Archive for category 電源

Date: 4月 29th, 2012
Cate: 電源

電源に関する疑問(その25)

伊藤先生の349Aプッシュプルアンプは、初段がEF86で位相反転にはE82CCが使われている。
E82CCのカソードは結合されてはいるものの、いわゆるムラード型の位相反転ではなくオートバランス型である。

つまり+側の信号はEF86、E82CCという信号経路だが、
−側はEF86、E82CC、E82CCと信号経路としてE82CCを一段余計に通る。
NFBは+側のE82CCのプレートからEF86のカソードにかけられている。

ウェストレックスのA10も回路は同じで、
初段が6J7、位相反転6SN7、出力管が350B、という使用真空管の違いだけである。
伊藤先生の349AプッシュプルアンプはA10のスケールダウン仕様といえる。

でも、この回路構成が低音がボンつかない理由とはいえない。

349Aプッシュプルアンプは無線と実験に発表されたものだが、
実際に製作されたアンプと掲載されている回路図は多少異る点がある。
そのもっとも大きな違いは、出力トランスの1次側インピーダンスで、
無線と実験に載っている回路図、部品表ではラックスのCSZ15-8、
つまり1次側インピーダンスが8kΩということになっているけれど、実際に搭載されているのはCSZ15-10、
1次側インピーダンスが10kΩ仕様であり、
このことは低音がボンつかない理由に関係しているとは思えるものの、それほど大きな理由とは思えない。

このことは、しばらく疑問のままだった。
アンプの回路を信号部だけを見て考えていたままだったら、
いまでも、なぜだか低音はボンつかない、としかいえないままだったはずである。

アンプの回路は、信号部と電源部から成っている、という当り前すぎることを再認識すると、
ウェストレックスのA10、伊藤先生の349Aプッシュプルアンプは、
ビーム管、五極管を出力段に使いながらオーバーオールのNFBがかけられていないということと、
電源部に直列に1kΩの抵抗が挿入されていることは切り離せないことではないか、と気づく。

Date: 4月 28th, 2012
Cate: 電源

電源に関する疑問(その24)

向ったのは六本木にあるおつな寿司。
上杉先生は、ここのいなり寿司が好物だ、とこのとき聞いた。

上杉先生との食事は楽しかった。
いろいろな話があったが、さきほどまで真空管アンプを作られていたわけだから、
真空管、真空管アンプに関する話題が当然出てくる。

このときすでに349Aのプッシュプルアンプを作ろうと考えていたので、
たしかNさんが上杉先生にこのことを話されたので、こういう回路のアンプを作ろうと説明した。

上杉先生から返ってきたのは、「出力トランスからNFBはかけないんですか」だった。
出力管に五極管の349Aを、五極管接続で使用するのだから、上杉先生がそういわれるのはもっともである。
上杉先生の経験からも、どんな球であろうと、五極管、ビーム管をオーバーオールのNFBなしで使用したら、
低音がボンついてまともな音はしない、ということだった。

ステレオサウンドの製作記事のオルソンアンプもオーバーオールのNFBはかかっていない。
無帰還アンプである。出力管はEL34。五極管ではあるが、
オリジナルのオルソンアンプでは6F6を三極管接続している。上杉先生はEL34を三極管接続で使われている。

五極管、ビーム管を無帰還で使うのならば三極管接続するのが、いわば常識的にいわれていた。
上杉先生は、だから「三結にもされないんですか」ときかれた。「五極管接続です」とこたえた。
さらに伊藤先生の349Aのプッシュプルアンプでは、低音がボンつくことはなかったことを説明したものの、
上杉先生を納得させるだけの説明を、このときの私には無理だった。

私自身、なぜ伊藤先生の349Aプッシュプルアンプではそういったことがおこらないのか、
その理由がまったくわからなかったのだから、しょうがない。

349Aがウェスターン・エレクトリックの球だから、ということは理由にもならない。
コンデンサーや抵抗といった部品にいいものを使ったからも、この理由にはならない。
伊藤先生が作られたから、も、もちろん、その理由にはならない。

Date: 4月 28th, 2012
Cate: 電源

電源に関する疑問(その23)

上杉先生によるオルソンアンプの製作記事はステレオサウンド 64、65、66号に載っている。
65号には実際の製作過程が写真で載っていて、このときの撮影には立ち合うことができた。
目の前で上杉先生のアンプ作りを見ることができたのは、幸運だったと思う。

