない人にいちばんすすめられる、というのがある。
(ここでの五極管とはビーム管をふくめての意味で、便宜上三極管以外の出力管を五極管と書く)

その場合6L6系列の球をすすめられることが多いようだ。
こういうのをみかけると、時代がかわったのかなぁ、と思う。

誰だって最初は初心者だし、初心者向きのモノ・コトがあれば、
そこから始めれば失敗のリスクも低くなる。

私がそういった意味で初心者だったころ、
初心者向きの真空管アンプ製作といえば、プッシュプルアンプだった。

EL84(6BQ5)、6F6、6V6などの出力管のプッシュプルで、
電圧増幅管には五極管と三極管をひとつにまとめた複合管、
ECC82(12AU7)、ECC83(12AX7)などの双三極管を使い、
初段で増幅したあとにP-K分割の位相反転段という構成だった。
いわゆるアルテック回路、ダイナコ回路と呼ばれたものだった。

これだと片チャンネルあたり使用真空管は三本。
出力もそれほど大きくないから出力トランスも大型のモノを必要とはしないから、
アンプ全体もそれほど大きくならずに製作出来る。

真空管もポピュラーなモノだし、電源トランスも容量の大きなモノは必要としないから、
製作コストも高価になることはなかった。

私はいまでも初心者向きの真空管アンプ製作といえば、こういったアンプをすすめる。
私は少なくとも当時、シングルアンプは腕が上達してから挑戦するモノという感覚だった。

それはシングルアンプ・イコール・直熱三極管のシングルアンプというイメージがあったためでもあるが、
そういうイメージを抜きにしても、シングルアンプは初心者向きとは思えない。

いま五極管シングルアンプが初心者向きというのは、
どのあたりからどう変ってきて、そういわれるようになったのだろうか。

Date: 3月 1st, 2015
Cate: 真空管アンプ

真空管の美(その5)

物質の燃焼温度が高くなれば、火の色は変ってくる。
人があたたかみを感じる色は、比較的低い燃焼温度である。

1977年、アルテックは、コンプレッションドライバーの802-8Dのフェイズプラグを、従来の同心円状の形状から、
オレンジを輪切りにしたように、スリットが放射状に並ぶタンジェリン状のものに変更した802-8Gを出した。

このタンジェリン状のフェイズプラグの色はオレンジだった。
タンジェリン(mandarin orange)だから、オレンジ色にしたのであろうが、
この色が、アルテックの音の温度感を表しているともいえる。

フェイズプラグは通常の使い方では目にすることはない。
それでもアルテックは、あえて色をつけている。

アルテックのユニットはトランジスターアンプの普及にあわせて、
インピーダンスをそれまでの16Ωから8Ωへと変更している。
だから604-8G、802-8Gのようにハイフンのあとに続く数時はインピーダンスを表すようになっている。

型番の数字はトランジスターアンプとの組合せを推奨しているようにみえても、
フェイズプラグの色は真空管アンプとの組合せを推しているようでもある。

Date: 2月 28th, 2015
Cate: 真空管アンプ

真空管の美(その4)

ずっと以前、電気がまだなかったころ、
人類にとっての最初の灯は燃える火であり、
その火の灯に近いのが白熱電球であり、
真空管のヒーターが発する色である。

Date: 9月 11th, 2014
Cate: 真空管アンプ

真空管の美(その3)

Edのことは、別項ですでに書いている。
他の人が作ったアンプなら、そのアンプの出来が……、といえても、
伊藤先生が作られたアンプそのものを聴いているわけだから、
Edという真空管のもつ特質が、どういうものであるのかは掴めたといえよう。

その後で聴いた300Bのシングルアンプの音には、心底びっくりした。
こういう体験をしてしまうと、それまで古くさい形に思えていた300Bが、
実にいい形をしている、というふうに思えてくる。

