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Date: 8月 29th, 2012
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その27)

ダグラス・サックスへのインタヴュアーは、こんな質問もしている。
「ある人が莫大な資金をあなたに提供してレコード再生システムを改良するとしたら、どうやるか」と。

彼の答は、「レコード面に接触しないで再生する方法」である。
光学的に音溝をトレースして情報を読みとり電気信号とするもの。
この時点(1980年)では夢物語に近かった、この光学式プレーヤーも、いまや実現されている。
しかも登場したころ100万円をこえる、かなり高額だったものが価格的にも抑えられた機種も登場している。

ダグラス・サックスは、エルプの光学式プレーヤーをどう評価しているのか、知りたいところである。

なぜ彼は光学式だと答えているのか。
その理由については語られていないけれど、
従来の、ダイアモンドの針先で音溝を直接トレースして、
その振動を電気信号に変換して増幅・イコライジングという方法では、
再生機器の能力はカッティングレースの能力をこえることができないからだ。

だから彼は「ベターの段階でとどめておくべき」だと発言している。

機械式に音溝を読みとっていくかぎり、振動の問題から解放されることはない。
振動があれば共振の問題がある。
特にトーンアームの低域共振の問題は、トレース能力に大きく関係してくる。

もしカッティングでの限界である8Hzという低い周波数の音が大振幅でカッティングしてあったら、
どんなカートリッジ、どんなトーンアームをもってきても、まず完全なトレースは不可能であろう。

共振の問題からのがれるには光学式ということになる。
光学式はたしかに多くの技術的なメリットを持っている、と思う。
でも、心情的にはアナログディスクの再生は、
いままでどおりカートリッジでトレースして、の方式に惹かれるし、
アナログディスク再生の面白さは、こちらにあると感じている。

アナログプレーヤーの在り方について考えるのであれば、こういったレコードの事情を充分に考慮した上で、
アナログプレーヤーにおける「オリジナル」とは何か、について考えていく必要がある。

Date: 8月 29th, 2012
Cate: audio wednesday

第20回audio sharing例会のお知らせ

次回のaudio sharing例会は、9月5日(水曜日)です。

テーマは、セッティング、チューニングについて、その違いについて話そうと考えています。

時間はこれまでと同じ、夜7時からです。
場所もいつものとおり四谷三丁目の喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 8月 28th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その10)

このCDプレーヤーの件は、かなり特殊なことだったんだと思う。
これに似た話は、ほかに聞いたことはない。
まぁ、めったに起らないこととはいえるのだが、だからといって絶対に起らないことでもない。

修理、メンテナンスのためにメーカーは補修パーツをストックしておく必要がある。
その補修パーツを保管しておくにはそれだけの場所が必要だし、
オーディオ機器のパーツは温度、湿気によって劣化するものだから、ただ保管しておけばいいというものではない。
保管しておくためにお金が必要となる。
しかも補修パーツは会社の資産としてみなされるはずだから、税金もかかってくる(はず)。

だからメーカーは製造中止になってある期間がすぎたら修理が無理となるのはしかたないともいえる。

でもユーザーは、メーカーが思っている以上に、長く大切に使い続けているものである。
製造中止になって10年以上経ったモノ、
それもメカニズムを搭載していて、そこが故障した場合、修理は望みにくい。
それでもあきらめきれずにメーカーに問い合わせる。
無理です、という返事がくる。

ここまでは体験された方もいよう。
いまはメールで問合せをする人が多いはず。

でもメールでことわられたら、あきらめずに電話をして丁寧に修理を依頼すると、
条件つきで修理に応じてくれるメーカーも、またある。
確実に直せるとは約束できないけれど、みてみましょう、ということになることがある。
そして運良く、とでもいおうか、きちんと修理されてきた例を私は知っている。

そういうメーカーは、いい会社だな、と思う。
そして、メールは便利だけれどもで、やっぱり肉声だな、声によるコミュニケーションとも思う。

Date: 8月 28th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その9)

