Archive for category 型番

Date: 6月 27th, 2013
Cate: 型番

型番について(その20)

オルトフォンのSPUよりも前に登場し、
いまでは製造中止になってしまったものの、かなりのロングランを続けたのが、JBLのD130である。

このD130も、SPUと同じように極初期のモデルと後期のモデルとのあいだには、いくつかの変遷がある。
これも型番は変らなくても、時代によって変化が見られる。

もっとも厳密にいえば、極初期のD130は、ユニット本体の銘板には「D-130」と表記されている。
細かなことだが、Dと130の間にハイフンがはいっている。
このD-130の写真もインターネットで検索すれば、すぐに見つかる。
われわれがD130ときいてすぐにイメージするユニットと基本的には同じであっても、
細部にはいくつもの違いをすぐに見つけられる。

でも、どれもJBLの15インチのユニット、D130である。

D130は1980年代のコバルトの極端な不足によりアルニコマグネットからフェライトへと仕様変更された時に、
D130Hは型番にも変更があった。
D130Hも1980年代半ばには製造中止になっている。

D130と似た型番に、E130というユニットがある。
口径もコーン紙もD130と同じであるから、D130の後継機として受けとめている人も中にはいるようだが、
E130は正確にはD130Fの後継機である。

D130とE130は何が違うのか。
D130はショートボイスコイルである。
E130はそうではない。磁気回路の前側プレートの厚みとボイスコイル幅が同じになっている。

D130とE130のコーンアッセンブリーは同じのはずだから、
D130F及びE130では前側プレートが、D130よりも薄い、ということになる。

ところで、D130の「D」は何を意味しているのだろうか。

ランシングがアルテックを辞めた理由として「家庭用の美しいスピーカーをつくりたい」といっていた──、
こんなことが昔からいわれている。
ただ真偽のほどはさだかでない。
アルテックとは最初から5年契約だったことはわかっている。
だから単純に、その時期が来たからだったのかもしれない。

けれどD130の「D」は、domesticの「D」かもしれない、ともおもう。
D130のウーファー版の130Aにも、最初はD130AとDがついていた。
175も最初はD175だった。
やはり「D」はdomesticを意味しているのだろうか。

たぶんそうなのだろう、とおもうとともに、私個人にとってD130の「D」は、
まだ別の意味をもつ。
differentの「D」である。
それは私にとって、D130は「異相の木」であるからだ。

Date: 6月 26th, 2013
Cate: 型番

型番について(その19)

ステレオサウンド 48号に載っている、菅野先生と井上先生の対談による
「ロングランコンポーネントの秘密をさぐる」のSPUの記事の最後は、
井上先生の次の言葉で結ばれている。
     *
特に、サスペンション機構を凌駕するものがないということにおいて、ライスとケロッグがダイナミック型のスピーカーを開発して、それを越えるものがないのと同じで、実に偉大なものだと、ほくは思います。
     *
この井上先生の発言の前に、菅野先生も
「実際にSPUを根本的に凌駕したものが未だにないんだからね」と発言されている。

この対談を読んだとき、私は15歳。
SPUを使ったことも、音もまだ聴いていなかった。
そのためもあって、菅野先生、井上先生の発言を読んでも、実感が湧くことはなかった。
ただ、知識としてそこに印刷してある活字を読んでいた。

だから、このときはSPUは私にとって、Stereo Pick Upの略語でしかなかった。
それ以上の意味を持つことはなかった。

それから30年以上。
SPUの音を何度も聴いてきた。
ステレオサウンドの試聴室であれこれ調整もしてきた経験がある。
少なくない経験を積んできた、知識もあのころとはずいぶん違う。

そうなってくるとSPUはStereo Pick Upの略語というよりも、
私にとってはStandard Pick Upの略語とおもえてくるし、
さらにはSpecial Pick Upの略語にもなってきている。

SPUというカートリッジの存在は、私にとって、いまではそういうモノとなっている。

Date: 6月 26th, 2013
Cate: 型番

型番について(その18)

