Date: 12月 2nd, 2014
Cate: Reference

リファレンス考(その1)

ステレオサウンド編集部にいると、読者からの質問の電話を受けることがある。
誰が質問に答えるのか、ということは私がいたころは決っていなかった。
特定の記事についての質問ならば、担当編集者が答えることもあるが、
そうでない質問であれば、電話を受けた者が答えていた(いまはどうなのか知らない)。

私がたまたま受けた質問で、試聴室のリファレンス機器について、というのがあった。
その質問があったころ、試聴室のリファレンス機器はスピーカーがJBLの4344、
アンプはアキュフェーズのC280VとP500Lの組合せ、
アナログプレーヤーはマイクロのSX8000IIにSMEの3012-R Proの組合せだった。

質問してきた人は、なぜアンプがアキュフェーズなのか、ということだった。
もっといいアンプがあるし、それらのアンプをステレオサウンドは高く評価している。
なのに、なぜ、それらのアンプをリファレンスとして使っていないのか──、そういうことだった。

オーディオ機器にReferenceの型番がつけられるようになったのは、
私が記憶するかぎりではトーレンスのアナログプレーヤー、Referenceからである。
その後、ゴールドムンドのアナログプレーヤーもReferenceの型番で登場した。

そのイメージが強いのか、
Reference=もっとも優れた機種という認識が、質問してきた人の中にできあがっていたようである。
それもわかる。
トーンレスのReferenceは、ほんとうにすごいパフォーマンスをもつプレーヤーだった。

私もトーンレスのReferenceが登場してきて、その音を聴いた時には、
Reference=最高の音を出すモノというイメージをもっていた。

けれどReferenceの意味はそうではない。

Date: 12月 2nd, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その24)

デンオンのDP100Mはデッキ手前右側に、DENON DP-100Mと印字されたパネルがある。
ここを開けると、プッシュボタンが六つ、回転式のツマミが四つある。
プッシュボタンはターンテーブル用で、回転スピードとピッチコントロール操作を行ない、
トーンアーム用はアンチスケーティング量(インサイドフォースキャンセラー量)、アームリフターのスピード、
トーンアームの低域カットオフ周波数、ダンピング量がこれらで調整できる。

このツマミの下に五枚のプリント基板が収納されている。
内三枚はターンテーブルのサーボ用で、二枚がトーンアーム用である。
これらのプリント基板はプラグイン方式となっている。

つまりDP100Mに搭載されているトーンアームを単売しようとすると、
この二枚の制御用のプリント基板も必要となるし、そのための電源も要る。
そうなってしまうと単売は非常に難しい、ということになる。

海外のメーカーであれば、それでもトーンアーム単体を市販するところもあるだろうが、
国内のオーディオメーカーで、それも大手のところでは、まず単体での市販は営業的に許可されないであろう。

ステレオサウンド 61号に載っているトーンアームのプリント基板の写真をみてると、
それほど実装密度が高いわけではない。
1981年の時点でもその気になれば一枚のプリント基板に収められたのではないか。
電源も必要だが、それほど容量は必要としないはず。

実際に単体で市販した場合、
他社製のターンテーブルに装着するには、プリント基板とトーンアームの接続、
電源の配線の引き回しなどをどう処理するのか、の問題が残る。
だが工夫すれば、どうにか解消できたと思う。

DP100M搭載の電子制御トーンアームはどのレベルだったのか。
ステレオサウンド 61号に井上先生が、
《カートリッジによって低域カットオフ周波数調整はシャープな効果を示し、
その最適値を聴感上で明瞭に検知することは、予想よりもはるかにたやすい。》
と書かれている。

このトーンアームを搭載したDP100Mについては、こう書かれている。
     *
DP100MにS字型パイプをマウントし、重量級MC型カートリッジから軽量級MM型カートリッジにいたるまで、数種類の製品を使って試聴をはじめる。基本的には、スムーズでキメ細かく滑らかな帯域レスポンスがナチュラルに伸びた、デンオンのサウンドポリシーを備えている。しかし、カッターレーサー用のモーターを備えた、全重量48kgという超重量級システムであるだけに、重心は低い。本来の意味での安定感が実感できる低域をベースとした、密度の濃い充実した再生音は、DD型はもちろん、ベルトや糸ドライブ型まで全製品を含めたシステム中でのリファレンスシステムという印象である。この表現は、このDP100Mのために用意されていた言葉である、といいたいほどの音質、信頼性、性能の高さをもつ。
     *
リファレンスシステムといいたいほどの性能の高さに、
電子制御トーンアームの存在はどれだけ関係しているのだろうか。

