Archive for category 真空管アンプ

Date: 8月 8th, 2018
Cate: 真空管アンプ

BOSE 901と真空管OTLアンプ(その3)

これまで何度か書いているように、
MC275で901を鳴らしたことがある。
901のほかにアポジーのカリパーのCaliper Signatureも鳴らした。

CDプレーヤーを直接MC275の入力に接続して、
レベルコントロールはMC275についている機能を使っての音出しだった。

記事にはなっていないが、井上先生の試聴だった。
試聴というより、楽しみで聴いていた。

MC275にC22を組み合わせるのもいいだろうが、
こうやって聴くことでMC275のフレキシビリティが確認できた。

MC275は色の濃いアンプだと思われている。
確かにそういうところはあるが、それでも柔軟性が、このアンプには充分に備わっている。

Caliper Signatureを、当時のアメリカの物量投入型のアンプのように、
鳴らしきるわけではない。
そんな鳴らし方には向かないが、Caliper Signatureにしても901にしても、
それぞれのスピーカーのいいところはきちんと出してくれる。

Caliper Signatureの音も良かった。
それ以上に901の音に、私は惹かれた。

フルレンジユニットと真空管アンプはよく合うんだなぁ、
そういえばステレオサウンド別冊のHIGH TECHNIC SERIESのフルレンジ特集号でも、
アルテックの755E、シーメンスのCoaxial、フィリップスのAD12100/M8を、
マランツの510MとマッキントッシュのMC275で鳴らす、という記事があったことも思い出す。

その音はしなやかだった。
アンプの音色は違うけれど、ここにフッターマンのOTL4を持ってきたら──、
そんなこともちょっと思いながら聴いていた。

OTL4にCaliper Signatureは無理だろうが、901ならいける。
これは聴いてみたかった、いまも聴いてみたい組合せである。

Date: 8月 7th, 2018
Cate: 真空管アンプ

BOSE 901と真空管OTLアンプ(その2)

メーカー製のOTLアンプにどんなモノがあったのかは、知識だけはあった。
テクニクスの20Aに、フッターマンのH1とかH3、それからラックスのMQ36などである。

MQ36は、ちょうど私がオーディオに興味をもつころくらいに製造中止になっている。
そのころエトーンのOTLアンプは現行製品だったけれど、
地方のオーディオ店でエトーンのアンプをみかけることはまったく期待できなかった。

私がきいた最初のOTLアンプは、
1980年代に復活したフッターマン・ブランドのアンプ群である。
それからカウンターポイントのSA4である。

これらのOTLアンプは、高インピーダンスのスピーカーを要求しない。
8Ωのスピーカーをあたり前のように鳴らす。

もっともカタログに発表されているスペックをみると、
8Ω負荷よりも16Ω負荷の方が出力は増加するのは、
真空管OTLアンプに共通するところであるが、だからといって特に留意することもなかった。

アンプとしてはカウンターポイントのSA4がフッターマンよりも優秀と感じたが、
個人的にはフッターマンのステレオ仕様のOTL4が、
私が勝手にイメージしていた真空管OTLアンプの音にもっとも近いところにあり、
好感をもったし、あと少しサイズが小さければ欲しい、と思ったほどだった。

そのころのステレオサウンドのリファレンスだったJBLの4344を鳴らしきるには、
OTL4では力不足ともいえるし、ものたりなさを憶えてしまうから、
トップモデルのOTL1やカウンターポイントのSA4クラスを求めたくなるが、
ここまで鳴れば充分という気持になれれば、OTL4はほんとうに好ましいアンプだった。

当時のフッターマンの取り扱いはヤマギワだった。
あまり力を入れていなかったのか、いつのまにか消えてしまっていた。

そのOTL4の音を思い出すのは数年後、
BOSEの901をマッキントッシュのMC275で鳴らした時だった。

Date: 8月 7th, 2018
Cate: 真空管アンプ

BOSE 901と真空管OTLアンプ(その1)

真空管のパワーアンプには出力トランスは不可欠である。
このトランスの存在が、真空管アンプをおもしろくしていると捉えることもできるし、
トランスこそ厄介モノとして捉え、外すことを考えたのがOTLアンプである。

OTLはOutput Transformer Lessである。
日本では高城重躬氏、富田嘉和氏が1950年代始めごろから始められている。

OTLアンプの自作が盛んだったころは、
パイオニアやコーラルから200Ωのスピーカーユニットも出ていた、と聞いている。
通常の16Ω、8Ωのユニットの価格に10〜20%ほど上乗せすることで応じてくれていた、とのこと。