針圧調整とはいったいどういうことなのかについて考えずに、
ただカタログ、取扱い説明書に表記してある標準針圧(最適針圧)にぴったり合せる。
その針圧でうまくトレースできないレコードのときには針圧を少し増す。

中にはレコードの寿命を少しでも伸ばすため(傷つけないためにも)、
針圧は針圧範囲内での軽めの値に合せる、という人もいる。

こういうカートリッジの使い方が、いかにカートリッジを理解していないことによるものか、
それについては別項「オーディオ機器の調整のこと」で今後書いていく。

ここでいいたいことは、オルトフォンのSPUの最適針圧の値がいくつなのかを、
カタログや昔の資料などをあさって調べるよりも、
カートリッジの構造と、その構造からくる動作を理解した上で、
針圧とインサイドフォースキャンセラー量の調整とは、どういうことをアジャストする行為なのか、
それを身体感覚として身につけた上で、SPUに限らずカートリッジの調整を行ってほしい、ということだ。

カートリッジは新品のときとしはらく使っていったあとでは、針圧の調整が必要となる。
いまはエアコンがほぼどこにでもあり、気密性の高い住宅も増えてきているため、
昔と比べて住居内の温度変化は、とくに低い方に関しては小さくなっている、と思う。

そのため、カートリッジを動作させる温度に関しては、無頓着になりつつあるのではないだろうか。
昔は、部屋を暖めて(それも急に温めてるのはよくない)、
カートリッジもレコードも冷えきった状態ではなくなってから、かけていたものだ。

温度の低下はカートリッジだけでなく、レコードにも影響している。
こういったことをすべてふまえて、身体感覚としてカートリッジの取扱いを身につける必要がある。

Date: 6月 25th, 2013
Cate: 型番

型番について(その17)

われわれ使い手側によるカートリッジの針圧調整とは、いったいどういことなのか。
カタログに書かれている標準針圧(最適針圧)にぴったり合せることではない。

針圧調整の意味を正しく理解するには、
インサイドフォースキャンセラー量の調整とセットで考えるべきものである。

針圧は垂直方向のバイアス量であり、
インサイドフォースキャンセラー量は水平方向のバイアス量であり、
無音溝に針を降ろした時に、MC型カートリッジならば、
発電コイルの位置が磁界の中心にあるということである。

Date: 6月 25th, 2013
Cate: 型番

型番について(その16)

インターネットにはいろんな資料があって、
SPUの古いカタログをスキャンしたPDFもある。
これはアメリカの会社によるカタログということなのだが、
そこにはStylus Pressure………1 to 2 grams recommendedとある。

これにはちょっとばかり驚く。
極初期のSPUの実物はガラスケースごしに見たことはあっても、
触ったことも聴いたこともない。

極初期のSPUは、2gを切る針圧でもトレースできた、という話はどこかで耳にしたことがある。
こういうカタログが昔は出回っていて、いまはインターネットで見ることができるわけだから、
2gトレース説も説得力をもつようになる。

その一方でアメリカの会社によるものだから、誤植の可能性も高い、という説もある。

この手のことをインターネットで検索しはじめると、
以前とは比較にならないほどいろんなことがヒットして、おもしろいといえばおもしろいのだが、
だからといって、SPUの針圧は何gが正しいということがわかるわけではない。

標準針圧(もしくは最適針圧)のところに書かれている数値が、絶対ではない。
針圧計をもってきて、標準針圧:3gと書いてあったから、3gちょうどに針圧をセットしたからといって、
そのカートリッジ(SPU)がベストの状態で鳴ることは、可能性としてはきわめて低い。

いろんなことがうまくいって3gがベストということだってないわけではない。
それでも針圧というのは、微調整が要求される項目である。

Date: 6月 24th, 2013
Cate: 型番

型番について(その15)

