Archive for 11月, 2017

Date: 11月 10th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(書いていて気づいたこと)

(その19)を書こうとしていて、気づいたことがある。
岡先生と瀬川先生のBCIIIの評価というか、
使いこなし(おもにスタンドに関すること)に関係することで、思い出したことがある。

岡先生は長身だ、ということだ。
ステレオサウンドで働くようになって、
岡先生と初めて会った時に、背が高い、と少し驚いた。

瀬川先生と岡先生の身長差はどのぐらいなのだろうか。
ふたりが立って並んでいる写真は、ステレオサウンド 60号に、
小さいけれど載っているとはいえ、身長差を正確に測れるわけではない。

瀬川先生は、熊本のオーディオ店に何度も来られていた。
背が高い、という印象はなかった。

身長差があまりなかったとしても、
椅子に坐る姿勢でも、耳の高さは変ってくる。
前のめりになって聴くのであれば、耳の位置は低くなる。

スピーカーの高さは、床との関係もあるが、
耳との関係も大きい。

昔のオーディオ雑誌には、
マルチウェイのスピーカーシステムであれば、
トゥイーターの位置と耳の位置を合わせた方がいい、と書かれていた。

これがウソだとまではいわないが、
あまり信じない方がいい。
ユニット構成とクロスオーバー周波数との関係で、
バランスのいいポジションは変ってくるし、
たとえば598の3ウェイシステムであれば、
30cmコーン型ウーファーで、スコーカー、トゥイーターがドーム型、
しかもクロスオーバー周波数も各社ともそう大きくは違っていなかった。

専用スタンドがある場合に、それを使い、
用意されていなければ、そのころはいくつかのメーカーからスタンドが発売されていて、
それを使って聴く。
スタンドの高さもそう大きく違うわけではない。

あるレベルまで調整を追い込んだうえで、頭を上下させて音を聴く。
バランスがもっともいいのは、トゥイーターの高さではなく、もっと下にある。
すべての3ウェイ・ブックシェルフ型がそうだというわけではないが、
たいていはウーファーとスコーカーのあいだあたりに耳をもってきたほうがいい。

スピーカーユニットの数が多くなり、縦に配置されていれば、
垂直方向の指向特性は水平方向に比べて、問題が生じやすい。
それもあって耳の高さを変えていくだけで、音のバランスの変化の大きさは、
ユニットの数に比例傾向にある、ともいえる。

スペンドールのBCIIIは4ウェイである。
垂直方向の指向特性はステレオサウンド 44号と46号に載っている。
BCIIの垂直方向の指向特性は45号に載っている。
ふたつのグラフを比較すると、BCIIIは多少問題がある、といえる。

なにしろBCIIIを聴いていないのではっきりいえないが、
耳の高さが変るだけで、音のバランスは変りやすい、はずだ。

瀬川先生は「コンポーネントステレオの世界 ’79」で、
専用スタンドよりも10cmぐらい下げた状態のほうがよかった、といわれている。

岡先生と瀬川先生の身長差、
特に聴いているときの耳の高さの違いは、10cmぐらいだったのかもしれない。
だとすれば、スタンドに関する疑問が解消する。

Date: 11月 9th, 2017
Cate: 楽しみ方

想像は止らない……(その2)

JBLのパラゴンのオマージュモデルを、
JBL以外のスピーカーメーカーがつくったら……、
こんな想像をしてみるのは楽しいだけでなく、けっこうしんどい作業でもある。

タンノイ、ヴァイタヴォックス、ソナスファベールなどが候補として浮ぶ。
日本のメーカーだったら、やはりヤマハだろうか、と考えるし、
アメリカのハイエンドオーディオメーカーがもし手がけたとしたら、
いったいどうなるのか──、ここまで来ると想像の範囲を超えてしまいそうだが、
あり得なそうでありながら、もしかしたらあり得るかも……、と思えるところが、
パラゴンはある、と私は感じている。