65号は1983年発行のステレオサウンドで、当時20の私よりもいまの私の方が、
つぶさに見れたことを幸運だと思っている。

完成品の内部を見る機会はいくらでもある。写真で見たり、実物の天板をとって中を覗いてみたりなどができる。
けれど、なかなかその製作過程を最初から最後まで見る機会はめったにない。

誌面上でどれだけ写真を多用して事細かに説明文をつけたとしても、
写真と写真のあいだにあったことを伝えるのは、まず無理だといっていい。

真空管アンプで、プリント基板を使わずに手配線によって製作していくには、
製作者の流儀といえるものがある。
その流儀は、上杉先生には永いアンプ作りから身につけられた流儀があり、
伊藤先生には伊藤先生の流儀がある。

このころから、私は真空管アンプに関しては伊藤先生の流儀をなんとか身につけたい、と思っていた。
だからといって、ほかのアンプ製作者の流儀が参考にならないか、というとそんなことはまったくない。
直にアンプが形を成していく過程をじっと見ていけば、そこから学べることはかなりのものがある、といっていい。

記事のためのアンプ作りなので、製作過程の要所要所で撮影をするわけで、
しかも撮影カット数は記事で使われている写真点数よりもずっと多い。
撮影のたびにアンプづくりの手を止められるわけではないが、
細かいところの撮影などで手を休めてもらうことになる。
だから、こういう記事のためのアンプ作りは、実際のアンプ作りよりもずっと時間を必要とする。

もう30年近く前のことだから、何時ごろから始まったのかは忘れてしまった。
憶えているのは撮影が終って(つまりアンプが完成したあとに)、
上杉先生とこの記事の担当者のNさんと三人で遅い食事に行ったことだ。

Date: 4月 27th, 2012
Cate: 電源

電源に関する疑問(その22)

ウェストレックスのA10にしても伊藤先生の349Aのプッシュプルアンプにしても、
出力トランスからNFBはかかっていない。
伊藤先生の349AのアンプはA10を範とした設計だから、
NFBのかけ方も同じで位相反転の+側出力を初段のカソードに戻している。

出力管に三極管を使った真空管アンプでは無帰還のものは少なくない。
けれど五極管、ビーム管を出力段に使ったパワーアンプでは、
ほぼすべてといっていいほど出力トランスの2次側から初段のカソードへとNFBがかけられている。

伊藤先生も五極管、ビーム管では適切なNFBをかけることが重要だといわれている。
にもかかわらず349Aのプッシュプルアンプには出力トランスからのオーバーオールのNFBはない。

一般的に五極管、ビーム管のオーバーオールのNFBなしのアンプだと、
低音が、いわゆるボンつくようになって聴けたものではない、と昔からいわれ続けている。
なのに私が聴いた伊藤先生製作の349Aアンプには、そういった傾向はまったく感じられなかったどころか、
むしろ低域のすっきりした透明感の高さに驚き、すっかり魅了されていた。

この349Aのアンプを聴いたとき、どういう回路になっているのかはまったく知らなかった。
聴いた後で、無線と実験に掲載された記事のコピーを、当時のサウンドボーイの編集長だったOさんにもらった。
そして、オーバーオールのNFBがないことを知った。

なのになぜ低音がボンつかないのか。
ちょうど349Aのアンプを作ろうと部品を集めていたころに、
ステレオサウンドで上杉先生がオルソンアンプの製作記事を発表された。
この記事はNさんの担当だった。
Nさんはウェスターン・エレクトリックの350Bのプッシュプルアンプを作ろうとしていた。
ふたりとも伊藤先生のアンプの世界に魅かれていた──。
そういう時期の、上杉先生のオルソンアンプの製作記事。ふたりで盛り上っていた。

Date: 9月 19th, 2010
Cate: 電源

電源に関する疑問(その21)

ウェストレックスのパワーアンプ、A10の出力管の+B電圧は270V(電圧増幅段は375V)。
それに対し電源トランスの2次側のタップは525V。整流管は5R4Gで前述しているとおりチョークインプット。
そして出力管用の電源ラインには1kΩの抵抗が直列にはいっている。

出力管(6L6Gもしくは350B)のプレート電流は一本当たり64mA。プッシュプルで128mA。
それにスクリーングリッド用の電流を含めると、1kΩの抵抗が介在することで約140Vの電圧降下が生じている。
ここで生じる発熱も大きい。だから1kΩの抵抗は50Wというかなり大型のものが使われている。

