Date: 2月 14th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・その3)

ウェストレックスの3DIIA、ノイマンのSX74の周波数特性は、
誠文堂新光社から1976年に無線と実験、初歩のラジオ別冊として出された
「プレーヤー・システムとその活きた使い方」に載っている。

この本は日本ビクターの音響技術研究所所長の井上敏也氏による監修で、執筆者は34名。
おそらく大半の人が日本ビクターの方々だろう。

この「プレーヤー・システムとその活きた使い方」には、SX74、3DIIAのほかに、
オルトフォンのDSS731の周波数特性も載っている。
DDD731はCD4用に開発されたカッターヘッドで、
その構造もSX74、3DIIAとは大きく異る。

SX74、3DIIAは、左右チャンネルのドライブ用コイル、フィードバック用コイル(ムービング・エレメント)が、
それぞれ45度の角度を保つように配置されている構造なのに対して、
DSS731ではジャイロ方式と呼ばれる構造をとっている。
DSS731でもムービングエレメントそのものの構造はSX74、3DIIAと基本的には同じでも、その配置が異っている。

ロッキング・ブリッジと呼ばれるものの上に、垂直に左右チャンネルのムービングエレメントは取付けられていて、
ロッキング・ブリッジの下側中央にカッター針があり、
このカッター針とムービングエレメントと
ロッキング・ブリッジとの結合部(フレキシブル・ジョイント)の位置関係は直角二等辺三角形となっている。

この構造のためなのかどうかはわからないが、DSS731の裸の周波数特性は共振のピークは2.5kHzあたりにあり、
これより上の周波数は減衰していくだけだが、
これより下の周波数においては、500Hzから30Hzあたりまではフラットとなっている。
MFBを13dBかけた状態での周波数特性はグラフをみるかぎり、20Hz以下までフラットを維持している。
DSS731ならば、録音RIAAカーヴを電気的な処理だけですむことになる。

Date: 2月 13th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・その2)

ウェストレックスの3DIIAのMFBをかけたあとの周波数特性は、
ノイマンのSX74の特性よりも全体的にゆるやかなカーヴを描いていて、いわゆるカマボコ型の特性。
フラットな帯域のところはどこにもない。
けれど実際のカッティング特性はSX74とほぼ同等の性能といえる。

レコード(LP)にはRIAAカーヴがある。
1953年6月に制定された規格で、カッティング時にはRIAA録音カーヴ、
再生時には録音RIAAカーヴと逆特性のRIAA再生カーヴがもちいられる。

RIAAカーヴは1kHzを規準として700Hzで-1.2dB、400Hzで-3.8dB、300Hzで-5.5dB、200Hzで-8.2dB、
100Hzで-13.1dB、70Hzで-15.3dB、50Hzで-17.0dB、30Hzで-18.6dB、
高域はというと、2kHzで2.6dB、3kHzで4.8dB、4kHzで6.6dB、5kHzで8.2dB、6kHzで9.6dB、7kHzで10.9dB、
8kHzで11.9dB、9kHzで12.9dB、10kHzで13.8dB、12kHzで15.3dB、15kHzで17.2dBとなっている。
ほぼオクターヴあたり6dBで高域に向って上昇していくカーヴに近い。

つまり低域に関しては、カッターヘッドに入力される信号を減衰させているわけだ。
だから低域に関しては、電気的な処理による減衰量を、カッターヘッドの低域の特性を補整するようにしておけば、
なんら問題は生じないことになる。

つまり、このことは録音側(レコード制作側)では低域に関しては、
録音RIAAカーヴをカッターヘッドの機械的な特性とカッターヘッドをドライブするアンプの前段での電気的な処理、
このふたつを組み合わせて正確なものとしているわけだ。

一方再生側はというと、可聴帯域内の周波数特性はほぼフラットであり、
カッターヘッドの周波数特性よりも劣っているカートリッジは、
よっぽどのローコストの製品には存在するかもしれないが、まずそういうカートリッジは存在しない。
20Hzまではほとんどのカートリッジがフラットな周波数特性をもっている。
つまり再生側では、再生RIAAカーヴはフォノイコライザーアンプの電気的な処理だけで行っているわけである。

