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Date: 6月 15th, 2015
Cate: バランス

音のバランス(色のこと)

文字通り、いろいろな色がある。
ざっと周りを見渡しても、いったいいくつの色があるのか数えるのが無理なくらいの数の色が見える。
外に出れば、部屋の中にはない色もある。

これだけ多くの色があるわけだから、好きな色もあれば嫌いな色もある。
嫌いな色というわけではなかったけれど、私はオレンジ色は好んではいなかった。
オレンジ色のモノをあえて選んだり、オレンジ色の服を身につけることはなかった。

そんな私が、別項「オーディオのロマン」で書いたオレンジ色のフレームの自転車を購入した。

それまでオレンジ色には、まったくといえるほど関心のなかった。
JBLのロゴのバックがオレンジ色なのも、どうして、この色なんだろう……ぐらいに感じていた。
オレンジ色の服を着るなんてことは絶対にないだろうぐらいに思っていた。

そんな私がオレンジ色のデ・ローザのフレームに出逢って一目惚れした。
それからオレンジ色の服(オレンジ色のジーンズも持っていた)を身につけるようにしていた。

10数年前だったか、川崎先生が何かで、嫌いな色のモノを身につけろ、といわれていた。
どうしても嫌いな色の服を着るのがいやだったら、下着でいいから嫌いな色を身につけろ、ということだった。

オレンジ色のフレームとの出逢いがあったことで、
オレンジ色が私の生活の中に入ってきた。

好きな色、関心のある色ばかりで身の回りを揃えてしまうよりも、
川崎先生の「嫌いな色を身につけろ」に倣うことで、バランスを身につけることができるのではないか。

Date: 6月 15th, 2015
Cate: 老い

老いとオーディオ(余談・その1)

別項で音の品位について書いている。
マッキントッシュのXRT20に対する、瀬川先生と菅野先生の違いから、
音の品位について書くために、ステレオサウンド 60号をぴっぱり出している。

上杉先生のXRT20に対する発言を、ぜひここで引用しておきたい。
     *
上杉 プログラムソース別では何が魅力的かということになりますと、女性ヴォーカルの色気なんていうのは物すごく出ますね。
 ぼくは歌手ではないし、まして女性ではないから、そういうことはわかりませんけれども、恐らく歌手があなたにほれているという歌を歌うとすると、それは全身ほれているような感じにならないといかんと思うんです。全身ほれるということになれば、もっと極端なことを言うと、女性自身に愛液がみなぎって歌うときがこれは絶対やと思います。そういう感じで鳴るんですよ(笑い)。いくら芝居で「あなたが好きだ」と歌ってもだめだと思うんです。そうなるとぼくは余り細かいことはいいたくないんです、そういう感じで鳴るものですから。
     *
この上杉先生の発言の あとに《一同爆笑。しばし座談会は中断する。》とある。
そうだろう。

いまのステレオサウンド、
これからのステレオサウンドで、こういう発言が出てくることはおそらくないであろう。

Date: 6月 14th, 2015
Cate: オリジナル

オリジナルとは(モディファイという行為・その3)

国産CDプレーヤーのヘッドフォン端子への配線を外すことは簡単なことであり、
しかも簡単に元に戻せる。

既製品に手を加える場合に、
この「元に戻せる」かが重要なポイントとなる。

元に戻せるのを可逆的、そうでないのを不可逆的ともいう。

既製品に手を加えることを認めない人は、
可逆的であろうと不可逆的であろうとダメということになり、
可逆的であれば手を加えることは認めるという人もいる。

例にあげたCDプレーヤーのヘッドフォン端子への配線は可逆的である。
では誰にでもすすめられるかといえば、必ずしもそうではない。

少なくともCDプレーヤーの天板をとって中を見て、
すぐにどの配線が目的の配線なのかがわかる人であれば何の問題も心配もないけれど、
そうでない人、
つまり実際に指さして、これがその配線だよ、と教える必要がある人には、
可逆的なことであっても、やはりすすめてはならない、と私は考えている。