コーラルのロングセラーのトゥイーターH1には、400Ω仕様もあった。
ハイインピーダンスのユニットは、当然ながらコイルの巻数が増える。
これは絶縁層の体積の増加でもある。

そうなるとボイスコイルを含めた振動系の質量は増す。
そのため出力音圧レベルは、通常のインピーダンスのモノよりも低下する。
それにコイルの巻線も細くなるため、耐入力も低下する。

それでも日本のアマチュアで手先が器用な人は、
1.5kΩ、2kΩといったインピーダンスを実現した。
最高は5kΩで、当時のラジオ技術には、6V6シングルでのOTLアンプを実現した記事も載っている。
もう執念としかいいようがない。

こういったことを知った中高生のころ、OTLアンプに興味をもった。
とはいえ200Ω、400Ωのスピーカーユニットは、もう売られてなかったし、
ボイスコイルを巻き直そうとも考えはしなかった。

考えたのは、スピーカーユニットを直列に接続すればいいじゃないか、だった。
BOSEの901の存在が、そう考えたことに結びついている。

901は九本のフルレンジユニットすべてを直列接続している。
一本あたりのインピーダンスは0.9Ωと極端に低い。
これを九本直列接続することで、8.1Ωにしている。

ならば8Ωのスピーカーユニットを九本直列接続すれば、72Ωに、
16Ωならば144Ωになり、このくらいのインピーダンスになれば、
大がかりなOTLアンプでなくとも、実用になるのでは? と考えていた。

Date: 8月 6th, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管バッファーという附録(その10)

1980年代の終りに、マークレビンソンのコントロールアンプNo.26が、
プリント基板を一般的なガラスエポキシからテフロン製に変更したNo.26Sを出した。

プリント基板以外の変更点はなかった、と記憶している。
テフロン基板のNo.26Sは話題になった。
そのくらい音の違いは大きかった。

テフロン基板は音がいい、ともいわれていたようだ。
でも、自作したことのある人で、ガラスエポキシ基板を指で弾いた音を聞いている人ならば、
テフロン基板が音がいい、というよりも、
ガラスエポキシ基板の音が悪いことを知っているのではないか。

私はテフロン基板の電気特性よりも、
このガラスエポキシ基板のいやな音がしないからこその音の違いではないかと思っている。

つまり半導体アンプでも、部品が取り付けられているプリント基板によって、
それだけ音の違いが生じる。
まして真空管は、よりその影響を受けやすい。

そこにガラスエポキシのプリント基板は、私だったら絶対に使わない。
聴感上のS/N比を、わざと悪くしたい人は使えばよい。

部品点数の多いアンプを、バラツキなく製造するということではプリント基板のメリットは大きい。
けれど真空管ハーモナイザーは、いわゆるアンプではない。
それがなけれは音が鳴らせないというモノではない。
あえて追加するものに、
しかもハーモナイザーと名付けているモノに、ガラスエポキシのプリント基板は、ない。

真空管ハーモナイザーを名のらせるのなら、
真空管の固定、つまりソケットをどこに取り付けるのか。
このことに無頓着であっていいはすがない。

Date: 8月 4th, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管バッファーという附録(その9)

真空管をいくつか交換してみてまず気づくのは、S/N比の変化である。
物理的なS/N比は、使用真空管によって違ってくる。

それに真空管ハーモナイザーを使うということは、使わない状態よりもS/N比的には不利である。
S/N比が向上する、ということはない。

その劣化をわずかでも抑えるために、よりノイズの少ない真空管を選別するという方法もあれば、
シールドケースを使う、という方法もある。

シールドケースは効果的に思っている人もいるようだが、
構造的にはむしろ使わない方がいいことが多い。

一般的なシールドケースは、真空管の頭をスプリングで押さえつける。
このスプリングが共鳴の元で、鳴っているし、
スプリングを使っているシールドケースは外側の金属ケースも、
指で弾くと安っぽい音がしがちだ。

この手のシールドケースを真空管にかぶせると、
中高域にイヤなキャラクターがのる。
あきらかに聴感上のS/N比が悪くなる。

実測すれば、シールドケースがきちんとシールドとして機能しているならば、
物理的なS/N比は若干向上しようが、機械的な雑共振のせいで、
聴感上のS/N比は、くり返すが確実に悪くなる。