Date: 12月 2nd, 2014
Cate: JBL, 型番

JBLの型番

JBLのプロフェッショナル用スピーカーユニットの型番は四桁の数字。
2100シリーズがフルレンジユニット、2200シリーズがウーファー、
2300シリーズがホーン、2400シリーズがコンプレッションドライバーが基本となっている。

ミッドバス用のコーン型ユニットは2121、2122という型番だから、
ウーファーのようでもあるが、型番からはフルレンジということになる。
実際はウーファーに分類されるけれど。

数字の順序からすればフルレンジ、ウーファー、ホーン、コンプレッションドライバーとなっている。
ということはJBLの考え方としては、ホーンとコンプレッションドライバーの組合せにおいては、
まずホーンを選べ、ということなのではないか、と型番をみていると思えてくる。

フルレンジもウーファーもスピーカーユニットであり、音を発する。
コンプレッションドライバーもそうだ。
ホーンは違う。
なのに型番的にはウーファーとコンプレッションドライバーのあいだにいる。

ホーンとコンプレッションドライバーの組合せでコンプレッションドライバーを中心に考えるのであれば、
型番のつけ方としては2300シリーズがコンプレッションドライバーのほうがすっきりする。
けれど実際は2300シリーズはホーンの型番である。

誰がどういう意図で型番をつけていたのかはわからない。
けれど2300シリーズをホーンとしたのは、なんらかの意図があったのではないだろうか。

どの程度の空間にどういう指向特性で音を放射するのか。
まずこのことを決めた上でホーンを選び、次にコンプレッションドライバーを選べ、ということではないのか。

Date: 12月 1st, 2014
Cate: 老い

老いとオーディオ(その1)

昔読んで感心したことのひとつを、このごろ考えている。
いつ読んだのかはもうはっきりとは憶えていない。
たぶん1991年以降、週刊文春か他の週刊誌。

大橋巨泉が語ったことだった。
上原謙について語っていた。
上原謙が1975年に再婚したことについてのことだった。

このときの騒ぎはなんとなく記憶している。
二枚目俳優の上原謙が、こんな女性と……、という感じでテレビ、週刊誌を賑せていた。

上原謙は1909年生れだから、再婚時は65か66歳。
大橋巨泉の記事を読んだころの私はまだ30になっていなかったはず。

だからその時は、読みながら感心しながらも、自分にあてはめて考えることは出来なかった。
そこには、こんなことが書いてあった。

男は歳をとると勃たなくなる。
そうなると勃たせてくれる(勃つようになる)女が、つまりはいい女ということになる。
どういう女がそういう存在になるのかは、他人にはわからないことだ。
本人だって、若いころとは違ってくることだってあろうから、そういう相手に出逢うまでわからないことといえよう。
上原謙にとって再婚相手がそういう存在だったのだろう。

そんなことが語られていた。
このことは考えさせられる。

Date: 11月 30th, 2014
Cate: オーディオ入門

オーディオ入門・考(その3)

私が中学生のころ、NHKの教育テレビで「オーディオ入門」という番組があった。
たしかメーカーのエンジニアが登場されていたように記憶している。
テキストも書店で売っていた。

この番組で放送される内容(知識)はすでに知っていた。
だから見る必要はなかったけれど、それでも毎回見ていた。

そんな私にとってのオーディオ入門のきっかけは、やはり五味先生の「五味オーディオ教室」である。
この「五味オーディオ教室」を何度も読み返した。
ボロボロになるまで読み返した。

「五味オーディオ教室」からはさまざまなことを学んだ。
「五味オーディオ教室」を記憶するほど読んでも、
オーディオの技術的な知識はほとんど得られない。
オーディオ機器の型番が多く登場する内容でもない。

それでも、これほどのオーディオ入門書は他にない、と断言できる。
それはオーディオにとって、もっとも大事なことを、この本から学べたからである。

Date: 11月 30th, 2014
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(STAR WARS episode7)

