いま、そしてこれから語るべきこと(その9)
夜九時からのNHKのニュース番組だった。
番組の冒頭ではなく、その日のニュースあとに、特集としての映像だった。
どのくらいの長さだったのだろうか。
長いようで短かったのかもしれない。
20分はなかったのではないか、もしかすると10分くらいの映像だったのかもしれない。
長さを憶えていないのは、長さはここではどうでもいいことでしかなかったからだ。
映像が終り、画面はスタジオに切り替る。
ニュースキャスターが、涙をこらえているのがわかる。
彼も、映像が放送されていた時、涙を流していたのだろう、と思っていた。
彼はプロである。
だから映像が終って、自分にカメラが向けられれば、涙を視聴者にみせるわけにはいかない。
胸を打つ映像だった──、とはいいたくない。
映像は、胎児性水俣病患者の坂本しのぶさんだった。