Date: 2月 12th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RIAAカーヴについて・その1)

中学生のとき、カッターヘッドの裸特性を見て、驚いた記憶がある。
カッターヘッドにはMFB(Motional Feedback)がかけられていることは知っていた。
アンプにおけるNFBと同じようなもので、
カッターヘッドの裸特性もアンプの裸特性と似たようなものだろう、と考えていただけに、
よけいにカッターヘッドの裸特性のカーヴには驚かされた。

もっとも知名度の高いノイマンのSX74にしても、その裸特性はどこもフラットな帯域が存在しない。
周波数特性は1kHzを中心とした山の形をしている。
ウェストレックスの3DIIAにしても同じで、やはり1kHzにピークがあり、
SX74同様フラットな帯域はどこにもない。

つまりどちらのカッターヘッドも1kHzにピークをもつ共振特性をもっている。
それをMFBをかけることで共振を抑えフラットな周波数特性にするわけで、
カッターヘッドにはドライブ用のコイル(スピーカーユニットのボイスコイルに相当するもの)とは別に、
フィードバック用のコイルが同じ軸上に巻かれていて、
このコイルからの信号をカッターヘッドのドライブアンプに戻している。

アンプのNFBがアンプの周波数特性だけを改善するのではないのと同じで、
MFBはカッターヘッドの周波数特性を改善するだけでなく、カッターヘッドの機械的歪も減少させ、
クロストークも改善している。
そして、MFBの量がカッターヘッドのダンピングに関係している。

SX74のMFB(5kHzで12dBのMFB量)をかけたあとの周波数特性は、
可聴帯域内はほぼフラットになっている。
ノイマン発表のSX74の規格にもMFBのことが載っている。

Frequency range:7-25000Hz
Frequency response (approx.9dB feedback at 5kHz):15-16000Hz ±0.5dB, 10-20000Hz ±1dB, 7-25000Hz ±3dB
Active feedback range:7-14000Hz
Feedback capability at 5kHz:≧12dB, typically 14dB

ノイマン発表の周波数特性は15Hzから16kHzまでがほぼフラットになっているが、
実際の周波数特性のカーヴでは、低域はもう少し高い数10Hzからゆるやかに減衰しているが、
これがそのままSX74の録音特性(カッティング特性)とイコールというわけではない。

それはレコードの録音特性、つまりRIAAカーヴが関係してくるからである。

Date: 2月 11th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・余談)

D130の特性は、ステレオサウンド別冊 HIGH-TECHNIC SERIES 4 に載っている。
D130の前にランシングによるJBLブランド発のユニットD101の特性は、どうなっているのか。
(これは、アルテックのウーファー515とそっくりの外観から、なんとなくではあるが想像はつく。)

1925年、世界初のスピーカーとして、
スピーカーの教科書、オーディオの教科書的な書籍では必ずといっていいほど紹介されているアメリカGE社の、
C. W. RiceとE. W. Kelloggの共同開発によるスピーカーの特性は、どうなっているのか。
このスピーカーの振動板の直径は6インチ。フルレンジ型と捉えていいだろう。

エジソンが1877年に発明・公開した録音・再生機フォノグラフの特性は、どうなっているのか。

おそらく、どれも再生帯域幅の広さには違いはあっても、
人の声を中心とした帯域をカバーしていた、と思う。

エジソンは「メリーさんの羊」をうたい吹き込んで実験に成功している、ということは、
低域、もしくは高域に寄った周波数特性ではなかった、といえる。
これは偶然なのだろうか、と考える。
エジソンのフォノグラフは錫箔をはりつけた円柱に音溝を刻む。
この材質の選択にはそうとうな実験がなされた結果であろうと思うし、
もしかすると最初から錫箔で、偶然にもうまくいった可能性もあるのかもしれない、とも思う。

どちらにしろ、人の声の録音・再生にエジソンは成功したわけだ。

GEの6インチのスピーカーユニットは、どうだったのか。
エジソンがフォノグラフの公開実験を成功させた1877年に、
スピーカーの特許がアメリカとドイツで申請されている。
どちらもムービングコイル型の構造で、つまり現在のコーン型ユニットの原型ともいえるものだが、
この時代にはスピーカーを鳴らすために必要なアンプがまだ存在しておらず、
世界で初めて音を出したスピーカーは、それから約50年後のGEの6インチということになる。

