電源に関する疑問(その23)
上杉先生によるオルソンアンプの製作記事はステレオサウンド 64、65、66号に載っている。
65号には実際の製作過程が写真で載っていて、このときの撮影には立ち合うことができた。
目の前で上杉先生のアンプ作りを見ることができたのは、幸運だったと思う。
65号は1983年発行のステレオサウンドで、当時20の私よりもいまの私の方が、
つぶさに見れたことを幸運だと思っている。
完成品の内部を見る機会はいくらでもある。写真で見たり、実物の天板をとって中を覗いてみたりなどができる。
けれど、なかなかその製作過程を最初から最後まで見る機会はめったにない。
誌面上でどれだけ写真を多用して事細かに説明文をつけたとしても、
写真と写真のあいだにあったことを伝えるのは、まず無理だといっていい。
真空管アンプで、プリント基板を使わずに手配線によって製作していくには、
製作者の流儀といえるものがある。
その流儀は、上杉先生には永いアンプ作りから身につけられた流儀があり、
伊藤先生には伊藤先生の流儀がある。
このころから、私は真空管アンプに関しては伊藤先生の流儀をなんとか身につけたい、と思っていた。
だからといって、ほかのアンプ製作者の流儀が参考にならないか、というとそんなことはまったくない。
直にアンプが形を成していく過程をじっと見ていけば、そこから学べることはかなりのものがある、といっていい。
記事のためのアンプ作りなので、製作過程の要所要所で撮影をするわけで、
しかも撮影カット数は記事で使われている写真点数よりもずっと多い。
撮影のたびにアンプづくりの手を止められるわけではないが、
細かいところの撮影などで手を休めてもらうことになる。
だから、こういう記事のためのアンプ作りは、実際のアンプ作りよりもずっと時間を必要とする。
もう30年近く前のことだから、何時ごろから始まったのかは忘れてしまった。
憶えているのは撮影が終って(つまりアンプが完成したあとに)、
上杉先生とこの記事の担当者のNさんと三人で遅い食事に行ったことだ。