STAR WARS episode7の予告編が公開された。
一分半弱の短い予告編ではあっても、公開まであと一年以上あるだけに嬉しい。

STAR WARSは映画館で観て、最も驚いた映画である。
あの驚きは、その後何本もの映画を観てきているけれど、あれ以上のものにはいまのところ出会っていない。

世代が違えば、その驚きの大きさは決して一番ではないのかもしれないが、
少なくとも私にとっては、まだ熊本に住んでいたころ味わった驚きは、いまも大きいままである。

STAR WARS episode7の予告編に、これまでのepisodeには登場していないロボットが映っている。
球体のボディにドーム型の頭が乗っているようなロボットである。

STAR WARS episode7の予告編を観た感想をちらほら見かける。
その中に、このロボットのデザインがひどい、ひどすぎる、というのがあった。
幻滅されたのかもしれない。

私はそうは感じなかった。
STAR WARS episode7の予告編なのだから、そこに映し出されるのはSTAR WARSの世界である。
その世界において、あのロボットのデザインは、いい悪いではなくて違和感がなかった。
幻滅することはなかった。

むしろSTAR WARSに、いかにも登場してきそうなロボットであると感じて、
「これはスターウォーズだ」と思っていたからだ。

おそらくあのロボットのデザインはひどすぎると感じた人は、
STAR WARSの世界観から切り離したところでの評価なのかもしれない。
私はSTAR WARSの世界観(これは私なりの、である)からの感じ方である。

もしかするとひどすぎると感じた人も、その人のSTAR WARSの世界観からの感じ方だったのかもしれない。
だとしたら、その人と私のSTAR WARSの世界観はかなり違っている、ということになるだろう。

Date: 11月 30th, 2014
Cate: 基本

ふたつの「型」(その2)

10年以上前のこと。
美容関係の専門学校でメイクについて教えている人が言っていた。
「私は生徒に基本は教えない。基本を教えると基本から抜け出せなくなるから」と。

こんなことを言っていた女性はメイクの仕事をやっている。
専門学校に通い基本を学んできた人のはずだ。
にも関わらず、彼女はこんなことを言っていた。

確かに「型にはまった」という言い方があるように、
彼女がいわんとしていることもわかるけれども、基本は大事なことである。

その専門学校で彼女がどんなことを生徒に教えていたのか、
他の先生たちが基本を教えていたのであれば、彼女のやり方もありだろうが、
そうでなければ彼女に教えられていた生徒が気の毒になってくる。

「型にはまる」「基本から抜け出せない」といった問題は、
基本を学んだから生じることではない。

正しい基本を正しく身につけることは大事なことであるが、
オーディオにおける「型」とは、どういうことをいうのか。

Date: 11月 30th, 2014
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーの設置・調整(その28)

アナログプレーヤーの出力ケーブルだけでなくラインケーブル、スピーカーケーブルでも同じことである。
これらのケーブルと電源コードが接近していれば、なんらかの音への影響がある。

信号ケーブルはシールドされているから大丈夫、と思っている人もいるようだが、そんなことはない。
どんなシールドであっても影響を皆無にできることはない。
確実な方法は信号ケーブルと電源コードはできるだけ距離をとることである。
特に信号レベルが極端に低いアナログプレーヤーの出力ケーブルは電源コードからできるだけ距離を確保したいし、
他の信号ケーブルとの距離もできれば確保しておきたい。

いまはデジタル機器がシステムにあることが多い。
CDプレーヤーの電源をオフにしても、
どこかにスイッチング電源を使用しているオーディオ機器があれば、
その機器の電源コードには高周波が流れているとみるべきである。
これも音への影響となってくる。

この影響に関してもシールドがあれば問題ない、ということにはならない。
シールドをあまり過信しないことである。
結局、この影響に関しても距離を確保するのがいい。

つまりアナログプレーヤーの設置は、ケーブルの引き回しを含めて考えなければならない。
電源コードの長さがあまっているからといって束ねてしまう人がいる。
その気持はわからないわけではないが、束ねてしまうことは基本的にはやめたほうがいい。

アナログプレーヤーのケーブルの引き回しには、
コントロールアンプのリアパネルの端子の配置も関係してくる。
このことについては二年ほど前に、「私にとってアナログディスク再生とは(リアパネルのこと)」で書いている。

