ステレオサウンドについて(その76)
ステレオサウンド 54号の黒田先生の単独での試聴。
その試聴風景の写真が、各機種の試聴記の隅に載っている。
それまでの試聴と違い、黒田先生は試聴室に備えてある椅子ではなく、
座面の高い椅子を使われている。
このころのステレオサウンド試聴室の椅子の前にはテーブルがある。
このテーブルの上にアンプやプレーヤーが置かれていることが多い。
黒田先生の前にあるのは、このテーブルではなく机である。
菅野先生、瀬川先生がテーブルと座面の低い椅子に対し、
黒田先生は机とそれ用の椅子で試聴に臨まれている。
試聴風景の写真は扱いが小さいため細部まで確認できないが、
おそらく机の上にはスコアが広げられていたであろう。
このことと関係して、特集の巻頭座談会の最後に、こう語られている。
*
ところで、スコアを机にひろげてレコードを聴くことが多いというぼくの習性にも関係すると思うのですが、自分の耳が自分の尾骶骨より後ろにいくと、音楽をムード的に聴いてしまうように想うのです。そこで今回のテストでは無理をお願いして、机に向かって椅子に坐り、聴き耳をたてたわけです。聴く方は耳を尾骶骨より前に出して、細大もらさず聴きとろうと一所懸命なのですから、スピーカーをつくる方もその期待にこたえるだけの真剣さがほしいと思うのです。
*
つまり黒田先生は、試聴機材を含めて自宅での聴き方を、
できるだけそのままステレオサウンド試聴室に持ってきての試聴であったわけだ。
だからこそ読み手も、それだけの真剣さで試聴記を読んでこそだ、と思う。
もちろんどう読もうと個人の自由ではあるけれども……だ。