Date: 6月 13th, 2012
Cate: High Fidelity

ハイ・フィデリティ再考(続×六・原音→げんおん→減音)

伊藤先生は「Edは音がつめたいんだなぁ」と言われた。
そうかもしれないと思って、その言葉を聞いていながらも、
それは300Bと比較しての話であって、それほどつめたい音ではないはず、とも思っていた。

でも伊藤先生の仕事場のシーメンスのWide Angleから鳴ってきた音は、いわれるとおりの音だった。
がっかりしていた、と思う。
だからなのかEdを指さして「さわってみな」と言われた。

Edを見るのも聴くのも初めてとはいうものの、動作中の真空管がどのくらい熱くなっているのかは知っていた。
だから、すぐには手を出せなかった。
伊藤先生は「大丈夫だから」とつけ加えられた。

さわってみた。
これがEdの音に深く関係しているのか、と思いたくなるほど、Edは熱くならない。

そして伊藤先生は300Bシングルアンプにされた。
プレーヤーもコントロールアンプもスピーカーも同じ、
パワーアンプだけが、Edのシングルアンプから300Bシングルアンプに変った。
音も大きく変った。

この瞬間から、300Bシングルアンプの音にまいってしまった。
伊藤先生の300Bシングルアンプの音にまいってしまった。

伊藤先生アンプを知ったのは、Edのプッシュプルアンプだ、と書いた。
その次に知ったのはステレオサウンド 54号に載った300Bシングルアンプだ。

そのころのステレオサウンドには「ザ・スーパーマニア」という記事が連載されていた。
54号に登場されたのは長谷川氏。
シーメンスのオイロダインを2m四方の平面バッフルに取り付けられ、
プレーヤーはEMTの927Dst、アンプは伊藤先生のコントロールアンプと300Bシングルだったのだ。

Date: 6月 12th, 2012
Cate: High Fidelity

ハイ・フィデリティ再考(続×五・原音→げんおん→減音)

「人間の死にざま」を読めば、五味先生も300Bシングルアンプを晩年は愛用されていたことがわかる。
300Bシングルアンプは、いわば直熱三極管シングルアンプの代名詞ともいえる。

私にとっては、いまでは直熱三極管といえばウェスターン・エレクトリックの300Bのことである。
ずっと以前はシーメンスのEdだった。

伊藤先生の存在を知ったのも、1977年ごろの無線と実験に掲載されたEdのプッシュプルアンプからだった。
伊藤アンプに、そのときに惚れた。同時にEdという、300Bとは形も精度感も異る、
いかにもドイツの真空管と思わせるEdの姿に惚れた。

Edを見たあとでは300Bは古めかしくみえた。
だからステレオサウンドの弟分にあたるサウンドボーイに、
伊藤先生のEdのシングルアンプの記事が載ったときは、うれしかった。
このアンプをいつか作ろう、とまた思ってしまった。

無線と実験に載ったプッシュプルアンプはトランス結合による固定バイアスだった。
そっくりそのまま作りたかったのだが、UTCのチョーク(円柱状のCG40)が入手困難だった。
インターステージトランスも出力トランスもUTCだった。
それに平滑コンデンサーにオイルコンデンサーが使われていた。

これらをそっくり同じパーツを手に入れるのは、ステレオサウンドで働くようになってからでもかなり大変だった。
だから、ずっと部品を集めやすいEdのシングルアンプの発表はうれしかったわけだ。

しかも、このEdのシングルアンプを伊藤先生の仕事場で聴くことができた。

このとき、たしか伊藤先生に、サウンドボーイのO編集長に頼まれて何かを届けに行ったのだと記憶している。
O編集長は、事前に伊藤先生に私がEdに惚れ込んでいることを伝えてくれていたようだ。
だからこそ、伊藤先生はEdのシングルアンプを用意して、「Edは見た目はほんといい球なんだ……」と言われた。