故障したら修理、
故障までいかなくても古くなってきたらメンテナンスが必要となってくる。

修理、メンテナンスに対して、そのメーカー、輸入商社がどう考えているのか、
実際のつかっているオーディオ機器が故障して修理に出してみないことには、はっきりとしたことはいえない。

それでも、ある程度想像がつく範囲のこともある。
ウワサが耳に入ってくることもある。

でも、なにかオーディオ機器を新たに購入する時に、
修理態勢、メンテナンス態勢まで気にして買う人は、いったいどのぐらいの割合なのだろうか。

まったく故障の心配のないオーディオ機器、
特性の劣化のないオーディオ機器というものが存在していれば、
修理、メンテナンスのことなんかまたく気にすることもないけれど、
故障する可能性は、どんなオーディオ機器であれ持っているわけだし、
特性の劣化しないオーディオ機器も存在しない以上、
購入時には、決して安い買物ではないのだから、少しは考慮した方がいい。

アキュフェーズ、ウエスギアンプは、内外のオーディオメーカーの中では例外的といえるだろう。
ここまで修理、メンテナンスに関して安心できるメーカーは、あとどこかあるだろうか。

アキュフェーズやウエスギアンプよりも規模の大きなメーカーはいくつもある。
日本では家電メーカーがオーディオ機器も作っていたわけだから、
会社規模は比較にならないほど大きい。
大きいから安心できる、いつまでも安心できる、というわけではない。

こんなことがあった。
ある家電メーカーのCDプレーヤーの第一号機。
安いものではない、そこそこ高価なのであった。
にもかかわらず発売3年ほどで修理が不可能ということで、
その時点の、そのメーカーの最高級機種との交換ということがあった。

製造中止になって、それほど長い期間があったわけでもないのに……、である。

Date: 8月 27th, 2012
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その26)

アナログディスクの周波数レンジは、どうなのだろうか。
ダグラス・サックスによると、カッティングレースは8Hzまでフラットなカッティングが可能、とのこと。
高域に関してはノイマンのレースでは25kHzまで、だそうだ。

8Hzから25kHzまで、CDと数値の上だけで比較してみると、遜色ない。
CDはDC(0Hz)から可能だが、現実にはそこまで帯域が延びている必要性を感じることは、まずない。
高域は単純に比較するとアナログディスクのほうが延びていることになる。

左右チャンネルのセパレーションは、どうだろうか。
15kHzのセパレーションを光学的な方法で測定すると35dBは確保できている、らしい。
このセパレーションの値だけは、CDと比較して大きく劣ることになるものの、
アナログディスクのもつスペックは、あなどれないことがはっきりとしてくる。

これらの値は、ひじょうに注意深くつくられたアナログディスクにのみいえることで、
S/N比と密接な関係にあるダイナミックレンジは、ダグラス・サックスが語っているように、
それぞれのプロセスで劣化していくものでもある。

とはいえ、アナログディスクの器としてのイメージは、
一般に思われているよりもそうとうに大きい、といえるわけだが、
このスペックはあくまでも、LPというレコードの最大スペックであり、
再生側がこれらの特性をあますところなく発揮できるかというと、そうではない。

ダグラス・サックスによれば、
中域・低域に関しては、市販されているいかなるカートリッジのトラッキング能力もこえるだけのレベルの記録は、
いまのどんなカッティングシステムももっている、とのこと。

彼はこう言っている。
     *
再生能力をこえるようなレコードをつくることはむしろよくない。そういうものをベストというべきではなく、ベターの段階でとどめておくべきであり、よい再生というのはその限界を心得たよいシステムによって得られるといえるでしょう。
     *
時代ととともに再生側は進歩している。
だからその進歩に応じて、ベターの段階も、年々向上していくように、
レコードの制作者側は、レコードをつくり送り出していた。

いいかえれば、アナログディスクの場合、つねにレコードの送り手(制作側)の技術的限界は、
再生側の技術的限界よりも上にあった、ということだ。
この点が、CDとの大きな違いである。