オルトフォンのSPUは、ほんとうにながいことつくられ続けている。
いまも現役のカートリッジである。

SPUの構造が少し変化していることは、時期によって漆器、中期、後期とあることはすでに書いた通り。
こういう、外からは目に見えない内部に関することだけでなく、
SPUには、変化していることがある。針圧に関することである。

現在オルトフォン・ジャパンから販売されているSPU-Classicはカタログには適性針圧:4gとなっている。
1970年代、SPUの針圧は2〜3gである。
すこし意外に思われる人もいるかもしれないほど、軽めの値である。
これはオーディオニックス時代だけでなく、
ハーマンインターナショナル時代になっても2〜3gと表記されている。

それが3.0〜4.5gと重めにシフトしたのは、ハーマンになってからしばらくした1978年ごろからである。

何がどう変って、この針圧の変化なのだろうか。
ちなみにコンプライアンスは、オーディオニックスの時代もハーマンインターナショナルの時代でも、
5×10の-6乗cm/dyneであり、変更はない。

カートリッジの針圧の表記はメーカー、輸入商社によって微妙に異る。
針圧範囲を2〜3gと、こんなふうに表示するところもあれば、
2.5g±1gという表記もある。

中には標準針圧:2.5gという表記もあるし、
さらには最適針圧という表記を使うところもあった。

どの表記でも問題ないといえばそうなのだが、
それでも最適針圧という表記は、ユーザーに誤解を与えることにもなりかねない。

Date: 6月 23rd, 2013
Cate: 型番

型番について(その14)

人よりいいモノを手に入れたい──、
この気持は、人よりもいい音を出したい、という気持に、どこかでつながっている。

いい音で音楽を聴きたいから、いい音を出したい、
そんな気持がいつしか、どこかで、人よりもいい音を出したい、という気持が変っていくことがある。

そんな気持を、これまでのオーディオ人生の中でひとかけらも持ったことがない、という人がいるだろうか。
私も、人よりいいモノを手に入れたい、そんな衝動に突き動かされたことが幾度となくある。

そのために細かい情報を集める。
同じモノとして流通していても、何が違うのか。
もっとも音がいいのは、どれなのか。
同じ型番のモノの見分け方を身につけようとしていた。

ロングランのモデルならば、製造時期による違いは、
海外製品においてはけっして小さくない。音も違ってくる。

でもそれでもSPUはやはりSPUであることを思い出したい。
どのSPUがいいのか、そのことに血眼になっているときは、
SPUにこんなにもこだわっているという、一種の陶酔感がある、といえる。

そのことに一喜一憂した経験は持っていた方がいい。
でも、いつまでもそこにいてどうなるというのだろうか、
いまはそういう気持の方が強い。

もう、そういうことに夢中になれる時期はとっくにすぎてしまった。

Date: 6月 23rd, 2013
Cate: 型番

型番について(その13)

MC型カートリッジとMM型カートリッジは、
どちらが優れているのか、どちらが音がいいのか。

ずっと以前はそんなことがオーディオ雑誌の記事となっていたこともある。

それぞれに技術的メリットはある。デメリットもある。
けれどひとついえることは、オルトフォンのSPUのサスペンション構造は、
基本的にはMM型カートリッジでは実現できない、ということである。
その一方で、MM型カートリッジは針交換ができるという、大きなメリットがあるのだが。

そのSPUのメリットを、もっとも理想的に実現できているのは、やはり初期型ということになる。
つまり支点の明確化がMM型カートリッジでは実現が困難だし、
このことを追求すれば、SPUの初期型がよく、その次に後期、中期と並ぶことになる。

となると音も初期型のSPUがもっとも優れているのか。
そういうことになる、といえば、なる。

私も初期、中期、後期のSPUを比較試聴したことはない。
なのではっきりしたことはいえないけれど、初期であろうと中期であろうと、SPUはやはりSPUである。

AシェとGシェルの違い、丸針か楕円針かという違い、製造時期の違い(構造の違い)、
これらは当然のことなのだが、すべてSPUという範囲での違いである。
それぞれを比較試聴すれば、音の違いはあっても、
どれもオルトフォンのSPUであることには違いがない。

