Archive for category アナログディスク再生

Date: 6月 29th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その13)

ベルトドライヴは、モーターの振動をベルトを介することによって
ターンテーブル・プラッターに伝わらないようにできることがメリットとされている。
つまり機械的なフィルターが構成されているからである。

この機械的なフィルターを電気回路に置き換えてみると、
モーターとターンテーブル・プラッターの慣性モーメントはインダクタンスに相当し、
ベルトの弾性はコンデンサーになり、ローパス(ハイカット)フィルターを形成していることになる。

このローパスフィルターのカットオフ周波数(共振周波数)は、
モーター、ターンテーブル・プラッターの慣性モーメント、
ベルトの等価スティフネス、それにモーターのプーリーとターンテーブル・プラッターの半径によって決る。

ローパスフィルターだから、これらの要素によって決定される周波数以上の振動成分は、
ターンテーブル・プラッターには伝わらない、ということになる。
つまり共振周波数(カットオフ周波数)をできるだけ低く設定できれば、それだけSN比を高くすることができる。

実際にはベルトを柔らかくし、モーター、ターンテーブル・プラッターの慣性モーメントをできるだけ大きくして、
モーターのプーリー、ターンテーブル・プラッターを小さくすればいい。
ターンテーブル・プラッターの径はレコードの大きさが決っている以上、30cmよりも小さくするわけにはいかない。

だがリンのLP12、トーレンスのTD125、TD126のように二重ターンテーブル構造にして、
インナーターンテーブルにベルトをかけるという方法で、これは実現できる。

Date: 6月 28th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(トーレンス・リファレンスのこと)

リファレンスのフローティングベースのモーター用の穴よりも、もっともっと余裕をとりすぎているのが、
中央、シャフト軸受け用の穴である。

これは、おそらくダイレクトドライヴ用のモーター用のものではないか、とどうしても思ってしまう。

ステレオサウンド 56号に、瀬川先生のトーレンスの訪問記が載っている。
そこには、1929年にダイレクトドライヴ型のフォノモーターの特許をとっている、とある。
テクニクスが開発し、その後主流となったダイレクトドライヴとは違うものだが、
トーレンスもダイレクトドライヴを研究していた事実である。

その後、トーレンスはSN比の向上からベルトドライヴだけに製品をしぼっていくが、
トーレンスと協力関係にあったEMTは、1978年あたりにダイレクトドライヴの950を出している。
当時のトーレンスとEMTは西ドイツにあるラール工場で、両ブランドの製品が作られていた。
この工場は生産部門だけではなく、設計部門も含まれている。

ダイレクトドライヴとは直接関係はないが、TD125でシンクロナスモーターを、
専用の駆動回路を設け電子的にコンロトールするなど、一見保守的にメーカーではあるが、
他社に先駆けている面も持っている。

これらのことを考え合わせると、トーレンスがふたたびダイレクトドライヴを再設計しようとした可能性を、
完全には否定できない。
リファレンスの開発にあたっては、ダイレクトドライヴも再検討されたのではないだろうか。
その名残りが、フローティングベースの中央の大き過ぎる穴である……。

他に納得のいく理由が、なにかあるだろうか。

Date: 6月 28th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その12)

トーレンスのリファレンスのフローティングベースには、
2つの丸い穴がある。ひとつは中心にある軸受けをマウントするためのもの。
この中心の穴を囲む4つのスペースにはアイアン・グレインと称する鉄の細かい粒をオイルで練った上で、
ぎっしりとつめられている。

フローティングベースのもうひとつの穴はモーターのためのものである。
リファレンスのモーターは、すでに書いたように全体の偉容にしては貧弱な印象のものだ。
このモーターのための穴としては大き過ぎるのだ。多少の余裕は必要なのはわかるが、
モーターのサイズからは余裕をもたせすぎている感じがしてしまう。

モーターは、フローティングベースに、
その振動を伝えないようにするためにメインベースに立てられた3本の柱の上に、
かなり厚めのアルミハウジングに収納された上で固定される。

この部分を見ていると、ある仮説が頭に浮かんでくる。
もともとリファレンスのモーターには、EMTの930stのモーターが流用されていたのではないか、と。
930stのモーターの径がどの程度だった正確な寸法はわからないが、
記憶の上では、ちょうど930stのモーターが、すとっとおさまってしまう。

