Archive for category 電源

Date: 3月 24th, 2010
Cate: 電源
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電源に関する疑問(その20)

電源に関しては、インピーダンスをできるかぎり下げること、
レギュレーションをできるかぎりよくしていくことが、音を良くしてことだと言われていたし、
何の疑問ももたずに、それを信じていた。

実際の製品(とくにパワーアンプ)では、大容量の平滑用のコンデンサー、
厚みのある銅版による配線などが採用されている。
この方向からすると、電源回路に直列に1kΩの高抵抗を挿入するのは、理屈に合わないことになる。
けれど、あのウェストレックスが、あえて、こんなことをやっているのに、なんらかの意味があってのことだろう。

しかもA10はチョークインプットだから、電圧降下は大きい。さらに1kΩの抵抗で電圧を下げる。
電圧に関しては、かなりの無駄の出る回路でもある。
さらに不要と思われる抵抗を使うわけだから、その部品の選定も重要になるし、
発熱も大きいから、伊藤先生のアンプではホーロー抵抗が使われていた。

ワッテージの低い抵抗にくらべて、ホーロー抵抗の音のイメージは、あまりよくない。
できれば使いたくない、とも思っていた。
それでも、1kΩの抵抗は要らない、と短絡的な結論を出すでなく、まず、なぜなのか、を、いちど考えてみた。

Date: 1月 11th, 2010
Cate: 電源

電源に関する疑問(その19)

伊藤先生製作の349Aのアンプには整流管は5AR4(GZ34)がささっていた。
それをウェスターンの274Bに差し換える。
出力管の349Aよりも、整流管のほうが大きく、堂々としている。
見た目のバランスの良さはくずれてしまったが、音の美しさは、はっきりと倍加した。

しかも音が歇んでいく様の美しさが、とくにきわだっていたことを、思い出したのだ。
あの音が欲しいのだ。

整流管として内部抵抗が低いのは5AR4のほうで、274Bは高い部類である。
つまり電圧降下が、内部抵抗の高い分だけ増えることになる。
つまりレギュレーションが悪くなる。にもかかわらず、音の美しさは増していく。

もちろん内部抵抗の違いだけでなく、電極の材質、作りの違い、ガラスの違いもあるだろう。
そういったもろもろのことが有機的に絡みあっての音の違いではあるとわかってはいるが、
その音の違いを思いだしながら、伊藤先生製作の349Aのアンプの回路図をもういちど見直していくと、
1kΩの抵抗の存在が、音が歇むときの美しさに、実は密接に関わっているような気がしてきた。

そうなってくると、いちど、伊藤先生の回路通りに、
ようするにウェストレックスのA10の回路を元にしたものをつくってみようと考えを改めた。

Date: 12月 9th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その18)

なにも、349Aのアンプが、はじめて聴いた真空管アンプではない。
それ以前にも、それほど数は多くないものの、主だったもののいくつかは聴いている。

管球式であることを、どちらかといえば悪い意味で意識するアンプはあった。
よい意味で、つよく意識したのは、349Aのアンプがはじめてだった。
最初は、349Aという、この小さな出力管のよさだと思った。
次に、これがウェスターンなのか、とも思った。

だから、349Aのアンプを自作しよう、と思った。
もっとも自作するしか、他に手はないのだが。
最初は、ウェスターンの資料を見ながら、どの回路構成にするか、迷っていた。
ウェストレックスのA10の回路を元にした伊藤アンプのデッドコピーをつくるという考えは、
なぜだかなくて、すこしでも、もっといい349Aのアンプをつくろうという欲があって、
他の回路に目移りしていた。

けれど、そんなとき、思い出したことが、あった。

整流管を274Bに交換した時の音、であった。

Date: 12月 8th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その17)

音が歇んでいく様の美しさに関係することでいえば、低音の透明感の違いも大きい。
ウーファーが鳴りやんでいなければならないときでも、
どこかしらざわざわして、落着きのない子供のように、じっとしていることができなかったのが、
349Aのアンプでは、息をひそめたかのように鳴りやむ。

