ハイ・フィデリティ再考(続×六・原音→げんおん→減音)
伊藤先生は「Edは音がつめたいんだなぁ」と言われた。
そうかもしれないと思って、その言葉を聞いていながらも、
それは300Bと比較しての話であって、それほどつめたい音ではないはず、とも思っていた。
でも伊藤先生の仕事場のシーメンスのWide Angleから鳴ってきた音は、いわれるとおりの音だった。
がっかりしていた、と思う。
だからなのかEdを指さして「さわってみな」と言われた。
Edを見るのも聴くのも初めてとはいうものの、動作中の真空管がどのくらい熱くなっているのかは知っていた。
だから、すぐには手を出せなかった。
伊藤先生は「大丈夫だから」とつけ加えられた。
さわってみた。
これがEdの音に深く関係しているのか、と思いたくなるほど、Edは熱くならない。
そして伊藤先生は300Bシングルアンプにされた。
プレーヤーもコントロールアンプもスピーカーも同じ、
パワーアンプだけが、Edのシングルアンプから300Bシングルアンプに変った。
音も大きく変った。
この瞬間から、300Bシングルアンプの音にまいってしまった。
伊藤先生の300Bシングルアンプの音にまいってしまった。
伊藤先生アンプを知ったのは、Edのプッシュプルアンプだ、と書いた。
その次に知ったのはステレオサウンド 54号に載った300Bシングルアンプだ。
そのころのステレオサウンドには「ザ・スーパーマニア」という記事が連載されていた。
54号に登場されたのは長谷川氏。
シーメンスのオイロダインを2m四方の平面バッフルに取り付けられ、
プレーヤーはEMTの927Dst、アンプは伊藤先生のコントロールアンプと300Bシングルだったのだ。