Archive for category アナログディスク再生

Date: 8月 22nd, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(インサイドフォースキャンセラーのおもり・その4)

SMEのトーンアームでは、Bias Guideという、
金属の先に滑車がついたパーツが、アームベースの内側にとりつけるようになっている。

このバイアスガイドの滑車にバイアスウェイトからでている糸を通す。
この糸の、トーンアームに対する方向によってインサイドフォースキャンセル量、
つまりはトーンアームにかかるアウトサイドフォースがわずかとはいえ変化する。

そのためSMEの取り扱い説明書には、バイアスガイドの位置調整の項目がある。
インサイドフォースキャンセル量を変えるたびに、このバイアスガイドの位置(向き)も変えていく必要がある。

こんなことでもインサイドフォースキャンセル量は変化を受けるわけで、
厳密にはバイアスガイドの高さ調整も、場合によっては必要となってくる。

トーンアームの調整には、アーム自体の高さ調整がある。
使用するカートリッジによって、アームパイプが水平になるのを原則とし、
その後は音を聴きながらほんのわずか上げ下げをすることがある。

SMEの取り扱い説明書にあるバイアスガイドの調整は、
トーンアームを真上からみたときの位置(向き)の合わせ方である。
これは、水平における調整であり、トーンアームの高さ調整機構が備わっているのであれば、
本来はバイアスガイドの高さ調整も必要であり、連動しているのが望ましい。

トーンアームの高さをあげたとき、真正面からみてバイアスウェイトを吊り下げている糸は、
水平と垂直をなしていなければならない。
トーンアームから滑車までは水平、滑車からは垂直というようにである。

だがSMEのトーンアームの場合、バイアスガイドはスライドベースに取り付けられている。
つまりバイアスガイドの高さ(滑車の高さ)は、そのままでは変えられない。
そうなるとトーンアームの高さ次第では、水平になっていなければならない部分が、
水平でなくなっている場合も出てくる。

そうなると垂直方向の分力を生じ、針圧に変化を与えてしまう。

Date: 8月 22nd, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(インサイドフォースキャンセラーのおもり・その3)

インサイドフォースの問題がややこしいのは、
レコードの溝の波形、針圧、針先の形状、
針先からみたカートリッジの振動系の機械インピーダンスなどが絡んできていて、
一枚のレコードでも同じキャンセル量で解消されるというわけではない。

つまりインサイドフォースを完全にキャンセルすることは、非常に困難なことである。
つまりインサイドフォースキャンセラーの調整は、妥協点をさぐる行為ともいえる。

妥協点だからといって、安易に調整していいわけでもない。
SMEのトーンアームに代表されるおもりを糸吊りしている機構では、
おもり(Bias Weight)が、なにかの拍子で揺れていると、はっきりと音に影響を与える。

インサイドフォースキャンセルを、カートリッジへの水平バイアスと考えれば、
おもり、つまりバイアスウェイトの揺れは、バイアスの揺れと同じであり、
これでは安定した音は得られなくなる。

そんなことはないだろう、と訝しがる人で、
SMEの糸吊り式のインサイドフォースキャンセラーをもつトーンアームをもっているならば、
ためしにバイアスウェイトを意図的に揺らしてみればいい。

それでも音は変らない、という場合は、SMEのトーンアームの調整がうまくいっていないか、
システム全体の調整も、またそうだ、ということである。

Date: 8月 21st, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(インサイドフォースキャンセラーのおもり・その2)

以前、「型番について(その17)」で書いているように私は、
針圧は垂直方向のバイアス量であり、
インサイドフォースキャンセラー量は水平方向のバイアス量、と考えている。

インサイドフォースキャンセラーについてはかなり以前から議論されている。
インサイドフォースキャンセラー不要論を唱える人も少なくない。
針圧を多めにかけることでインサイドフォースの問題は無視できる、いう記事も読んだことがある。

おそらくインサイドフォースキャンセラーが必要なのか不要なのかは、
これから先も決着がつかないままのような気がする。

私はインサイドフォースキャンセラー量は水平方向のバイアス量と考えているから、必要とする。
昨夜のブログを書いた後、facebookにコメントがあった。

SMEのインサイドフォースキャンセラーのおもりの重量はロットによって変更されている、とのことだった。
軽いのは3gくらいで、重いのになると6gくらいのものもある、とのこと。

インサイドフォースキャンセラーのおもり──、
と書いているが、やや長い。
SMEは、インサイドフォースキャンセラーのおもりのことをどう呼んでいるのか。

SMEのサイトをみると、Bias Weightとある。
ということは、SMEのアイクマンも、
インサイドフォースキャンセラーはカートリッジの針先への水平方向のバイアスと考えていた、
とみていいだろう。

