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Date: 10月 21st, 2016
Cate: 「本」

オーディオの「本」(読まれるからこそ「本」・その3)

私が小学生、中学生のころは、
田舎町にも書店は何軒もあった。
それから貸本屋もけっこうあった。

貸本にはハトロン紙というのだろうか、半透明の白い紙のカバーがつけられていた。
東京にも貸本屋があるのを意外に感じたのは、30年以上の前のこと。
東京も貸本屋は少なくなってきた。

いま住んでいるところには、徒歩10分ほどのところに一軒ある。
客はあまり見かけないが、ずっと続いているから需要はあるのだろう。
個人経営の書店は近辺で三軒なくなったが、この貸本屋は残っている。

AmazonのKindle Unlimitedは、インターネット上の貸本屋と思う。
そういう時代を生きてきたからなのかもしれないが、
Kindle Unlimitedという横文字の名称であっても、
毎月定額で読み放題の貸本屋がインターネットにあるのと同じである。

貸本には半透明の紙のカバーがついていた。
そのカバーを外して読むことは出来なかった。
だから書店で買ってきた本とは感触が微妙に違う。

この感触の違いはKindle Unlimitedにもある。
紙の本とは違う感触が、そこにある。

Date: 10月 21st, 2016
Cate: 広告

広告の変遷(スタントンの広告)

数日前にも書いてるが、広告は、時として記事よりも、知りたい情報を与えてくれる。
意外な情報も与えてくれる。

アナログディスク全盛時代、スタントンとピカリングはアメリカのカートリッジメーカーとして、
よく知られていたし、私はピカリングのXUV/4500Qは欲しかったし、
スタントンの881Sもいいカートリッジだと思っていた。

他にもエンパイアの4000D/III、
グラド・シグネチュアのSignature II(高すぎたし、あっという間になくなった)も、
欲しいと思ったカートリッジだった。

この中でもスタントンは業務用のカートリッジメーカーだった。
スタントンのカートリッジには681シリーズがあった。
681A、681SE、681EE、681EEEがあった。
実はこれら以外に681BPSというモデルがあった。

これは完全な業務用で一般市販はされていない。
通常のLPを再生することはできないカートリッジだからである。

レコード制作には検聴のためのカートリッジが必要となる。
カッティングしたばかりのラッカー盤の検聴として有名なのは、
ウェストレックスの10Aであり、ノイマンのDSTである。

レコードの制作過程ではもうひとつ、別のカートリッジが必要となる。
それはスタンパーの検聴用である。

スタンパーはプレスに使われるわけだから、そこに溝は刻まれていない。
溝とは逆に、隆起していて、通常のカートリッジではトレースできない。

そのためバイポイントカートリッジというモノがある。
681BPSは、そのバイポイントカートリッジなのだ。

681BPSの存在を知ることができたのも、記事ではなく広告だった。

Date: 10月 21st, 2016
Cate: 「本」

オーディオの「本」(読まれるからこそ「本」・その2)

少し前に、講談社、小学館などの雑誌、人気書籍が、
突然、それも一方的に削除されたニュースがあったAmazonのKindle Unlimited。

月額980円で登録されている本は読み放題というサービス。
最初のラインナップを見て、会員にはならなかった。

今日知ったのだが、ステレオサウンドがKindle Unlimitedにある
いまのところ188号から最新の200号までが会員になれば読める。
HiViもあるし、菅原正二氏の「聴く鏡 II」、和田博巳氏の「ニアフィールドリスニングの快楽」もある。

ステレオサウンドの他に、音元出版もある。
無線と実験、ラジオ技術はいまのところない。

Kindle Unlimitedの会員であれば読み放題であるけれど、
会員をやめれば読めなくなる。
会員のあいだに読んだ本を自分の本にできるわけではない。
所有ではなく読む権利が、月額980円で得られるからだ。

ステレオサウンドだけを読むだけが目的なら、Kindle Unlimitedは高くつく。
ステレオサウンドは三ヵ月に一冊だから、980円の三ヵ月分はステレオサウンドよりも高くなる。