こういう低音の鳴り方、質感は、それまで聴いたことがなかった。
MC2300の低音とも違うし、このとき比較したわけではないが、
別の場所、別の機会で聴くことができた、他のパワーアンプとも違う。
マークレビンソンのML2Lとも、SUMOのTHE GOLDとも違う。
トランジスター式のパワーアンプで、こういう低音の鳴り方に近い音を出してくれたのは、
スレッショルドの800Aだったように思う。

その800Aでも、記憶のなかでの比較になってしまうが、こうまで、
歇んだ静寂の美しさはなかったように思うし、
349Aのアンプによる静寂さには冷たさはなく、ぬくもりのようなものを感じられる。

だから、349Aのアンプにころっとまいってしまった。

Date: 12月 7th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その16)

伊藤先生製作の349Aプッシュプルアンプと、マッキントッシュのMC2300の違いで、
そのときの私にとって、いちばん大きな違いであり、決定的な違いだったのは、
気配の静けさだったように、いまふりかえってみると、思えてくる。

6畳ほどの、特に広くない部屋で、能率の高いJBLの2220Bと2440+2397の組合せ、
それも長辺方向に置いてあったので、スピーカーとの距離はかなり近い。

そういう条件下で聴いていると、MC2300の音の気配には、どこかざわざわしたものがついてまわる。
だから音が消えゆくときにも、ざわざわした気配が感じられ、物理的な音圧は減衰していっても、
聴感上、心理的な音圧はそれほどさがったようには感じられない。

349Aのパワーアンプのほうはというと、静かな気配がある。
だから物理的な音圧の減衰以上に、音が消えゆくように感じられたのではなかろうか。

Date: 12月 4th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その15)

ずっと以前、伊藤先生がつくられた、ウェスターンの349Aを使ったプッシュプルアンプを聴く機会があった。
無線と実験に発表された、そのものだ。

出力は8W。増幅部の回路構成は、ウェストレックスのA10と同じ。
電源部はチョークは使っていないが、直列に1kΩの抵抗が入っている点は同じだ。

このアンプの音は、静かだった。音が鳴り止むときに、このアンプの特長が発揮される。
がさついたり、よけいな付帯音がつきまとうことなく、すーっと消えていく。
その消え際の美しさに、はっとする。
こういう音の消えかたのするアンプは、それまで聴いたことがなかった。

それに低音の透明度の高さも、印象に残っている。

スピーカーは、JBLの2220Bに、2440+2397の組合せ。
マッキントッシュのMC2300で鳴らしたときの音は、なんども聴いていたから、驚きが増した。

MC2300は300W+300Wの出力をもつ。349Aプッシュプルアンプのほぼ40倍。
349Aのアンプは、持とうとすれば、2台まとめて片手でもてる。
MC2300は両手で持ち上げるのもたいへんな大きさと重量なのに、
どちらが、この高能率のJBLのスピーカーを巧みにドライブしたかというと、わずか8Wのアンプの方だった。

Date: 12月 4th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その14)

チョーク・インプット方式のパワーアンプには、ウェストレックスのA10がある。
このA10の電源部も、アンコール・パワーとはすこし違う意味で、また興味深い。

目を引くのは、直列にはいっている抵抗の、その値である。1kΩとなっている。
通常、電源部はレギュレーションをよくするために、そして音質向上の意味もあって、
できるかぎりインピーダンスを低くしようとする。
電源部の配線にプリント基板ではなく銅版を使うのも、そのためである。

なのにA10では、大胆にも1kΩという、
パワーアンプの電源にとっては──真空管式とはいっても──、大きなロスが発生する値にしている。

A10の出力段は350Bのプッシュプルで、A級動作。電流の変動は少ない。
だから1kΩの抵抗によって生ずる電圧降下は、出力に関係なくほぼ一定。
だからアンプの動作には問題ない、とはいえるものの、なぜこれだけ高い値の抵抗を直列に挿入するのか。
電圧のロスだけでなく、この抵抗が発する熱量もけっこうなものがあるというのに。

Date: 12月 4th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その13)