このスピーカーユニットの音を聴きたい、とは特に思わないが、
周波数特性がどの程度の広さ、ということよりも、どの帯域をカヴァーしていたのかは気になる。

なぜRiceとKelloggは、振動板の大きさを6インチにしたのかも、気になる。
振動板の大きさはいくつか実験したのか、それとも最初から6インチだったのか。
最初から6インチだったとしたら、このサイズはどうやって決ったのか。

Date: 2月 11th, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(その3)

新製品紹介ページの大幅な、ステレオサウンド 56号からの変更は、読者として諸手をあげて歓迎だった。
56号以前でも、注目すべき新製品がどれなのかはきちんと伝わっていた。
その機種が特集での登場まで待てば、詳しいことが掲載される。

とはいうものの読者としては、とくに地方在住の、身近なところにオーディオ専門店がない者にとっては、
特集記事で取り上げられるまでの期間が、実に長い。
ステレオサウンドは季刊誌だから3ヵ月に1度、年に4冊しか出ないわけだから、
登場するタイミングの悪い製品だと、特集で取り上げられるまで、それこそ1年近くかかることだってありうる。

待てないわけではない、待つしかないのだから。
でも、できれば、もう少しでいいから注目すべき新製品に関してはページ数を増やして欲しい、と、
ステレオサウンドに夢中な読者となっていた私はずっと思いつづけていた。
それが56号で、いわば叶ったわけだ。
ステレオサウンドがますます理想のオーディオ誌に近づいてくれた、そうも思っていた。
そんな時期があった……。

56号からはじまった新製品紹介のやり方は、まだ10代で世間のことはほとんど知らない読者だった私にとっては、
歓迎すべきことで、この方向をもっともっと徹底してやっていてほしい、と思うだけですむのだが、
編集を経験してきた者としては、難しい面ももっている、といえる。

当り前すぎることだが、一冊のステレオサウンドにはページ数の制限が存在する。
定価が高くなってもいいからページ数を増やして欲しい、と思われる読者もいるだろう。
たとえ定価を高くしても、コストだけの問題ではない。
製本の問題があって、ページ数はそう簡単に増やしていけるものではない。

しかも56号(1980年)とこの10年(20年といってもいいかもしれない)とでは、
新製品の数も大きく違っている。

ページ数の制約があって新製品の数が増えている、ということは、
つまり新製品紹介のページを充実させていけば、その分、ほかの記事のページ数があおりを喰うことになる。

この項の(その1)でふれたステレオサウンド 42号のプリメインアンプの特集記事と、
ここ数年のステレオサウンド、どの号でもいい、特集記事のページ数を数えてみればわかることだ。
もう42号のときのように1機種あたりに5ページも割くことは、難しいことではなく、無理なことになっている。

Date: 2月 10th, 2012
Cate: ジャーナリズム, 測定

測定についての雑感(その2)

ステレオサウンドの新製品紹介のページは、
56号以前は井上先生と山中先生がふたりで担当されていた時期が続いていた。
ずっと以前のバックナンバーまで遡ればそれもまた違ってくるのだが、
私が読みはじめたステレオサウンド 41号では井上先生と山中先生、ふたりの担当だった。
それでも少しずつ記事の構成には変化があったものの、
基本的には海外製品を山中先生、国内製品を井上先生となっていた。

記事はすべてモノクロでページ数も32ページ前後。
それが大きく変ったのは、上に書いたように56号からである。
この56号から新製品紹介のページが2本立てになった。
カラーページの「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」と、
モノクロページの「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」になり、
井上・山中両氏だけではなく、他の筆者による記事が載るようになった。
いまのステレオサウンドの新製品紹介の原型・始まりともいえるのが56号である。

カラーページのトップを飾っていたのは、56号の表紙でもあったトーレンスのリファレンスだった。
書かれていたのは、瀬川先生。リファレンスに割かれているページ数は8ページ。
読みごたえのある文章だった。何度も読み返したものだった。
当時、リファレンスの価格は358万円。
「近ごろの私はもう、ため息も出ない、という状態だ。」とリファレンスの記事を締めくくられているように、
このころの358万円はそうとうな価格だった。