Date: 8月 26th, 2012
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その25)

ダグラス・サックスは、こう語っている。
     *
最近の大きなノイズ源の要素はマスターラッカー盤にあるといえます。いまのラッカー盤は五年まえにわれわれが使っていたものよりよくない。私はむかしラッカー盤のS/N比を測ったことがありますが、それは基準レベルにたいして、75dBもあった。以前RCAが行った実験で、ラッカーマスターで90dBのS/N比をもっていたと報じられていたものです。私の見るところでは、ラッカー盤はいまやますます品質がわるくなっている。事実、数年前に、ラッカー盤ではきこえなかったノイズが、いまのはきこえるのです。
     *
ラッカー盤の品質が悪くなっている──。
これは1980年の話であり、CDは登場していない、いわはアナログディスク全盛時代の話にもかかわらず、
アナログディスクの製造過程における最初の段階のラッカー盤のS/N比が悪くなっている、ということは、
当時の私には衝撃的だった。

ダグラス・サックスが言っている5年前(1975年)には75dBあったS/N比が、
1980年においてどれだけ劣化したのは、その値についてはふれられていない。
数年前のラッカー盤では聴こえなかったノイズがきこえるということは、
数dBの劣化ではなく、もしかすると10dB程度の劣化はあった、とみるべきかもしれない。

それにRCAの実験での90dBのS/N比は、いつのことなのだろうか。
これも詳細はふれられていないが、1975年よりも以前のことだろう。

おそらく、この90dBがラッカー盤のS/N比としては上限なのだろう。
そこから1975年の時点で15dBの劣化、1980年の時点でさらに劣化している。

そういえば、ステレオサウンドにいたころ長島先生からラッカー盤がどうやって造られるのか、聞いたことがある。
詳細は、なぜかほとんど記憶に残っていない。
自分でも不思議なほど憶えていない。けれど、職人技が要求されるものであることだけは憶えている。

型に材料を流し込んで出来上り、というようなものではない。

つまりラッカー盤のS/N比の劣化は、人の問題でもあるはず。
そうであるならば、いまのラッカー盤のS/N比は、いったいどれだけとれているのだろうか、と思う。
90dBは絶対にない、75dBもおそらくないはず。70dBを切っているとみていいだろう。
1980年の時点で、ダグラス・サックスが75dBよりも劣化している、といっているわけだから、
60dB程度ということもあり得るかもしれない。

残念ながら、技術とはそういう面ももっているのだから。

Date: 8月 26th, 2012
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その24)

ステレオサウンド 55号にダグラス・サックスのインタヴュー記事が載っている。
アメリカの”Audio”誌1980年3月号に掲載された記事の翻訳である。

記事のタイトルは「ディスク・レコーディングの可能性とその限界」となっている。
この記事の冒頭で、ダグラス・サックスはアナログディスク(LP)のダイナミックレンジは、
81dB前後だと語っている。

デジタルの場合、16ビットのPCMの理論値は96dBであるから、
アナログディスクの81dBは、そうとうに高い値であり、
ほんとうにそこまでとれるのか、と疑われる方もいよう。
私もこの記事を読むまでは、LPのダイナミックレンジがそこまで広いとは思いもしなかった。

けれどダグラス・サックスは、
ごく少数ながら81dB前後のダイナミックレンジをもつLPは世に出ていることで実証されている、といっている。
残念なのは、そのLPがなんであるかはわからない点である。

ただし、この81dBのダイナミックレンジを実現するには、
「よくカットされたラッカー盤から上質のビニールを使いうまく製盤され」なければならない、そうだ。
精選されていないプラスティック材料や平凡な製盤プロセスのレコードでは、
S/N比がすぐに10db程度おちてしまい、当然ダイナミックレンジもその分狭くなる。