パフォーマンスで、パワーアンプではめったにやらない別電源という形態を採用しながらも、
アンコール・パワーでは同一筐体内に、電源部とアンプ部をおさめている。

なぜなのかを考えていくと、アンコール・パワーはチョークは採用していても、
コンデンサー・インプット方式なのかもしれないし、
チョーク・インプット方式でも、前に述べたように臨界電流をこえるまでは、
つまりある出力以下ではチョーク・インプットとして動作しないため、
チョークが発生する振動も小出力においては少ない、つまり影響も少ないものと思われる。

だからあえて一体化という手法をとり、
電源部を含めたアンプ全体のサイズのコンパクト化を目指したのかもしれない。

マークレビンソン、チェロのパワーアンプのなかで、アンコール・パワーは、
入力から出力までの配線の長さが、もっとも短いアンプであろう。
電源部まで含めて眺めても、もっともコンパクトなパワーアンプである。

アンコール・パワーはB級動作、チョーク・インプット方式の電源の組合せという、
頭の中でだけアンプを設計する者には考えつかない、ある意味、大胆さがある。

Date: 11月 22nd, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その12)

コイルは、電流量を変化させまいとする働きをもつ。
信号が流れていない状態から流そうとすると、それまでの状態を維持しようとする。流さないように働く。
反対に常時信号が流れている状態で、信号をとめてしまうと、やはりそれまでの状態を維持しようとする。

この性質をチョーク・インプット方式は利用している。
同じチョーク使用の電源でも、コンデンサー・インプット方式だとチョークコイルにかかる電圧は、
コンデンサーによって平滑された、ほぼ直流といっていいものだから、働きの違いが生じる。

この項の(その1)で書いたように、電流波形に着目すれば、チョーク・インプット方式を採用したくなる。
ただチョーク・インプット方式が、コイルの、上記の性質を利用しているということは、
動作の際にコイルからパルス性のノイズが発生していることでもある。

このことを考慮すると、チェロのパフォーマンスがチョークコイルを含めて、電源部を別筐体としたのは、
振動面の問題も含めて、うなずけることだ。

Date: 11月 22nd, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その11)

いいかえれば、チョーク・インプット方式は、電流変動の少ない回路、
つまりコントロールアンプ、A級動作のパワーアンプなどに向くものである。

B級動作のアンプに採用した場合、小出力時にはチョーク・インプット動作はしていない。
チョークコイルは、高周波カットの役目を果たしているだけだろう。
臨界電流値をこえた出力以上では、チョーク・インプットとして動作するものの、
そうなるとこんどは電源電圧が低下する。

出力段の電源電圧を、低下分を見込んであらかじめ高く設定してあれば問題はなさそうだが、
精神衛生上は、あまりいいものではない。

チェロの技術者だったコランジェロが、チョーク・インプット方式の電源の基本を知らないわけはないだろう。
とすると、それでもチョーク・インプット方式を採用するメリットが、音の面であったということだろうか。

Date: 11月 19th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その10)

アンコール・パワーの増幅部に関しては、納得がいく。
けれど電源部に関しては、どうしても腑に落ちないところがある。

たしかアンコール・パワーも、パフォーマンス同様、
チョーク・インプット方式を採用している、となにかの記事で読んだ記憶がある。

チョーク・インプット方式ではなく、コンデンサー・インプット方式のチョーク採用であれば疑問はないのだが、
チョーク・インプット方式となると、ひとつ大きな疑問がある。
B級動作はA級動作のアンプにくらべて、電流変動がひじょうに大きい。
つまりチョークを流れる電流も変動幅が大きいわけである。

チョーク・インプット方式の電源を設計したことのある人ならばおわかりだろうが、
臨界電流を考慮し、臨界電流以下ではチョーク・インプットとしては動作しないということである。

簡単にいえば、チョーク・インプット方式は、電流変動の少ない回路に向くものであり、
B級アンプの電源のように電流変動の大きいものには不向きだということだ。

Date: 11月 19th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その9)

A級動作とB級動作のどちらが、オーディオ用のアンプとして音が優れているか、ということは、
安易には判断できない。

A級アンプにはA級アンプならではの追求のしかたがあり、B級アンプにもB級アンプならではの追求のしかたがある。
どちらの方式にしても、徹底的にそのメリットを追求していけば、そこに共通する音の良さも存在すれば、
それぞれどちらかにしか存在しない音の良さも存在するものだろう。