──こんなふうに書いていくと話は逸れていくばかりなので、元に戻そう。
56号にはモノクロページでロジャースのPM510も、これもまた瀬川先生の文章で載っていた。
だからとということもあって、56号の新製品の記事の変化は、読者としてすごく印象深いものとなっている。

それ以外にも56号には、
瀬川先生によるパラゴンの記事(Big Sound)と組合せの記事(これは連載となる予定だったもの)があり、
さらに黒田先生の「異相の木」も載っている。
38号とともにくり返し読んだ回数の多いステレオサウンドである。

Date: 2月 9th, 2012
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(余談・もう少しツマミのこと)

今日量販店のオーディオコーナーに行ってみた。いくつかのオーディオ機器のツマミに触れて、
「えっ、こんなことになってしまったの!?」といささか驚いてしまった。
それで、ツマミに関しては項を改めて書く、と先日書いたばかりにも関わらず、
どうしても一言書きたくなってしまった。

ツマミが飾りと化しているオーディオ機器がいくつか目についた、ということだ。
いつのころからオーディオ機器もリモコン装備・操作がごく当り前のことになっている。
以前はCDプレーヤーだっけだったリモコンも、いまではコントロールアンプでも、
それにそうとうな高級機器でもリモコンが標準装備になっているのが多い。

個人的にはリモコンがあってもコントロールアンプに関しては、
フロントパネルのツマミに触って操作したい、と思う方だ。
けれど、メーカー側の考えは、今日いくつかのオーディオ機器にふれた感じでは、どうも違うようだ。
いまのところ、ツマミに触って、これはおかしい、と感じたのはまだ少数だった。
私が触れた範囲では、2社だけだった。

この2社の製品(すべての製品ということではない)は、
ツマミを操作する時に指がフロントパネルをこすってしまう。
こすらないようにツマミの、極力、先端を触れるようにするとツマミが短すぎるのと、
ツマミの形状が円柱ではなくテーパーがかけられているため、ひじょうにつまみにくい。
ツマミを操作できるようにつまもうとすると、くり返すが指がフロントパネルをこすることになってしまい、
私はそのことを非常に不愉快に感じてしまう。

これは2社、2つの製品に共通していえることで、
さらに1社ひとつの製品ではフロントパネルに大きくカーヴしているため、
ツマミを大きく回転させようとすると指がフラットなフロントパネル以上に指がこすることになってしまう。

おそらくどちらも製品も、リモコン操作を前提としているのだろう。
操作はすべてリモコンで行ってください、ということで、
フロントパネルのツマミに、その会社の人間は誰も触っていないのでは? 
そんなあり得ないことを想像してしまうほどにおかしなことになっている。

ツマミが短いタイプは、今日触ってきたオーディオ機器の中に他にもあった。
でもそれらは指がフロントパネルをこすらないような配慮がツマミのまわりになされていた。
そのオーディオ機器にもリモコンはついている。
けれど、リモコン操作だけに頼っていない、ツマミがツマミとして機能している。

ツマミがツマミとしてきちんと機能していない2社のオーディオ機器では、
ツマミがツマミではなく、飾りになりつつある。おかしなことだ。

ツマミについては書くことは、最初考えていた以上にいくつかのことと絡んでいて、
じっくり書いていけそうな気がしている。

Date: 2月 8th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その25)

JBL・D130のトータルエネルギー・レスポンスをみていると、
ほぼフラットな帯域が、偶然なのかそれとも意図したものかはわからないが、
ほぼ40万の法則に添うものとなっている。
100Hzから4kHzまでがほぼフラットなエネルギーを放出できる帯域となっている。

とにかくこの帯域において、もう一度書くがピークもディップもみられない。
このことが、コーヒーカップのスプーンが音を立てていくことに関係している、と確信できる。

D130と同等の高能率のユニット、アルテックの604-8G。
残響室内の能率はD130が104dB/W、604-8Gが105dB/Wと同等。
なのに604-8Gの試聴感想のところに、コーヒーカップのスプーンについての発言はない。
D130も604-8Gも同じレベルの音圧を取り出せるにも関わらず、この違いが生じているのは、
トータルエネルギー・レスポンスのカーヴの違いになんらかの関係があるように考えている。