LPのノイズは製造過程のどこで発生するのかについては、ダグラス・サックスは次のように語っている。
     *
レコード製造の問題のひとつは、ラッカー盤ばかりでなく、そのほかのプロセスの過程でも発生するノイズというものは、これはもう取り去ることはできないということてす。ラッカー盤のノイズばかりでない、質の悪いメタルマザーやスタンパーの発生するノイズ、マスターテープのいわゆるテープヒス、それからビニール自体の出す別なタイプのノイズがある。皆さんはこれら四種類のノイズをみんなきいているわけです。都合のわるいことに、これらのノイズはマスクされてきこえなくなるというものではく、みんなそれぞれがきこえてしまうということです。
     *
ダグラス・サックスがいう「四種類のノイズ」のうち、
私が衝撃的に感じたのはラッカー盤のノイズについて、である。

Date: 8月 25th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その24)

スピーカーのネットワークに並列型と直列型があることは、ずっと以前から知ってはいた。
私が中学生のときは、まだ技術的なことを解説した書籍がいくつも出ていた。
スピーカーに関する、そういう本もいくつもあった。

ラジオ技術から出ていた書籍は、中学生、高校生にとっては、
LPを一枚買うか、それとも本を買うか、迷ってしまうぐらいに、ほぼ同じ価格のが多かった。

ラジオ技術から出ていた一連の技術書は、
当時手に入れることのできる、もっとも充実した内容のものが多かった。

スピーカーの技術に関するのは「スピーカ・システム」というタイトルで、
山本武夫・編著、となっている。

この本でも当然ネットワークについて語られていて、
並列型と直列型があることも書いてある。
けれど直列型がどういうメリットがあるのかについてはふれられていない。

なにも、この本だけにかぎらない。
私が手にした本で、直列型ネットワークのメリットにふれたものは、ひとつとしてなかった。
どれも直列型がある、というだけにとどまっていた。

もっとも現実の製品をみても、
大半(90%以上)のスピーカーシステムは並列型のデヴァイディングネットワークを採用している。
直列型を採用しているのは、数えるほどしかない。
それでも現行製品で直列型を採用しているスピーカーシステムがあるのも、また事実である。

直列型のメリットは、いったいなんだろうか。
実を言うと、私もよくわかっていない。
いちど並列型と直列型の両方のネットワークを作ってみるべきなのだけど、まだやっていない。

ただデメリットは、ひとつ即いえることがある。
直列型では回路構成上、バイワイヤリングは不可能ということ。
そして、これに関連することだが、たとえばJBLの4343のようにスイッチひとつで、
バイアンプ駆動に切りかえるということも、無理である。

Date: 8月 24th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その8)

スピーカーを最悪まきぞえにするパワーアンプを、なかには積極的に客に薦める店員もいるかもしれない。
たぶん、いるであろう。
スピーカーがダメになってしまえば、新たにスピーカーシステムを売りつけることができる。
それらはけっして安くはないスピーカーシステムであることが多い。

さらには故障したパワーアンプも替えてしまうようにと薦める輩もいよう。
売上げだけを重視する店にいれば、そういうふうになっていってしまっても不思議ではない。

私は幸いにして、そういう店員に出会ったことはないけれど、
それに似た話をまったく聞かないわけでもない。

私が店員であれば、やはりスピーカーをきまぞえにするパワーアンプは、
客が納得ずくで購入するのであれば売っても、
そうでなければ、あまり薦めないだろう。

そのスピーカーシステムが現行製品であっても売りにくさを感じるだろうし、
ましてすでに製造中止になっていて、しかもそのメーカーが存在しなくなっているようなモノであれば、
しつこいくらいに確認したくなるはず。
とくにマルチアンプでシステムを組んでいる人に対しては、パワーアンプの安心度は重要なことである。

わずかな音の違いを求めていくのがオーディオの楽しみではあっても、
つねに音の追求が最重要、最優先されるわけではないこともあるのが、またオーディオである。

オーディオのシステムでなにがいちばん大切なのか。
すべて大切、ではあっても、やはりスピーカーだけは特別である。
愛着をもって鳴らし込んできたスピーカー、
入手するまでに苦労したスピーカー、
ある縁がきっかけで巡り廻ってきたスピーカー、
スピーカーはかけがえのないものであることが多い。