伊藤先生の言葉を信じないわけではなかったけれど、
当時はまだ若かったこともあって、心の中では、わずかとはいえ反撥したい気持もあった。

Date: 6月 11th, 2012
Cate: ケーブル

ケーブルはいつごろから、なぜ太くなっていったのか(その3)

トリオの会長だった中野英男氏の著書「音楽 オーディオ 人びと」からは、何度か引用している。
中野氏はプロの書き手ではないけれど、「音楽 オーディオ 人びと」は最初読んだ時、面白いと感じた。
五味先生、瀬川先生、岩崎先生の本ほどは読み返していなけれども、
ときどき書かれていることを思い出しては、そのことを確認する意味もあって、
ところどころ拾い読みをすることは、いまでもある。

アキュフェーズの会長だった春日二郎氏の著書とともに、これらの本はもっと広く読まれてもいいと思うし、
読まれるべきだと思うこともある。

「音楽 オーディオ 人びと」のなかに「本田一郎君登場」という章がある。
ここにルーカスのスピーカーケーブルのことが出ている。

本田一郎氏がどういう人なのかは、「音楽 オーディオ 人びと」を読んでもわからない。
中野氏も「本田君の歳の程はわからない。生まれ、育ちなど、その前半生の軌跡また定かでない。」と書かれている。
この本田氏が中野氏にルーカスのスピーカーケーブルを推められている。

ルーカスのスピーカーケーブルはどうだったのか。
中野氏はこう書かれている。
     *
私のシステムに関する限り、彼の説は一〇〇%正しく、ルーカス線でアンプとスピーカーを結んでスイッチ・オンした途端、我々は思わず顔を見合わせて笑い出してしまったのである。音の変化はそれほど著しかったし、メーカーの責任者でありながら、今迄なんという音で聴いていたのか、という自嘲を込めた感情が、笑いという形で噴出したのであった。
     *
このころの中野氏はヴァイタヴォックスのCN191に苦労されていたようで、
さらに本田氏によるCN191の鳴らし込みについてもふれられているので、引用しておこう。
     *
その時、本田君が示したクリプッシュ・ホーン対策は際立ったものであった。まず、厚さ一〇センチ余り、重量一〇〇キログラムを超える衝立うふたつ作ってスピーカーの背面に立て、壁と衝立の距離、スピーカーと衝立のギャップを微妙に調整した。さらに、アンプとスピーカーの間を三〇メートル位の長さの細いワイヤーで結び、その長さを一〇センチ単位で調整した。
     *
これらのことによりそれまで冴えた音を出すことがなかったCN191が75点くらいの音をだすようになった、そうだ。

ひとつ断わっておくが、スピーカーケーブルの長さ「三〇メートル」は「三メートル」の間違いではない。
中野氏はリスニングルームは30畳ほどの広さにおいて、
あえて30mの長さの、しかも細いスピーカーケーブルなのである。

Date: 6月 10th, 2012
Cate: ケーブル

ケーブルはいつごろから、なぜ太くなっていったのか(その2)

私が最初につかっていたスピーカーケーブルは、スピーカーシステムに付属してきた、いわゆる赤黒の平行線だった。
このスピーカーケーブルをできるだけ短くして使っていた。
それからこの赤黒のケーブルを2本に割いてしっかり撚ってみたりしたこともある。

スピーカーケーブルを購入したのは、パイオニアのスターカッド構造のもだった。
型番は確かJC200で、1mあたり200円くらいだった、と記憶している。

JC200にした理由は簡単だ。
何度か、このブログで書いているように高校生の頃、欠かさず瀬川先生の、
熊本のオーディオ店でのイベントには行っていた。
そこで、スピーカーケーブルについてふれられたとき、
パイオニアのJC200が比較的いい結果で、
同じスターカッド構造の屋内配線材をスピーカーケーブルとして使っている、ということだった。

スターカッドの屋内配線用のものは入手できなくても、
パイオニアのJC200はすぐに入手できたし、値段も安かった。
2m×2で4mあれば十分。200円×4で800円。