930stのモーターであればトルクも十分だし、プリーナーをレコードに押しあてても回転が止ることはないはずだ。

プレーヤーとしての使い勝手の面からはモーターのトルクは十分にあった方がいい。
けれど、930stのモーターでベルトドライヴでは、
「リファレンス」の名に値するだけの音が得られなかったのではなかろうか。
それでモーターをいくつか試していった結果、
トルクの小さな、930stのモーターからするとずっと小型のものになってしまった。

フローティングベースはもともと930st用のモーターを前提に型をつくってしまっていたので、
結果としてモーターの周りにスペースの余裕ができてしまった。
そう思えてならない。

Date: 6月 27th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その11)

アナログプレーヤーの音を駆動方式で語るのは難しいことではあると充分判っているつもりだが、
それでもベルトドライヴ型のプレーヤーで、私が圧倒的に音がいい、というレベルをこえて凄い! と感じたのは、
やはりトーレンスのリファレンスだけである(Anna Logはまだ聴いていない)。

リファレンスは、1980年に358万円という、おそろしい価格だった。重量は約100kg。
堂々とした、その偉容に反して、モーターは、あれっ? と思うほど小型だった。

リファレンスのシャフトとその軸受けは、EMTの930stのものをそのまま流用した、と思われる。
寸法的にも見た感じも同じである(ただし資料には新開発のもの、とある)。
そのリファレンスのターンテーブル・プラッターの重量は6.6kg。930stよりも2倍以上重くなっている。
このターンテーブル・プラッターの内側には分厚いドーナツ状の合板が、鳴き止めのため打ち込まれている。
外周裾に取りつけられているストロボスコープ用のパターンは、930stのそれとまったく同じ。

930stのよりも物量を投入してつくられているリファレンスなのに、モーターに関してだけは930stの方が上だ。
リファレンスのモーターはハイトルクのシンクロナスモーターとうたっているが、
930stのモーターとの比較でははっきりと、
比較的トルクが弱いといわれていたダイレクトドライヴ型と比較しても、トルクは弱いと思う。

瀬川先生も、ステレオサウンド 56号に書かれているが、
「レコードをのせてプリーナーを押しあてると、回転が停ってしまう」くらいの弱さである。

358万円もするプレーヤーなのに、こんなところでケチることないのに……、1980年の私は思っていた。

Date: 6月 27th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その10)

モーターの駆動回路は、いわばアンプだから、アンプ自体の歪やノイズがわずかとはいえ発生している。
それでもどんな外来ノイズが混入してきて、
ときには正弦波が崩れてしまうこともあるAC電源をそのままモーターに給電するよりも、
モーターにとっては、それでも良好な電源供給となり、モーターの回転は滑らかになっている、と思われる。
その滑らかさが、LP12におけるヴァルハラのある無しの音の違いを生んでいる。

ターンテーブルの回転を眺めていると、じつに滑らかに廻っているように思えるのだが、
見ただけでは感知できない領域で、その回転は実のところぎくしゃくしているのだろう。

そのぎくしゃくを生む原因のひとつが回転のためのエネルギーを生むモーターであり、
そのモーターのエネルギー源である電源の汚れである。

ヴァルハラを取りつけたLP12の音は、まさにそんな汚れを洗い落した感じに聴こえる。
いままで回転のぎくしゃくによって生じていた汚れにマスキングされていた、されかかっていた音が、
姿を現してくれる。

だからといってヴァルハラのようなモーター駆動回路さえありさえすれば、
ターンテーブル・プラッターの駆動源として理想に近いものいえるのかとなると、
モーターそのものが、決して完璧なものではないことが浮き彫りになってくる。
しかもそのことは、モーターのトルクがしっかりとターンテーブル・プラッターに伝わるほどに明瞭になってくる。

マイクロのSX8000IIのモーターユニット(RY5500II)は、
起動時にはトルクが必要なためモーターにかかる電圧は100Vだが、
しばらくするとその電圧を半分の50Vに自動的に切り替わるようにしている。
シンクロナスモーターにかかる電圧が低くなればそれだけトルクは下がり、
モーターそのものが発生する振動も減ることになる。