けれどステレオサウンドしか読まないという人はまずいないだろうから、
安い、ということになる。
Kindle Unlimitedへの誘導なのだろう、
ステレオサウンド 199号のKindle版は今なら99円になっている。

私はステレオサウンドがKindle Unlimitedで読めるようになるとは思っていなかった。
正直、意外な感じがした。

本は読まれなければ「本」ではない。
ページをめくるのは、紙の本も電子書籍も指である。

Date: 10月 20th, 2016
Cate: 書く

毎日書くということ(そろそろ考えなければならないこと)

友人たちから「よく毎日書いているね」と言われると、
「三日書かなくなったら孤独死したんだ、と思っていいよ」と答えている。

先月も友人たちとそんな話をしていた。
いまのところ健康に不安はないが、
これから先のことはわからない。
病気にならなくても何かの事故にまきこまれることだってある。

この間も、そんな話が出た。
私がぽっくり逝っても、audio sharingが続いていくようにしておいてほしい、といわれた。

いつそうなってもいいように、
audio sharingを引き継いでくれる人を探しておかなければ──、と考えている。

Date: 10月 20th, 2016
Cate: 戻っていく感覚, 書く

毎日書くということ(戻っていく感覚・その4)

オーディオ、音について書かれる文章は、
瀬川先生の時代よりもいまの方が多い、と感じている。

オーディオ雑誌の数は昔の方が多かった。
けれどいまはインターネットがあるからだ。

量は増えているが、
その多くはパッと流し読みして得られる内容(情報)と、
ゆっくりじっくり読んで得られる内容(情報)とに差がなくなっている。

一度読んだだけで得られる内容(情報)と、
くり返し、それも時間を経てのくり返し読んで得られる内容(情報)とにも差がなくなっている──、
そんなふうに感じている。

そういうものをくり返し読むだろうか。
私は読まない。

残念なことに、いまの時代、そういうものだけが溢れ返っている。
だからよけいに「戻っていく感覚」を強く意識するようになっているのかもしれない。

Date: 10月 20th, 2016
Cate: 戻っていく感覚, 書く

毎日書くということ(戻っていく感覚・その3)

私が書いているものには、瀬川先生、岩崎先生、五味先生の名前がかなり登場している。
これから先書いていくことにも登場していく。

そのためであろう、
私が瀬川先生、岩崎先生、五味先生を絶対視していると思われる人もいる。
絶対視はしていないが、そう思われてもそれでいい、と思っている。

私としては、以前書いていることのくり返しになるが、
松尾芭蕉の《古人の跡を求めず、古人の求めたる所を求めよ》と
ゲーテの《古人が既に持っていた不充分な真理を探し出して、
それをより以上に進めることは、学問において、極めて功多いものである》、
このふたつの考えが根底にあってのことである。

そのためには検証していかなければならない、と思っている。
それが他人の目にどう映ろうと、ここでのことには関係のないことである。

これも何度も書いているが、
私のオーディオは「五味オーディオ教室」から始まっている。
もう40年経つ。
それでもいまだに新たに気づくことがある。
五味先生の書かれたものだけではない、
岩崎先生、瀬川先生の書かれたものからも、いまでも気づきがある。
いや、むしろいまだからこその気づきなのかもしれない。

それがあるから書いている。
それは、時として私にとっては発見なのである。

Date: 10月 20th, 2016
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(45回転LPのこと・その7)

45回転LPのメリットは大きい。
これまでに何度か書いてきているように、音もいい。
アナログディスクならでは、といいたくなる音が、
33 1/3回転よりも凝縮されて出るというか、拡大されて出るというか、
とにかくデジタルを信号伝達メディア、
LP(アナログディスク)をエネルギー伝達メディアと捉えている私にとって、
45回転LPは、まさしくそのためのメディアといえる。

なので究極的には78回転LPということになる。
菅野先生主宰のオーディオラボから、78回転LPが出ていた。
「The Dialogue」から二曲、一曲ずつ片面にカッティングしたもの。
盤面はビクターがテストレコード用に開発したUHQR(Ultra High Quality Record)だった。