このケーブルの引き回しに関しては、できるかぎり最初からきちんとしておいたほうがいい。

Date: 11月 30th, 2014
Cate: ワーグナー, 組合せ

妄想組合せの楽しみ(カラヤンの「パルジファル」・その21)

ベーゼンドルファーのVC7については、「Bösendorfer VC7というスピーカー」という項を立てて書いているように、
このスピーカーシステムには出た時から注目していたし、いいスピーカーシステムだといまも思っている。

いまはベーゼンドルファーのVC7ではなく、Brodmann AcousticsのVC7になっている。
輸入元もノアからフューレンコーディネイトに変っている。

昨年のインターナショナルオーディオショウから、
フューレンコーディネイトのブースに展示されるようになった。
今年のショウでVC7の音が聴けるかな、と思い期待していたものの、
タイミングが悪かったのか、聴けずじまいだった。

ショウの初日と二日目に一度ずつフューレンコーディネイトのブースに入ったけれど、
どちらも鳴っていたのピエガのスピーカーシステムだった。
VC7は鳴らしていなかった、と思っていたら、ショウに行った知人の話では鳴らしていたそうである。
なのでBrodmann AcousticsのVC7になってからの音は、まだ聴いていない。

ベーゼンドルファー・ブランドのVC7に私が感じた、
このスピーカーシステムならではの良さは引き継がれているようである。
だから、ここでの組合せにはベーゼンドルファーのではなく、Brodmann AcousticsのVC7として書いていく。

Date: 11月 30th, 2014
Cate: audio wednesday

第47回audio sharing例会のお知らせ(気になる新製品)

12月のaudio sharing例会は、3日(水曜日)です。

今年も数多くの新製品が登場し、消えていった製品もある。
オーディオとは関係のない仕事をしているから、すべてを聴くことはできないし、
聴けたのはほんのわずかである。
それでも気になっている新製品はある。

今回は年末ということで、
2014年をふり返って気になっている新製品を中心に、新製品をテーマにしたいと考えている。

気になっている新製品は三機種ある。
D/Aコンバーターが二機種に、パワーアンプが一機種。
三機種ともそんなに高価なモノではない。

手が届きそうにない高級品に関心がないわけではない。
だが今年は比較的手頃な価格といえるモノに、気になる新製品があった。

場所もいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

ポジティヴな前景とネガティヴな後景の狭間で(続50年)

私が雑誌に期待していることのひとつに、
読み手である私に何かを気づかせたり思い出させてくれることがある。

情報の新しさ、多さよりも、日々の生活でつい忘れてしまいがちになることに、はっと気づかせてくれる。
定期刊行物として出版される雑誌に求めているところがある。

いまでは情報はあふれている。
だからこそ雑誌は、そんな情報の波に埋もれてしまいそうになることをすくい上げていくことが大事だと思う。

けれど雑誌編集者のほうが、情報を追うことに汲々としているふうに感じられることもある。
編集部というのはひとりではない。複数の人がいる。
新情報を追う人もいれば、私が雑誌に期待していることを提供してくれる人もいての編集部でなければならない。

「ポジティヴな前景とネガティヴな後景の狭間で」というタイトルをつけている。
この後に何が続くのかは、人によって違ってくる。

雑誌編集者こそ、
「ポジティヴな前景とネガティヴな後景の狭間で」本をつくっていかなければならないのではないか。

ポジティヴな前景とネガティヴな後景の狭間で(50年)

今年(2014年)は、グレン・グールドのコンサート・ドロップアウトから50年目になる。
グレン・グールドは、オーディオマニアにとっては特別な存在である。

どこかのオーディオ雑誌が、だからドロップアウト50年の記事をつくるかな、と少しばかり期待していた。
今年も後一ヵ月と数日で終るが、いまのところどのオーディオ雑誌もやっていない。
12月に出るオーディオ雑誌にも載っていないであろう。

Date: 11月 29th, 2014
Cate: ポジティヴ/ネガティヴ

ポジティヴな前景とネガティヴな後景の狭間で(その2)

「Back to the Future」という映画がある。
1985年に一作目が公開されヒット、二作、三作とつくられ公開された。

「Back to the Future」、
だから映画のタイトルであり、映画のなかで使われるセリフという認識のままだった。
その認識が変ったのは、川崎先生のDesign Talkで「Back to the Future」の本当の意味を知ったからだった。