604-8Gのトータルエネルギー・レスポンスは1kから2kHzあたりにディップがあり、
100Hzから4kHzまでの帯域に限っても、D130のほうがきれいなカーヴを描く。

ならばタンノイのHPD315はどうかというと、
100Hzから4kHzのトータルエネルギー・レスポンスはほぼフラットだが、
残響室内の能率が95.5dB/Wと約10dB低い。
それにHPD315は1kHzにクロスオーバー周波数をもつ同軸型2ウェイ・ユニットである。

コーヒーカップのスプーンに音を立てさせるのは、いわば音のエネルギーであるはず。音力である。
この音力が、D130とHPD315とではいくぶん開きがあるのと、
ここには音流(指向特性や位相と関係しているはず)も重要なパラメーターとして関わっているような気がする。
(試聴音圧レベルも、試聴記を読むと、D130のときはそうとうに高くされたことがわかる。)

20Hzから20kHzという帯域幅においては、マルチウェイに分があることも生じるが、
100Hzから4kHzという狭い帯域内では、マルチウェイよりもシングルコーンのフルレンジユニットのほうが、
音流に関しては、帯域内での息が合っている、とでもいおうか、流れに乱れが少ない、とでもいおうか、
結局のところ、D130のところでスプーンが音を立てたのは音力と音流という要因、
それらがきっと関係しているであろう一瞬一瞬の音のエネルギーのピークの再現性ではなかろうか。

このD130の「特性」が、岩崎先生のジャズの聴き方にどう影響・関係していったのか──。
(私にとって、James Bullough Lansing = D130であり、岩崎千明 = D130である。
そしてD130 = 岩崎千明でもあり、D130 = Jazz Audioなのだから。)

Date: 2月 7th, 2012
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(余談・ツマミのこと)

オーディオの機器のツマミについては、あれこれ書きたいことがあるけれど、
このままツマミについて書いて行くと、本題から大きく逸れてしまうので、
いまここでは、すこしだけ書いておく。いずれ、ツマミについては、項を改めて書いていきたい。

ツマミについて、まず書きたいのは、やはりマークレビンソンのツマミについて、である。
それもJC2のツマミについてで、過去2回、JC2のツマミについてはふれている。

JC2の初期のころ注目されていた方だとご記憶だろうが、
初期のモデルについていたのは細長いタイプのものだった。LNP2のツマミは、ほぼ同じものがついていた。
そして、このころのJC2の音は、最尖端(最先端ではなく、あえてこちらを使いたい)のものだった。
LNP2の音は、ずいぶん違う面ももっていた。
そんなJC2も型番の変更はなされていなかったが、何度か改良されていき、
そういう表情は奥にさがり、おだやかな面も聴かせるようになっていく。
音のバランスとしては、あきらかに後期のJC2のほうが、まともである。

初期のJC2の魅力は、いわばアンバランスさが基になっているといえ、
それに惹かれる私のような者もいれば、拒否したいという人もいる。
そんな初期のJC2の音だったから、あの径の細い、そして長いツマミが、
そんなJC2の内面を表しているかのようだった。

JC2のシャーシーの奥行は短い。だから斜めから見れば、ツマミが異様に長く感じられる。
これが中期ごろから、つまり音のバランスが整いはじめたことを示すかのように、
径の太い、短いタイプ、つまりML1と同じツマミへと変更されている。

JC2がML1と型番を変えたころの音には、もう初期のツマミは似合わない音になっている。
このツマミはML7にも引き継がれている。

回路設計がジョン・カールからトム・コランジェロにかわり、
アンプの内部もまったくの新設計、シャーシーも幅、高さは同じでも奥行が伸びているML7は、
初期のJC2の面影はまったくない。至極真当なバランスの最新アンプとして登場した。
ML7にJC2初期のツマミは、JC2初期にML1(ML7)のツマミが似合わないように、似合わない。