探せばスプリングを使っていないシールドケースというモノもある。
以前、それについて書いているので、ここでは省略する。

この聴感上のS/N比の点からすれば、真空管ハーモナイザーに疑問がある。
なぜプリント基板の上に真空管が乗っているのか、と。

Date: 8月 3rd, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管バッファーという附録(その8)

真空管ハーモナイザーは、ネジを締めるだけとは半完成品である。
半完成品としたことで、これを購入した人は、
完成品を買うよりも、内部をあれこれいじってみよう、という気持になるであろう。

買った人のどのくらいなのかはわからないが、
真空管を交換してみよう、と思った人はけっこうな数ではないだろうか。

実際に交換した人はそこからは減るだろうが、それでも少なくはないだろう。
なにしろ真空管は一本だけだ。

これが三本も四本も使ったモノならば、話は違ってこようが、一本である。
しかもポピュラーな真空管である。

真空管の専門店に行けば、いくつかのブランドのECC82が売っている。
予算に余裕があれば、真空管全盛時代の未使用品も購入できる。

もっとも昔のテレフンケン、シーメンスのECC82として売っていても、
偽物も、残念ながら存在する。
よくいわれているダイヤマークにしても、1980年代から偽造されていた。

これだけでホンモノだ、と簡単に信用しない方が賢明だ。
結局、見分けるには、ホンモノを見て記憶するしかない。
もしくは、見分けられる人に頼むぐらいしかない。

それでも真空管はトランジスターと違い、差し替えが簡単である。
それに真空管のピン、ソケットといった接点のクリーニングも効果的である。
いろいろ試してみると、それだけで楽しくなる。

最初は一本だけだったECC82が、二本、三本……、と増えていくかもしれない。
もっといいECC82があるはず、と思うからだ。

気づくと、真空管ハーモナイザーの価格よりもずっと注ぎ込んでしまっていた……、
そういうことになった人もいよう。

Date: 8月 3rd, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(KT88プッシュプルとタンノイ・その2)

タンノイのスピーカーにはKT88のプッシュプルアンプ。
これには異論がある、という人は多いかもしれない。

私だって、乱暴な書き方なのはわかっていても、
ジャディスのJA80で鳴らしたGRFメモリーの音は、
もう聴く機会はない、と諦めていたグラドのSignature IIの音を、
もう一度聴くことが叶った、と思わせてくれた。

この音が、私にとって、タンノイにはKT88プッシュプルという組合せを、
決定づけてしまった。

もっと長い時間聴いていたい、と思わせる音ほど、
短い時間しか聴けなかったりする。
このときのタンノイとジャディスの音もそうだった。

もっと聴きたい、と思っていただけに、よけいに印象深い音として記憶されているのだろう。

マッキントッシュのMC275、マイケルソン&オースチンのTVA1、
ウエスギ・アンプのU·BROS3、ジャディスのJA80、
こうやって書き並べていくと、
アメリカ、イギリス、日本、フランスと国がバラバラなのに気づく。

ジャディスだけがモノーラルで、あとはステレオ機。
トランスと真空管のレイアウトも、それぞれ違う。
MC275とU·BROS3は似ていると思われるかもしれないが、
トランスの順序、内部配線の仕方を比較すると、違いは大きい。
それにTVA1とJA80はプリント基板による配線である。

この四機種を同時比較したことはない。
タンノイのスピーカーで比較試聴すれば、それぞれの違いははっきりする。
そうなると、これら四機種のKT88プッシュプルに共通して感じている良さは、
あくまでも個人的に感じている良さではあるが、それは否定されてしまうかもしれない。

それでも、あえて書けば、意外にもこれらのアンプのフレキシビリティは高い、と感じている。

Date: 7月 30th, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(KT88プッシュプルとタンノイ・その1)

「タンノイはいぶし銀か」を書き始めたところ。
タンノイの同軸ユニットにはフロントショートホーンが不可欠だ、と、
以前から書いていることをくり返している。

もうひとつ不可欠(フロントショートホーンほどではないが)といえるのが、
KT88のプッシュプルアンプである。

世の中に出ているすべてのKT88プッシュプルアンプを聴いて書いているのではない。
タンノイに接いで聴いているのは、マッキントッシュのMC275、
マイケルソン&オースチンのTVA1、ウエスギ・アンプのU·BROS3、
それからジャディスのJA80(これはパラレルプッシュプル)だけである。