Date: 8月 20th, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(インサイドフォースキャンセラーのおもり・その1)

SMEのトーンアーム、3009にしてもロングアームの3012にしても、メインウェイトは二分割である。
カートリッジの重量によっては、メインウェイトを分割せずに使うことも、分割して使うこともできる。
分割すればメインウェイトは軽くなるから、ウェイトの位置は後方に行く。
分割しなければ、前方(トーンアームの軸受け)に位置する。

この二つの状態の音は、まったく同じではない。
私は、できるだけ分割せずにゼロバランスをとるようにしていた。

それでいまごろになって気がついたことがある。
SMEのトーンアームにも採用されているインサイドフォースキャンセラーのおもりの重さのことだ。

もう手元にSMEのトーンアームはないから実測することができないので、正確な数値とはいえないが、
3012−R Specialのインサイドフォースキャンセラーのおもりは2gか3gだった。
EMTのトーンアームはもう少し重かった、と記憶している。5gぐらいだろうか。

インサイドフォースキャンセラーのおもりは、ナイロン製の糸で軸受け上部から後方に伸びている棒にひっかける。
この棒にはいくつものスリットが刻まれていて、キャンセラル量に応じて位置を変えて調整する。

つまりインサイドフォースキャンセラーのおもりの重量を変えても、
ひっかける位置を変えることで、同じキャンセル量は得られる。
おもりを軽くもできるし重くもできる。

となると同じキャンセル量であってもおもりを軽くしたほうがいいのか、反対に重くしたほうがいいのか。
使用カートリッジによって結果は変ってくるのだろうか。

ナイロン糸を別の素材にしてみても音は変っていくはずだ。

Date: 7月 18th, 2014
Cate: アナログディスク再生

秒速5センチメートル

秒速5センチメートル」というタイトルの映画がある。
秒速5センチメートルとは、映画の中で語られている。
桜の花びらの落ちるスピード、ということだ。

秒速5センチメートルは、5cm/secと書く。
こう書けば、オーディオマニアにはなじみのあるスピードである。

カートリッジの出力電圧の項目、
オルトフォンのSPU Classicだと、0.2mV(1kHz, 5cm/sec)とある。

ほとんどのカートリッジの出力電圧は、
1kHzにおける速度振幅5cm/secの水平信号の溝をトレースしたときの値である。

Date: 7月 11th, 2014
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーの設置・調整(その25)

しっかりと接触していなければならないところが接触不良をおこしていたり、
しっかりと締っていなければならないところが緩んでいたり、
こういうことが、その人のシステムだけで生じている分には、その人だけの問題となるわけだが、
その人が他の人にシステムを設置・調整して同じことをやっていたら……。

Macのメモリーの取りつけがきちんとできていなかった人は、
他の人のMacのメモリーも何件か取りつけていた、と本人から聞いている。
そのすべてがいいかげんな取りつけなのかどうかは私には確認しようのないことだが、
これはなかなかコワイことである。

Macのメモリーの取りつけがいいかげんな人は、
私から見ても素人ということになるのだが、本人もそのまわりにいる人たちも、
その人のことをMacに詳しい人、Macのハードにも詳しい人と思い込んでいる。

彼はメモリーを取りつけることでお金を稼いでいたわけではなく、
まわりからMacに詳しいと頼られているから親切で、他の人のMacのメモリーを取りつけていたのだろうが、
いいかげんな取りつけをされた人にとっては、何が原因なのかわからぬままトラブルを抱えることになる。

同じことがオーディオで起きていないといえるだろうか。
間違いなく同じことが行われている、といえる。
私ですら数件ではあるが、そういう例をみているのだから。

このことがやっかいなのは、たいていというかすべての場合、
善意で設置・調整をやる人は、やってもらう人よりもオーディオ歴が長く、先輩といえることにある。
だからやってもらった人は、まず疑うということをしない。

Date: 7月 5th, 2014
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーの設置・調整(その24)

同じことはオーディオでもよくあることのひとつだ。
たとえばピンケーブル。RCAプラグの接触がうまくいってなくてということ、
カートリッジのシェルリード線のカシメがゆるゆるだということ、
トーンアームのプラグインナットの締めがゆるいこと、
それからアンプ、CDプレーヤーの着脱式のACコードがきちんと挿さってない、などである。

