音のバランス(その3)
トーンコントロールやグラフィックイコライザーのツマミをいっぱいに動かしてみる。
両極端にいっぱいに動かして音を聴く行為をくり返してつかめるのは、
周波数バランスの中点である。
音のバランスとは、そこだけにはとどまらない。
昔黒田先生からきいた話がある。
マイルス・デイヴィスに関する話だった。
マイルスはある時期、自宅のインテリアをすべて曲線で構成されたモノにしていたそうだ。
その次に鋭角で直線的なモノにすべて置き換えた(順序は逆だったかもしれない)。
マイルスはインテリアを両極端に振っている。
これはマネしようと思っても、なかなかマネできることではない。
でも、ここから学べることはある。
音のバランスも、そういうものだということだ。
マイルス・デイヴィスのように、シャープで鋭角的な音、エッジのきいた音を聴く時期があって、
その次にやわらかくあたたく丸みを帯びた音で聴く時期があって、
その中点をさぐることができるはずだ。
音を語っている表現はいくつもある。
太っている音と痩せている音。
この両極端の音をある程度意識的に出して聴く。
自分の好きな音、望む音ばかり鳴らしていると、
こういうふうに音を両極端に振ってみることはほとんどないのではないか。
そのやり方を否定はしたくない。
けれど音のバランスを追求していきたいのであれば、
思いつく限り音を両極端に、一度は振ってみる必要がある。
「異相の音」を意識することになるはずだ。