SPU同士の比較よりも、オルトフォンの他のカートリッジとの比較、
さらには他社製のカートリッジの比較では、さらに大きな音の違いがそこにあわけだから。

Date: 6月 23rd, 2013
Cate: 型番

型番について(その12)

SPUはStereo Pick Upの頭文字をとった型番であり、
これほどわかりやすく、しかもこのカートリッジのことをあらわしている型番は、そう多くはない。

SPUには、これもよく知られているようにGシェルとAシェルが用意されていて、
Aシェル・タイプはプロ用とされている。
ヘッドシェルの形状により、SPU-A、SPU-Gがある。

そして針先の形状が丸なのか楕円なのかによって、
型番の末尾に楕円針ならばEがつく。
SPU-A/E、SPU-G/Eというふうにである。

それからGシェルだけはAシェルにはないヴァージョンとして
昇圧トランスをシェル内におさめたSPU-GTがある。
これも丸針と楕円針があり、後者の型番はSPU-GT/Eとなる。

SPUには、だから6つのヴァリエーションがあったわけだが、
型番の分け方もわかりやすい。

AシェルかGシェルかによって、音は違ってくる。
丸針か楕円針かでも、もちろん違う。
トランス内蔵型であれば、そのトランス込みの音となる。

このことに製造時期による初期、中期、後期という構造の違いがあることになる。

Date: 6月 22nd, 2013
Cate: 型番

型番について(その12)

ここで使っている、SPUの初期、中期、後期は、
あくまでもステレオサウンド 48号が出た時点での分け方である。

では、いったいもっとも理想的といわれている初期のSPUは、いったいいつごろのものなのか。
これについてのヒントも、やはりステレオサウンド 48号の井上先生の発言にある。
     *
井上 日本のカートリッジの原型とはいっても、当時のSPUのサスペンション機構だけはまねしていませんね。細いくびれを中心に、完璧に理想的な振動をする。だから、シリアルナンバー何番までというのは、神様みたいに大事にしたわけです。もっとクリアーで、すばらしい音がした。実は台湾から密輸したんだけど(笑)。昭和30年代後半ですよ。それでもマージンなしで、2万5千円とか3万円でしょう。普通のサラリーマンの給料の5割増しくらいだから、なかなか買えなかったですよ。
     *
いちばん知りたい、シリアルナンバーがいくつまでなのかについては触れられていないけれど、
昭和30年代後半のものが初期のSPUということになる。

SPUは1962年に発表されている。昭和37年のことである。
これも井上先生が語られていることだが、
このころはダイレクトではなく東南アジア経由のものがずいぶんあった、とのことだ。

オルトフォンは以前はソニーや日本楽器も扱っていた。
1968年の日本楽器の広告にはオルトフォンが載っている。
オーディオニックスは、日本楽器の販売代理店だったはず。

1968年は昭和43年である。昭和30年代後半とは、とてもいえない。
ということはオーディオニックスが扱いはじめたころのSPUは、
すでに中期のモノである可能性が高い。

Date: 6月 21st, 2013
Cate: 型番

型番について(その11)

もう少し正確に書いていこう。

オルトフォンがハーマングループの傘下にはいったのがいつなのかはっきりとしないが、
オルトフォンの輸入元がオーディオニックスから
ハーマンインターナショナルインダストリーズアジアインクに変ったのは1977年の中ごろである。
ということは少なくともこのときにはすでにハーマン傘下だったわけだし、
それ以前にハーマン傘下になっていたと見ることもできる。

とにかく1977年前後であろう。

ステレオサウンド 48号で、菅野先生は、
「最近、アメリカのコングロマリットの傘下に入ったオルトフォンは,経営が合理化されたようですが」
と語られている。
それでもSPUを作り続けているわけだから、たいしたものだと思いながらも、
この合理化はMC20のストリングホルダーとSPU後期のそれとが同じ形状ということと関係しいてるように思える。
ストリングホルダーが共通化されている可能性は高いだろう。