マーク・レヴィンソンが、どういう意図でツマミを変更したのかはわからない。
けれどレヴィンソンは、ML6(シルバーのフロントパネル)で、このツマミをまた採用している。
ML6は、JC2(ML1)をベースに、シャーシーから左右チャンネルで完全に独立させ、
ツマミは、入力セレクター(Phono入力とライン入力の2系統のみ)とレベルコントロールのふたつだけ。
これ以上機能を削ることはできないところまで削ぎ落としたML6には、ML1(ML7)のツマミは似合わない。

ML6がもし径の太い、短いツマミで世に登場していたら、ML6に魅了された人は減っただろうと思う。
あのツマミだったからこそ、デリケートな扱いをML6は使い手に要求していたし、
ML6の使い手はそれを喜んで受け入れていた、のではないだろうか。

こういうツマミが、ほんとうに似合うコントロールアンプの登場を望んでいるところが、
三つ子の魂百まで、ではないけれど、いまも私の中にある。

Date: 2月 7th, 2012
Cate: 快感か幸福か

快感か幸福か(その13・余談)

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」に、
朝沼予史宏、井上卓也、倉持公一、菅野沖彦、柳沢功力、佐久間輝夫、
6氏による「私とJBL」というエッセーが載っている。

朝沼さんのところには、「岩崎さんのリスニングルームがJBL研究の場だった」とつけられている。
そこにはこうある。
     *
大学を出てからマイナーなジャズ専門誌の編集者になり岩崎さんと親しくお付き合いさせていただくようになったが、肝心のJBLに関してはずっと傍観者のままでいた。最初はジャズ喫茶だったのが、社会人になってからは岩崎さんのリスニングルームがJBL研究の場だった。そのジャズ雑誌は勤めて間もなく廃刊になり、編集者仲間が集まって新しいジャズ雑誌を創刊した。その関係で岩崎さんとは、益々親しくさせていただいた。しかし弱小雑誌の我々の原稿は常に後回しでなかなか原稿が上がらず、月末になると、よくお宅に泊まり込みになった。岩崎さんからは「待っている時は、遠慮なく音を聴いても構わない」というお墨付きをもらい、これ幸いに聴きまくった。岩崎さんの装置を身近で真剣に聴けたのは、たいへんな幸運だった。
     *
朝沼さんが岩崎先生のリスニングルームで聴かれていた時は、ひとりだったはず。
岩崎先生は別の部屋で原稿を書かれていたことだろう。
私が山中先生のリスニングルームで原稿が上がるのをもっているあいだ、音を聴いていたのと同じ体験を、
朝沼さんは岩崎先生のリスニングルームで何度も体験されていたわけだ。

これは編集者の、いわば特権かもしれない。
それもこの時代、つまりインターネットなどなかった時代、原稿は手書きで編集者は取りに行っていた。
だから、こういう体験がときに味わえたのである。

いまはパソコンで原稿を書き、そのままメールに添付して送信。
これが悪いこととは思わない。時間の節約になっているし、原稿をなくしてしまうこともなくなる。
でも、朝沼さんや私が体験できたこととは無縁になってしまった。

Date: 2月 6th, 2012
Cate: Noise Control/Noise Design
1 msg

Noise Control/Noise Designという手法(その34)

ツマミの変更に関しては、コントロールアンプよりもはやくパワーアンプで行われていた。
C26、C28が現役の終りにちかいころに登場したMC2205、MC2125は
すでにC32、C29などと同じツマミを使っていた。
だから不思議なのは、MC2500である。

1980年から1981年にかけて登場したMC2300の後継機MC2500のツマミは、
すでにアンプもチューナーも新しいツマミに統一されていたにもかかわらず、MC2300と同じツマミのままだった。
最初MC2300と同じシルバーパネルだったMC2500はしばらくしてブラックパネルになったものの、
ツマミはそのまま。管球式のMC3500からのツマミから変更なし。
このシリーズのツマミが変更されたのは、MC2600になって、である。
MC2205の登場は1973年ごろ、MC2600は1990年。
17年かかって、パワーアンプすべてのツマミが変更されたことになる。

このことは、ツマミだけからとらえてみれば、
MC2300の一連のシリーズが改良モデルではなく、新モデルとして登場したのはMC2600ということになるのか。
たしかにMC2300とMC2300の外観上の違いは、ツマミの数が3つから4つに増えたこと、
あとMC2300の天板に印刷されてあったブロックダイアグラムとスペックがなくなってしまったぐらいである。
MC2600では、メーターの位置がそれまで左寄りだったのが中央に配されて、
それにともなっての変更が加えられている。