SX8000IIのターンテーブル・プラッターはステンレス製で重量は28kg。
慣性モーメントは十分に大きい。

Date: 6月 26th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その9)

この先入観が、SX8000IIのベルトテンションを緩めてしまったときの音を、
素直に、これがいい音だ、と認めることができなかったことに影響している。

リンのLP12をベルトを外してターンテーブル・プラッターを廻した音を聴いたとき、
やっと素直に認めることができた。
ベルトドライヴでは、ベルトのテンションをできるかぎり緩くしていった方がいい。

もちろんベルトドライヴならすべての機種についてそういえるわけではない、と思う。
少なくともメカニズムがしっかりと精度高くつくられたもので、
スムーズな回転を実現しているもの。
さらにある程度の慣性モーメントをもつことが、条件となってくる。

慣性モーメントを最大限利用して、回転数がぎりぎり低下しないように最低限の力をベルトによって伝える。
停止しているターンテーブルがモーターの力だけでは回転しはじめないくらいに、
ベルトのテンションを緩く、モーターのトルクを低くしたほうが、音楽がよりみずみずしく表現される。

音楽に含まれている水気が増していき、その水気のもつ味わいがよりなめらかになり、おいしさを増していく。
旬の果実を、それもとりたてのものを口にしたときの美味さに近づいていく。

どうもモーターは、それほど滑らかに廻っていないように思ってしまう。
その不完全な回転がベルトを通じてターンテーブル・プラッターに伝わると、
慣性モーメントを利用して滑らかに廻っているターンテーブルの回転を邪魔することになる。

モーターの回転を滑らかにする方法のひとつが、
シンクロナスモーターならば、トーレンスのTD125、リンLP12のヴァルハラにみられる、
発振器とアンプの組合せによるモーター駆動回路の搭載がある。

ACコンセントからノイズがまったくない、きれいな正弦波が得られるのであれば問題はないはずだが、
実際には、特にいまは、そういう状況ではない。
AC電源の汚れは、そのままモーターの回転を阻害する。
だからそのままAC電源を供給せずに、間に駆動回路を置く。

Date: 6月 26th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その8)

SX8000IIの始まりとなったRX5000+RY5500のころから、
マイクロのこのシリーズは、ターンテーブルとモーター間の距離はユーザーが調整していくことになっている。
音を聴いて、ベルト(RX5000、SX8000は糸)のテンションを調整していく。

SX8000IIになり専用のフローティングベースが用意されたが、ターンテーブルとモーターの位置指定はなかった。
このベルトのテンションをどの程度にするかによって、音はとうぜん変ってくる。
ステレオサウンドのリファレンスプレーヤーはSX8000IIだったから、ここの調整は試してみた。

ベルトがパンパンに張るまでにテンションをかける、
つまりターンテーブル本体とモーターユニットの距離を拡げすぎると、
ターンテーブル・プラッターはうまく回転しない。
少しずつ距離をつめてベルトのテンションを緩めていく。
どこまでも緩めていくと、テンションが足らなくなって、
ターンテーブル・プラッターが静止状態から起動しなくなる。

指で少し勢いをつけてやらないと廻らなくなるほど緩くすることは、
マイクロの設定外の使い方となるだろうが、音は緩くしていった方がよくなっていく。
すくなくともそう私の耳は感じていた。

とはいうものの、この状態では試聴では使えないし、最終的にはSX8000IIが持ち込まれたとき、
マイクロの人によるセッティングと、だいたい同じテンションになるようにしていた。

リムドライヴのEMTのプレーヤーを使っていると、モーターのトルクが大きくて、
そのトルクをしっかりターンテーブルに伝えて回転させることが、音の良さにつながっている──、
実はそう思っていた(リムドライヴに関してはいまもそう思っている)。

だからベルトドライヴもリムドライヴと同じであろう、という先入観があった。

Date: 6月 25th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その7)

1988年の取材で、リンのLP12を聴く機会があった。
ヨーロッパ製の、どちらかといえばコンパクトにまとめられたフローティング型プレーヤーを4機種集めての試聴で、
ステレオサウンド 90号に掲載されている(実は88号掲載予定だったが、ページがとれなくなり延びてしまった)。