そして可逆的に見えても、実際には必ずしも可逆的ではないこともある。
たとえば天板を固定しているネジの締付けトルクでそうである。

井上先生から聞いた話では、
ハーマンカードンのCitation XX(パワーアンプ)が、
ネジの締付けトルクを製造時に管理した最初のオーディオ機器ということである。

そのことを知らない人がCitation XXの天板を取る。ネジを緩める。
中にまったく手を加えずに天板を閉じる。ネジを締める。
この時、ネジの締め方がゆるかったり、強かったりすれば、
取り外す前の天板の振動モードにわずかとはいえ違いが生じる。

締付けトルクのことがわかっている人が天板をとって閉じる行為は可逆的であっても、
そうでない人の行為は不可逆的となる。

Date: 6月 14th, 2015
Cate: バランス

音のバランス(その3)

トーンコントロールやグラフィックイコライザーのツマミをいっぱいに動かしてみる。
両極端にいっぱいに動かして音を聴く行為をくり返してつかめるのは、
周波数バランスの中点である。

音のバランスとは、そこだけにはとどまらない。

昔黒田先生からきいた話がある。
マイルス・デイヴィスに関する話だった。
マイルスはある時期、自宅のインテリアをすべて曲線で構成されたモノにしていたそうだ。
その次に鋭角で直線的なモノにすべて置き換えた(順序は逆だったかもしれない)。

マイルスはインテリアを両極端に振っている。
これはマネしようと思っても、なかなかマネできることではない。
でも、ここから学べることはある。

音のバランスも、そういうものだということだ。
マイルス・デイヴィスのように、シャープで鋭角的な音、エッジのきいた音を聴く時期があって、
その次にやわらかくあたたく丸みを帯びた音で聴く時期があって、
その中点をさぐることができるはずだ。

音を語っている表現はいくつもある。
太っている音と痩せている音。
この両極端の音をある程度意識的に出して聴く。

自分の好きな音、望む音ばかり鳴らしていると、
こういうふうに音を両極端に振ってみることはほとんどないのではないか。

そのやり方を否定はしたくない。
けれど音のバランスを追求していきたいのであれば、
思いつく限り音を両極端に、一度は振ってみる必要がある。

異相の音」を意識することになるはずだ。

Date: 6月 14th, 2015
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(音の品位・その3)

音の品位に関して、菅野先生と瀬川先生で違っているところは、どういうところで、どういうことなのか。
このことについての大きなヒントは、ステレオサウンド 60号の特集にある。

60号の特集は「サウンド・オブ・アメリカ」。
1920年代に建てられたという、90㎡の広さの旧宮邸を試聴室として、
当時のステレオサウンドの試聴室にはおさまっても、
サイズ的に大きすぎるスピーカーシステムを集めての試聴となっている。

この特集にはアルテックのA5、MANTARAY HORN SYSTEMのほかに、A4も含まれている。
他にはJBLのパラゴン、4345、4676-1、インフィニティのIRS、クリプシュのKLIPSCHHORN II K-B-WO、
ウェストレイクのTM3、ESSのTRANSAR III、エレクトロボイスのパトリシアン800などがあり、
マッキントッシュのXRT20もそうである。

このXRT20のページにおける菅野先生と瀬川先生のやりとりこそ、
ふたりの音の品位についての違っているところが、はっきりとあらわれている。

瀬川先生はXRT20の音について、こう語られている。
     *
 ただ、ぼくは今聴いているとちょっと不思議な感じを抱いたのだけれど、鳴っている音のディテールを論じたら違うんですが、全体的なエネルギーバランスでいうと、いまぼくがうちで鳴らしているJBL4345のバランスに近いんです。非常におもしろいことだと思う。もちろん細かいところは違います。けれども、トータルなごく大づかみな意味ではずいぶんバランス的に似通っている。ですから、やはり現在ぼくが鳴らしたい音の範疇に飛び込んできているわけです。飛び込んできているからこそ、あえて気になる点を言ってみると、菅野さんのところで鳴っている極上の音を聴いても、マッキントッシュのサウンドって、ぼくには、何かが足りないんですね。かなりよい音だから、そしてぼくの抱いている音のイメージの幅の中に入ってきているから、よけいに気になるのだけれども……。何が足りないのか? ぼくはマッキントッシュのアンプについてかなり具体的に自分にとって足りない部分を言えるつもりなんですけれども、スピーカーの音だとまだよくわからないです。
     *
瀬川先生が「何かが足りない」といわれているものとは、いったいなんなのか。