けれど、このどれでタンノイを聴いても、よく鳴ってくれる。
真空管アンプの音が出力管だけで決るわけでないことは重々承知しているが、
それでもタンノイにはKT88プッシュプルだ、と口走りたくなるほど、
それぞれに魅力的、ときには魅惑的な音をタンノイから抽き出してくれる。

JA80で鳴らしたGRFメモリーの音は、フロントショートホーンがついていないけれど、
もうこれでいいのかもしれない……、
そんなふうなある種の諦観に近いところに誘われている感じさえした。

やや白痴美的な音でもあった。
CDで聴いていたのに、以前一度だけ聴いたことのあるカートリッジの音を思い出してもいた。
グラドのSignature IIである。

1979年に199,000円もしていたカートリッジで、
瀬川先生が熊本のオーディオ店に来られた時に持参されていた。

このカートリッジのことは、「ラフマニノフの〝声〟VocaliseとグラドのSignature II」で書いている。

甘美な音がしていたカートリッジだった。
私も、欲しい、と思った。
高校生にはとても手が出せない価格だったけれど。

Date: 7月 29th, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(ふたつのEL34プッシュプル・その4)

キットを出していたということでは、
ダイナコとラックスの対比ではないか、と思われるかもしれない。

私にもそういう気持はないわけではないのだが、
ラックスのEL34プッシュプルアンプというのは印象がとても薄い。

私がオーディオに興味を持ち始めたころのラックスの真空管アンプといえば、
プリメインアンプのSQ38FD/IIであり、登場したばかりの薄型のコントロールアンプのCL32、
パワーアンプではMB3045だった。

そのころキットでA3500がEL34プッシュプルで、出力はUL接続で40W、三極管接続で30Wだった。
1978年にはMQ70も登場した。
出力は45Wだった。
MQ70はA3500の完成品ではなく、レイアウトも違っていた。

どちらも私には印象が薄い、というか、存在が稀薄だった。

日本では真空管アンプを、
トランジスターアンプ全盛時代になっても造りつづけているメーカーとして、
ラックスは知られていた。

ラックス以外にも真空管アンプメーカーはあったが、
トランジスターアンプと真空管アンプの両方、それに会社の規模ということで、
ラックスが日本における真空管アンプの最後の砦的であった。

それでもラックスのEL34プッシュプルは、印象がなさすぎる。

Date: 7月 27th, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(ふたつのEL34プッシュプル・その3)

ダイナコとマランツの真空管アンプでは、
Mark IVとModel 5の対比も好き、というコメントがfacebookにあった。

Mark IVとModel 5の対比もありだな、と思っていたが、
実はMark IVは実機を見たことがない。
Model 5に関しても、みたことはあるけれど音は聴いたことはない。

とはいえ回路図、外観、内部を含めてインターネット上にはけっこうな数あるから、
特に音について書くわけではないから、
Mark IVとModel 5の対比でもなんら問題ないけれど、
Stereo 70とModel 8Bのほうが、私には身近な存在だけに、選んでいる。

ついでに書いておくと、ダイナコにはMark VIというモノーラルアンプもある。
ステレオサウンド 42号(1977年)の新製品紹介で登場している。

出力管に8417を四本使ったパラレルプッシュプルで、出力は120W。
ダイナコの真空管アンプとして初めての19インチラックサイズのフロントパネルをもち、
バイアスチェックをかねたパワーメーター、ラックハンドルがついている。

マランツのModel 9のプロ用機器版9Rを強く意識したような造りのアンプである。
Model 9は1960年に登場しているから、約20年経っての新製品Mark VIである。

ダイナコは真空管アンプにおいては、マランツの真空管アンプを、
どこか意識していたように感じる。

Date: 7月 27th, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(ふたつのEL34プッシュプル・その2)

その1)で、EL34のプッシュプルアンプとして、
マランツのアンプを真っ先に思い出す人は多い、とした。

マランツのアンプは、どれもEL34のプッシュプルだ(Model 9はパラレルプッシュプル)。
Model 2、5、8(B)、9。
ここで取り上げるのは唯一のステレオモデルであるModel 8(B)。