反りをなくすためのUHQRだったともいえる。
78回転ではわずかな盤面の反りでもトレースを妨げる。
でこぼこな道では車のスピードを落して走るのと同じで、
スピードが増せばその分わずかな反りでもカートリッジが跳ね上がることにつながっていく。

78回転ほどではないにせよ、45回転では33 1/3回転よりも反りの影響は大きくなる。
低域共振に問題を抱えるトーンアームでは45回転LPの良さは発揮し難い。

つまりいいかげんなアナログプレーヤーでは、45回転LPでは問題を生じることもある。
世の中には45回転LPの音は良くない、という人がいるそうだ。
どんなアナログプレーヤーで聴いているのか、と思いたくなる。

いいプレーヤーを使っていたとしても、使いこなしがよほどだめなのかもしれない。
と同時に45回転LPではノイズのピッチが上る。
このことによる別の影響が出てくる。
特に聴感上のS/N比の良くないスピーカーを使っている場合には顕著に出てくるはずだ。

Date: 10月 20th, 2016
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(45回転LPのこと・その6)

アナログディスクでは、プチッパチッといったノイズを完全になくすことはできない。
盤面に入ってしまったキズ。
目に見えるひっかきキズもあれば、そうでない細かなキズもある。

そのキズを針がトレースする際に、ノイズが発生する。
このノイズに対しても45回転LPは有利である。

回転数が速い分だけキズを通過する時間も、それがわずかな時間であっても短くなる。
そうなればプチッパチッといったノイズも短くなるわけである。
その分、耳につき難くなる。

目に見えるひっかきキズは不注意によって入ってしまうキズだが、
そうでない目に見えない細かなキズはどうしてついてしまうのか。

ホコリが原因だと思われている。
そのため一所懸命にLPのクリーニングをする。
けれど、ほんとうにホコリが原因であろうか。

微粒子の砂や金属紛のようなホコリであれば、溝にキズをつけるだろうが、
そうでないホコリによって果してキズがつくものだろうか。

それに極端な軽針圧のカートリッジは、
レコード片面をトレースすることが難しいほどホコリに弱い機種も、確かにあった。
けれどある程度の針圧をかけるカートリッジであれば、
特に2.5gから3g程度の針圧をかける場合では、むしろホコリをおしのけていく感じがある。

結局、レコードの溝にキズをつける大きな原因は、カートリッジの高域共振である。
高域共振が起ることで針先が暴れる。
針はいうまでもなくダイアモンドである。

そこで音溝が受けるダメージは容易に想像がつく。
同時に針先の形状によってもダメージの具合が変ってくることも。

Date: 10月 20th, 2016
Cate: きく

感覚の逸脱のブレーキ(その4)

別項「ステレオサウンドについて」で54号のことを書いている。
54号のスピーカー試聴で、瀬川先生はリファレンススピーカーを用意されている。
リファレンスアンプではなく、スピーカーの試聴にリファレンススピーカーを、である。

編集部による「スピーカーシステム最新45機種の試聴テストはこうしておこなわれた」に詳しい。
一部を引用しておく。
     *
 テスト方法で他の二氏と大きく異なるのは、リファレンス・スピーカーを使用したことだ。スピーカーはアンプと違いおそろしく多様な音があるので、たいへん色の濃い音を聴いた直後に、全くキャラクターの異なるスピーカーの音を聴くと、いかにオーディオ機器の音を聴き馴れた耳といえども、音を聴く上でのものさしが狂う恐れがあるので、自分の耳のものさしを整える意味でリファレンス・スピーカーを聴いてから、新しいスピーカーを聴くようにしている。
     *
瀬川先生がリファレンススピーカーとして使われたのは、
自身でも常用されているKEFのModel 105 SeriesIIとJBLの4343の二機種である。