パラゴンは、あのカタチで完成しているではないか、
あれをいじることは無理だよ──、
そう言ってしまったら、そこで終ってしまう。

ヴァイタヴォックスだったら……は、
私にとって、パラゴンのユニットをヴァイタヴォックスのユニットに入れ替えたら……、
というところから始まっている。

タンノイならば、同軸ユニットを使うのであれば、
ユニットの配置をどう処理してくるのか。
比較的想像しやすいのは、パラゴンではなくメトロゴンだろう。

メトロゴンに同軸ユニットを、と考えたことのある人はきっといるはず。

けれど、ここで考えるのはあくまでもパラゴンである。

どのメーカーであっても、パラゴンの中央の湾曲した反射板を省くことはできない。
この反射板にしても、オマージュモデルは、メーカーが違えばずいぶんと違ってくるはずだ。
それから反射板両脇のホーン開口部。
ここの処理も、開口したままにしておくメーカーもあればそうでないメーカーもあるだろう。

パラゴンのオマージュモデルで、私がまず想像しはじめたのは、
全体の姿ではなく、反射板、開口部とか、そういった部分部分から、であった。

そういう始め方をすると、ソナスファベールだったら──、
正確にいえばフランコ・セルブリンだったら──、とまず思ってしまう。

Date: 11月 9th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その18)

中野英男氏は、927Dstのイコライザーアンプについても書かれている。
     *
 ところで、これまでの話は未だ前座に過ぎない。たまたま瀬川、松見の両先生が来られたのを機会に、我が家のEMTのトーン・アームを新型の997型に替えようということになった。アームを交換した結果、再生音の質が一段と向上したことは言うまでもない。そのあと、瀬川さんが「中野さん、このプレーヤーにはイクォライザーが内蔵されているでしょう。それを通してアンブのAUXから再生するととてもいいんですよ」と言い出したのである。
 私のEMTは前にも書いた通り十年も前に買ったものだ。その頃のアンプ、特にトランジスター・アンプの技術水準を考えて私は慄然とした。いかに瀬川さんのお言葉とは申せ、これだけは従えない、と思った。ところが同席した役員のひとりと、トーン・アームの交換を手伝ってくれた技術開発部の中村課長が「やってみましょうや、会長。ものは試しということがあります」としきりに言う。実はEMTのイクォライザーは購入した当時、半年余り使用したが、どうも性能が思わしくないので取り除き、アームから他のプリアンプに直結していたという経緯がある。当時のライン・アップはマランツのモデル7と9B、或いはマッキントッシュのC22とMC275、スピーカーにはJBLのパラゴンとボザークのB410を使っていたような気がする。ソリッドステート・アンプ黎明期における名器ソニーのTA1120の出現する前後の話である。その時は、我が社の技術担当重役や若手のエンジニア、その他うるさがたの諸氏が立ち会って下した結論に基づいてイクォライザーをカット・アウトしたのであり、勿論私もその結果に納得していた。
 永いこと使わなかったイクォライザーをカムバックさせるのは大仕事であった。瀬川さんと中村君は汗を拭きながらラグ板の銹落しまでしなけれぱならなかった。十年間ターン・テーブルの下にほっておかれたにも拘わらずEMTのイクォライザーは生きていた。そして、そこから出た音を聴いた瞬間、その場に居あわせた人々の間に深い沈黙が支配したのである。
 小林秀雄の言葉に「その芸術から受ける、なんともいいようのない、どう表現していいかわからないものを感じ、感動する。そして沈黙する」という一節がある。本当の美しさ、本物の感動は人を沈黙させる。沈黙せずに済まされるような、それが言葉で表現できるようなものであれぱ、美と呼ぶに値しないであろう。あの瞬間、私の居間を支配した静けさはまさしく本当の美しさに対する沈黙であった。音楽だけが流れている。そして、それを取り巻く異様なまでの静寂。
(「さらにまたEMTについて」より)
     *
なのでBCIIIとKA7300Dとの組合せでも、間違いなく内蔵のイコライザーアンプの出力を、
KA7300DのAUX入力に接続されているはずだ。

