Archive for category 真空管アンプ

Date: 8月 29th, 2017
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その18)

伊藤先生は、なにか特別な、アクロバティックな配線を駆使してアンプを作られているわけではない。
オーソドックスなやり方をひとつひとつ丁寧にこなされてのアンプ作りのように感じている。

ならば、サウンドボーイに載っている工程をひとつひとつ丁寧にじっくりとやっていけば、
同じアンプが作れるはずではないか、
そう思われる人は、伊藤アンプのどこを見ているのか、と問いただしたくなる。

同じようなアンプ、似たようなアンプは作れるだろう。
きちんと動作もするアンプは作れる。

けれど、あの佇まいは出せない、とおもう。

サウンドボーイの記事を作った担当者のOさんは、
伊藤先生の300Bシングルアンプを、デッドコピーした人である。
そっくり作るだけの腕を持っていたし、
岡先生のマランツのModel 1を見事にメンテナンスした人でもある。

そのOさんでも、伊藤先生のコントロールアンプは作れない、と悟り、
伊藤先生にお願いして作ってもらった、という話を本人からきいている。

そうだろうな、と思う。

伊藤先生のコントロールアンプも、特別なことは何もされていない。
空中配線などという、特殊なことは何ひとつない。

ひとつひとつの作業をきちんとこなしていけば、これも完成するはずである。
でも、それは理屈にしかすぎない。
理屈だけでは、伊藤先生のアンプはマネできない。

Date: 8月 29th, 2017
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その17)

上杉先生のKT88プッシュプルアンプはモノーラル仕様、
伊藤先生のEL34プッシュプルアンプはステレオ仕様。

まずこの違いがある。
この違いは、製作難度の違いに直結している。

けれど上杉先生のアンプと伊藤先生のアンプの内部をみたときに感じたことの違いは、
そういうことに関係しての違いではなかった。

伊藤先生の真空管アンプは、1977年ごろ、
無線と実験に発表されているEdプッシュプルアンプ(固定バイアスのほう)を見ている。
このアンプに、一目惚れした。

このEdのアンプはモノーラル仕様だった。
佇まいに、それまで見てきた自作の真空管アンプとは別モノなのを、中学生の私でも感じた。
その後に、さらに多くの真空管アンプを見てきたが、いまもこのおもいはかわらないどころか、
より強くなっていくばかりだ。

それでもEdのアンプは、もしかすると十年後、二十年後には、
同じモノが作れるのではないか、そうおもわせてくれるところもあった。

EL34のアンプは、まったくそういうところがなかった。
記事そのものの情報量は、圧倒的にサウンドボーイ掲載のEL34のアンプの方が多い。
無線と実験掲載のEdのアンプのほうは、モノクロの、細部のはっきりしない写真だった。

EL34のアンプは、丹念に読み、写真を見ていけば、学ぶことは実に多い。
気づくこともけっこうある。

記事では、伊藤先生は息をするようにワイアリングしてハンダ付けされているように見える。
日々の営みとして、あのアンプが完成されていく。
その境地に達することができないことを、そのときすでになんとなくわかっていたのかもしれない。

Date: 8月 28th, 2017
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その16)

以前のステレオサウンドには自作記事もときおり載っていた。
私が最初に買った41号には、上杉先生のKT88のプッシュプルアンプの製作記事、
45号には、このKT88のパワーアンプとペアとなるコントロールアンプの記事があった。

43号では、神戸明氏のスピーカーエンクロージュア(エレクトロボイスのBaronet)の製作記事、
その他にもいくつもの自作記事が載っていた。

41号のKT88のパワーアンプの記事は、
「リアルサウンド・パワーアンプをつくる」と題されていた。
43号のコントロールアンプの記事は、
「最新のテクノロジーによる真空管式ディスク中心型プリアンプをつくる」だった。

どちらも実体配線図がついていた。
シャーシー加工は初めての人、道具が揃っていない人にとっては、
けっこうハードルが高いだろうが、シャーシーはステレオサウンドが限定で販売していた。