このテスト方法については、菅野先生が巻頭座談会で語られている。
     *
菅野 50機種になんなんとするスピーカーを聴きましたけれど相変らず、一つとして同じ音のするスピーカーがなかった。瀬川さんは、ちょうど利き酒をする時に前に飲んだ酒の味を消すために口の中をすすぐ水の役目にリファレンススピーカーを使ったということですが、お聞きしてたいへんいい方法だと思いました。私はそういう方法をとりませんでしたけれど、たしかに前に聴いたスピーカーが、たとえほんの短い時間であっても、下敷きになってしまい、次のスピーカーを聴くときになにがしかの影響を受けるという傾向がどうしても出てくると思います。そうした問題がありながらもなぜリファレンスを使わなかったかというと、わが家において試聴するなら、私自身の装置をリファレンスとして使えますが、この部屋で自分のリファレンスとなるようなわが家と同じ音を出す自信がなかった。ステレオサウンドに常設されているJBL♯434も、自分にとってはリファレンスになり得ない部分があるので、そういう方法をとらなかったのです。
     *
直前に聴いた音が、その後に聴く音に影響を与えることは、
「五味オーディオ教室」にも書いてあった。

瀬川先生がとられた方法も、試聴風景の写真を見る限りはベストとはいえない。
試聴スピーカーの横というか、部屋の隅にリファレンススピーカーか置いたままになっているからだ。
できればあるスピーカーを聴き終ったら、
そのスピーカーのかわりに試聴室にリファレンススピーカーを運び込み音を聴く。
そしてまたリファレンススピーカーを試聴室から運びだして、次に聴くスピーカーの試聴。
またリファレンススピーカーを運び入れ……。

とはいえこれだけのことを45機種のスピーカーを聴くたびに行っていてはたいへんである。
それに54号で実際に聴いた数は50機種近くあり、結果の悪かったモノは除外されている。

ならばリファレンススピーカーのかわりにリファレンスヘッドフォンはどうだろうか。

Date: 10月 19th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その77)

ステレオサウンド 54号の巻頭座談会は、いま読み返しても面白いところがいくつかある。
考えさせられるところもある。

こういう座談会が読みたいのであって、
毎年暮のステレオサウンド・グランプリのような座談会を読みたいわけではない。

この座談会の最後だけを引用しておく。
先に引用した黒田先生の発言に続くものでもある。
     *
瀬川 黒田さんの言葉にのっていえば、良いスピーカーは耳を尾骶骨より前にして聴きたくなると同時に、尾骶骨より後ろにして聴いても聴き手を楽しませてくれる。それが良いスピーカーの一つの条件ではないかと思います。現実の製品には非常に少ないですけれど……。
 そのことで思い出すのは、日本のスピーカーエンジニアで、本当に能力のある人が二人も死んでしまっているのです。三菱電機の藤木一さんとブリランテをつくった坂本節登さんで、昭和20年代の終わりには素晴らしいスピーカーをつくっていました。しかし藤木さんは交通事故、坂本さんは原爆症で亡くなってしまった。あの二人が生きていて下さったら、日本のスピーカーはもっと変っていたのではないかとという気がします。
菅野 そういう偉大な人の能力が受け継がれていないということが、非常に残念ですね。
瀬川 日本では、スピーカーをつくっているエンジニアが過去の伝統を受け継いでいないですね。今の若いエンジニアに「ブリランテのスピーカーは」などといっても、キョトンとする人が多い。古い文献を読んでいないのでしょうね。製品を開発する現場の人は、文献で知っているだけでなく、現物を草の根分けても探してきて、実際に音を聴いてほしい。その上で、より以上のものをつくってほしいと思うのです。
 故事を本当に生きた形で自分の血となり肉として、そこから自分が発展していくから伝統が生まれてくるので、今は伝統がとぎれてしまっていると思います。
黒田 たとえば、シルヴィア・シャシュが、コベントガーデンで「トスカ」を歌うとすると、おそらく客席にはカラスの「トスカ」も聴いている人がいるわけで、シャシュもそれを知っていると思うのです。聴く方はカラスと比べるぞという顔をしているだろうし、シャシュもカラスに負けるかと歌うでしょう。その結果、シャシュは大きく成長すると思うのです。
 そういったことさえなく、次から次へ新製品では、伝統も生まれてこないでしょう。
     *
伝統がどうやって生れてくるのか、
なぜ伝統が途切れてしまうのか。