当時聴いた音の印象(といっても同時比較試聴ではなく記憶の上での比較)では、
MC2300とM2600のちょうど中間にMC2500が、というよりも、
MC2600寄りにMC2500(特にブラックパネル)は位置する、と感じていた。

それでも、あえてツマミにこだわれば、
MC2105がMC2205に、MC2505がMC2125に、C28がC29に、C26がC27に変ったと同じ変化は、
MC2600になってから、というのが、もしかするとマッキントッシュの見解かもしれない。

ツマミが変り、コントロールアンプもパワーアンプも新しい世代になったということであり、
同時にマッキントッシュのアンプのノイズの粒子も、新しい世代になっている。

Date: 2月 6th, 2012
Cate: 快感か幸福か

快感か幸福か(その13)

山中先生のリスニングルームでの、この体験をこれまで何人かに話したことがある。
興味を持って聞いてくれる人もいれば、まったく無関心という人もいるのが世の常かと思っているが、
無関心な人は徹底して無関心なところが、私にとっては興味深いことでもある。

なぜ無関心なのか、は、その人なりの理由があってのことだろうし、
こういう経験はなかなかできないから、実際に経験してみないことには実感がつかみにくいことだろうとは思う。

だが、自分が経験していないことだからこそ、関心をもつ人もいる。もたない人もいる。
人さまざまだと思うし、すくなくとも関心をもってくれる人と私は、共通するところを聴いているといえるだろうし、
関心のまったくない人と私には、そういう共通するところは聴き方においてあまりないのかもしれない。

山中先生のリスニングルームでの体験は、
そこに招かれた者として聴いていたときには、先に書いているように山中先生の音とは思えなかった。
けれど前のめりになって、少なくとも気持のうえだけでも山中敬三になったつもりで聴き挑む姿勢になったとき、
音は、はっきりと変っていた。

関心のない人は、それはあなたの気のせい、思い込みだよ、とばっさり切り捨てるに違いない。
だが、そう単純に(というか、私には短絡的に、と思える)言い切れることとは、どうしても思えない。

いま手もとに1970年代のスイングジャーナルがけっこう冊数あって、
そこからジャズ・オーディオに関する文章を拾い出している。
facebookの「オーディオ彷徨」というページには、それらは公開している。

昨日、菅野先生による文章を見つけた。
「音楽とオーディオにかかわり合う心情的世界をかいまみて」というタイトルがつけられた、
スイングジャーナル1972年12月号に掲載されたものだ。
これも、facebookの〝ここ〟で公開している。

菅野先生が、ここに書かれていることが、また興味深い。

註:「音楽とオーディオにかかわり合う心情的世界をかいまみて」を読むには、facebookのアカウントと、
私がやっていますfacebookグループ「audio sharing」へ参加していただくことが必要となります。

Date: 2月 5th, 2012
Cate: 書く

毎日書くということ(答えではなく……・その1)

以前書いたように、このブログは1万本書くまで毎日書いていこうと決めている。
そのためには、それに見合うだけのテーマが必要となり、
テーマの多くは、いわば問いであり、
本文に、その問いに対する答えにたどりつくまでの過程である。

昨夜までで2430本書いて、この2431本目を書こうとして気がついたことがある。
問いがあるから答えがある、問いがあるから答えを見つけられる、ということだ。

2008年9月に書き始めたわけだから、約3年半で2400本ということは、まだまだ書きつづけていくことになる。
このペースでいけば、あと約10年書いていくわけだが、
1万本に近づいたときに、究極の答え、最終的な答えにたどりつけるのか。
そのためには究極の問いを見つけることになる。

そのことは本末転倒なような気もするし、
じつのところ、答えよりも問いを見つけていくことが大事なことなのかもしれない、と思う。

究極の問いを見つけたとき、
その答えは見つけられるのか。もしかするとすでに見つけていたことに、そのとき気づくのだろうか。

Date: 2月 4th, 2012
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(その33)

