五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その13)
ここまで書いてきても、私は五極管シングルアンプの製作が、
初心者向きとは思えない。
しかも6L6系の五極管を使ってのシングルアンプを、
初心者向きです、とすすめている発言を見ると、
この人は、ほんとうに自分でアンプを作ったことがあるのか、と疑いたくなる。
まさか作った経験もなしで、初心者向きと、初心者に対してすすめているのか。
作ったことがあるとしても、キットを一台程度だとしたら、同じようなものだ。
誰にも最初はある。
真空管アンプを自作しようとする場合も、必ず最初がある。
その最初のアンプに、どういうアンプを選択するのか。
伊藤喜多男先生が、以前いわれていた。
「最近では、いきなり300Bでアンプを作る人がいる」と。
でも300Bという真空管のよさを知るには、それ以外の真空管でのアンプ作りが求められる。
経験とはそういうものだ。
自作とは、本来そういうもののはずだ。
私は初めて作る真空管アンプならば、
(その1)で書いているように、
いわゆるラジオ球を使ったプッシュプルアンプをすすめる。
回路はアルテック回路、ダイナコ回路と呼ばれるものがいい。
電圧増幅管には五極管と三極管をひとつにした複合管が、アルテック回路では使われるが、
いまでは複合管の品質のいいものを探すのはたいへんだから、双三極管でいい。
初段で増幅して、P-K分割の位相反転回路、そして出力段。
使用する真空管は、片チャンネルあたり三本。
プッシュプルだからチョークコイルを省略してもいい。
月並ではあって、このアンプが初めて作る真空管アンプとしては向いている。
この選択を、6L6のシングルアンプをすすめるような人は、古い、というかもしれないが、
初心者向きに、古いとか新しいとかは重要なことだろうか。