創刊50年、そのことが伝統ではないということだ。

Date: 10月 19th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その76)

ステレオサウンド 54号の黒田先生の単独での試聴。
その試聴風景の写真が、各機種の試聴記の隅に載っている。

それまでの試聴と違い、黒田先生は試聴室に備えてある椅子ではなく、
座面の高い椅子を使われている。

このころのステレオサウンド試聴室の椅子の前にはテーブルがある。
このテーブルの上にアンプやプレーヤーが置かれていることが多い。
黒田先生の前にあるのは、このテーブルではなく机である。

菅野先生、瀬川先生がテーブルと座面の低い椅子に対し、
黒田先生は机とそれ用の椅子で試聴に臨まれている。

試聴風景の写真は扱いが小さいため細部まで確認できないが、
おそらく机の上にはスコアが広げられていたであろう。

このことと関係して、特集の巻頭座談会の最後に、こう語られている。
     *
 ところで、スコアを机にひろげてレコードを聴くことが多いというぼくの習性にも関係すると思うのですが、自分の耳が自分の尾骶骨より後ろにいくと、音楽をムード的に聴いてしまうように想うのです。そこで今回のテストでは無理をお願いして、机に向かって椅子に坐り、聴き耳をたてたわけです。聴く方は耳を尾骶骨より前に出して、細大もらさず聴きとろうと一所懸命なのですから、スピーカーをつくる方もその期待にこたえるだけの真剣さがほしいと思うのです。
     *
つまり黒田先生は、試聴機材を含めて自宅での聴き方を、
できるだけそのままステレオサウンド試聴室に持ってきての試聴であったわけだ。

だからこそ読み手も、それだけの真剣さで試聴記を読んでこそだ、と思う。
もちろんどう読もうと個人の自由ではあるけれども……だ。

Date: 10月 19th, 2016
Cate: 素材

素材考(柔のモノ・その7)

よくよく思い出してみれば、マランツのCD65の五年前に、
KEFのModel 303というスピーカーシステムを聴いている。

Model 303は、当時のKEFの製品ラインナップでローコストの部類であった。
イギリス製ということで、一本59,000円していたものの、
Model 303の数年後、598スピーカーの狂騒とは実に対照的なつくりのスピーカーシステムだった。

エンクロージュアはプラスチック製、
しかも四面をグリルで囲んでいる。
ローコストなつくりに徹底しているともいえる。

瀬川先生は「およそ無愛想な小っぽけなスピーカー」と表現されていた。
でも、その音は、バランスのいい音で、
この点においても、日本の598スピーカーとは対照的であった。

ステレオサウンド 54号の特集では、
黒田恭一、菅野沖彦、瀬川冬樹の三氏ともに特選とされている。

オーディオマニアは、プラスチックよりも金属や木のほうが優れていると思いがちだ。
木にしてもチップボードよりも合板、合板よりもムクの板、と思う。
私だってその傾向がある。

けれど製造する側の見方は、違うところもある。
同じクォリティのモノを生産していく。
そのためには安定した素材の方が、製品の価格帯によっては有効といえる。

Model 303のウーファーの振動板はグリルを外して確認したわけではないが、
ベクストレンのはずだ。天然素材の紙ではない。

そういう視点でみていけば、Model 303はバラツキの非常に少ないスピーカーシステムであったはずだ。
Model 303の音はCD65以前に聴いて関心していた──、にも関わらずCD65の時には忘れてしまっていた。
それでついこれで金属シャーシーだったら……」と洩らしてしまい、
井上先生に、そうではない、と返されてしまったわけだ。

Date: 10月 18th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その75)

ステレオサウンド 54号の特集は「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」。
ステレオサウンドは、44号と45号の二号にわたるスピーカーの総テストを行い、
46号ではモニタースピーカーに絞っての総テストを行っている。