誰がなんといおうと、真空管は見た目通りの音がしてくる。
Edからは300Bの音はしてこないし、300BからEdの音は鳴ってこない。

美という漢字は、羊+大である。
形のよい大きな羊を表している。

ということはEdよりも、他のどんな真空管よりも300Bの形は、まさしく「美」、
つまり形のよい大きな羊そのものに見えてくる。

300Bこそ、美という漢字を真空管という造形で表現した唯一のモノ。
いまはそうおもっている。

Date: 9月 11th, 2014
Cate: 真空管アンプ

真空管の美(その2)

真空管アンプを作る、Edのアンプを作る──、
そう決めていた私は、ステレオサウンドで働くようになってから、
無線と実験に発表された記事から回路図とEdの規格表、アンプの部品表、シャーシーの図面をコピーして、
それぞれを切り貼りしてレイアウトし、もう一度コピーをとったものを、
机の天板とガラス板のあいだに挿んでいた。

伊藤先生は、その後サウンドボーイにて、Edのシングルアンプを発表される。
無線と実験の記事はモノクロだった。
サウンドボーイの記事はカラーだった。

Edの美しさに、ますます惚れ込んでいた。

ただ気になることもいわれていた。
伊藤先生の一番弟子で、当時サウンドボーイの編集長だったOさんから、「Edは音がねぇ……」と。

Oさんの言葉を信じていなかったわけではないけれど、Oさんは300Bの人だった。
だから話半分できいていた。

Edのシングルアンプは、伊藤先生の仕事場で聴くことができた。
そこで伊藤先生の口から、Oさんとほぼ同じことを聞いた。
たしかにその通りだった。

そして伊藤先生の300Bシングルアンプの音を聴く。

Date: 9月 11th, 2014
Cate: 真空管アンプ

真空管の美(その1)

「五味オーディオ教室」から始まった私のオーディオは、
真空管への興味も同時に始まった。

最初に憶えた真空管はKT88。
五味先生愛用のマッキントッシュMC275の出力管だからだ。
その次に憶えたのはF2a-11。
ただしこれに関しては型番だけであり、いったいどんな真空管なのか、
1976年当時、私は知ることができなかった。

それからいろいろな真空管の型番と形と特徴を憶えていく。
その過程で、まさに一目惚れした真空管はシーメンスの直熱三極管Edである。

無線と実験に伊藤先生が発表されたトランス結合・固定バイアスのプッシュプルアンプで、
Edの存在を知り、こんなに美しい真空管は他にない、と思ったほどである。

Edの存在を知る前に、アメリカに300Bという真空管があるのは知っていた。
熊本では、当時300Bの実物を見ることはできなかった。
写真ではよく見ていた。

アメリカの直熱三極管300Bとドイツの直熱三極管Ed。
見た目だけで判断すれば、圧倒的にEdの方が、いい音がしそうに思えた。

それにST管と呼ばれる真空管の形状が、
懐古趣味的真空管の形のようにも思えて、Edの形はそういう要素が感じられない、ということも、
私には大きかった。

Date: 11月 16th, 2012
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(寒くなる季節をむかえて)

なかなか涼しくならないと秋だなと思っていたら、
11月にはいり、いきなり晩秋になった感じさえ受ける。

Twitterを眺めていると、寒くなってきたから、夏の間しまっていた真空管アンプをひっぱり出してきた、
という書込みがいくつかあった。

真空管アンプは暖房のかわりにもなることがある。
出力管がなんなのか、出力段の構成はどうなのかによって、
暖房の補助的にとどまるアンプ、積極的に暖房と呼びたくなるようなアンプなどがある。

出力管のヒーター(フィラメント)が仄かに灯るのは、寒くなる季節にむいている。
実際に暖かい(熱い)し、見た目もそうである。

でも大型送信管の211や845のトリウムタングステンフィラメントは、
個人的にどうも苦手である。
仄かに灯る、ではなく、煌々とまぶしい。

仄かに灯るのが暖炉の火を思わせるのだとしたら、
トリウムタングステンフィラメントは、夏のまぶしい太陽という感じさえするからだ。

Date: 3月 8th, 2012
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その81)