4芯構造とはいえ、JC200は特に太いスピーカーケーブルではなかった。
アンプのスピーカー端子にも、スピーカーの入力端子にも末端処理をすることなくそのまま使えた。

JC200の話をされたころは、まだマークレビンソンのHF10Cは登場していなかった。
ステレオサウンド 53号に瀬川先生は「数ヵ月前から自家用に採用していた」と書かれているからだ。

このころスピーカーケーブルとして記憶に残っているのは、
パイオニアの他には、ビクターから出ていた細い線を編んだもの、
海外製品ではたしかイギリスのメーカーのルーカスがあった。

私がルーカスのことを知ったのは、当時の無線と実験かラジオ技術の広告に載っていたからで、
当時としては珍しい海外製のケーブルだったから、
それがどういうものなのかはまったく分らなくても興味を持っていた。
記事になったことはなかった、と思う。

このルーカスのスピーカーケーブルのことが、
1982年に出た「音楽 オーディオ 人びと」という本の中に登場していた。

Date: 6月 10th, 2012
Cate: High Fidelity

ハイ・フィデリティ再考(続々続々・原音→げんおん→減音)

再生可能な音域を拡大するために複数のスピーカーユニットを組み合わせていく際に、
それぞれのスピーカーユニットには帯域制限を行う。
ウーファーには低い音を、トゥイーターには逆に低い音が入力されないようにする。
それぞれのスピーカーユニットの良さがもっとも発揮できる帯域のみをできるだけ使おうとして、
スピーカーシステムは設計されることが多い。

そのためにスピーカーシステムに内蔵するLCネットワークにするか、
パワーアンプを複数台使用することになるマルチアンプ方式にするか、の違いはあっても、
クロスオーバー周波数をどこに設定し、遮断特性はどういうカーヴにするのか──、
この組合せは文字通り無数にあり、その中からどのポイントとカーヴを選ぶのかは、
スピーカーシステムをまとめていく上で、もっとも面倒で難しく、
けれどスピーカーの奥深さを知ることができる、もっとも面白いことでもある。

これは、つまりフィルターの設定であり、
フィルターは周波数特性をもつ減衰回路である。

スピーカーの再生可能な帯域を拡大するためには、
いまのところ、どうしてもスピーカーユニットを組み合わせていかなければならない。
その組合せに絶対必要なものがフィルターである。いわば特定の帯域以外の音を減らすことである。

LCネットワークやデヴァイディングネットワークといったフィルターを使わずに
スピーカーユニットをただ組み合わせていっただけでは──ただ並列に接続しただけ──では、
まともな音にはならないどころか、まとも動作しない。
ちょっとでも音量をあげればトゥイーターはすぐに飛んでしまう。
ウーファーはその点大丈夫でも、音に関しては高音に関してはまともな音は期待できない。

フィルターはスピーカーユニットを守るためでもあり、音を整えるためにも欠かせない存在である。

音を減らす、ということは、音は整えるということでもある。

Date: 6月 9th, 2012
Cate: ケーブル

ケーブルはいつごろから、なぜ太くなっていったのか(その1)

私が最初に買った(というよりも買えたといったほうが正しいのだが)マークレビンソンの製品は、HF10Cである。
HF10Cといっても、そんな型番の製品がマークレビンソンにあったっけ? と思われる方もいよう。
HF10Cとはマークレビンソン・ブランド最初のスピーカーケーブルである。

1979年に登場したHF10Cは、1mあたり4000円した。4万円ではなく4千円である。
これでも当時としては、相当に高価なケーブルだった。最も高価なケーブルでもあった。

1mあたり4000円なんて安いじゃないか、といまの感覚ではそう受け止められるだろうが、
瀬川先生もステレオサウンド 53号に「1mあたり4千円という驚異的な価格」と書かれている。