MC2300と同時代のコントロールアンプとしては、C28とC26がある。
C26は1967年か68年、C28は1970年ごろの発売である。
マッキントッシュは、1970年代後半に、それぞれの後継機としてC29、C27と、最上級機としてC32を出した。

フロントパネルを見ればすぐわかるように、C28の後継機がC29、C26のそれがC27で、
フロントパネルのレイアウトは基本的には同じであるが、見た印象は異るところもある。

C26、C28は古きよきアメリカの製品という印象を、私などは受けて、
それが少々鼻につく感じもする。ほんの少しでいいから、控え目であってほしいと思う。
C29とC27は、アメリカのアンプという感じを持っていても、C28、C26に比べれば、すっきりした印象がある。
パネルレイアウトは同じでもツマミに変更が加えられているため、である。

C26、C28のツマミは管球時代のC22、C20など同じもので、ツマミ全体がシルバーで仕上げられている。
C27、C29のツマミは、C28、C26のツマミと同じくローレットが入れられたものでも、
ツマミの平面部分(円柱の頭頂部)の仕上げが違う。ここのところが光沢のある黒になっている。
たったこれだけのことではあっても、C28(C26)とC29(C27)から受ける印象は、
マッキントッシュのデザイン(アピアランス)にやや拒絶したいものを感じていた私にとっては、
うれしい変更であった。

それにC27の音は、いまでも印象に残っている。
マッキントッシュのコントロールアンプで、欲しい、と思ったのはC27だけである。

C28、C26の傾向とは、C27の音は、なにかマッキントッシュが変った、時代が変ったことを思わせるような、
みずみずしさが魅力となっていた。
マッキントッシュのアンプの音を語るときに、みずみずしい、という表現が自然に出てくるのは、
最近のマッキントッシュのアンプはじっくり聴いていないのでなんともいえないが、
すくなくとも1990年までに登場したものでは、C27だけ、といっていい。

C29、C27に採用されたツマミは、C27のすこし前に登場したC32でも採用されている。
ただC32はフロントパネルに並べられたツマミの多さからもわかるように、
C28、C26の時代にはなかった機能フル装備のアンプで、C27との音の魅力とはやや違うものの、
マッキントッシュのコントロールアンプの新しい世代は、C32から始まっている、といえる。

そのことはマッキントッシュ自身がいちばんよくわかっていたことだから、
そして狙っていたことでもあることだから、ツマミの変更をあえて行ったのだろう。

Date: 2月 3rd, 2012
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(その32)

パワーアンプの選択肢が、マッキントッシュのMC2300、MC2500、MC2600だけしかなかったら、
3機種のどれを選ぶかは、条件によって私の場合は変ってくる。

パワーアンプはその1台だけ、他のパワーアンプを所有することができなければ、MC2600を選ぶ。
けれど、他にメインとして使っているパワーアンプがあったうえで、ということなら、こんどはMC2300を選ぶ。

私が求めている音にとって、MC2300は個性が強いし、その個性の方向も違う。
だからよりしなやかさを身につけ、音の表現力の幅がひろがったMC2600を使うことを、
条件によっては選ぶことになる。

けれどサブ的な(およそサブ的な大きさと重量ではないけれど)パワーアンプとして使いたいのは、
MC2600との比較でも武骨で、しなやかさもいくぶん欠けぎみであってもMC2300を選ぶわけだ。

発表されたのはMC2300は1973年ごろ、MC2600は1989年か90年だから、15年以上の期間がある。
アンプは、そのあいだ、ずいぶん進歩している。
その進歩は、出力にも表われている。
同じ筐体ながら、型番が示すようにMC2300の出力は300W×2、MC2600は600W×2。2倍に増えている。

けれど、実際に聴いてみると、マッシヴなパワー感はMC2300の方に強く感じる。
このことは実際の出力の大きさとは、ほぼ無関係ともいえるし、
そういうパワー感だからこそ、MC2300の音には、ある種の凄みを感じることもある。

MC2300とMC2600の、こういう音の感じ方の違いは、ノイズと密接に関係しているような気もする。
この項の(その31)にも書いたように、
MC2300のノイズは電気モノという感じであり、MC2600のノイズは電子モノという感じである。
つまりノイズの粒子が、MC2300ではやや大きく、MC2600ではかなり細かくなっている、ともいえる。