三号続けての総テストに較べると45機種という数は多いとはいえないけれど、
その間に登場したスピーカーの大半が登場している。

44号、45号では、岡俊雄、黒田恭一、瀬川冬樹の三氏、
46号では岡俊雄、菅野沖彦、瀬川冬樹の三氏。
54号では黒田恭一、菅野沖彦、瀬川冬樹の三氏である。
52号、53号のアンプ総テストでも、三人の試聴だった。

54号の試聴で注目したのは、黒田先生だった。
44号、45号での総テストでは、岡先生と一緒に試聴されている。
それが今回は単独での試聴である。

私が読みはじめたのは41号からで、
その後バックナンバーを読んでみても、黒田先生が単独で試聴されているのは54号が初めてのはずだ。

試聴とは、鳴っていた音を聴くことである。
音が鳴るためには、鳴らし手が必要となる。
つまり誰が鳴らした音、もしくは自分で鳴らした音を試聴室で聴いてのテストということになる。

ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 3ではトゥイーター試聴に、
黒田先生は井上先生、瀬川先生とともに参加されている。
ここでの試聴での音の鳴らし手は瀬川先生である。

黒田先生は瀬川先生が鳴らされた音を聴いての、トゥイーターの評価であったし、
44号、45号では岡先生が鳴らされたスピーカーの音の評価であった。

それが54号では違っている。
もちろんスピーカーの交換・設置などは編集部が行う。
黒田先生が、瀬川先生のように細かいセッティングまでやられているわけではない。
その意味では、鳴らし手はステレオサウンド編集部といえる部分もあるにはあるが、
それでも試聴機材として、
アナログプレーヤーは導入を決められているパイオニアのExclusive P3、
パワーアンプは自宅で使われていたスレッショルドの4000 Custom、
コントロールアンプは試聴室リファレンスのマークレビンソンLNP2である。

試聴機材の選定からいっても、メインの鳴らし手は黒田先生自身といえる。

Date: 10月 18th, 2016
Cate: audio wednesday

第70回audio sharing例会のお知らせ(理屈抜きで聴くオーディオ・アクセサリー)

11月のaudio sharing例会は、2日(水曜日)です。

いまのところ当日集まりそうなアクセサリーのいくつかを書いておく。
低周波(シューマン波)発生装置(二種類の予定)、
磁気フローティングベース、仮想アース関係、制振関係、
CDスタビライザー、ノイズフィルター、ケーブル、電源コードなどである。

どういうふうに進行するのかはあえて決めていない。
集まったモノを試していきながら、方向性を決めていきたい。

オーディオ・アクセサリーがテーマなので強制ではないが、
アクセサリーをできれば何か持ってきていただければ、と思っている。
ケーブルでもいいし、その他のアクセサリーでもいい。

場所はいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 10月 18th, 2016
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(45回転LPのこと・その5)

私がオーディオに関心と興味をもちはじめたときには、
すでに45回転のLPはあたりまえのように存在していた。

そのころは各国内レーベルからオーディオマニア向けといえる企画があった。
それらの中には45回転LPがあったし、ダイレクトカッティングでも45回転のモノがあった。

いったいいつごろ45回転LPが登場したのかについては、
岡先生の著書「マイクログルーヴからデジタルへ」の下巻に詳しい。
     *
 ハイファイ的な面にだけ的をしぼっても話題の選択に困るほどだが、忘れられないのは、野心的な試みで斯界にいろいろな刺激を与えたマイナー・レーベルの存在である。音楽あるいはハイファイに熱情を燃やす個人あるいは小グループが、彼らの止むに止まれぬ情熱を何らかのかたちでレコード化し、そのユニークさでアピールしようという現象は、近年ますますさかんになっているが、上巻に記したLP初期のバルトークやダイアル、EMSなどが、その僅かのレコードによっていまでも忘れがたい存在になっている古い例がある。エラートやヴァンガードなどは、準メイジャーまで大きくなったが、線香花火のように出現し、やがて消えてしまったというのも少なくない。メイジャーでは思いもよらぬ大胆な試みができるというのも、個人プレイのおもしろさであろう。
 話は少々時代を遡るが、一九六〇年代のはじめ、45回転ステレオLPを出してマニアをびっくりさせたのも、そういうマイナー・レーベルであった。