Date: 6月 14th, 2015
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(音の品位・その2)

「コンポーネントステレオの世界 ’82」の鼎談では、音の品位に関して、
岡先生が《菅野さんのいっている品位という意味と、瀬川さんのいっている品位というのは、また違うんでしょう》
と発言されている。

菅野先生もそのことは認められていていて、
《違う場合もありますし、同じ場合もあります》と答えられ、続けてこう語られている。
     *
だから品位ということがもし普遍的に理解される概念をもつとすれば、コンポーネントには品位があってしほいわけです。しかしこの言葉は普遍的な概念としてとらえるのはむつかしいですから、何となくクォリティというほうが多少はとらえやすいような気がするんで、クォリティというふうにいっているわけです。
     *
その1)で引用した菅野先生の発言からわかるように、
この鼎談が行われたのは瀬川先生が亡くなられた直後である。

ここに瀬川先生がおられたら、音の品位についてどう語られたであろうか。

音の品位。
最近のステレオサウンドにはどのくらい登場するであろうか。

「コンポーネントステレオの世界 ’82」のころ、音の品位がわからないと瀬川先生にたずねた若いファンは、
50をこえているであろう。
まだオーディオを趣味としている人なのか。
だとしたら、この若いファンは、音の品位を、その後どう捉え理解していったのだろうか。

たしかに音の品位について明快に語るのは非常に難しい。
もし私が若いオーディオマニアに、音の品位についてたずねられたらどうするか。
音を出して語れるのであれば、
音の品位を感じさせてくれるオーディオ機器(特にスピーカーシステム)を選んで聴いてもらう。

「コンポーネントステレオの世界 ’82」の当時であれば、私ならばBBCモニターを選んで鳴らす。
瀬川先生もそうされたのではないだろうか。
他のスピーカーも選ばれたであろうが、BBCモニターは間違いなく鳴らされたであろう。

だがいまは2015年。
どのスピーカーシステムを選んで鳴らすだろうか。
クォリティの高いスピーカーシステムはいくつも頭に浮ぶ。

でも、ここでは音の品位であって、
クォリティ(品質)とは微妙に、でもはっきりと違う音の性質についてである。

いったい何があるのかと考えると、音の品位については、
昔と今とでは、どちらが理解されていたであろうか、ということについて考えざるをえない。

Date: 6月 13th, 2015
Cate: モニタースピーカー

モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その4)

APM6が登場したとき、その形状に関しては、ラウンドバッフルをフロントだけでなくリアにまで採用した、
その程度の認識で捉えていた。

APM6の広告はステレオサウンド 61号に載っている。
設計者の前田敬二郎氏による解説が載っている。
当然、そこにAPM6のエンクロージュアの形状について書かれている。
     *
一般にスピーカーは無限大バッフルに取りつけるのが理想的で、現実に一部のスタジオのモニター設備ではスピーカーを壁面に埋めこんで使用しています。これは有限のエンクロージャーにスピーカーを取りつけると回折が起こり、指向特性を劣化させるからです。しかし理想的とはいっても個人用として無限大バッフルは、いかにも非現実的です。では、どんな方法があるか。解決はスーパーエッグがもたらしました。つまりスーパー楕円エンクロージャーです。
     *
この広告からわかるのは、
APM6のエンクロージュアは無限大バッフルを現実的な形とすることから生れたものということ。
APM6のエンクロージュアは楕円を縦四分割し、パーティクルボードと天然木を曲げながら積層し、
最後に天板と底板と一体化するという手法でつくられている。