なので、あとはハンダ付けを丁寧にやっていくのであれば、
ほぼ同じアンプが出来上る、ともいえる。
決して難しい、とは思わせない製作記事だった。

1980年代、ステレオサウンドにはサウンドボーイという弟分の月刊誌があった。
1981年8月号のサウンドボーイに伊藤先生のEL34プッシュプルアンプの記事が載った。

「伊藤流アンプ指南」とついていた。
副題には、
「誰でも作れそうなアンプの、やさしくない作り方」とつけられていた。
そして「心得篇」となっていた。

全ページカラーで、写真の点数も多い。
三号にわたって掲載されていた。
製作中の写真も多かった。これは有難かった。

いままでにない製作記事のつくり方でもあった。
でも、これは副題には「誰でも作れそうな」とあるが、
どうみても、そうではないことは、すぐにわかる。

Date: 8月 12th, 2017
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その15)

ここで書きたいのは、
先日別項『オーディオと「ネットワーク」(post-truth・その2)』で書いたこととかぶってくる。

何を求めて、真空管アンプを自作するのか。
結果という、いわば答だけを求めての自作をやる人が増えているのか。
少なくとも、そういう人は、伊藤先生がいわれたように最初から300Bで、ということになる。

最良の結果(答)のみが欲しいのであれば、
ラジオ球などのプッシュプルアンプを最初に、
それからステップアップしていく過程など、時間と手間と、費用の無駄ということになるだろう。

その過程をいやというほと経験しているからこそ、
300Bの優秀さ、それだけでなく有難味が心底わかるというものである。

昔はお金を出せば300Bが手に入るというわけではなかった。
ウェスターン・エレクトリックの製品、部品を手に入れたくとも、
入手困難というか無理という時代があった。

お金さえ出せば……、というふうになってきたのは、ここ二十年くらいではなかろうか。

なぜ自作をするのか。
その問いが理由といえよう。

問いを求めての行為だと、私はおもう。
もちろんそこには音という結果(答)もついてくる。

ついてくるからこそ、見極めてほしい。

Date: 8月 12th, 2017
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その14)

私がオーディオに興味を持ち始めた1976年よりも、
おもしろいことに、いまの方が真空管アンプを作っているメーカーの数は圧倒的に多い。
当然、真空管アンプ自体の数も増えている。

価格もそうとうに安いモノから、そうとうに高価なモノまではと、
以前よりもその差はそうとうに大きくなっている。

つまりいまの真空管アンプは、それだけ玉石混淆といえるわけで、
安いモノの中には、どうしたらこの値段で売れるのか、と考えてしまうほど安価なモノがある。

自作のメリットのひとつに、よく安く手に入れられる、ということが挙げられる。
これなど本当に疑問で、よくよく考えてみれば、安く手に入れられるわけでもない。

中国製の真空管アンプの安さは、自作の経験のある人からみれば驚きでもある。
秋葉原で売っている部品を、安価な部品だけで揃えたとしても、
あそこまで安く仕上げられるわけではない。

もっとも中国製真空管アンプの中に、真空管は飾り(ヒーターだけ点火している)で、
実際の増幅はOPアンプ、パワーICというモノもある、ときいている。

そんな見せかけだけの真空管アンプは別として、
ただ真空管アンプを安く手に入れたいのであれば、
自作するよりも中国製を買った方がいい、ともいえる。

ここは昔とは違ってきている。
そういう状況の中で、初心者が真空管アンプを自作することの意味を、
6L6を使った五極管シングルアンプ製作は初心者向き、とすすめる人は、
どう考えているのか、それともまったく考えていないのか。

自作するのは、自分だけのモノが手に入る、という人がいる。
確かに設計から製作まで行えば、その人だけのモノといえるが、
ここでテーマにしているのは初心者が初めて製作する真空管アンプである。

Date: 8月 12th, 2017
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その13)

ここまで書いてきても、私は五極管シングルアンプの製作が、
初心者向きとは思えない。
しかも6L6系の五極管を使ってのシングルアンプを、
初心者向きです、とすすめている発言を見ると、
この人は、ほんとうに自分でアンプを作ったことがあるのか、と疑いたくなる。

