井上卓也氏のこと(その33)
アセテートテープは、布粘着テープよりは高価だけれど、それでも数百円で手に入る。
いまのアクセサリーの価格からすると、消費税分程度の価格ともいえよう(実際にはもっと安いといえる)。
そんな安価な、これもアクセサリーのひとつになるのだが、いわば急所をおさえた使い方(貼り方)をすれば、
「効果的」という表現は、こういうときに使うのだな、といいたくなるほど、見事に効果的な働きをしてくれる。
粘着テープをオーディオ機器に貼ることに抵抗感をもつ人は少ないはず。
私も抵抗感はある。
だがチューニングを詰めていく過程での実験のひとつの方法として、
アセテートテープを貼ってみることは有効で、勉強になることでもある。
それに井上先生も見た目を損なうようなところには、原則として貼られない。
あくまでも直接目につかないところに、しかもわずかな量を貼られるだけだ。
こういう粘着テープを使うと、音が死んでしまう、と即断言する人がいる。
使う量、使う場所を大きく間違えてしまえば、たしかにそういう結果になりやすい。
つまり、そうなってしまったら(音が死んでしまったら)、それはその人の使い方がまずいだけである。
貼った、音が死んだ、だからこの手のテープは使うべきではない──、
それでは、あまりにも短絡的すぎる、としかいいようがない。
音が死んでしまったと感じたら、貼る量を減らしてみたり、貼る場所を再検討してみたりしたうえで、
結論を出すのであれば、その人にとっては、この手のモノは向いていない、ということはいえることになるが、
それでもいえるのは、あくまでも、その人には向いていなかった、ということだけである。
ステレオサウンドの試聴室でアセテートテープをよく使っていた(貼っていた)箇所は、
じつはスピーカーケーブルである。ツボみたいなポイントがあり、そこに軽く一重に貼る。
わずかこれだけである。しかも、そのポイントは通常は目につかないところでもある。
しかし、わずかこれだけでも、ストレスフリーになった、といいたくなるほど、
音楽の表情にきつさを感じさせていたものがすっと抜けていく。
そういう感じに変化することが多かった。