伊藤先生の349Aプッシュプルアンプは、電源トランスのタップは310V。整流管はGZ34。
こちらはコンデンサーインプットでチョークコイルは使っていない。

ここでひとつ訂正しておきたいことがある。
伊藤先生の349Aのアンプにも1kΩの抵抗が使われていると書いた。
たしかに無線と実験に掲載された回路図には、1kΩとある。
1kΩの抵抗にかかる電圧は、コンデンサーインプットだから380V。
349Aのプレート電流とスクリーングリッド用の電流、その2本分は64mA。
すると1kΩの抵抗での電圧降下分は64Vになり、380V−64Vでは、316Vになってしまい275Vよりも41Vも高い。
つまり1kΩではなく、1.6kΩだった可能性が非常に高い。

Date: 9月 13th, 2010
Cate: 電源

電源に関する疑問(続・余談)

電源トランスがこれだけ発熱している理由は、どうもここにあるな、と判断し知人の了解を得て、
120V仕様に変更してみた。つまり1次側巻線を並列にすることで、巻線ひとつあたりに流れる電流を減らせる。

そのアンプの電源電圧の変更は、電源トランス附近のプリント基板上で配線をやりかえるだけで簡単に行える。
もし結果が芳しくなくても、すぐにもとの100V仕様にもどせる。

該当アンプの電圧増幅部はICによるOPアンプ(5532使用)、電力増幅段にもゲインをもたせている。
まあ多少アンプ部にかかる電圧が低下しても、動作上ほぼ問題はないと,私なりに判断しての作業である。

120V仕様にして電源をいれる。ファンの速度も低速でまわっている。
10分経過しても、ファンの速度は変らず。つまり電源トランスの発熱がぐんと減っている。
1時間経っても、天板がほんのり温かくなるだけ。それまでの熱さはなくなった。

これだけ変われば、音もとうぜん変化している。
即断してもらうよりはしばらくこのままで聴いてもらい、
もし以前のまま(100V仕様)のほうがよかった、ということであれば、
すぐに元に戻すから、ということで引き上げた。

結果、知人はそのまま使っている。
電源電圧が低下したわけだから、多少出力の低下はある。
それでも聴いた感じでは、むしろ120V仕様を100Vで使った方が音の伸びに関しても良い、といっていた。
アンプの動作にも、なんら異状は出ていない、という。

今回の手法が、どの海外製アンプにも通用するわけではない。
電源電圧の低下でアンプの動作に多少なりとも異状をきたすものもあるだろうし、
音質面でも芳しくない結果になるアンプだってある。

だが電源トランスの発熱の多さが気になるアンプでは、
どういうふうに100Vに対応しているのか、を回路図が入手できて調べることができれば、
今回の手法で解決できることもあろう。

Date: 9月 13th, 2010
Cate: 電源

電源に関する疑問(余談)

1年ほど前ことになるが、知人からアンプのことで相談があった。
彼が使っているのは業務用のパワーアンプで、何に困っているかというと発熱だった。

スペックをみてもそれほどの大出力アンプではないし、
回路図が、そのアンプメーカーのウェブサイトからダウンロードできたので目をとおしても、
発熱に関しては、それほど問題にならないはず、と判断できたにもかかわらず、
実際に知人の使っているアンプは、電源をいれてわりとすぐに天板がけっこう熱くなり、
2段切替えになっているファンも常時フル回転している。

30分ほど動作させたあと、天板をとってヒートシンク、その他の箇所にさわってわかったことは、
この熱の発生源はヒートシンクよりも、電源トランスだったこと。

電源トランスがすぐに熱くなり、すぐ近くのヒートシンクにもその熱が伝わっていた。
不思議なのは、電源トランスがこれほど熱くなること。
回路図上で電源トランスまわりをみると、ひとつ気がついた。
このアンプは、電源トランスの1次側のタップの配線をなおすことで、100、120、220、240Vに対応できる。
知人のアンプは、とうぜん100V仕様になっていた。

一見問題ないように見えるのだが、
もうすこし気をつけると、100V時だけ、他の電源電圧時と仕様が異ることがわかる。
1次側の巻線は120V用のがふたつある。

そのうちのひとつの巻線に100V用のタップが出ている。
120V時には、このふたつの巻線を並列にしているし、220V時には直列に接続して100V+120Vで対応している。
240V時には120V+120Vで、240Vにしている。

つまりふたつの1次側巻線を、100V時だけはひとつしか使っていない。
この電源電圧では、並列にしろ直列にしろ、巻線はふたつとも使っている、その違いがあった。

Date: 3月 24th, 2010
Cate: 電源
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電源に関する疑問(その20)