HF10CはテレビやFM用のフィーダーアンテナのような構造の平行線で、
プラスとマイナスの線がセパレータによって5mm程度離れている。
芯線の数は、これも当時としては驚異的な2500本だった。
芯線1本あたりの太さは髪の毛ほどの細さではあっても、2500本も束ねてあればけっこうな太さだった。

ある時期から登場した、
どんなに太いスピーカーケーブルでもそのまま使えるスピーカー端子なんてものは、このころのパワーアンプには、
どのメーカーのものであってもついていなかった。
だからHF10Cを使うには、なんらかの末端処理が必要になってくる。
マークレビンソンのML2でもHF10Cは末端処理をしなければならなかった。
(もっともML2には末端処理ずみの3mのHF10Cがペアで付属していたはず。)

私が知る限り、これだけの太さのスピーカーケーブルは、他にはなかった。
当時のマークレビンソンのアンプはLEMOコネクター(いわゆるCAMAC規格のコネクター)を、
広く普及していたRCAピンコネクターより、優れて安全なものとして採用していた。
おそらく、このLEMOコネクターのせいであろうが、
マークレビンソン・ブランドのラインケーブルは細かった。

当時のラインケーブルよりもずっと細く(おそらく最も細い)、しかも高価だった。
なのにスピーカーケーブルのHF10Cは最も太かった。

Date: 6月 8th, 2012
Cate: 終のスピーカー

終のスピーカー(序)

これまで、過去に使ってきた(鳴らしてきた)オーディオ機器についてはなんどかふれてきたことはあっても、
いま鳴らしているオーディオ機器については、ほとんどなにもふれてきていない。
これからもふれていくつもりはない。

ときどき、何を使っているのか、ときかれる。
そのとき答えているのは、実は、すこし前まで使っていたモノを言っているだけで、
その型番を言っている時点では、もうすでにそれは使っていない。

いまは使っている(鳴らしている)オーディオ機器についてふれていくのは、
このブログを書いていく上でも、助かることである。
こういうスピーカーシステムを選んだ、こういう理由で選んだ、それは自分にとってこういう出合いだった、とか。
そのスピーカーをどういうアンプで鳴らしてみたとか、
そのときの音の変化について細かいところまで書いていく、とか。
そんなことをこまごま書いていくのは、ある意味、ひじょうに楽なことである。
少なくとも、私は楽なことだと考えている(そうではない、という人もいるだろうけど)。

あえてふれないのは、そればかりが理由ではない。
ほんとうの理由は、違うところにある。
それは、いまはまだ書かない。

いま何を鳴らしているのか、については明かさない方針はこれからも変えない。
けれど、あるスピーカーのことについてだけは、そのスピーカーの型番を明かして、
どう鳴らしていくのか、どう鳴ってくれたのかについては、1年に1度は書いていく。
(それは、そのスピーカーに、書いていかなくては、と私に思わせる「もの」をもっているからだ)

そのスピーカーは1年ぐらいしたら、私のところにやって来てくれる。
このスピーカーは、私にとって終のスピーカーとなる、と思っている。
他のスピーカーシステムを手に入れたとしても、そのスピーカーは死ぬまで鳴らしていく。

古いスピーカーだから、私の寿命とどちらが長いか、けっこうイイ勝負ではないかと思う。
どちらが先にくたばるか、それはわからない。
くたばるまでは、どんなに時間がなくても、そのスピーカーでジャズを一曲だけは毎日聴いていくつもりだ。
そのスピーカーと共にジャズを鳴らしていく、くたばるまで。

終のスピーカーが、終のオーディオへとどう関係していくのか、
いまはまだ想像できない。
(この続きは1年後の予定)

Date: 6月 7th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その12)

ステレオサウンド 53号の記事中には、
4331Aのウーファーについてオーバーダンピングぎみと書いてある。
けれど4331Aのウーファーは2231Aだから、
JBLのウーファーのラインナップのなかではオーバーダンピングぎみとはいえない。
JBLのウーファー、同口径のフルレンジユニットの中では、
D130は確かにオーバーダンピング型のコーン型ユニットである。