おそらくAPM8のエンクロージュアよりも手間がかかっているはずだ。
このエンクロージュアとAPM6からレベルコントロールが廃されているのは、実は関連している。
でもAPM6登場の1981年、私はそのことに気づいていなかった。

白状すれば、APM8に魅力を感じていたし、
ほぼ同時期にテクニクスから発表になったSB-M1の方に強い関心をもっていた。

そのSB-M1には別称がある。MONITOR 1である。
このことからわかるようにM1のMはMonitorの頭文字である。

同時期にソニーとテクニクスから、モニターと名のつく平面振動板のスピーカーシステムが登場したわけだ。

Date: 6月 12th, 2015
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(音の純度とピュアリストアプローチ・その9)

この項の(その3)で、
ブルーノ・ワルターのデジタルリマスターのLPを買った、と書いた。

LP(アナログディスク)なのに、デジタルリマスター。
いうまでもなくワルターの録音はすべてアナログ方式によるもの。
それを一旦デジタル信号に変換して信号処理。
それをまたアナログ信号に変換する。

多くの人が、ソニーはなんてバカなことをするんだろう、と思っていたはず。
私だってそう思っていた。
そんなことをすれば音の鮮度、純度といったところは明らかに劣化する。

しなくてもいい処理を、なぜソニーはやるのか。
そんな疑問をもちながらも、当時ブラームスの交響曲第四番を、
とにかくいろんな人の指揮で聴いてみたかった私は、
ワルターの四番はもっていなかったので、
廉価盤で安いということもあって、とにかく買って聴いてみよう、と思った。

音がどうしようもなく悪かったら、
編集後記に書こう、などと思いながら、音を聴いた。

聴いてみると、悪くないどころか、むしろいい音に聴こえる。
日をあらためて聴いてみても、悪くない。

ワルターのブラームスの四番のオリジナル盤は聴いたことがないから、
それとはどの程度の音の違いがあるのかは知らないが、
とにかく国内盤、アナログ録音なのにデジタルリマスター。

私にとって、いい音がするとは思えない組合せのレコードなのに、
予想に反する音が鳴ってきた。

実は、このことも、私の中では、いま書いている「冗長と情調」に関係してくることがらである。

Date: 6月 12th, 2015
Cate: モニタースピーカー

モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その3)

ステレオサウンド 54号、瀬川先生のAPM8の試聴記には、
《レベルコントロールには0・1dBきざみの目盛が入っているが、実際、0・5dBの変化にもピタリと反応する。調整を追い込んでゆけば0・3dB以下まで合わせこめるのではないだろうか。これほど正確に反応するということは、相当に練り上げられた結果だといえる。》
とある。

つまりAPM8には、連続可変型のレベルコントロールがついていた。
APM6には、レベルコントロールはついていない。
当時は、これが意味することがわかっていなかった。

レベルコントロールがないんだ、ぐらいにしか捉えていなかった。
このことと、APM8とAPM6のエンクロージュアの形式の違いは密接に関係している。

APM8はソニー・ブランドで出ていたSS-G9の平面振動板タイプと、外観上はそういえるところがある。
ほぼ同じ寸法のエンクロージュアに、レベルコントロールと銘板の位置もほぼ同じである。
そして特徴的であるAGボード(アコースティカル・グルーブド・ボード)の採用。

縦横溝が刻まれたフロントバッフルは、波長の短い中高域を拡散させるものである。
APM8にもAGボードは採用されている。

SS-G9はコーン型、ドーム型ゆえ、ユニットの形状は円であり、バスレフポートの開口部も円。
APM8は平面振動板であり、ユニットの形状は四角。
そのためであろうバスレフポートの開口部も四角に変更されている。

そんな違いはあっても、SS-G9とAPM9と共通するところの多いスピーカーシステムである。

ところがエスプリ・ブランドのスピーカーシステムの第二弾であるAPM6は、
エンクロージュアの設計はSS-G9、APM8とはまったく別モノといえる。

APM6のエンクロージュアは、スーパーオーバル(超楕円)といわれる形状をしている。

Date: 6月 12th, 2015
Cate: 冗長性

冗長と情調(を書きながら……)

