井上卓也氏のこと(その34)
試聴とは、
目の前にあるオーディオ機器(アンプなりプレーヤーなりスピーカーシステムなり)の素性をさぐることであり、
実力を正しく把握することでもある。
そのためのひとつの手法としてアセテートテープやその他のアクセサリーを使うことがある。
つまり使う目的が、個人が自分の部屋でいい音を得ようとして、ということとすこし意味あいが違うところもある。
アンプやCDプレーヤーの天板にアセテートテープを貼ることもある。
試聴の過程で、貼った方がよくなると思われるものに貼ることが多いため、
たいていの場合、アセテートテープによっていい結果が得られる。
とはいうものの天板の上にアセテートテープが貼ってあるのは、美しいとはいえない。
でも貼る前の音と貼ったときの音を比較すると、なんとか見た目を変えずに、貼ったときの音を得たい、と思う。
天板の表側ではなく裏側に貼れば、見た目は変らずに……と考える。
実際に自分のオーディオ機器で試したことがある。
これは不思議なことに、貼り方をあれこれ工夫してみても、表側に貼った方がいい結果なのだ。
裏側に貼っても改善される。けれど改善の度合いが、表側に貼ったときとあらかに異る。
それで試聴の時に、井上先生に訊いたことがある。
「(アセテートテープを)裏側に貼るより表側に貼った方が効果的なのは、なぜですか」と。
井上先生も、やっぱり同じことを試されていて「不思議だけど、表側の方が効くんだ」と返ってきた。