そういうスピーカーをなくすつらさを知っているオーディオ店の人であれば、
パワーアンプの薦め方は、そうでない店員とは違ってくる。

おそらくアキュフェーズとウエスギアンプを薦めていた人は、
そのつらさを知る人だろう。

Date: 8月 24th, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その7)

故障と修理。
思い出したことがある。
ステレオサウンドで働くようになってから1、2年ほど経ったころ耳にした話がある。
ある地方のオーディオ店のことである。

このオーディオ店ではアンプには関して、アキュフェーズとウエスギアンプを客に薦めていた。
以前は、この店も海外製の高級(高額)なアンプを積極的に進めていた時期もあったらしい。
けれど海外製のアンプの中には故障してしまうと、国内の代理店、輸入商社での修理ではなく、
そのメーカーに送り返して、というものが少なからずあり、
さらには修理を終えてユーザーのもとに戻ってくるまで半年以上かかるものすらあった。

愛用しているオーディオ機器が一ヵ月から長いときには半年以上、リスニングルームからいなくなる。
この間、輸入商社から代替機が用意されることはほとんどないだろう。
店が代替機を用意することもあるだろう。

代替機を用意してくれても、ユーザーにとって愛機が不在なことにかわりはない。
海外製品を使うデメリットと理解してくれる客ばかりではない。
私だって、修理に半年かかるといわれれば、なにかがおかしいと思う。
誰だってそう思うだろう。
それは、高額な価格にみあった製品なのだろうか。

その点、アキュフェーズ、ウエスギアンプは故障そのものがすくない。
しかも修理体制が非常にしっかりしている。
かなり以前の製品でもきちんと修理されて戻ってくる。
このことを軽視しする人もいるだろう。

修理体制がしっかりしているのにこしたことはないけれど、
オーディオ機器でまず大事なのは、音の良さである、と。

私もそう思っているひとりである。
だからSUMOのThe Goldの中古を探し出して使っていたわけだ。

そういう私でも、めったに故障しなくて、
たとえ故障しても修理体制がしっかりしていることは、ひじょうに大きなメリットだと思うし、
そういうオーディオ機器(特にアンプ、それもパワーアンプ)は安心して使える。

なぜなら、パワーアンプの故障でもっともこわいのは、
アンプだけの故障にとどまらず、最悪の場合、スピーカーを破損してしまう危険性もある、ということだ。

おそらく、アキュフェーズとウエスギアンプを薦めるオーディオ店の店主は、
海外製のパワーアンプの故障によって、客の大事なスピーカーを破損してしまうということがあったのだと思う。

客が指名して、そのアンプを購入したのであれば、販売した店、店主に責任があるとはいえない。
けれど、店主としては、それですまされることでもないはず。

Date: 8月 23rd, 2012
Cate: 「空間」

この空間から……(その5)

空洞と空間。

空洞には心はない、空間に心はある。
そう思っている。
すくなくとも音楽を感じる心は、この「空間」にある。

もうひとつ。
空洞にはなく空間にあるもの。
「窓」である。
弦楽器にf字孔が必要なように……。

Date: 8月 23rd, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その6)

どんな使い方をしても故障せずに、初期特性を定期的なメンテナンスすることなくずっと維持できる──、
そんなオーディオ機器は世の中にはひとつもないし、
そういうオーディオ機器が、音のことをさておき、果して理想のオーディオ機器の在り方なのか。

音楽のみに関心があり、オーディオ機器には一切の興味、関心がない、という人にとっては、
そういう故障もなくメンテナンスも必要としない機器は理想であろうが、
すくなくともオーディオマニアを自称する人であれば、オーディオ機器への愛着があり、
その愛着は使い方によって深まっていくのでもある。

オーディオ機器は、いつかは壊れる。
壊れてしまったら修理が必要だし、
初期特性を維持するためにはメンテナンスも必要である。

このふたつ、修理とメンテナンスがユーザー側で可能なモノが以前は割と多かった、と感じている。

無線と実験で、いま「直して使う古いオーディオ機器」という不定期の連載記事がある。
なんのひねりもないタイトルから内容はすぐにわかる。タイトル透りの記事である。
筆者は渡邊芳之さん。