オーディオにおける冗長性について書こう(書けるかな)と思ったのは、2008年9月。
ブログをはじめたばかりのころ、「redundancy(冗長性)」を書いている。

けれどそのまま放っておいていた
続きを書こうとは思っていたけれど、
「redundancy(冗長性)」のタイトルのままでは、先を書けなかった。

ここにきてやっと「冗長と情調」というタイトルを思いついた。
このタイトルにして、やっと続きが書けるようになったし、
書きながら、あれもそうだったのか、これもか、とこれまで、ばらばらのこととおもえていたのが、
関連していることに気づいている。

瀬川先生が求められていた音に関してもそうだ。
なぜイギリスとアメリカのふたつのスタジオモニターを鳴らされていたのか、
なぜEMTのカートリッジだったのか、
なぜLNP2にバッファー用にモジュールを追加されていたのか、
他にもまだある。

とかにくそういったことがやっとひとつにつながっていっている。

Date: 6月 12th, 2015
Cate: 冗長性

冗長と情調(その6)

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」タンノイ号で、
オートグラフについて井上先生が語られていることが、ここに関係してくる。
     *
(オートグラフは)安直に使ってすぐに鳴るようなものではない。現実に今日鳴らす場合でも、JBLとかアルテックなどとは全然逆のアプローチをしています。つまりJBLとかアルテックの場合、いかに増幅段数を減らしてクリアーにひずみのないものを出していくかという方向で、不要なものはできるだけカットしてゆく方向です。ところが、今日の試聴ではLNP2のトーンコントロールを付け加えましたからね。いろいろなものをどんどん付けて、それである音に近づけていく。結局、鳴らすためにこちらが莫大な努力をしないと、このスピーカーに拒否される。これはタンノイの昔からの伝統です。これが使いづらいといわれる点ですが、しかし一つ決まったときには、ほかのものでは絶対に得られない音がする。
     *
ここで井上先生がいわれている「今日の試聴」とは、
「タンノイを生かす組合せは何か」というタイトルの記事で、
オートグラフの組合せをつくられた試聴のことを指す。

最初井上先生はオートグラフを鳴らすアンプとして、マークレビンソンのML2を選ばれている。
コントロールアンプは、管球式のプレシジョンフィデリティのC4。

ML2の出力は25W。
このため、《これはこれで普通の音量で聴く場合には一つのまとまった組合せ》と評価しながらも、
大音量再生時のアンプのクリップ感から、マッキントッシュのMC2300に替えられている。
MC2300は出力にオートフォーマーをもつ300Wの出力のパワーアンプ。

ここで音像に《グッと引締まったリアリティのある立体感》が加わり、
音場感も左右だけでなく奥行き方向へのパースペクティヴの再現がかなり見事になり、
一応の満足の得られる音となる。

そこでさらに緻密な音、格調の高さを求めてコントロールアンプを、
C4と同じ管球式の、コンラッド・ジョンソンのアンプ、
それから、これもパワーアンプ同様、方向転換ともいえるマークレビンソンのLNP2を試され、
LNP2とMC2300の組合せに決る。

これが井上先生の《LNP2のトーンコントロールを付け加えましたからね》につながっている。

Date: 6月 11th, 2015
Cate: モニタースピーカー

モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その2)

エスプリ(ソニー)のAPM8は、
ステレオサウンド 53号の新製品紹介で初登場し、
54号の特集「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」にも登場している。

新製品紹介では井上先生、山中先生によって評価され、
54号の特集では、黒田先生、菅野先生、瀬川先生によって試聴されている。

黒田先生は、試聴記の冒頭に《このスピーカーには、完全に脱帽する》と書かれている。
試聴記の最後はこう結ばれている。
     *
いつの日かここでそのように口走ったことを後悔するのがわかっていて、これをパーフェクトだといってしまいたい誘惑に抗しきれない。すばらしいスピーカーだ。
     *
この特集の冒頭に「スピーカーテストを振り返って」という座談会が載っている。
編集部から、今回聴いた46機種のスピーカーの中で、
一台を自宅に持ち帰るとすればどれを選ぶかという質問がある。