まさか作った経験もなしで、初心者向きと、初心者に対してすすめているのか。
作ったことがあるとしても、キットを一台程度だとしたら、同じようなものだ。

誰にも最初はある。
真空管アンプを自作しようとする場合も、必ず最初がある。
その最初のアンプに、どういうアンプを選択するのか。

伊藤喜多男先生が、以前いわれていた。
「最近では、いきなり300Bでアンプを作る人がいる」と。
でも300Bという真空管のよさを知るには、それ以外の真空管でのアンプ作りが求められる。
経験とはそういうものだ。

自作とは、本来そういうもののはずだ。

私は初めて作る真空管アンプならば、
その1)で書いているように、
いわゆるラジオ球を使ったプッシュプルアンプをすすめる。
回路はアルテック回路、ダイナコ回路と呼ばれるものがいい。

電圧増幅管には五極管と三極管をひとつにした複合管が、アルテック回路では使われるが、
いまでは複合管の品質のいいものを探すのはたいへんだから、双三極管でいい。

初段で増幅して、P-K分割の位相反転回路、そして出力段。
使用する真空管は、片チャンネルあたり三本。
プッシュプルだからチョークコイルを省略してもいい。

月並ではあって、このアンプが初めて作る真空管アンプとしては向いている。
この選択を、6L6のシングルアンプをすすめるような人は、古い、というかもしれないが、
初心者向きに、古いとか新しいとかは重要なことだろうか。

Date: 7月 30th, 2017
Cate: 真空管アンプ

真空管の美(その7)

現代の真空管アンプというイメージは、
懐古趣味ではない真空管アンプということなのだろうか。

いまアナログディスクブームと、一般でもいわれている。
そしてアナログディスクの音は、あたたくてやわらかい、
デジタルのように無機的でつめたくはない、
そんなこともいっしょにいわれることがある。

同じように、真空管アンプの音は、あたたかくてやわらかい、といわれることがある。
真空管のヒーターのともりぐあいが……、ということもいっしょに語られることがある。

井上先生が1980年代にいわれていたことは、
日本での、あたたかくてやわらかい、という真空管アンプの音のイメージは、
ラックスのSQ38FD/II(過去のシリーズ作も含めて)によって生れてきたものだ、だった。

他のメーカーが真空管アンプの開発・製造をやめていくなかにあって、
ラックスは真空管アンプを作り続けてきた。
SQ38シリーズだけでなく、コントロールアンプもパワーアンプも、
さらにキット製品でも真空管アンプを提供しつづけてきていた。

なにもSQ38FD/IIが当時のラックスの唯一の真空管アンプではなかったけれど、
真空管アンプといえばラックス、ラックスの真空管アンプといえばSQ38FD/II、
そのくらいSQ38FD/IIの存在は、大きいというより独自の感じがあった。

それだけに真空管アンプの音として、
SQ38FD/IIの音が浮んでしまうのは仕方ないことだったのかもしれない。

SQ38FD/IIがつくってきたあたたかくてやわらかい、
そういう音から離れた音の真空管アンプを、現代の真空管アンプというのなら、
おかしな話である。

Date: 7月 29th, 2017
Cate: 真空管アンプ

真空管の美(その6)

私がオーディオに興味を持ち始めた1976年よりも、
真空管アンプを作っているメーカーの数は増えている。

真空管アンプの新製品も、だからよく登場している。
安価なアンプではなく、本格的な真空管アンプの新製品が、である。

そういう真空管アンプの新製品が登場するたびに、
インターネットでもオーディオ雑誌でも、
現代の真空管アンプ、そういったことを書いて紹介する人が多い。

そんなありきたりな記事を目にするたびに、
何をもってして、現代の真空管アンプというのか、と、
そんな記事を書いた人に問いたくなる。

Date: 11月 14th, 2016
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その12)

真空管アンプは、いま世に溢れている、といっていい。
そうとうに高額で大掛かりな真空管アンプもあれば、
よくこの値段でできるな、
感心するというかあきれるほどの低価格のアンプ(おもに中国製)もある。