試聴が終った後に、井上先生がつぶやかれた。
「LP12のベルトははずしてみな」と。
何をされるのか予測できなかった。
ベルトを外したLP12のターンテーブルの上にLPを乗せ、指で廻し始められた。
しばらく眺めたのちに「針を降ろせ」という指示が出た。

この時、スピーカーから出てきた音は、
LP12にヴァルハラを取り付けたときの音を思いださせてくれた。

再生中には手を下さないから、回転はしばらくすれば遅くなり止る。
33 1/3回転を維持しているわずかな時間しか、この良質な音は聴けない。
でも、このわずかな時間の音は、貴重だ。

すべてのプレーヤーで同じような結果が得られるわけではない。
ターンテーブル・プラッターの加工精度、ダイナミックバランスが優れていて、
軸受けの構造も優れたもので、スムーズな回転を実現しているモノでなければ、この時の音は聴けない。

この時の音を聴いて、思い出した音がある。
マイクロのSX8000IIのベルトのテンションを調整していたときの音だ。

Date: 6月 24th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その6)

ステレオサウンド 65号の新製品の紹介記事に、リンのLP12 Basik Systemが登場している。
傅さんが記事を書かれている。

LP12 Basik Systemは新型のトーンアームと、
LP12本体のグレードアップキット「ヴァルハラ」と「ニルバナ」を搭載したシステムのことだ。

ニルバナは、シリアルナンバー31825以前のLP12のサスペンションを新型にするもの、
ヴァルハラはシンクロナスモーターをより正確にスムーズに動かすための、一種の電源回路である。

ヴァルハラは正弦波をつくり出す発振器とモーターを駆動するだけの電力まで増幅するアンプ部からなるもので、
LP12以前にも、トーレンスのTD125にも同じものが搭載されていた。
当時のオーディオ雑誌では、TD125にはサーボ回路が搭載されている、という記述があったが、
TD125のターンテーブルは速度検出を行なっておらず、それをフィードバックしていたわけではない。

おそらく詳細な技術資料がなかったことと、
シンクロスモーターでありながら50Hz/60Hzの電源周波数の切換えの必要がなかったこと、
それに通常、電子回路は必要としないモーターなのに、モーターのための電子回路基板があったことなどから、
サーボがかけられている、と思われていたのだろう。

このTD125をベースにしたのがEMTの928で、928もシンクロナスモーターを電子回路によって制御している。

この技術がLP12にも搭載されたのが1982年であり、
ヴァルハラありとなしのLP12の音の差は、想像以上に大きかった。

傅さんの文章を引用してみる。
     *
結果は歴然。ローエンドへ1オクターブとはいわぬが、半オクターブは伸びて、しかも従来のLP12は認めていても、文句を言えば低域の解像力、エッジの利きがいまいちだったのがキリッと構築される。
     *
ステレオサウンド 65号は12月発売の号だったから、
「これはLP12のオーナーに朗報であり、良きクリスマスプレゼントである」と傅さんはまとめられている。

Date: 6月 24th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その5)

ノッティンガムアナログスタジオのAnna LogとEMTの927Dstのあいだに、およそ共通点はないといえる。
このふたつで近いものをあえて挙げるならば、重量くらいだろう。
Anna Logは45kg、927Dstは41kg、とカタログ上はほぼ近い値だ。

だがそれ以外の項目となると、このふたつのアナログプレーヤーはそこかしこにはっきりとした違いがある。
Anna Logはベルトドライヴ、927Dstはリムドライブ。
ここにダイレクトドライヴを比較対象にもってくれば、ベルトドライヴもリムドライヴも、近いものとなるだろうが、
ターンテーブル・プラッターを廻すことに対する考え方は大きく違う。

モーターはどちらもシンクロナス型だが、まず大きさに差違がはっきりと現れている。
927Dstのモーターはそうとうな大型で、アイドラーを介してその強力なトルクをしっかりとターンテーブルに伝える。
さらに回転の微調整とモーターの安定化のために、
シャフト中心部にフェルトパッドによるフリクションブレーキをかけるようになっている。