マランツのふたつのコントロールアンプ、Model 1とModel 7はモノーラルとステレオという違いだけでなく、
回路自体も異る面をいくつか持つ。

Model 1もModel 7もECC83を片チャンネルあたり3本使っている点は同じだが、
まずフォノイコライザー回路はModel 1は2段構成のNF型で、
つまり1本のECC83でフォノイコライザーは構成されているわけだ。
その後に1段増幅、CR型トーンコントロール、1段増幅、ラウドネスコンペンセーターときて、
1段増幅、ボリュウム(モノーラルだが2連タイプでフォノイコライザーのすぐ後にも入っている)、
最終段のみがカソードフォロアーとなっている。

ECC83(12AX7)は双三極管なので1本に2ユニットはいっていて、
それぞれのユニットをA、Bとすると、
Model 1ではモノーラルということもあり、信号はV1A、V1B、V2A、V2B、V3A、V3Bの順でいく。
カソードフォロアーはV3Bのみである。

Model 7になるとまずフォノイコライザーが2段増幅+カソードフォロアーという、3段構成になっている。
いわゆる3段K-K帰還型である。
トーンコントロールもModel 1のCR型からNF型へとなり、
この部分がラインアンプにあたり最終段はやはりカソードフォロアーである。
Model 1では1箇所だけだったカソードフォロアーがModel 7では2箇所になっているわけだ。
そして、いうまでもなくModel 7はステレオということもあって、信号の流れはModel 1のような順番通りではない。

Model 7では左チャンネルがCHANNEL A、右チャンネルがCHANNEL Bと表記されている。
左チャンネルの信号の流れを回路図で追っていくと、
V2A、V2B、V3A、V5A、V5B、V6Aとなっている。
右チャンネルはV1A、V1B、V3B、V4A、V4B、V6Bである。

まず気がつくのはV3とV6は内部の2ユニットをそれぞれ左右チャンネルに振り分けていることであり、
このV3とV6の2本のECC83がカソードフォロアーに使われている。

Date: 3月 6th, 2012
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その80)

往年の真空管アンプ・メーカーとしてマランツとマッキントッシュがある。
マランツの管球式コントロールアンプは2機種、モノーラル時代のModel 1とステレオ時代のModel 7。
マッキントッシュはAE2、C104、C108、C4/C4P、C8/C8P/C8S、ここまでがモノーラル機で、
C20、C11、C22、これらがステレオ機。
マッキントッシュはパワーアンプの機種数もマランツより多いけれど、コントロールアンプの数もまた多い。

これらのコントロールアンプのヒーター用の電源回路の回路図を比較していこう。
マランツのModel 1とModel 7は基本的に同じ考えによって作られている。
Model 1はモノーラルでModel 7はステレオ仕様で、真空管の数とそのユニットの振分けによって、
少し異る点もあるが、3本のECC83をひとまとめにした上でヒーター回路を形成している。

マッキントッシュはというと、
モノーラル時代の機種はすべてのヒーターを並列接続している(C4以降は直流点火になっている)。
真空管はマランツと同じECC83(12AX7)を使っている。
ステレオ時代になると、C20はモノーラル時代と同じように並列接続(ただしモノーラル機とは少し違う)だが、
C11とC22ではマランツと同じように3本のECC83をひとまとめにする方式へと変更している。
これはマッキントッシュがマランツに倣ったのだろうか。

マランツのヒーターについて、もう少しだけ書いておこう。
Model 1はモノーラルだからECC83を3本使っている。
3本のECC83をフォノ入力からV1、V2、V3と回路図では表記されている。
Model 1のヒーターはV1のヒーターの両端にそれぞれV2、V3のヒーターを接続し、
V1のヒーターのセンターを設置している。
V2、V3のヒーターの片方は接続され、ここにヒーター電圧がかけられている。
V1、V2、V3のヒーターは三角形を描く形になっている(回路図上では三角形にはなっていないけれど)。

Model 7も同じである。
だだしModel 7はステレオ仕様で、双三極管であるECC83のユニットの振分けが必要となるところが、
モノーラルのModel 1とは大きく異る点で、そのことがヒーター回路のステレオ機としての工夫となっている。