この記事にこれまで登場したオーディオ機器はQUADのトランジスターアンプ、
トーレンス、デュアルのアナログプレーヤーで、
これからSMEのトーンアームについての記事が載る予定だそうだ。
毎回3ページのこの記事が載るのを、個人的には楽しみにしている。

故障してしまったとき、まだメーカーがその製品を修理してくれているのであれば修理に出せばいい。
けれど古い製品であればすでに補修用パーツをメーカーが処分してしまっていたり、
メーカー自体がなくなっていることだって現実にはある。
そうなってしまうと、どこか代りに修理してくれる会社もしくは個人を探し出すことから始めなくてはならない。

「直して使う古いオーディオ機器」を読めば思うのは、
昔のオーディオ機器は、ある程度の故障ならユーザーの手によって修理が可能な造りをしている、ということ。
補修パーツを用意できれば、そう難しいことではない。
しかもその補修パーツも、インターネットの普及のおかげで、以前より入手は容易になっている面もある。
このへんのことは、渡邊芳之さんの記事をお読みいただきたい。

オーディオ機器すべてが、ユーザーの手が修理できる造りである必要はない。
ないけれども、直して使うことによって深まっていくものがあるのも、また事実である。

Date: 8月 22nd, 2012
Cate: ロングラン(ロングライフ)

ロングランであるために(その5)

オーディオ機器が長くつき合ってこそ、的な云われ方が昔からされている。
けれど、これには条件がある。
長くつき合うには、その長い期間の使用に耐えるだけの造りの良さ、安定性、耐久性といったものが、
オーディオ機器に備わっていることである。

どんなに高性能であり、満足のいく音を出してくれるものであっても、
使用条件がひじょうに狭い範囲のものであり、しかも不安定な機器で、
音を聴く前に調整が必要になるという機器や、
初期特性をそれほど長い期間維持できない機器などは、
たとえこわれなかったとしても、こういう機器とは長いつき合いは正直難しい。

性能を維持するために必要な手入れは面倒だとは思わない。
けれど、それが常に求められるのであれば、購入したばかりの頃はまだいいかもしれないが、
ずっと頻繁な手入れ、調整が要求されるであれば、
機器の調整そのものが好きな人はいいかもしれないが、私はいやだ。

スピーカーシステムは、さらにエージングが必要なオーディオ機器であり、
エージングが音を大きく左右する、といわれている。
だからといって、20年、30年エージングの期間が必要なわけではない。
どうも中には、ひじょうに長いエージングををしないと、まともな音にはならないと思われている方もいるようだが、
それはまた別の問題が関係して、のことである。

ほんとうにひとりの人が20年、30年手塩にかけてていねいに鳴らし込んできたスピーカーは、
時に素晴らしい音を奏でてくれることがある。
けれど、これも20年、30年の使用に耐えられたスピーカーだからこそ、いえることである。

どんなに丁寧に、気も使って鳴らしてきても、
そして定期的なメンテナンスをやってきたとしても、
これまで世の中に登場してきたスピーカーのすべて、20年、30年使っていけるわけではない。

長い使用に耐えられるモノでなければ、長くつき合えるわけではない。

Date: 8月 22nd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その23)

4つのマトリクスがある、
けれど実際にわれわれが耳にできるもののほぼすべてはピストニックモーションのスピーカーの定電圧駆動になる。
ごく一部のベンディングウェーヴのスピーカーの定電圧駆動が、ほんのわずか存在するぐらいである。

いま定電流駆動による音を聴こうとしたら、パワーアンプを自作するしかない。
どこかのメーカーが定電流出力のパワーアンプを製品化することは、まずありえない。

もし私がアンプメーカーを主宰していたとしても、
定電流出力アンプに大きなメリットを感じていても、現実の製品としてパワーアンプを開発することになったら、
それは定電圧出力のパワーアンプということになる。