だから、この抵抗を挿入する実験は、むしろD130やアルテックの604や515のような、
誰がみてもオーバーダンピングぎみではなくて、
オーバーダンピングと断言できるユニットを使ってやってみるほうが、その効果は如実に出てくると推測できる。

1956年に登場したマランツのModel 2にはダンピングファクターコントロール機能がついている。
この機能を使わない状態でのModel 2のダンピングファクターは20だが、
それを5から1/2(0.5)の範囲で連続可変となっている。

ダンピングファクター20ということは、
8Ωのスピーカー(負荷)に対してはアンプの出力インピーダンスは0.4Ωであり、
この値をダンピングファクター5のときは1.6Ωにして1/2(0.5)のときは16Ωにまで変化させていることになる。
0.4Ωと16Ωとでは20倍違う。

出力インピーダンスを20倍も高くできる機能を搭載している理由は、Model 2の登場した年代にある。
この時代に生きてきたわけではないけれど、
どういうスピーカーが存在していたかはわかっている。
JBLのD130、130A、アルテックの604、515が全盛のときであり、
JBLのLE15が登場するのはもうすこし先1960年になってからである。

ダンピングファクターのコントロールは、オーバーダンピングのユニットに対して有効だったのだろう。
それは単にトーンコントロールで低音を増強するというのではなく、
スピーカーに対する制動そのものを変化させるわけだから。

つまりD130のようなオーバーダンピングのユニットが登場した理由のひとつには、
これらのユニットが生れた同時代のアンプのダンピングファクターは決して高い値ではなかったこと、
その裏付けでもある、と考えてもいいはずだ。

マランツはその後のModel 5、Model 8、Model 9にも、
やり方は変えているものの、抵抗挿入によってダンピングファクターをコントロールできるようにしている。

Date: 6月 7th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その11)

パワーアンプとスピーカーのあいだに抵抗を挿入する手法は、
いまではほとんど話題にならないけれども、
私がオーディオをやりはじめたころにはまだ雑誌で見かけることもあった。

抵抗を入れればダンピングファクターがコントロールできる。
けれど、というか、当然ながら、というか、
それまでなかった抵抗がそこに加わるわけだから、挿入された抵抗器の固有音が加わることになる。
どんな手法にもメリットとデメリットがあるわけで、
その手法をどう判断するかは、自分にとってデメリットよりも、もたらされるメリットが大切がどうかである。

この手法も抵抗器に良質なものを選べば、いまも試してみる価値(というよりも面白さ)がある、と思う。
実際にやる場合に注意すべき点は抵抗値が大きくなればなるほど、
その抵抗による電力損失が大きくなるということで、抵抗の容量の大きなものを必要とする。

オームの法則から電力は電流の二乗×抵抗値だから、
高能率のスピーカーでしかも音量の制約つきであれば、
デールの無誘導巻線抵抗の容量の大きなもので、いくつか抵抗値を変えて実験してみて、
その音の変化を自分のものとできれば、いい経験(勉強)になる。

オーディオマニアはどうしてもなにか比較したときに、どちらが音がいいかの判断をすぐにしがちだが、
ときに大事なのは、どちらがいい音かではなくて、そこでどういう音の変化をしていくのか、
そのことを経験値として自分の中に蓄積していくことである。

蓄積していったことはすぐには役に立たないことの多い、と思う。
それでもいろんなことを試してみて、そうやっていくつものパラメータを自分の中に蓄積していく。
それが、あるレベルを超えれば、それまでどちらかといえばやみくもにやってきていた使いこなしに、
光が射し込んでくる瞬間がきっとくる。

いい音で聴きたいという気持が、ときには音の判断にあせりを生じさせる。
いい音を出すということは、人との競争ではないのだから。
だからこそ先を急がないでほしい、と思うことが最近多くなってきたのは、
そういう空気が色濃くなりはじめてきているのか、それとも私が歳をとったからなのか……。

