真空管アンプの存在(その4)
私がオーディオに興味をもったころ、
すでにマランツもマッキントッシュも真空管アンプの製造をやめていた。QUADもそうだ。
五味先生の著書に登場するアンプは、どれも現行製品では手に入らない。
自作という手もあるな、と中学生の私は思いはじめていた。
「初歩のラジオ」や「無線と実験」、「電波科学」も、ステレオサウンドと併読していた。
私が住んでいた田舎でも、大きい書店に行けば、真空管アンプの自作の本が並んでいた。
それらを読みながら、真空管の名前を憶え、なんとなく回路図を眺めていた時期、
衝撃的だったのが、無線と実験に載っていた伊藤喜多男氏の名前とシーメンスEdのプッシュプルアンプの写真だった。
伊藤先生の名前は、ステレオサウンドに「真贋物語」を書かれていたので知っていた。
その内容から、オーディオの大先輩だということはわかっていた。
それまで無線と実験誌で見てきた真空管アンプで、
「これだ、これをそのまま作ろう」と思えたものはひとつもなかった。
それぞれの記事は勉強にはなったが、どれもアンプとして見た時にカッコよくない。
そんな印象が強まりつつあるときに読んだ、伊藤先生の製作記事は文字通り別格だった。