ケーブルはいつごろから、なぜ太くなっていったのか(その1)
私が最初に買った(というよりも買えたといったほうが正しいのだが)マークレビンソンの製品は、HF10Cである。
HF10Cといっても、そんな型番の製品がマークレビンソンにあったっけ? と思われる方もいよう。
HF10Cとはマークレビンソン・ブランド最初のスピーカーケーブルである。
1979年に登場したHF10Cは、1mあたり4000円した。4万円ではなく4千円である。
これでも当時としては、相当に高価なケーブルだった。最も高価なケーブルでもあった。
1mあたり4000円なんて安いじゃないか、といまの感覚ではそう受け止められるだろうが、
瀬川先生もステレオサウンド 53号に「1mあたり4千円という驚異的な価格」と書かれている。
HF10CはテレビやFM用のフィーダーアンテナのような構造の平行線で、
プラスとマイナスの線がセパレータによって5mm程度離れている。
芯線の数は、これも当時としては驚異的な2500本だった。
芯線1本あたりの太さは髪の毛ほどの細さではあっても、2500本も束ねてあればけっこうな太さだった。
ある時期から登場した、
どんなに太いスピーカーケーブルでもそのまま使えるスピーカー端子なんてものは、このころのパワーアンプには、
どのメーカーのものであってもついていなかった。
だからHF10Cを使うには、なんらかの末端処理が必要になってくる。
マークレビンソンのML2でもHF10Cは末端処理をしなければならなかった。
(もっともML2には末端処理ずみの3mのHF10Cがペアで付属していたはず。)
私が知る限り、これだけの太さのスピーカーケーブルは、他にはなかった。
当時のマークレビンソンのアンプはLEMOコネクター(いわゆるCAMAC規格のコネクター)を、
広く普及していたRCAピンコネクターより、優れて安全なものとして採用していた。
おそらく、このLEMOコネクターのせいであろうが、
マークレビンソン・ブランドのラインケーブルは細かった。
当時のラインケーブルよりもずっと細く(おそらく最も細い)、しかも高価だった。
なのにスピーカーケーブルのHF10Cは最も太かった。