Date: 6月 7th, 2012
Cate: audio wednesday

第18回audio sharing例会のお知らせ

この時間(6月7日午前1時すぎ)だとすでに昨夜になってしまうが、
毎月の例会の四谷三丁目の喫茶茶会記で行ってきた。

喫茶茶会記を出たのは11時をけっこうまわっていた。
毎回欠かさず来てくれているKさんが「来月は4日ですね」といっていた。

7月4日か……と思っていた。
10年経つ。

だから来月のaudio sharing例会は、10年前の2002年7月4日のことについて語ろう、と思っている。

Date: 6月 6th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その10)

ステレオサウンド 53号に、こんな記事が載った。
それまでのステレオサウンドにはなかった記事(私が読みはじめた41号なので、それ以降ということだが)。
タイトルはかなり長めで、
「プロフェッショナルたちがあなたの装置のトラブルや不磨をチェックするとこうなります」で、
筆者名のところにははじめてみる宇田川弘司とあった。

宇田川氏については記事中にはなにもふれられていなので、どんな経歴の方なのかは私は知らない。
それにこの記事のタイトルにある「プロフェッショナルたち」からわかるは、
この記事は宇田川氏だけでなく、
ほかの方々(どんな方なのかは不明)も登場して連載記事にする予定だったのだろう。

この記事は53号だけで終ってしまった。
ステレオサウンドをずっと読んでこられた方でも、この記事をおぼえている方はそんなに多くないようにも思う。
地味な印象の記事だった。

この記事に登場した読者の川畑さんは、
JBLの4331Aに2405のコンシュマー版の077をつけ加えられたスピーカーシステムを使われている。

この4331Aに対して、宇田川氏は私見として
「プロ用のウーファーはオーバーダンピングぎみになりがちだから」と語られている。
そして川畑さんの不満を解消するためにパワーアンプとスピーカーのあいだに直列に抵抗をいれられた。

つまりパワーアンプの出力インピーダンスを高くしてしまうわけだ。
たとえば1Ωの抵抗を直列にいれれば、この1Ωぶんだけパワーアンプの出力インピーダンスは高くなる。
仮にパワーアンプの出力インピーダンスが0.1Ωだったら1+0.1で1.1Ωになる。
当然ダンピングファクターは低くなる。
0.1Ωだと80あったダンピングファクターが、1.1Ωだと7.2727となってしまう。

宇田川氏は音を聴きながら直列にいれる抵抗の値を1Ω、0.5Ωと変えられ、
さらにパワーアンプが管球式かトランジスターかによっても抵抗値を変えられている。

こういう手法があることは、ステレオサウンド 53号を読む以前にも何かで読んだ記憶があり知ってはいた。
知ってはいたけれど……、である。

Date: 6月 5th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(リアパネルのこと・その4)

ステレオサウンドの試聴室で、以前こんなことを体験した。
まだCD以前のころで、そのときのステレオサウンドのアナログプレーヤーはExclusive P3だった。
なにかの試聴の準備が終り、チェックのために音を出したら、
いままで体験したことのないほど大きなハムが発生した。

ここまで大きなハムが出るということは、アース線は間違いなく接続したはずだったけれど、
接続し忘れたのかとチェックしても、結線にミスはなかった。
カートリッジはMC型、昇圧用にはトランスを使っていた。
トランスはヘッドアンプよりもハムをひきやすい。
けれど、このとき使っていたトランスは何重にもシールドがなされたもので、
それまでの経験からいってもハムにはかなり強いものにも関わらず、盛大にハムが出る。

トランスの向きを変えてみたり、ケーブルの這わせ方をあれこれ試したりしてもハムはほとんど減らない。
かなり時間をかけてわかったのは、パワーアンプからの漏洩フラックスが原因だった。
それも盛大な、そのパワーアンプの電源トランスからのフラックスが洩れを、昇圧トランスが拾っていたわけだ。