だとすればSPUの後期というのは、MC20登場以降、
つまり1976年以降あたりから、と推測できる。
もしそうであればオーディオニックスが輸入していた最後のほうのSPUも後期といえるであろう。
ほぼ間違いないはずだ。

なぜ、そういえるのか。
それはステレオサウンド 48号にSPUのサスペンション機構の変遷の図が掲載されているからである。
48号(1978年9月)の時点ですでにハーマンインターナショナル扱いになっている。
だからこそ、こういうことが記事になり、図が掲載された──、
と編集に携わったあとだから、そういえるのである。

Date: 6月 21st, 2013
Cate: 型番

型番について(その10)

オルトフォンのSPUの構造変化におもなう支点の移動についての語られたステレオサウンド 48号は、
1978年9月に出ている。この48号の少し後にHIGH-TECHNIC SERIES 2が出た。

このHIGH-TECHNIC SERIES 2は長島先生によるMC型カートリッジの本であり、
各社の代表カートリッジを分解して内部構造図が掲載されている。
この内部構造図だけでも、このHIGH-TECHNIC SERIES 2の価値は大きい。

この内部構造図を描かれたのは神部(かんべ)さんである。
このとき、ひとつひとつカートリッジを分解して寸法を測り描いていった、と神部さんから直接聞いている。
たいへんな作業だった、ともいわれていた。

このHIGH-TECHNIC SERIES 2にオルトフォンのカートリッジは、
SPU-A/EとMC20が載っている。

SPUとMC20は基本構造は同じといっても、
細部を比較していくと違いがいくつもある。
それについては省略するが、HIGH-TECHNIC SERIES 2に載った構造図で注目したいのは、
MC20の後方のストリングホルダーの形状は、SPU後期のそれと同じということである。

SPU-A/Eはどうかというと、
HIGH-TECHNIC SERIES 2の111ページに載っている構造図は中期のSPUの構造そのものである。
だからといって、1978年ごろのSPUが中期の構造とはいえない。
おそらく、これはたまたま分解したSPUが中期のモノだった可能性のほうが高い。

ではいったいいつごろのSPUが初期であり、中期であり、後期であるのか。
ステレオサウンド 48号の記事からは正確なところまではわからない。

けれどおそらく中期のSPUとはオーディオニックスが輸入していたころのモノだと思われる。
初期のSPUとはそれ以前のモノであり、
後期とはハーマンインターナショナルに取扱いが移行してからのモノと推測できる。
(おおざっぱなことは承知している。)

Date: 6月 20th, 2013
Cate: 型番

型番について(その9)

MC型カートリッジの構造は、各メーカーによって異る点はあるものの、
まずカートリッジ本体の半分ほどを占めるマグネットがあり、
このマグネットの前後に磁気回路を形成するポールピースがある。

オルトフォンのSPUでは前方ポールピースの片方の先端部に孔が開けられ、
ここをカンチレバーが貫通している。
後方ポールピースにさらに円柱状のポールピースが固定され、
この円柱状のポールピースがカンチレバーの近くまで伸びてきていて、
針先、カンチレバー、コイルなどう含む振動系はサスペンションストリングによって、これに固定される。

カンチレバーはたいていパイプであり、
サスペンションストリングの先端はストリングホルダーと呼ばれる部品によってカンチレバー内で固定され、
サスペンションストリングの大部分は円柱状のポールピースに、これもまたストリングホルダーによって固定される。

ストリングホルダーは、径も長さも異なるふたつが、それぞれカンチレバーとポールピースにあるわけだ。
このふたつのストリングホルダーの間にダンパーがある。
このダンパーの中心をサスペンションストリングが貫通している。

サスペンションストリングはたいては腰の強い金属製のワイヤーなのだが、
ダンパーの厚みが存在するために、支点が不明確になる問題が発生しやすい。

つまりダンパーが薄ければ薄いほど前後のストリングホルダーは近接することになる。
そうなればサスペンションストリングだけの部分は短くなる。
この部分が短くなればなるほど支点は明確になり、
長くなればそれ分がたわむことになり、支点が不明確になってしまう。