自作アンプもある。
技術系雑誌に掲載されているアンプもあれば、
インターネットで検索してヒットするアンプもある。

それこそアンプの数だけのレベルの違いが、見てとれる、ともいえる。

真空管アンプは、半導体アンプよりもトランス類の数が多くなる。
電源トランスはどちらにも共通しているが、
真空管アンプでは出力トランスが、ここでテーマにしている五極管シングルアンプでは不可欠である。

チョークコイルも不可欠とまではいえないものの、あったほうがいい。
それにしてもオーディオ雑誌は、なぜチョークトランスと表記するのだろうか。

少なくともこれだけのトランス類は必要で、
例えば単段アンプならば入力トランスも必要となる。

入力トランスを使わなくとも、
ステレオアンプならば、出力トランスが二つ、電源トランスが一つ、チョークコイルが一つとなる。
鉄芯のコアをもつものが、シャーシー上に四つ乗っている。

これらのトランス類は干渉し合う。
漏れ磁束がある、それに振動も発している。
重量もある。

トランスの影響はトランスだけが受けているわけではなく、
他のパーツも受けている。

メーカー製のアンプでも、雑誌に載っているアンプの中にも、
これらトランス類の配置に無頓着としか思えないモノがある。

トランス自体がシールドされていると、すぐにはコアの向きはわからないが、
シールドなしのトランスであれば、どの向きに配置しているのか、すぐにわかる。

なぜ、こんな配置に? というモノが少なくない。
なにも真空管アンプだけの話ではない。
スピーカーのネットワークのコイルの配置にも同じことがいえる。

高音質パーツを使いました、と謳っていながらも、その配置には無頓着。
そういうモノが少なからずある。

Date: 12月 1st, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その11)

五極管のシングルアンプも、凝った回路でなければ、
つまりアンプの教科書に載っている基本的な回路で製作すれば、
テスターがあれば調整はできる。

自分でシャーシー加工して作るのか、
それとも部品すべて揃っているキットを購入して作るのか、
どちらでもいい、とにかく丁寧にハンダ付けして配線に間違いがなければ、
アースもしっかりととっていれば、ほぼ間違いなく音は出る。

自分で作った真空管アンプから音が出る。
初めての製作であれば、これだけでも嬉しい。
私が中学一年のころ、初めて製作した電子工作は、
初歩のラジオに載っていた、暗くなるとLEDが点灯するというものだった。

部品点数は少なかった。
自分で部品を買いに行く。
いまのようにインターネットで簡単に注文できる時代ではなかった。

ハンダ付けができれば、すぐに完成するものだったけれど、
それでもハンダ付けが終り、配線の間違いがないことを確認して、
電池を入れて、どきどきしながら暗いところに持っていく。
実際にLEDが光ったのを見て、嬉しくなった。

そのころはどういう動作でそうなるのかはよく理解していなかった。
なんとなくの理解でしかなかったけれど、それでも自分で作ったものがきちんと動作するのを見るのは、
やはり喜びがある。

初めて作る真空管アンプが、さほど凝ったモノでなくとも、
そのアンプがきちんと動作してスピーカーを鳴らしてくれれば、作った人にしかわからない喜びはある。
初心者だからこそ味わえる喜びといえよう。

その喜びの次のステップをどうするのか。

Date: 11月 26th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その10)

ここまで書いてきたことをまとめておくと、
五極管シングルアンプ製作を初心者向きとするならば、
ステレオよりもモノーラルで作ることを、まずすすめる。

出力管は、誰もが知っているポピュラーな球であれば、どれを選んでもいいと思っている。
出力管は三極管接続では私は使わない。
五極管接続かUL接続のどちらかで使う。

EL34だったらUL接続にするし、6F6や6V6などは五極管接続で使う。
五極管接続かUL接続かは、選んだ真空管によって違ってくる。

電源は、私は整流管を使う。
それから五極管シングルアンプではチョークコイルも必要と考える。

チョークコイルなしで平滑コンデンサーの容量を相当に増やすことを考える人もいるだろうが、
私はチョークコイルを使った方が、すっきりとまとまると考える。

電圧増幅段はどうするか。
五極管だから増幅段は一段あれば十分なゲインが確保できる。
双三極管を使えば、それぞれのユニットを左右チャンネルに振り分けることで、
電圧増幅段に使う真空管は左右チャンネル合せて一本にできる。