なぜ、定電流出力のパワーアンプにしないかといえば、
いま現在市販されているスピーカーシステムのほとんとはマルチウェイ化されている。
フルレンジだけのシステムも少数ながら存在しているけれど、マルチウェイのシステムばかりであり、
これらのシステムには当然のことながら内部にLC型デヴァイディングネットワークをもつ。
しかもこのネットワークの大半は、並列型によって構成されている。

定電流出力のパワーアンプにとって、
この並列型ネットワークがスピーカーユニットとのあいだに介在することがネックとなるからだ。

ネルソン・パスによる自作派のためのサイト”PASS DIY“をみていくと、
定電流出力にふれてあるPDFがある。
Current Source Amplifiers and Sensitive Full Range Drivers“、
Current Source Crossover Filters“、
このふたつのPDFは定電流駆動に関心のある方はいちど読んでほしい、と思う。

タイトルからもすぐわかるように、マルチウェイのスピーカーの定電流駆動に関しては、
“Current Source Crossover Filters”にもあるように、
LC型デヴァイディングネットワークは直列型でなければならない。

Date: 8月 21st, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(その1)

最初のオーディオシステムは、すべて国産だった。
その当時欲しいスピーカーシステムはいくつもあったけれど、私の同じ世代の方ならば同じだと思うが、
高校入学の祝いとして親にオーディオを一式揃えてもらった人は少なくない、というよりも、
きっと多いと思う。
しかも予算もそう大きくは変らないだろう。

その限られた予算の中では海外製のスピーカーはどうしても無理だった。
急激な円高による輸入オーディオ機器の値下げは、残念なことでもありタイミングの悪いことに、
数ヵ月ほど先のことだった。

ステレオサウンドに円高差益還元として輸入オーディオ機器の値下げ情報が載った時、
KEFのModel 103がここまで安くなったのか……、あとすこし早ければ103にできたのに……、と思った。

悔し紛れで書くわけでもないけれど、最初のスピーカーシステムはデンオンのSC104。
デンマーク・ピアレス社のスピーカーユニットを搭載したブックシェルフ型。
スピーカーユニットからすべて国産でまとめあげられたスピーカーシステムとは、少し違う。
こんなことを心の中でつぶやいていたこともあった。

最初に購入した海外製のオーディオ機器は、
これもまた同世代の人と同じようにカートリッジである。
エラックのSTS455Eが、私が最初に購入した海外製のオーディオだった。
STS455Eは、わりとすぐに購入した。
だからすべて国産のオーディオ機器でレコードを聴いていた時期は3ヵ月ほどだった。

それ以降、国産のオーディオ機器だけで揃えたシステムを自分のモノとしたことはない。
一部に国産のオーディオ機器がはいることはあっても、スピーカーシステムはSC104以降はずっと海外製。
唯一の例外はサブスピーカーとして購入したテクニクスのSB-F01だけである。

そういう私が、いまごろになって、国産のオーディオ機器のみで組んだシステムが欲しいな、と思うようになった。
アナログディスク再生ならばカートリッジも、プレーヤー関係のアクセサリーもすべて国産にする。
アンプ、スピーカーシステムはもちろん、ケーブルももちろん国産のみを使う。
スピーカーシステムはユニットは海外製を使用したモノではなく、ユニットからそのメーカーで開発したモノ。

ただ、あまり大袈裟になるシステムは求めていない。
とはいっても本気で好きな音楽を聴けるだけのシステムが、
日本のオーディオ機器だけでまとめあげられる可能性を感じている。

ただ残念なのは、現行製品だけで組むことは、まず無理だということ。
でも過去の日本のオーディオ機器ということであれば、候補はいくつもあがってくる。
使いこなしていく自信はある。

そういえば、使いこなしの「こなし」は「熟し」と書く。
使い熟し、となるわけだ。
つまりは、私の中にも、すこしは熟したものが出てきはじめことが、その理由なのだろうか。