電源に関しては、インピーダンスをできるかぎり下げること、
レギュレーションをできるかぎりよくしていくことが、音を良くしてことだと言われていたし、
何の疑問ももたずに、それを信じていた。

実際の製品(とくにパワーアンプ)では、大容量の平滑用のコンデンサー、
厚みのある銅版による配線などが採用されている。
この方向からすると、電源回路に直列に1kΩの高抵抗を挿入するのは、理屈に合わないことになる。
けれど、あのウェストレックスが、あえて、こんなことをやっているのに、なんらかの意味があってのことだろう。

しかもA10はチョークインプットだから、電圧降下は大きい。さらに1kΩの抵抗で電圧を下げる。
電圧に関しては、かなりの無駄の出る回路でもある。
さらに不要と思われる抵抗を使うわけだから、その部品の選定も重要になるし、
発熱も大きいから、伊藤先生のアンプではホーロー抵抗が使われていた。

ワッテージの低い抵抗にくらべて、ホーロー抵抗の音のイメージは、あまりよくない。
できれば使いたくない、とも思っていた。
それでも、1kΩの抵抗は要らない、と短絡的な結論を出すでなく、まず、なぜなのか、を、いちど考えてみた。

Date: 1月 11th, 2010
Cate: 電源

電源に関する疑問(その19)

伊藤先生製作の349Aのアンプには整流管は5AR4(GZ34)がささっていた。
それをウェスターンの274Bに差し換える。
出力管の349Aよりも、整流管のほうが大きく、堂々としている。
見た目のバランスの良さはくずれてしまったが、音の美しさは、はっきりと倍加した。

しかも音が歇んでいく様の美しさが、とくにきわだっていたことを、思い出したのだ。
あの音が欲しいのだ。

整流管として内部抵抗が低いのは5AR4のほうで、274Bは高い部類である。
つまり電圧降下が、内部抵抗の高い分だけ増えることになる。
つまりレギュレーションが悪くなる。にもかかわらず、音の美しさは増していく。

もちろん内部抵抗の違いだけでなく、電極の材質、作りの違い、ガラスの違いもあるだろう。
そういったもろもろのことが有機的に絡みあっての音の違いではあるとわかってはいるが、
その音の違いを思いだしながら、伊藤先生製作の349Aのアンプの回路図をもういちど見直していくと、
1kΩの抵抗の存在が、音が歇むときの美しさに、実は密接に関わっているような気がしてきた。

そうなってくると、いちど、伊藤先生の回路通りに、
ようするにウェストレックスのA10の回路を元にしたものをつくってみようと考えを改めた。

Date: 12月 9th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その18)

なにも、349Aのアンプが、はじめて聴いた真空管アンプではない。
それ以前にも、それほど数は多くないものの、主だったもののいくつかは聴いている。

管球式であることを、どちらかといえば悪い意味で意識するアンプはあった。
よい意味で、つよく意識したのは、349Aのアンプがはじめてだった。
最初は、349Aという、この小さな出力管のよさだと思った。
次に、これがウェスターンなのか、とも思った。

だから、349Aのアンプを自作しよう、と思った。
もっとも自作するしか、他に手はないのだが。
最初は、ウェスターンの資料を見ながら、どの回路構成にするか、迷っていた。
ウェストレックスのA10の回路を元にした伊藤アンプのデッドコピーをつくるという考えは、
なぜだかなくて、すこしでも、もっといい349Aのアンプをつくろうという欲があって、
他の回路に目移りしていた。

けれど、そんなとき、思い出したことが、あった。

整流管を274Bに交換した時の音、であった。

Date: 12月 8th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その17)

音が歇んでいく様の美しさに関係することでいえば、低音の透明感の違いも大きい。
ウーファーが鳴りやんでいなければならないときでも、
どこかしらざわざわして、落着きのない子供のように、じっとしていることができなかったのが、
349Aのアンプでは、息をひそめたかのように鳴りやむ。

こういう低音の鳴り方、質感は、それまで聴いたことがなかった。
MC2300の低音とも違うし、このとき比較したわけではないが、
別の場所、別の機会で聴くことができた、他のパワーアンプとも違う。
マークレビンソンのML2Lとも、SUMOのTHE GOLDとも違う。
トランジスター式のパワーアンプで、こういう低音の鳴り方に近い音を出してくれたのは、
スレッショルドの800Aだったように思う。

その800Aでも、記憶のなかでの比較になってしまうが、こうまで、
歇んだ静寂の美しさはなかったように思うし、
349Aのアンプによる静寂さには冷たさはなく、ぬくもりのようなものを感じられる。

