シフのベートーヴェン(その8)
二週間ほど前に、アンドラーシュ・シフのベートーヴェンのピアノソナタ全集が、
e-onkyoでの配信が始まった。
MQAでの配信もある(44.1kHz、24ビット)。
その、ほぼ一週間後に、エミール・ギレリスのベートーヴェンの配信も始まった(2.8MHz、1ビット)。
ギレリスのベートーヴェンは全集ではなく、
中期のソナタのもので、ドイツ・グラモフォンに1972年75年にかけてのものである。
ギレリスのベートーヴェンは、1986年の2月と5月に、
最後の録音を行ない、ギレリスの70歳を祝って、
1986年秋(ギレリスの誕生日は10月19日)に出る予定だった。
けれど、69歳の誕生日の五日前に心臓発作で急逝している。
ギレリス最後の録音は、ベートーヴェンの第30番と31番となる。
ギレリスの32番は残されていない。
30番と31番を聴くと、32番が残されなかったこと、どう思うのか。
ギレリスのベートーヴェンの全集は、
1番、9番、22番、24番、32番が未録音である。
せめて32番だけでも、としかたないことをおもう。
それでも、32番がないからこそ、ギレリスの30番と31番を聴く時は、
生半可な気持でいるわけにはいかない。
今年はベートーヴェン生誕250年だから、
いまになってシフの全集の配信が始まったのだろうし、
ギレリスのベートーヴェンもそうであろう。
シフのベートーヴェンは、特に後期の三作品にはかなりの期待をしていた。
期待に違わぬ──、といえば確かにそうだった。
けれど、この項で書いてるように、「ないもの」を感じてしまった。