ただしそうするにはステレオ仕様で作るしかない。
モノーラルで作るのであれば、片側のユニットをあまらせるか、
並列接続にするか、SRPPにするか、もしくは二段目をカソードフォロワーにするか、などがある。

EF86などの五極管を電圧増幅段に使う手もある。
だが、いま簡単に入手できる電圧増幅用の五極管のクォリティが、どうにも信用できない。

ではどうするのか。
入力にトランスをもってきて電圧増幅段を省略してしまうという、
いわゆる単段アンプ(出力段のみのアンプ)も考えられる。
これが回路構成としてもっとも簡単なのだが、
入力トランスにいいかげんなモノをもってきたら、台無しになる。
いいトランスは、決して安くない。

こんなふうに考えてきて、ここでの初心者は、
いったいどういう初心者なのだろうか、と考えてしまう。

オーディオの初心者で真空管アンプを作るのも初めて、という初心者なのか、
それともオーディオ歴は長いけれど、これまでアンプを自作したことはない、という初心者なのか。

どちらの初心者なのかということもそうだが、
この初心者が、真空管アンプを作ったあとにどうしたいのか、も無視できないことである。

Date: 11月 25th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その9)

オーディオは電気特性だけでは語れない。

井上先生は1980年代なかばごろから、
アンプもCDプレーヤーもメカトロニクスだ、といわれていた。
アンプとしての性能は回路構成だけで決るわけではない、
使用パーツによって決定されるわけではない。

電気的に関すること以外に、機械的要素も音には大きく影響している。
このことについては以前書いているし、
ステレオサウンドに井上先生が何度か書かれていることだから、詳しくはくり返さない。

ただひとつだけ例をあげておきたい。
DATが登場した時に、発売された各メーカーのDATのデッキ八機種を集めた記事が、
83号に載っている。井上先生が記事を担当された。

この試聴ではテープもいくつか用意した。
デッキの試聴が終り、デッキをある機種に固定して(確かにソニーだったはず)に、
テープの比較試聴になった。

このときいくつのテープを聴いたのかは忘れてしまった。
聴き終り、テープの音の印象について雑談していた。
すると井上先生が、「テープを振ってみろ」といわれた。

すぐには、何をいわれているのか理解できなかった。
とにかくテープをひとつずつ手に取って振ってみた。

するとメカニズムに起因するカチャカチャという音がする。
この音に各社ごとに違いがある。
言葉にすれば、どれもカチャカチャというふうになってしまうけれど、
実際に振ってみた時の音は、微妙に違う。

そして井上先生がいわれた。
「振った時の音と実際の音は似ているだろう」と。

たしかにそうだった。
DATはデジタル信号で録音・再生を行う。
そんなことで音が変化することはない──、そう考えがちになるけれど、
実際にはそうでないことは、こうやって試聴してみると、よくわかる。

テープといえども、メカニズムの音が影響してくる。
テープもまたメカトロニクスといえる。

真空管もそうである。
五極管を三極管接続して電気特性だけを三極管的にしてみても、
それはあくまでも電気特性だけである。

内部の機械的構造は五極管は、五極管接続、UL接続、三極管接続、
どれであっても五極管のままである。

Date: 6月 4th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その8)

コンデンサーは振動する部品である。
コンデンサー型スピーカーの原理からもわかるように、
コンデンサーの電極の振動を完全になくすことは無理なのではないだろうか。

そういう部品であるコンデンサーなのだから、同じ品種のコンデンサーであれば、
容量が違えば大きさが違ってくる。
容量が小さければサイズは小さくなるし、容量が大きくなれば直径が太くなり、長さも増す。