 45回転ステレオLPのオリジネーターのレーベル名Q−Cは、フランス語の Quarante-Cinq(45)というそのものずばりである。フランスでいつ出たかはわからないが、『アメリカン・レコード・ガイド』一九六二年五月号、『ハイ・フィデリティ』六月号の月評欄にとりあげられている。そして、『ステレオ・レヴュー』十月号でデイヴィッド・ホール、が、「そして、いまや45回転12インチ・レコードの登場!」という題で、この新しいフォーマットのステレオLPのことを二ページにわたって論じていた。それによると、このレーベルはフランス語であり、マスター・テープはヨーロッパ録音だが、レコード化はアメリカであるらしい。Q−Cの45回転レコードはつぎの五枚が発売された。
 #四五〇〇一=《シャブリエ管弦楽曲集——スペイン、他四曲》 ルコント指揮、パドルー管弦楽団/アダン《我もし王者なりせば・序曲》/ウェーバー《舞踏へのお誘い》 デルヴォー指揮、コロンヌ管弦楽団
 #四五〇〇二=《Bravo Tord!》 バルデス指揮、カディス闘牛場吹奏楽団
 #四五〇〇三=R・シュトラウス《ティル・オイレンシュピーゲル、ドン・ファン》 アッカーマン指揮
 #四五〇〇四=ストラヴィンスキー《火の鳥組曲》/ファリャ《恋は魔術師》 ゲール指揮
 #四五〇〇五=チャイコフスキー《白鳥の湖、眠りの森の美女組曲》 ゲール指揮
 このうち、四五〇〇三以降の三枚はLPとしては一九五〇年代中頃にコンサート・ホールからモノーラルLPが発売されていたもので、その後ステレオ・テープ(4トラック以前のもの)でも出ていた。ステレオ録音ではごく初期のものであったらしい。したがって、ホールは、とくに音の条件のよい45回転LPらしい録音内容をもっていたのは最初の二枚だけだ、といっている。
 ところが、ホールがこの文章で注目したのは、Q−Cを追いかけて45回転ステレオLPを出したコニサー・ソサエティという新レーベルであった。このレーベルでホールが紹介した新譜はつぎの二枚であった。
 CS三六二=《一八世紀パリのフルート協奏曲(ボアモルティエとコレットの作品)》ランパル(fl)、ヴェイロン=ラクロア(hc)、ソーヤー(vc)ほか
 CS四六二=《インドの名演奏家アリ・アクバール・カーン》
 コニサー・ソサエティは六〇年代後半からフィリップス・レーベルで日本盤が出ているが、一九六二年という時点ではまったく彗星のように出現したマイナー・レーベルであった。創立者のアラン・シルヴァーについてはくわしいことはわからないが、スプラフォンのアメリカ発売権をもってレコード界に乗り出した人らしい。なかなかの音楽狂で一九六一年にコニサー・ソサエティを創立した。この社の番号のつけかたが非常に独特で、あとの二ケタは録音(あるいは発売)年度を示すというおもしろいシステムをとっている。
 この二枚の45回転ステレオLPについて、ホールは、76cm/secのマスター・テープ録音による素晴しい音で、Q−Cにくらべると45回転の威力を発揮していると、賞讃していた。コニサー・ソサエティの名前を有名にしたのは翌年春に出たイヴァン・モラヴェッツの二枚のレコードである。
 CS五六二=ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第二三番《熱情》/モーツァルト:ピアノ・ソナタ第一四番(K.457)
 CS六六二=フランク:前奏曲とコラールとフーガ/ショパン:バラード第三番、スケルツォ一番
 この二枚も45回転ステレオLPとして出たものである。『ハイ・フィデリティ』は六三年四月のベスト・レコードとして別扱い、『ステレオ・レヴュー』も推薦盤に挙げていた。
