真空管の美(その7)
現代の真空管アンプというイメージは、
懐古趣味ではない真空管アンプということなのだろうか。
いまアナログディスクブームと、一般でもいわれている。
そしてアナログディスクの音は、あたたくてやわらかい、
デジタルのように無機的でつめたくはない、
そんなこともいっしょにいわれることがある。
同じように、真空管アンプの音は、あたたかくてやわらかい、といわれることがある。
真空管のヒーターのともりぐあいが……、ということもいっしょに語られることがある。
井上先生が1980年代にいわれていたことは、
日本での、あたたかくてやわらかい、という真空管アンプの音のイメージは、
ラックスのSQ38FD/II(過去のシリーズ作も含めて)によって生れてきたものだ、だった。
他のメーカーが真空管アンプの開発・製造をやめていくなかにあって、
ラックスは真空管アンプを作り続けてきた。
SQ38シリーズだけでなく、コントロールアンプもパワーアンプも、
さらにキット製品でも真空管アンプを提供しつづけてきていた。
なにもSQ38FD/IIが当時のラックスの唯一の真空管アンプではなかったけれど、
真空管アンプといえばラックス、ラックスの真空管アンプといえばSQ38FD/II、
そのくらいSQ38FD/IIの存在は、大きいというより独自の感じがあった。
それだけに真空管アンプの音として、
SQ38FD/IIの音が浮んでしまうのは仕方ないことだったのかもしれない。
SQ38FD/IIがつくってきたあたたかくてやわらかい、
そういう音から離れた音の真空管アンプを、現代の真空管アンプというのなら、
おかしな話である。