つまり電極のサイズが大きくなり、巻いてあるタイプでは巻数が違ってくる。
振動するものだから、電極のサイズと巻数の違いは、共振周波数の違い、モードの違いとなってくる。
そう考えるべきだろう。

小容量のコンデンサーと大容量のコンデンサーでは、機械的共振が違ってくる。
電気的特性の違いに、この機械的共振の違いが関係してくる。

それから電解コンデンサーは、けっこうフラックスを漏らしている。
1980年代にはいってからのパイオニアのオーディオ機器を内部をみると、
電解コンデンサーに銅箔テープを巻いてあった。

電解コンデンサーの周囲をぐるっと一周、
さらに電解コンデンサーの頭の平らなところには丸く切った銅箔テープが貼られていた。

これは自分のアンプやCDプレーヤーでも簡単に実験できることだし、
気にくわなければ銅箔テープを剥すだけで元通りになるのだから、いくつか試してみた。

音ははっきりと変化する。
どう変るのかは、簡単に試せることなので、興味のある方は自分の耳で確認してほしい。

ということはコンデンサーの容量とその使い方によって、
電気特性、機械的共振、フラックスの分布が、それぞれ変化しているわけだ。

だから小容量の点でンサーは応答速度が速い──、
というのは、五極管を三極管接続すれば電気特性が等しくなるから……、
というのと同じことである。

Date: 6月 2nd, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その7)

1990年代にはいってから、
アンプの電源部の応答速度がオーディオ雑誌で活字になることが増えてきた。

たいていは大容量の電解コンデンサーよりも小容量のコンデンサーを使った方が、
応答速度の速い電源部がつくれる、とか、
そのことでアンプの音も、いわゆるハイスピードといわれる音となる、
そんな感じのことがいわれ出してきた。

ゴールドムンドのパワーアンプが話題になるとともに、
このこともよくいわれるようになってきた、と私は記憶している。

そのころラジオ技術で、コンデンサーの充電・放電の速度を測定したデータが載った。
確かに同品種のコンデンサーで測定すると、
大容量よりも小容量のほうが早いことは確かである。

その差はわずかとはいえるけれど、差があることは事実である。
それかどの程度聴感上影響しているのかははっきりとしたことはいえない。

大容量のコンデンサーよりも、小容量のコンデンサーを多数並列接続した方が、
応答速度の速い電源部はつくれるのかもしれない。
けれどリップル率を考えると、ある一定の容量はどうしても必要となり、
小容量ならばその容量を満たすまで並列接続することになる。

並列接続するためには配線が必要となる。
大容量のコンデンサーをひとつ使うのと、
小容量のコンデンサーを並列接続するのとでは、後者の方が配線は長くなる。

配線が長くなれば、それ自体がもつインダクタンス成分により、
電源部の高域インピーダンスはわずかとはいえ上昇することにもなる。

大容量か小容量かは電気特性だけで判断していいのだろうか。
ここにも機械的共振を考える必要がある。

Date: 5月 31st, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その6)

ラックスは他のメーカーが真空管アンプの開発・製造をやめた時代にも、
真空管アンプの新製品を発表していた。

プリメインアンプのSQ38はロングセラーモデルとして、
ラックスの顏ともいえる存在でもある。

SQ38は三極管を使ったプリメインアンプとして登場した。
最初のモデルは6RA8が使われていた。
1968年に登場したSQ38Fから50CA10に変更になり、それ以降使われていた。

SQ38は世界初の三極管使用のプリメインアンプということだった。
確かに6RA8も50CA10も三極管といえばそうなのだが、
構造をみればわかるようにスクリーングリッドが存在し、内部で三極管接続した多極管である。

50CA10と同じようにラックスとNECが共同開発した8045Gがある。
ラックスのパワーアンプにMB3045に使われている。
この8045Gも三極管を謳っているが、内部で三極管接続している。

それぞれの真空管の特性はたしかに三極管といえるわけだが、
内部構造は多極管であり、構造からくる機械的共振は三極管のそれではなく多極管のそれである。