アンコール・パワーの放熱器はL字型のアルミのアングルだけだった(手元に写真がなく記憶に頼るしかないが)。
シャーシー全体も放熱器として利用しているのであろうが、
こんなに簡単な放熱器のパワーアンプは、そう多くはないだろう。

振動面からいえば、音叉的な働きはほとんどないだろうし、
出力段のトランジスターから出る振動も、アイドリング時はかなり少ないはず。

パフォーマンスのあとの、まったく対照的なパワーアンプとして、
アンコール・パワーは実に興味深い存在ではある……。

Date: 11月 19th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その8)

配線を短くしたいと、あれこれ考えるのは、部品それぞれに異る大きさがあるからだ。
回路図上ではトランジスターも真空管も、抵抗もコンデンサーも記号としての大きさにそれほどの差はない。

それにコンデンサーにしても、電源用の平滑コンデンサーの大容量のものと、
位相補償用の、pF単位の小容量のコンデンサーとでは、記号の大きさは同じでも、まるっきり実際の大きさは異る。

それにやっかいなのは熱を出す部品もあり、熱に弱い部品もあるということ。
放熱器を大きくすることで、配線が長くなるのが問題ならば、
熱を極力出さないようにするというのも、ひとつの解決策であろう。

純B級と呼べるほど出力段のトランジスターに流すアイドリング電流を極力小さくすることで、
ほとんど放熱器をなくしてしまえば、配線の問題だけでなく、
パワートランジスターと放熱器の振動の問題も、かなりおさえられることになる。

スイッチング歪、クロスオーバー歪に関しては、高速な素子の使用、回路の工夫でなんとかできれば、
B級アンプならではの活かし方が生れてくるだろうし、
チェロのアンコール・パワーの内部を見ていると、そんなふうに思えてくる。

Date: 11月 4th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その7)

Aクラス動作のパワーアンプだと、発熱量がふえるために、
アンプの動作を安定化させるためにも、ヒートシンクは大型のものが必要となる。

アンプの内部温度が高くなると、故障の発生率も高くなる。
一般的に、電子機器の場合、筐体内部の温度が5℃高くなると、故障発生率は2倍になるときく。
だから放熱には、あまり神経質になることはないが、ある程度は気をつけたい。

発熱量が多いAクラス動作のパワーアンプには、
大型のヒートシンクを用意すれば、それで問題がすべて解決するわけではない。

大型のヒートシンクに出力段のパワートランジスターを取りつけると、
ドライバー段から出力段までの配線が必然的に長くなる。
30年ほど前の高域特性がそれほど伸びていないトランジスターならば、
それほど配線の自己インダクタンスは、それほど問題視されていなかったようだが、
1970年代のおわりごろから登場しはじめた高域特性の優れたパワートランジスター、
EBT(エミッター・バラスト・トランジスター)やRET(リング・エミッター・トランジスター)、
さらにもっと新しいパワートランジスターの性能を活かすには、ドライバー段と出力段の配線は極力短くしたい。

Date: 11月 4th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その6)

出力段のパワートランジスターは、小さいながらも、振動源のひとつである。
そしてヒートシンクは、一種の音叉的な役割をする。
だから薄いフィンの放熱器のパワーアンプだと、ダミー抵抗を接続して入力信号を加えると、
フィンが音楽信号に応じて鳴くのが、確認できることもある。

Aクラス動作のパワーアンプでは、出力トランジスターに、アイドリング電流をたっぷり流す。
つまり無信号時でも、このアイドリング電流によって、振動を発生させているとみていいだろう。< Bクラス動作では、無信号時では、ほとんどアイドリング電流は流れない。 つまりトランジスターの振動は、ごく小さいと思われる。 Aクラス動作とBクラス動作を比較すると、効率の面ではBクラス動作が優れているが、 スイッチング歪、クロスオーバー歪ということになると、原理的に発生しないAクラス動作ということになる。 だからといって、Aクラス動作のパワーアンプが、音の面で、 Bクラス動作のものよりもすべての面で優れているとは、決して言えない。