そんなことがそんなにあるわけないと思うだろう。
それが意外に多く見受けられることである。

ケーブルを変えれば音は変るわけだが、
それ以前にコネクターにおける接触がきちんとなされていなければ、
ケーブルを交換しての音の差は、接触がゆるいコネクターときちんとしているコネクターの違いなのかもしれない。

最初はきちんと接触していても、一部のケーブルのように極端に重量があるものだと、
いつのまにか接触不良を起しているかもしれない。

ACコードにしても、そんなことはないだろうと思われるだろうが、これも実際にあったことである。
アンプやCDプレーヤーの電源が時々落ちて困る、という話をきいた。
これも着脱式のACコードがきっちりと挿し込まれていなかったためのトラブルである。

大切な、高価なオーディオ機器をこわしたくない、傷めたくないからとおっかなびっくりでやっていると、
ACコードを挿して最初に手応えがあったところでやめてしまったためである。
メモリーのトラブルとまったく同じことが、オーディオでも起っている。

あと少しの力を加えていれば起きなかったトラブルである。

この問題がやっかいなのは、本人はしっかり接続しているつもりでいることだ。

Date: 7月 5th, 2014
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーの設置・調整(その23)

オーディオクラフトの花村圭晟氏、マッキントッシュのゴードン・ガウの指摘にあるようなことに、
こういうこともある。

日本ではオルトフォン・SME規格のプラグインコネクターが一般的になっていて、
カートリッジを手軽に交換できるようになっている。
けれど、この結合部のプラグインナットの締めがしっかりなされていないことが割とある。

カートリッジを取りつけたヘッドシェルをトーンアームに取りつける。
このときトーンアームの軸受けを傷めないようにしっかりとアームパイプを右手で固定していなければならない。

プラグインナットの締めつけには右手の親指と人差し指で、のこりの指と手のひらでパイプを固定しておくわけだ。
これが基本なのだが、中にはプラグインナットだけしか触っていない人もいる。

そういう人に多いのだが、力を十分に加えることを怖れているようなところがある。
だからプラグインナットの締めが十分でなかったりする。

オーディオのことではないが、以前マッキントッシュ(パソコンのMac)が具合が悪くなったから……、
ということがよくあった。
最初の友人のMacだけをみていたけれど、友人の知り合いのMacもみることも増えてきた。
まだMacOSが現在のMacOS XではなくMacOS9のころの話だ。

大半はシステムがおかしくなって、だったけれど、中にはメモリー関係のトラブルもあった。
そのトラブルのほとんどは自分でメモリーを増設した、というもので、
すべてメモリーがスロットの奥まで取りつけられていなかったために起っていた。

どこまで力を入れていいのかがわからず、最初の手応えがあったところでやめてしまって、ということだった。
だからメモリーをきちんと取りつければそれで解決していた。

Date: 6月 28th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その17)

けれどカートリッジスタビライザー、および同様のアクセサリーの存在を否定するつもりはまったくない。
使うことはなかったけれど、試してみたい、とは思っていた。
使用ではなく試用という意味で使いたいのはあった。

見た目は確実に悪くなる。
けれどカートリッジスタビライザーとして確かなものであれば、
それを装着することで改善されるところがあるわけで、
改善されるということはそのところが、いままではあまり良くなかった、ということを確認できる。

そこに気づけば、なぜそうなのか、と原因を追及することになる。
そのためには原理を理解することになる。

常用するものばかりが優れたアクセサリーとは思っていない。
何かを気づかさせてくれるアクセサリーもまた、常用しなくとも優れたアクセサリーである。

アクセサリーはいくつかに分けられる。

ひとつは必要なアクセサリーである。
ケーブルは、これにあたる。ケーブルがなければ音は出せない。

それからクリーナーという、オーディオ機器、ディスクの調子を整えるためのものがある。
接点クリーナーもそうだし、ヘッドイレーサーもここにはいる。
これらがなくても音は出る。けれど接点が汚れてきたら、
レコードの盤面にほこりがたまり、油汚れがついていたら、カートリッジの針先が……、
こういったことを取り除いて、オーディオ機器の調子を維持する。

そして必要としないけれど、音に働きかけるアクセサリーがある。
カートリッジスタビライザーもそうだし、ディスクスタビライザーもそうだ。
グラフィックイコライザーも、ここにいれられる。

Date: 6月 27th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その16)

カートリッジスタビライザーは後付けタイプとはいえ、まったく制約がないわけではない。
ディスクウォッシャーのDiscTrakerは、
写真をみればわかるようにカートリッジの取りつけビスが貫通するつくりのヘッドシェルでなければならない。