Anna Logのモーターは、927Dstのモーターとは正反対の低トルクのモーターを使っている。
そのためターンテーブルを廻しはじめるにはトルクが足らず、
使い手が指でターンテーブルを廻してやらなければならない。

プロ用として開発されたEMTのプレーヤーシステムでは、絶対に考えられない方法といえる。

だからAnna Logはターンテーブル・プラッターの慣性モーメントを利用する。
Anna Logの総重量の55%はターンテーブル・プラッターが占める(25kg)
927Dstは直径42cmのアルミ製のメイン・プラッターが4.7kg、
その上にのるガラス製の直径44cmのプラッターが2.58kgで、計7.28kg。
総重量に対する割合は約17%。

Date: 6月 23rd, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その4)

スピーカーシステムの試聴とはまた少し違う意味あいで、アナログプレーヤーの試聴には、
使いこなし、調整といったことが重要になってくる。

オーディオ機器の中で、もっともプリミティヴな構成なのがアナログプレーヤーは、
ほぼすべての機構が目で捉えることができる。
そこで、試聴の対象となる、その前にあるアナログプレーヤーをどう理解し調整し、使いこなしていくのか。

それができるかできないかはオーディオに対する資質も大事だけれど、
それと同じくらいに、その人の中に、アナログプレーヤーに対する理想像が存在しているかどうか、も関係してくる。

昔ながらオーソドックスなスタイルのアナログプレーヤーにおいてもそうだが、
それ以上にCDが登場し普及した後で登場してきた、
それまでのアナログプレーヤーをつくってきたメーカーとは、ひと味ちがうものをもつ新進メーカーのものを、
正しく評価するためには、評価者に「理想像」がなければ、正しく理解することができない。
つまりこれは優れたアナログプレーヤーの良さを引き出すことができないことであるだけでなく、
能書きだけの製品に騙されてしまう、ということになっていくからだ。

ノッティンガムアナログスタジオのAnna Logは、いわゆるオーソドックスなスタイルのプレーヤーではない。
だから、ステレオサウンド 133号の紹介記事がもしほかの人(あえて名前は出さないけれど)だったら、
そこに書いてあることの大半を素直に信じることはしなかった。

133号当時(1999年暮)にステレオサウンドに執筆していた人の中で、
Anna Logの記事を書くのに、最高の適任者は井上先生である。

Date: 6月 22nd, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その3)

Anna Logは、ステレオサウンド 133号の新製品紹介の記事に登場している。
カラーページでの写真は、それを見た者の、なにかインスピレーションをかきたてるものがあった。

これ以前に登場してきた数々のアナログプレーヤーの中にも、変り種といいたくなる製品は少なからずあった。
Anna Logも、変り種のひとつということになる。
でも、変り種ではあっても、ただ変り種だけのプレーヤーとは違う、という雰囲気がある。

ノッティンガムアナログスタジオのプレーヤーが評判なのは知っていたけれども、
特に強い関心をもつことは、実のところなかった。
いいプレーヤーなんだろうけど……、というところが私にあったのは、
見た目に負うところが大きかった。
石臼のような黒いターンテーブルプラッターに、それに対して薄い、これまた黒いベース。
この組合せに、使ってみたい、という印象を抱けなかった。

アナログプレーヤーは、アンプやCDプレーヤー以上に、
まずは、こちらに使ってみたいという気にさせてほしいと思っているオーディオ機器と思っているだけに、
ノッティンガムアナログスタジオのプレーヤーは関心の外にあった。

Anna Logは、使ってみたい、と強く思わせてくれる。
写真をまず一目見て、そう感じ、細部を見直していけばいくほど、「使ってみたい!」と思ってくる。

しかもAnna Logについて書かれているのが、井上先生だったことが、またよかった。

Date: 6月 21st, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その2)

「20世紀の恐竜」と捉える一方で、この時代に、
それまでのアナログディスク再生の追求の仕方とは大きく異る方向転換をするならば、という気持も同時にある。

ノイマンのDStにEMTの927Dstを選択するのは、「20世紀の恐竜」という気持からの選択であって、
DSTと927Dstからは絶対に得ることのできないであろう魅力を、アナログディスクから引き出すとなったら、
何を選択するだろうか、と考える。