 どういう経緯かはっきりはおぼえてないが、ぼくがこの二枚のモラヴェッツの45回転の方を入手したのは六六年頃のことだったとおもう。実は、それ以前に、このレーベルのレコードをひそかなあこがれをもって探していた。それは、幻のフラメンコ・ギターの名手と騒がれはじめていたマニタス・デ・プラタがこのレーベルに入れていたのを『アメリカン・レコード・ガイド』で知っていたからである。それはCS二六二という番号だった。その頃、フラメンコの、とくにギターのレコードを集めるのに夢中になっていたので、何とかしてほしいものだと思いながら目的を果たせずにいたのである。もひとつは、当時ARのスピーカーの輸入をはじめていた今井商事の今井保治さんが、アメリカでインドの太鼓の素晴しい録音のレコードがマニアのあいだで大騒ぎされていると話されたことがあった。それがアリ・アクバール・カーンの録音に参加しているタブラの名手ウスタド・マハプルーシュ・ミスラの《インドの太鼓》(CS1466)だとわかった頃に、モラヴェッツの45回転LPを入手したのだと思う。
 コロムビア洋楽部の繁沢保さんや増田隆昭さんなどがわが家に遊びにきて、いろいろなレコードを鳴らしたなかで、アメリカでこんなレコードが出てるよ、と45回転のモラヴェッツを聴かせた。ふたりともかなり感心した様子で帰ったのだが、半月かひと月もたった頃、うちでも45回転ステレオを出すことにしたから解説を書くように、という電話がかかってきた。そのコロムビアの45回転LPステレオは六七年五月新譜で発売されたのである。御両所がわが家にこられたのは多分一月中旬ぐらいではなかったかとおもう。
 そのコロムビアの45回転LPの第一回新譜はつぎの五枚であった。
 四五CX−一=モーツァルト《フルートとハープのための協奏曲》ランパル/ラスキーヌ/パイヤール合奏団
 四五CX−二=《バーンスタイン・スペイン音楽の祭典》(シャブリエ、ファリャ)
 四五CX−三=チャイコフスキー《イタリア奇想曲》/リムスキー=コルサコフ《スペイン奇想曲》オーマンディ/フィラデルフィアO
 四五CX−四=ベートーヴェン《第五 運命》ワルター/コロムビアSO
 四五CX−五=ジョリヴェ《トランペット協奏曲》アンドレ/ジョリヴェ指揮、デュルフレ《前奏曲、シチリアーノ》デュルフレ(org)
 コロムビアはすでにマスター・プレスのデラックス盤などを出して、ハイファイ・レコードにはとくに意欲的だったが、この45回転LPもかなりマニアの注目を集め、二年ちかくの間に三十枚以上出したとおもう。
 コロムビアが出したのを追いかけて六七年夏にビクター(アクション・サウンド・シリーズ)、キング(プロジェクト3、コマンド)、フィリップスなどもこれを追い、45回転ステレオLPは、ハイファイ・レコードとしてブームの感を呈した。
 その後、コロムビアは最初のダイレクト・カッティングも45回転で行っている。七〇年代には忘れられた感があったが、七〇年代末にCBSソニー、その他のレーベルが復活させていることは御承知のかたも多いだろう。
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意外に古くから45回転LPが存在していたことを知って、
「マイクログルーヴからデジタルへ」を読んで驚いた記憶がある。

レコードの回転数を33 1/3から45へあげることの物理的なメリットとしては、
歪が1/1.8に減少し、ヘッドルームの2.6dB増加、周波数特性は1.8倍に拡大される。
これらの値は、あくまでも理論値としての最大であって、
実際の45回転LPで、物理的メリットを理論値通りに満たしているのはほとんどないであろう。

それでも歪は減り、ヘッドルームは増し、周波数特性も拡がるのは事実である。
と同時にサーフェスノイズのピッチも高くなる。