しかもこのパワーアンプは、国産メーカーの、それもオーディオ専門メーカーの最高クラスのものだった。
原電トランスには立派そうなケースがかぶせてあった。
なのに他社製のどんなアンプよりも漏洩フラックスは凄かった。
昇圧トランスとパワーアンプとの距離は、通常なら問題にならないくらいには離れていても、こうなってしまった。

昇圧トランスだからはっきりとハムという形で表れ、そのパワーアンプの欠点(というより欠陥)がわかったが、
このアンプをラックにいれ、その上にコントロールアンプがあったら、どうなっていただろうか。

あのアンプのメーカーは、 MC型カートリッジもつくっていたし、スピーカーもつくっていた。
けれどMC型カートリッジ用の昇圧トランスはなかった、ヘッドアンプはあったけれども。
おそらく、このメーカーの人たちは開発・試聴時にトランスを使うことはしなかったのだろう。
トランスをつかっていれば、すぐに、このパワーアンプの問題点はわかったはずだから。

このパワーアンプは、はっきりいって極端な実例である。
ここまでひどい漏洩フラックスのアンプにはその後、出合っていない。
とはいうものの電源トランスがあれば、それが容量の大きなものであれば、多少なりともフラックスは洩れている。
そのフラックスの発生源であるアンプを、アナログプレーヤーの真下には、やっぱり置きたくない。

こんなこともあって、それと操作性の面からも、フォノイコライザーを搭載したコントロールアンプなり、
プリメインアンプのデザインについては、私の頭の中はあれこれ、どうしても考え込んでしまうことになる。

Date: 6月 5th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(リアパネルのこと・その3)

アナログプレーヤーの操作は、右利きであろうと左利きであろうと、
マニュアルプレーヤーであればトーンアームは右手で、ということになる。
左利きの人であっても、トーンアームに関しては右手を使わざるをえない。

右手でレコードの盤面に針を降ろす。
ほとんどの人がこの時点ではアンプのレベルコントロールは絞っているから、
針を降ろすと同時にすばやくアンプのレベルコントロールにふれてあげる。
この一連の動作にもたつきがあっては、レコードの冒頭にフェードインすることになるし、
椅子につくまでに音楽が鳴りはじめる。

私は前にも書いたようにトーンアームからのケーブルは最短距離でアンプに接続したい。
だからリアパネル右にフォノ端子があるものならばプレーヤーの右隣に、
リアパネル左にあるものならプレーヤーの真下にアンプを設置することになる。

となるとプレーヤーの右隣にアンプの場合、
トーンアームの操作、レベルコントロールの操作はどちらも右手で行う。
アンプが真下にあれば、どちらも右手で行なうかもしれないし、レベルコントロールは左手になるかもしれない。

右手だけで操作する場合、手の動きは横方向か上下方向かの違いがある。
どちらがやりやすいかは人によって違うのか同じなのか……。
私は横方向に移動する方がいい。

ならばリアパネル左にフォノ端子のアンプもプレーヤーの右隣に置けばいいじゃないか、といわれそうだが、
そうするとトーンアームからの信号ケーブルはアンプのフォノ端子にたどりつくまでに電源コードに近づき、
プリメインアンプならばスピーカーケーブルにも近づき、ライン入力ケーブル、
テープ関係の入出力ケーブルにも近づいて、という経路を通る。
ときにはくっつきあうこともある。フォノ信号がとおるケーブルを、
いくつものケーブルのあいだをぬうようには通したくない。

それにコントロールアンプならばアナログプレーヤーの真下に置くのにそれほど抵抗はないけれど、
プリメインアンプとなると、注意も必要となる場合が出てくる。

Date: 6月 5th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(リアパネルのこと・その2)

最初に断わっておきたいのは、
ここでのコントロールアンプ、プリメインアンプはいうまでもなくフォノイコライザーを搭載しているアンプのこと。

なぜ、日本のコントロールアンプ、プリメインアンプはリアパネルの左端にフォノ入力端子があって、
アメリカのアンプはリアパネルの右端にあるのか、
その理由はわからないものの、
もしかすると、ここには文字の表記の違いが関係しているのではないか、とも思ったりする。