出力35W+35W。
アメリカには、もう一機種、出力35W+35WのEL34のプッシュプルのステレオアンプがある。
ダイナコのStereo 70である。

外形寸法はModel 8がW34.3×H18.4×D26.7cm、Stereo 70がW33.0×H16.5×D24.0cm、
そう大きくは違わない。

全体のレイアウトもシャーシー後方に三つのトランス、前方に真空管。
その真空管のレイアウトも、電圧増幅管を左右に二本ずつ配置した出力管で取り囲む。

とはいえ、細部を比較していくと、Model 8とStereo 70はずいぶん違うアンプだ。
まずStereo 70はキットでも販売していた。

Model 8もマランツのラインナップでは普及クラスとはいえなくもないが、
市場全体からみれば、そうではないのに対し、Stereo 70はダイナコの製品である以上、
はっきりと普及クラスのEL34のプッシュプルアンプである。

キットも出ていたStereo 70は、高価な測定器を必要としなくても、
ハンダ付けがきちんとなされていて、テスターが一台あれば完成できなければならない。
ちなみに1977年当時の完成品のStereo 70は89,000円、
キットのStereo 70は69,000円だった。

Model 8Bにもキットはあった。
1978年にModel 7とModel 9のキットが、日本マランツから出て好評だったため、
翌年にModel 8BKが出ている。

同じキットとはいえ、ダイナコとマランツとでは、意味あいが違う。

Date: 7月 23rd, 2018
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その22)

EL34はポピュラーな球だ。
マランツのパワーアンプに使われてきたことでも知られているし、
無線と実験、ラジオ技術でも自作アンプによく使われていた球だ。

とにかく扱いにくくない球だ、といえる。
ポピュラーな球だけあって、既製の電源トランスがそのまま使える。
電源トランス選び(外観を含めるとそれなりに苦労するけれど)に苦労することはほとんどない。

出力トランスにしても、同じだ。
特註しなければならないパーツを使う必要はない。

ソケットもそうだ。
市場に出廻っている球の中には、ソケットで苦労する場合がある。
珍しくてもそれほど高価でない球もあるが、そういう球の場合、
ソケットの方が球よりも高価だったりする。

EL34はオクタルソケットだから、そんな苦労はない。

こんなEL34を、不思議なことにマッキントッシュは一度も採用していない。
15W1は6V6、50W1と50W2は6L6G、20W2は6V6G、A116は6BG6、MC30は1614、MC60は6550、
MC240(MC40)は6L6GC、MC225は7591、MC275(MC75)はKT88/6550、
MC3500は6LQ6/6JE6Bである。

これだけの種類の出力管を使ってきていながら、EL34は一度も使っていないのは、
先にマランツが採用したからなのだろうか。

これには、マランツとマッキントッシュのあいだで暗黙の了解があったのだろうか。

マッキントッシュは三極管接続を採用していない。
EL34は三極管接続時のリニアリティの良さが知られている球でもある。
このへんにも、その理由があるのだろうか。

Date: 7月 22nd, 2018
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その21)

その19)で、
《他人(ヒト)とは違うのボク。》
と書いた。

スピーカーにしろアンプにしろ、自作の理由、大義名分は、
他人とは違うのボクを求めて、であって、これを否定できる人はいるのだろうか。

私だってそれはある。
その一方で伊藤先生のアンプそっくりのモノを作りたい、という気持があるのは、
まったく矛盾していない、と感じることもある。

伊藤アンプをそっくりに作れるようになったとして、
それのどこが「他人と違うのボク」ということになろうが、
伊藤アンプと呼べるアンプを作れるようになることこそが、
「他人とは違うのボク」といえるレベルになるということである。

真空管アンプを自作する人の中には、珍しい真空管、
手に入りにくい真空管、誰も使ってなさそうな真空管で、
アンプを構成することを楽しみにしている人がいる。

確かにこれも「他人と違うのボク」であり、もっともわかりやすい「他人と違うのボク」である。
そういう人にとっては、EL34のような球はポピュラーすぎて、
使う気にもならないのかもしれない。

真空管アンプで鳴らしています。
出力管は何ですか。
EL34です。
……。

こんな会話がなされているかもしれない。
EL34が出力管ということで、話が止ってしまうことだってある。
そのくらいEL34のアンプは多い。

EL34でも、マランツのModel 2、Model 9を使っている、といえば、
会話も別の方向に弾んでいくだろうが、
自作アンプとなると、そうでもなかったりしよう。

「他人と違うのボク」をEL34では満たさない──。
300Bの刻印ならば満たされるのか、Edならばいいのか。

Date: 6月 24th, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管バッファーという附録(その7)