初期のSPUでは後方のストリングホルダーの先端が細くなるように加工され、
この細い先端がダンパーを貫通し、図を見る限りカンチレバー内のストリングホルダーと接触している。
もちろん接触部分は丸めてある。

これが中期のSPUでは後方のストリングホルダーは短く先端の加工がなされていない。
つまり単純は円柱状で、しかもダンパーを貫通することなく円柱状のポールピース内から出てこない。
これでは前方のストリングホルダーとの間にダンパーの厚み分だけの距離が生じ、
ダンパーの厚み分だけサスペンションストリングはたわむわけで、
支点も初期のSPUではコイルとダンパーの接触面よりも針先寄りにあったのが、
中期ではダンパーの中心へと、つまり後方に移動して支点が「点」というよりも線に近くなっている。

後期のSPUでは初期と中期の中間といえるストリングホルダーの長さと構造になっていて、
支点も初期型に近いところまで戻っている。

とはいうものの初期のSPUのワンポイントといえる支点の設定にくらべれば、
まだ甘い設定といわざるを得ない。

Date: 6月 20th, 2013
Cate: 型番

型番について(その8)

オルトフォンのSPUは、私がオーディオに関心をもちはじめた時には、
すでにロングセラーモデルだった。
シュアーのV15もロングセラーモデルという意味ではそういえなくもないけれど、
V15はTypeII、TypeIIIと改良・変更されていた。

なのにSPUはずっとSPUのままだった。
デンオンのDL103の歴史もながいけれど、SPUはそれよりも長い。
そんなカートリッジが、1970年代の後半においても現役カートリッジとして、
ほかのカートリッジでは得られない魅力を持っていることで、
少しばかりの欠点といえる面ももつものの、
私も、いつかはSPUと思っていた。

発売されたころからSPUはずっとSPUなのだから、
中身もそのまま変らずにいたのだと思っていた、ステレオサウンド 48号を読むまでは。

このころのステレオサウンドには、
井上先生と菅野先生による「ロングランコンポーネントの秘密をさぐる」という記事が連載されていた。
48号では、JBLのパラゴン、QUADのESLとともにオルトフォンのSPUがあった。

井上先生の発言は、だから少しばかりショックだった。
     *
井上 特に初期のSPUは、巻き枠のほぼちゅうしんにピボットがあったわけ。うしろのサスペンションストリングスが2重になっていまして、そこだけが細いから完全に回転運動をするという絶妙な構造になっていた。途中で合理化して一本になっちゃったけど、最近は初期のものに近い構造になっている。
     *
そしてSPUシリーズ/サスペンション機構の変遷という解説図が載っていた。
井上先生の発言だけでははっきりしないところが、この図を見れば一目瞭然だった。

Date: 6月 19th, 2013
Cate: 型番

型番について(その7)

日本のオーディオメーカーは、型番についても、いわばマメである。
型番が同じであれば、製造ロットが違うモノをもってきて中を見比べてみても、ほぼ同じである。
まったく同じ、といってもいいぐらいである。

けれど海外のオーディオメーカーとなると、同じ型番であっても、
製造時期が違えば、ずいぶん仕様が違ってきているモノも少なくない。

有名なのがマークレビンソンのアンプである。
LNP2は1974年にバウエン製モジュール搭載で登場して以来、
日本においては並行輸入対策として末尾にLがつくようになったが、
アメリカ及びそのほかの国では製造中止になるまでLNP2のままで、
型番に変更はなかった。

LNP2の中身はずいぶん変化している。
ここで、そのことについて細かく書きはしないが、
マークレビンソン製のモジュールになってからでも、
初期のLNP2と後期のLNP2とでは、音の違いは、LNP2に惚れ込んでいる者にとって無視できないレベルである。

型番がずっと変っていない海外製品には、
有名なモノではJBLのD130があり、オルトフォンのSPUがある。