リアパネルの右端にフォノ入力端子があるということは、
フロントパネルの左から右へと信号は流れていくことになる。
リアパネルの左端にフォノ入力端子の場合は、フロントパネル右から左へ、となるわけだ。

つまりこれは欧文が横書きで左から右へ、というのと、
日本語は縦書きで右から左へ、というのと、偶然だろうが一致している。

ではイギリスはどうかというと、実のところ混在している。
QUADの44はリアパネル右端にフォノ入力端子だが、
管球式時代のQUADのコントロールアンプは左にフォノ入力端子がある。
トランジスター化された33は右にある。

イギリスのプリメインアンプはどうかといえば、
オーラにしてもミュージカルフィデリティにしても日本と同じである。

となると、もしかするとフォノ入力端子がリアパネル右なのか左なのかは、
車のハンドル、車の通行と関係しているのではないか、とも思うが、はっきりしたことは何も言えない。

フォノ端子がリアパネルの左なのか、右なのかの理由はわからないものの、
フォノ端子の位置によってアンプの使い勝手に関係してくるということと、
コントロールアンプ、プリメインアンプのデザインについて語るときにも関わってくることはいえる。

Date: 6月 4th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(リアパネルのこと・その1)

まだ10代の、マークレビンソンに追いつき、追いこせを目標に、
アンプの勉強をする傍らで、すぐにできることというわけで、アンプのフロントパネルのスケッチを含めて、
内部コンストラクションについてあれこれ考えていたことがある。

アンプの設計はまだできなくても内部コンストラクション、
つまり信号経路をどうするかについては紙の上ではあっても試行錯誤できる。

もう30年も前の話だから、メインとなるプログラムソースはアナログディスクであり、
それもMC型カートリッジの使用が前提としてブロックダイアグラムともども、
どうすれば微小信号を損なうことなく扱えるのかについて考えていたときに気がついたことがある。

それは日本のアンプ(プリメインアンプ、コントロールアンプともに)と
アメリカ、ヨーロッパのアンプのリアパネルの配置は反対だということである。

私が、このとき考えていたのはいかにアナログプレーヤーからの信号ケーブルを短くできるか、
そしてその信号ケーブルが、他のケーブルや電源コードから遠ざけられる、ということだった。
答(というほどのものではもないが)は、フォノ入力端子がフロントパネルからみると左端
つまりリアパネルでは右端に設けるということだ。

アナログプレーヤーでは当り前すぎることだが、トーンアームは手前からみて右側にある。
トーンアームの根元に接続される信号ケーブルは右側奥から出ている。
これは、どのアナログプレーヤーでも同じである。
だからそこから最短距離でコントロールアンプ(もしくはプリメインアンプ)のフォノ端子までもってくるには、
アナログプレーヤーの右隣にコントロールアンプ(もしくはプリメインアンプ)を置くのがいい。

そうなると必然的にリアパネルの右端にフォノ端子を設け、
カートリッジからの微小信号にもっとも悪影響をあたえる電源ケーブルはもっとも距離をとりたいから、
それに内部コンストラクション的にもフォノイコライザーアンプと電源トランスは距離をとりたいので、
電源コードはリアパネル左端にもってくることになる。

これは誰もが考えつくことだと思うし、実際にアメリカのコントロールアンプの多くはそうなっている。
イギリスのアンプもほとんどそうなっている。
マークレビンソンのLNP2もそうだし、GASのThaedraも、QUADの44もそういうリアパネルの配置だ。

なのに日本のアンプは逆にリアパネル左端にフォノ入力端子、右端に電源コードという配置だ。
つまり日本のアンプはコントロールアンプにしてもプリメインアンプにしても、
アナログプレーヤーの下(もしくは上)に設置することを前提としていることになる。