ここでも黒田先生は《迷うことなくエスプリAPM8です」と答えられている。

菅野先生、瀬川先生の評価も高い。
ふたりとも一本100万円という価格がひっかかって、推選、特選機種とはされていない。
瀬川先生も菅野先生も価格が半値であったら10点をつけるといわれていてる。
さらに菅野先生は、
《今回のテストで、最も印象づけられたスピーカーなのです》とつけ加えられている。

瀬川先生は《あらゆる変化にこれほど正確に鋭敏に反応するスピーカーはないですね」といわれ、
試聴記にあるように《レベルコントロールの0.5dBの変化にも反応する!》、
こんなスピーカーは他にはない、とまでいわれている。

APM8がきわめて優秀なスピーカーシステムであることが伝わってくる。
そしてAPM8は、スタジオモニターとしての性能をもっているとも感じていた。

Date: 6月 11th, 2015
Cate: 冗長性

冗長と情調(その5)

ロングアームのことを書いていると、SMEからSeries Vが登場した日のことを思い出す。
別項「SME Series Vのこと(その1)」でも書いている。

Series Vの音に驚いた私は、長島先生に「ロングアームのSeries Vは……」と言ってしまった。
長島先生の返事はこうだった。

「Series Vに不満があるのか」と。
「ありません」と答えた。

不満などまったくなかった。
そのくらいSeries Vに取りつけたオルトフォンSPUは、それまで聴いたことのないクォリティを発揮していた。
それは想像もしていなかったクォリティで鳴っていた。

それでもSeries Vのロングアーム版を望んでいた私には、
12インチのトーンアームこそが標準長のアームであり、
9インチの標準長のトーンアームはショートアームという感覚があったわけだ。
いまもある。

冷静にトーンアームを考えてみれば、
標準長のトーンアームのほうが有利なことが多い。

パイプが9インチと3インチ短くなれば、実効質量は軽くなるし、
同じ材質、同じ肉厚、同じ径であれば、短い方が強度、剛性の面でも有利になる。
どんな材質であれ固有音があり、その固有音はパイプ長とどう関係してくるのか、を考えてみても、
ロングアームは不利である。

けれど「耳」は、ロングアームを求める。

Date: 6月 10th, 2015
Cate: audio wednesday

第54回audio sharing例会のお知らせ

7月のaudio sharing例会は、1日(水曜日)です。

テーマはまだ決めていません。
時間はこれまでと同じ、夜7時です。

場所もいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 6月 10th, 2015
Cate: モニタースピーカー

モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その1)

ソニーのもうひとつのオーディオブランドであったエスプリ。
エスプリ・ブランドの最初のスピーカーシステムは、APM8だった。

1978年に登場したこのスピーカーシステムは、

当時日本のメーカーで流行ともいえた平面振動板が採用されている。
しかも当時日本で驚異的な売上げであったJBLの4343をはっきりと意識していた構成であった。
4ウェイで、外形寸法も4343とほぼ同じといえる。

だから、当時の私は、エスプリ(ソニー)によるスタジオモニターというふうに捉えていた。
けれど、エスプリからは二年後にAPM6が登場した。

こちは2ウェイ。価格はAPM8の100万円(一本)に対し、50万円と、
ユニットの数も半分ならば価格もちょうど半分となっている。

もちろんAPM6もアルミハニカムを採用した平面振動板のユニットである。
こんなふうに書いていると、APM8の弟分として開発されたのがAPM6というふうに受けとめられるかもしれない。

けれどAPM8は、型番の末尾に何もつかなかった。
APM6にはMonitorとついている。
APM6の正式型番はAPM-6 Monitorである。

APM6とAPM8の違いは、Monitorがつくのかつかないのか、
ユニットの数が二つなのか四つなのか、という違いの他に、
エンクロージュアの考え方に大きな違いがある。