スタックスはそうでないヘッドシェルにも取りつけ可能だが、

それでもフィデリティ・リサーチのFR-S、オルトフォンのG型ヘッドシェルなどには取りつけられない。
それにどちらもヘッドシェル一体型のカートリッジには無理。

ヘッドシェルを取りつけ可能にモノに変更すればいいわけだが、
それでもこの手のカートリッジスタビライザーに興味はあったものの、
どうしても見た目が美しくなくなる。

SMEの、それもロングタイプの3012にオルトフォンのSPU-Gを取りつける。
個人的には3012-R Specialがいい。

この組合せがレコードのという黒盤の上をゆっくりと中心に向い流れていく姿は、それだけで惚れ惚れとする。
これほと様になるカートリッジとトーンアームの組合せは他にない。

これで悪い音が出てくるはずがない、と私は信じ込める。
少なくともクラシックを聴くかぎりにおいては、そう言い切れる。

この組合せの姿の美しさに惚れ込める人なら、
どれだけ効果的であってもカートリッジスタビライザーを装着したいとは思わない。

Date: 6月 26th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その15)

いまではこの手のアクセサリーはなくなってしまったようだが、
1970年代後半から80年代にかけて、カートリッジスタビライザーと呼ばれるアクセサリーがいくつかあった。

アメリカ製ではディスクウォッシャーのDiscTrakerがあった。
ヘッドシェルに取りつけ、トーンアーム、カートリッジの低域共振を低減するものである。

スタックスからはCS2という製品が出ていた。
これもヘッドシェルにとりつけるタイプで、ブラシがついていてエアーダンプ機構で低域共振を低減する。
ブラシは導電性で静電気の除去も兼ねている。

エアーダンプは写真をみるとDiscTrakerも同じと思われる。
スタックスはCS1という同社のコンデンサー型カートリッジCP-Y専用モデルも用意していた。

針交換が可能なMC型カートリッジで知られていたサテンからはIC16が出ていた。
これもヘッドシェルに取りつけるタイプで、トーンアームのイナーシャをコントロールする、とある。

ファイナルからはKKC48という、これはヘッドシェルではなくトーンアームの先端部に取りつけるモデルが出ていた。
カートリッジのカンチレバーの不要な横方向の振動を低減するもの。

メーカー名も型番も忘れてしまったが、オイルダンプ型のヘッドシェルもあった。

どれも使ってみたことはないのでどの程度の効果が得られるのかは不明だが、
効果が得られないということはなかったのではないか。

Date: 6月 26th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その14)

トーンアームにオイルダンプを採用したモノが昔からある。
SMEの3009、3012もフルイドダンパーFD200を後から取りつけることでオイルダンプ機構を搭載できる。
日本のトーンアームではオーディオクラフトの一連のモデルがワンポイント支持のオイルダンプである。

他にもグレイの206といった重量級のトーンアームもあるし、
常にどの時代にもオイルダンプのトーンアームはあった。

これらのトーンアームは軸受け、もしくは軸受け周辺でのオイルダンプである。
だが制動ということで考えればトーンアームの軸受けもしくは周辺でよりも、
カートリッジの針先に近いところで制動をかけたほうが、より効果的であるし、
その両方で制動をかけるという手もある。

ステレオサウンド 68号に、ロックというイギリスのアナログプレーヤーが紹介されている。
特集記事でも新製品紹介のページでもなく、
巻末にあるBestBetsというイベントや新開発の技術などを紹介するページに載っている。

ロックに搭載されているトーンアームはオイルダンプ。
軸受けでのオイルダンプの他に、ヘッドシェルの先端部もオイルダンプしている。

SMEのFD200をもっと長くしたオイルバスがキャビネット前面にあり、
ディスクをターンテーブルプラッターの上にのせてから、このオイルバスを動かし、
ヘッドシェルの先端をこのオイルバスにつけるというものだ。

オイルも軸受けとフッドシェル先端では粘性の違うものを採用している、とある。

このプレーヤーは、イギリスのベドフォードシャーにあるクランフィールド工科大学が開発し、
エリートタウンズヘッド社が製品化。

このプレーヤーの情報は輸入商社からではなく、別のところから届いたものだった。
イギリスの最新アナログプレーヤー事情ということで誌面に載せたけれど、
掲載時には輸入元は決っていなかった。
その後、このロックについての情報を聞くことはなかった。

Date: 6月 25th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その13)

シュアーのV15 TypeIVの広告の図をみていると、
カートリッジが上下動することでカートリッジの移動距離という間隔も、
ダイナミック・スタビライザー有無によって変化する、とある。