「Back to the Future」の本当の意味については、いま川崎先生のブログで読める。

この「Back to the Future」の本当の意味を知らずに、
グレン・グールドの「音楽院卒業生に贈ることば」を読んでも、
グールドが何をいっているのかあまり理解できないのではないだろうか。

「音楽院卒業生に贈ることば」をきいてきた当時のトロント大学王位音楽院の卒業生たちのどれだけが、
その場でグールドが伝えようとしたことを理解できたのだろうか。

グレン・グールド著作集は1990年に出ている。
すぐに買って読んだ。
「音楽院卒業生に贈ることば」は著作集1の最初にあるから、真っ先に読んだ。
けれど、1990年の私は理解していたとはいえなかった。

一見当り前のように思えるポジティヴな前景とネガティヴな後景。
だが「Back to the Future」の本当の意味を知って読めば、けっしてそうでないことに気づき、
グールドは「Back to the Future」の本当の意味を知った上で、
ポジティヴな前景とネガティヴな後景という言い回しをしたのだ、といえる。

Date: 11月 28th, 2014
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーの設置・調整(その27)

ステレオサウンドの試聴室でこんなことがあった。
ある試聴の準備のとき、ハムが出た。まだCDが登場する前のことだった。
それも盛大なハムである。

アナログプレーヤーは試聴室に常備されているパイオニアExclusive P3。
カートリッジはオルトフォンのMC型だったはず。
昇圧トランスを使っていた。
プレーヤー、トランスの設置場所は通常のまま。
つまりハムが発生する場所ではなかった。

まずアースの配線のミスかも、と疑ってもそうではなかった。
昇圧トランスの向きを変えてもほとんど変化なし。

あれこれやってみた。
原因はパワーアンプだった。
そのときのパワーアンプは国産の、そのブランドの最高級モデルだった。
電源トランスはシールドケースに収まっていた。

にも関わらず、このパワーアンプからは盛大に漏洩フラックスが出ていて、
このフラックスをコントロールアンプに接続されている昇圧トランスからのケーブルが拾ってしまっていたから、
ハムが発生していた。

なにもパワーアンプの真上を昇圧トランスからのケーブルを這わせていたわけではない。
他のパワーアンプではなんら問題の発生しない位置だったにも関わらず、
そのパワーアンプではハムを発生したわけである。

問題となるパワーアンプもさらにケーブルとの距離をとるように設置すれば、
ハムは直接耳に聞こえなくなるが、そうなったとしてもハムが聞こえないというだけで、
漏洩フラックスは確実に音に影響を与えている。

Date: 11月 28th, 2014
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーの設置・調整(その26)

少し話がそれてしまったが、アナログプレーヤーの設置をきちんとやる。
ここをおろそかにしたまま、アナログプレーヤーの調整を行っても、いい結果は得られない。
とにかくまずこれまで書いてきたように、水平を出し、きちんとした台にガタツキなく設置すること。

ここまでの設置は、いわば機械的な設置である。
オーディオのシステムは電気を使ったシステムであり、
アナログプレーヤーにもアンプにもCDプレーヤーにも電源コードがついている。

アナログプレーヤーだけのシステムをできるだけ簡潔に構成したとする。
それでもアナログプレーヤーとプリメインアンプは必要となる。
この場合で電源コードは二本。

これにチューナーやデッキ、CDプレーヤーが加わると、
加わったオーディオ機器の分だけ電源コードは増えていく。

さらにプリメインアンプをセパレートアンプにして、
フォノイコライザーも独立したものに、パワーアンプはモノーラルに……、としていけば、
電源コードの数はますます増えていく。

電源コードには交流の100Vが流れていく。
これに対して、アナログプレーヤーの出力ケーブルを流れているカートリッジの信号レベルは、低い。
そうとうに低くなる。
MM型かMC型かでも変ってくるし、MC型でも機種によって信号レベルの差はけっこうある。

また低域は中域よりも録音レベルが低いし、ピアニッシモでも低くなる。
そうなると低音楽器のピアニッシモでは、驚くほど低い信号レベルでしかない。

こういう微弱な信号が通っているケーブルの間近に100Vが流れている電源コード、
それも消費電力の大きなオーディオ機器の電源コードが通っていたら。
それもアナログプレーヤーの出力ケーブルと平行に通っていたら、どういう影響が生じるのか。