ステレオサウンド 177号のベストバリュー(以前のベストバイ)で登場しているアナログプレーヤーは、少ない。
19機種で、そのうち写真とコメントが掲載されているのは9機種。
しかも9機種中リンのLP12のヴァリエーションが3機種だから、実質的な数はほんとうに少ない。

正直、これらの中に本気で欲しい、と思うものはない。
177号に登場しているアナログプレーヤーがいいとか悪いとかではなく、
いままで体験したことのないアナログディスクの魅力を音として聴きたい、という観点からは、
これだ! と予感させるものを感じとれない。

リンのLP12、オラクルのデルフィ、ミッチェルエンジニアリングのジャイロデック、ロクサンのザークシーズ、
これらは、以前のモデルをすでに聴いている。
あれからけっこうな月日が経っているから、それに似合うだけの改良が加えられていることだろうが、
基本的な設計思想に変更はない以上、いま選択しようとは思わない。

他の機種は、となると、これでアナログディスクをかけたい気にさせない未完成さを感じてしまう。

何を選ぶのかとなると、177号には登場していないモノ──、
ノッティンガムアナログスタジオのAnna Logだ。

Date: 6月 20th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その1)

ステレオサウンドに「スタジオの音が聴こえる」を連載されている高橋健太郎氏が、
6月17日に、Twitterでオーディオマニアに質問されている。
「死ぬまでに一度、聞いてみたいアナログ・カートリッジか、プリアンプはありますか?」と。

「死ぬまでに一度」のところをどう捉えるかによって、答えは少し違ってくる。
死ぬまでにもう一度自分のモノとして手に入れて聴きたいモノと、
死ぬまでに一度聴くことができればそれで満足できるモノとがあるからだ。

自分のモノとして手にいれたいアナログディスクの再生関連のオーディオ機器となると、
価格や程度のいいものが入手可能かどうか、そういうことを一切無視して、ということだと、
カートリッジはノイマンのDST(DST62よりもDSTのほうをとる)、
プレーヤーシステムはEMTの927Dstで、フォノイコライザーにはノイマンのWV2となる。

これらの程度のいいものを探し出して入手するとなると、どれだけの金額が必要になるのか、
まったく現実的ではない答えになってしまうけれど、
この時代にアナログディスクの再生に真剣に取り組むためにはこれらが必要なのではなくて、
むしろその逆で、これらのプレーヤーシステムで演奏することによって、
そのディスクに別れを告げるためにほしい、と思う。

1990年代の前半、サウンドステージの編集に短い期間ではあったけれど携わっていた。
そのときアナログプレーヤー関連のページをつくろう、ということになって、
「20世紀の恐竜」というタイトルを提案したことがある。

このタイトルは却下された。恐竜という単語が、ひっかかったためである。
タイトルは、たしか「アナログアクティヴ」になったと記憶している。

Date: 11月 23rd, 2009
Cate: アナログディスク再生

ダイレクトドライヴへの疑問(その6)

渡辺氏は、EMT・930stについて、音が鮮明でクリアーであること、そして全体に音がしっかりしていて、
ことに低音が、ブラインドフォールドテストした7機種のなかで、いちばんしっかりしていて、
大太鼓の音がいかにも大太鼓らしく鳴っていた、と語られている。

他の6機種については、音がうすい、弦楽器がやや安手の音になる鮮明度に欠ける、
といった言葉が、共通して並んでいた。

この記事の2年前に、五味先生の「五味オーディオ教室」をくり返し読んでいた私にとって、
ここでの結果は、やっぱりそうなんだな、ということを確認することになった。

ステレオサウンド 48号には、
「プレーヤーシステムにおけるメカニズムとコンストラクションの重要性について」という、
井上先生と長島先生の対談記事も載っている。
この対談を読むと、ダイレクトドライブ型に対する不信感は、確実に増す。

48号を読んで、少なくともダイレクトドライブ型に関しては、これから先よくなっていくのであろうが、
この時点ではダイレクトドライブ型以外のプレーヤーに、
いわゆる音がよいとされるモノが集中している、そう受けとっていた。