この図をみているとレコードの反りの影響で、正確なトレーシングが阻害されている、となる。
この図をみなくともレコードの反りが悪影響を与えているのはあきらかである。

シュアーの広告によると、レコードの反りは、0.5〜8Hzとなっている。
この周波数はカートリッジとトーンアームの共振周波数と重なる。

シュアーが以前出していたテストレコードには、この共振をテストするために、
4、5、6、8、12Hzという低い信号を音楽信号に重ねてカッティングしてあるトラックがあった。

シュアーの広告には、共振周波数は5〜15Hzとなっている。
つまり反りの周波数とカートリッジとトーンアームの共振周波数が一致すれば、どうなるか。
一致しないまでも近い周波数であればどうなるか。

レコードに反りがあれば、なんらかの対策は必要といえる。
シュアーの解決策がダイナミック・スタビライザーである。

シュアーの広告だけをみていると、いいことだけを書いてある。
広告だからそういうものといえるわけだが、ダイナミック・スタビライザーといえど完璧な対策とはいえない。

おそらくシュアーのことだから、当時発売されていたトーンアームを研究して、
できるだけ広範囲なトーンアームとの組合せを考慮しての、
ダイナミック・スタビライザーの制動を決定しているはずである。

とはいえトーンアームが変り、ヘッドシェルも変れば実効質量もかわり、
ピックアップ全体の慣性質量も変化するわけで、おそらく極端に重いトーンアームとヘッドシェルでは、
V15 TypeIVのダイナミック・スタビライザーの制動範囲をこえてしまう可能性がある。

そうなるとダイナミック・スタビライザーの効果は薄れ、場合によっては役に立たなくなる。

Date: 6月 25th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その12)

シュアーのV15 TypeIV以前にもカートリッジの先端にブラシを装備したモデルはいくつかあった。
シュアーと同じアメリカのメーカーで、ピカリング、スタントンのカートリッジにはブラシがついていた。

これらのブラシは非常に簡単なつくりで、指で触るとフラフラしている。
これらのブラシは静電気とレコード盤上のホコリの除去のためであり、
これらのブラシといっしょにされたくないというシュアーの広告は理解できる。

V15 TypeIVのブラシ(ダイナミック・スタビライザー)には粘弾性ダンピング剤が使われていて、
実際に指で触ってみれば、制動がかかっていることがすぐにわかる。

V15 TypeIVの広告をみた人ならは記憶されているだろうが、
反ったレコードをトレースするカートリッジの図が載っていた。
ひとつはシュアーのV15 TypeIV、もうひとつはダイナミック・スタビライザーをもたないカートリッジである。

図には点線でカートリッジの上下動の軌跡を示してある。
通常のカートリッジでは反りにさしかかったところでカートリッジ盤面との間隔が縮まり、そして広がり、
この広がりは反りの反対側の傾斜の途中で最大になる。
そして反りを通りすぎて平らなところにカートリッジがあっても、
反りによって生じた上下動はすぐには収束せずに、ここでも上下動により間隔の変動が生じている。

V15 TypeIVはというと、反りのところでも間隔は常に一定である。
反りのところでは反りに追従しているし、不要な上下動をダイナミック・スタビライザーで制動しているためか、
平らなところにうつってもそのまま間隔は一定である。

この間隔とは、レコード盤面とカートリッジとの距離であるわけだが、
図をみれば、この間隔の変動にともない、別の間隔も変動していることがわかる。

Date: 6月 24th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その11)

各メーカーのレコードの反り対策で、
多くの人が知るのといえば、シュアーのV15 TypeIVから搭載されたブラシがある。

1978年ごろのシュアーの広告には、ヤマハのレシーバーCR1000の写真が使われていた。
キャッチコピーはこうだった。
《これをブラシと呼ぶのは、これをラジオと呼ぶようなものだ。》

最初の「これ」とはV15 TypeIVの先端についているブラシのことであり、
二番目の「これ」はCR1000のことを指す。

CR1000は当時180000円していた。
プリメインアンプのCA1000をベースに、CT800を上回る性能のチューナーとを組み合わせたもの。
たしかに、CR1000をラジオと呼ぶ人はいない、と思う。

V15 TypeIVの先端についているブラシは、
何も知らない人は、レコード盤上のホコリ除去、もしくは静電気除去のためのものと思うだろう。
シュアーは、このブラシのことをダイナミック・スタビライザーと呼んでいた。

このブラシは導電性のある素材が使われているから、静電気の除去もできるが、
シュアーが広告で大きく謳っていたのは、レコードに反りに対してのことであり、
広告には《カートリッジの上下運動の安定化を計り、レコードの反りに起因する難問題を克服》とあった。