ラックスは、D38u搭載の真空管のカソードフォロワーを、
バッファーとは考えていないようである。

D38uのウェブページには、
《真空管ECC82(12AU7)を使用したカソードフォロア回路によって適度な倍音成分を付加した艶やかな真空管出力》
とある。

バッファーとは、バッファーの後段に接続される負荷による影響を、
前段のアンプに与えないことであり、
そのための物理特性としては、高入力インピーダンス、
低出力インピーダンス、低歪、ローノイズなどであり、
バッファーを信号が経由することでの音質変化もできるだけ小さくする、
などである。

ラックスの場合、《適度な倍音成分を付加した》とあるから、
一般的なバッファーと捉えるべきではないし、
おそらく真空管ハーモナイザーという名称も、ラックスによるものだろう。

真空管を使った回路を信号が経由することで、
なんらかの色づけがなされる。
無色透明な回路というのは、真空管であろうとトランジスターであろうと、存在しない。

必ず何かが失われ、何かが加わる。
真空管ハーモナイザーは、何が加わることを積極的に活かそう、という意図のはずだ。

だが、そううまく《適度な倍音成分》が付加されるだろうか。
喫茶茶会記で、D38uの真空管出力の音は幾度となく聴いている。

audio wednesdayでは、毎月、少しずつセッティングもチューニングも変えている。
そこで、今回ならば、真空管出力の音は──、と思い実際に聴いてみても、
《適度な倍音成分を付加した艶やかな》音が得られるという感触はなかった。

前のめりではなく、ときにゆったりした気持と姿勢で音楽を聴きたいときであっても、
真空管出力の音は、もどかしさが加わり、むしろトランジスター出力のほうが、
そういう気分になれたりする。

Date: 6月 22nd, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管バッファーという附録(その6)

私がオーディオに興味を持ち始めた1970年代後半は、
バッファーアンプを搭載するプリメインアンプやコントロールアンプ登場の時期と重なっている。

普及クラスのアンプではバッファー搭載例はなかったと記憶しているが、
価格帯が上になればなるほど、国産アンプに関しては、バッファーをREC OUTに入れている。

REC OUT端子といっても、現在のアンプからはほぼなくなっているから、
若い人の中には知らない人もいる時代なのだろう。

REC OUT端子に接続されるのはテープデッキの入力である。
つまりテープデッキの入力インピーダンスが、REC OUTの負荷となる。

例えばアナログディスクをテープ録音する場合、
フォノイコライザーの負荷となるのは、テープデッキとラインアンプの入力インピーダンスの合成である。

フォノイコライザーの出力段が余裕をもって設計されていて、
十分に低い出力インピーダンスであれば、バッファーを特に必要とはしない。

けれど、そのころのフォノイコライザーの出力インピーダンスはそれほと低いわけでもない。
となると入力インピーダンスの低いテープデッキが接続されていると、
フォノイコライザーの負荷は重くなり、音質は劣化する方向へと動く。

端的な例を、五味先生がステレオサウンド 50号掲載の「五味オーディオ巡礼」で書かれている。
     *
もうひとつ業務用パーツとホーム用パーツをつなぐときこわいのは、インピーダンスの合わぬことで、以前、ノイマンの業務用パワーアンプを拙宅でつないだときもそうだった。最近プロ機のスチューダーC37を入手して、欣喜雀躍、こころを躍らせ継いでみたら、まったく高域にのびのない、鼻づまりの弦音で呆っ気にとられたことがある。理由は、C37は業務用だからマイクロホンの接続コードをどれ程長くしてもINPUTの音質に支障のないよう、インピーダンスをかなり低くとってあるため、ホームユースの拙宅のマランツ#7とではマッチしないと知ったのだ。かんじなことなので言っておきたいが、プリアンプとのインピーダンスが合わないと、単にテープの再生音がわるいのではなく、C37に接続したというだけでレコードやFMの音まで鼻づまりの歪んだ感じになってしまった。愕いてC37を譲られた録音スタジオから技術者にきてもらい、ようやくルボックスA700やテレフンケンM28Aで到底味わえぬC37の美音に聴き惚れている。
     *
C37は業務用テープデッキだから、入力はコンシューマー用とは比較にならぬほど低い。
そういう低い入力インピーダンスの機器が接続されては、
フォノイコライザーの負荷としては、そうとうに重くなる。

その結果が五味先生の場合では《まったく高域にのびのない、鼻づまりの弦音》である。

コンシューマー機器ばかりの時には、ここまでひどくなることはないといっていいが、
それでもREC OUTにテープデッキを接続するということは、大なり小なりそういうことである。