だから、349Aのアンプにころっとまいってしまった。

Date: 12月 7th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その16)

伊藤先生製作の349Aプッシュプルアンプと、マッキントッシュのMC2300の違いで、
そのときの私にとって、いちばん大きな違いであり、決定的な違いだったのは、
気配の静けさだったように、いまふりかえってみると、思えてくる。

6畳ほどの、特に広くない部屋で、能率の高いJBLの2220Bと2440+2397の組合せ、
それも長辺方向に置いてあったので、スピーカーとの距離はかなり近い。

そういう条件下で聴いていると、MC2300の音の気配には、どこかざわざわしたものがついてまわる。
だから音が消えゆくときにも、ざわざわした気配が感じられ、物理的な音圧は減衰していっても、
聴感上、心理的な音圧はそれほどさがったようには感じられない。

349Aのパワーアンプのほうはというと、静かな気配がある。
だから物理的な音圧の減衰以上に、音が消えゆくように感じられたのではなかろうか。

Date: 12月 4th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その15)

ずっと以前、伊藤先生がつくられた、ウェスターンの349Aを使ったプッシュプルアンプを聴く機会があった。
無線と実験に発表された、そのものだ。

出力は8W。増幅部の回路構成は、ウェストレックスのA10と同じ。
電源部はチョークは使っていないが、直列に1kΩの抵抗が入っている点は同じだ。

このアンプの音は、静かだった。音が鳴り止むときに、このアンプの特長が発揮される。
がさついたり、よけいな付帯音がつきまとうことなく、すーっと消えていく。
その消え際の美しさに、はっとする。
こういう音の消えかたのするアンプは、それまで聴いたことがなかった。

それに低音の透明度の高さも、印象に残っている。

スピーカーは、JBLの2220Bに、2440+2397の組合せ。
マッキントッシュのMC2300で鳴らしたときの音は、なんども聴いていたから、驚きが増した。

MC2300は300W+300Wの出力をもつ。349Aプッシュプルアンプのほぼ40倍。
349Aのアンプは、持とうとすれば、2台まとめて片手でもてる。
MC2300は両手で持ち上げるのもたいへんな大きさと重量なのに、
どちらが、この高能率のJBLのスピーカーを巧みにドライブしたかというと、わずか8Wのアンプの方だった。

Date: 12月 4th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その14)

チョーク・インプット方式のパワーアンプには、ウェストレックスのA10がある。
このA10の電源部も、アンコール・パワーとはすこし違う意味で、また興味深い。

目を引くのは、直列にはいっている抵抗の、その値である。1kΩとなっている。
通常、電源部はレギュレーションをよくするために、そして音質向上の意味もあって、
できるかぎりインピーダンスを低くしようとする。
電源部の配線にプリント基板ではなく銅版を使うのも、そのためである。

なのにA10では、大胆にも1kΩという、
パワーアンプの電源にとっては──真空管式とはいっても──、大きなロスが発生する値にしている。

A10の出力段は350Bのプッシュプルで、A級動作。電流の変動は少ない。
だから1kΩの抵抗によって生ずる電圧降下は、出力に関係なくほぼ一定。
だからアンプの動作には問題ない、とはいえるものの、なぜこれだけ高い値の抵抗を直列に挿入するのか。
電圧のロスだけでなく、この抵抗が発する熱量もけっこうなものがあるというのに。

Date: 12月 4th, 2009
Cate: 電源

電源に関する疑問(その13)

パフォーマンスで、パワーアンプではめったにやらない別電源という形態を採用しながらも、
アンコール・パワーでは同一筐体内に、電源部とアンプ部をおさめている。

なぜなのかを考えていくと、アンコール・パワーはチョークは採用していても、
コンデンサー・インプット方式なのかもしれないし、
チョーク・インプット方式でも、前に述べたように臨界電流をこえるまでは、
つまりある出力以下ではチョーク・インプットとして動作しないため、
チョークが発生する振動も小出力においては少ない、つまり影響も少ないものと思われる。

だからあえて一体化という手法をとり、
電源部を含めたアンプ全体のサイズのコンパクト化を目指したのかもしれない。

マークレビンソン、チェロのパワーアンプのなかで、アンコール・パワーは、
入力から出力までの配線の長さが、もっとも短いアンプであろう。
電源部まで含めて眺めても、もっともコンパクトなパワーアンプである。

アンコール・パワーはB級動作、チョーク・インプット方式の電源の組合せという、
頭の中でだけアンプを設計する者には考えつかない、ある意味、大胆さがある。