「音楽、オーディオ、人びと」を読めば、中野英男氏が、
スピーカーにしてもアンプにしても、一組ではなく、いくつもあることがわかる。
KA7300Dの何倍、それ以上の価格のアンプもいくつもあるなかでKA7300Dを試されていて、
しかも他の、どんなに高級なアンプでも聴かせることのなかったアルゲリッチの「狂気」を、
その音に感じられている。

「音楽、オーディオ、人びと」は1982年に買って読んでいる。
もう35年前になる。

アルゲリッチは、そのあいだにさまざまなディスクを聴いてきている。
システムもいくつもの音で聴いてきている。

それでもまだアルゲリッチの「狂気」を、私はまだ聴けずにいる。

Date: 11月 9th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その17)

その3)にトリオの創業者の中野英男氏の文章を引用した。

「音楽、オーディオ、人びと」で、アルゲリッチについてかかれた文章がある。
『「狂気」の音楽とその再現』である。
     *
 アルヘリッチのリサイタルは、今回の旅の収穫のひとつであった。しかし、彼女の音楽の個々なるものに、私はこれ以上立ち入ろうとは思わない。素人の演奏評など、彼女にとって、或いは読者にとって、どれだけの意味があろう。
 私が書きたいことはふたつある。その一は、彼女の演奏する「音楽」そのものに対する疑問、第二は、その音楽を再現するオーディオ機器に関しての感想である。私はアルヘリッチの演奏に驚倒はしたが感動はしなかった。バルトーク、ラヴェル、ショパン、シューマン、モーツァルト──全ての演奏に共通して欠落している高貴さ──。かつて、五味康祐氏が『芸術新潮』誌上に於て、彼女の演奏に気品が欠けている点を指摘されたことがあった。レコードで聴く限り、私は五味先生の意見に一〇〇%賛成ではなかったし、今でも、彼女のショパン・コンクール優勝記念演奏会に於けるライヴ・レコーディング──ショパンの〝ピアノ協奏曲第一番〟の演奏などは例外と称して差支えないのではないか、と思っている。だが、彼女の実演は残念ながら一刀斎先生の鋭い魂の感度を証明する結果に終った。あれだけのブームの中で、冷静に彼女の本質を見据え、臆すことなく正論を吐かれた五味先生の心眼の確かさに兜を脱がざるをえない心境である。
 問題はレコードと、再生装置にもある。私の経験する限り、彼女の演奏、特にそのショパンほど装置の如何によって異なる音楽を聴かせるレコードも少ない。
 一例をあげよう。プレリュード作品二十八の第一六曲、この変ロ短調プレスト・コン・フォコ、僅か五十九秒の音楽を彼女は狂気の如く、おそらくは誰よりも速く弾き去る。この部分に関する限り、私はアルヘリッチの演奏を誰よりも、コルトーよりも、ポリーニのそれよりも、好む。
 私は「狂気の如く」と書いた。だが、彼女の狂気を表現するスピーカーは、私の知る限りにおいて、スペンドールのBCIII以外にない。このスピーカーを、EMT、KA−7300Dの組合せで駆動したときにだけアルヘリッチの「狂気」は再現される。BCIIでも、KEFでも、セレッションでも、全く違う。甘さを帯びた、角のとれた音楽になってしまうのである。このレコード(ドイツ・グラモフォン輸入盤)を手にして以来、私は永い間、いずれが真実のアルヘリッチであろうか、と迷い続けて来た。BCIIIの彼女に問題ありとすれば、その演奏にやや高貴の色彩が加わりすぎる、という点であろう。しかし、放心のうちに人生を送り、白い鍵盤に指を触れた瞬間だけ我に返るという若い女性の心を痛切なまでに表現できないままで、再生装置の品質を云々することは愚かである。
     *
BCIIIに、プリメインアンプのKA7300D。
KA7300Dは、1977年に登場、価格は78,000円である。
当時としては中級クラスのプリメインアンプである。

アナログプレーヤーのEMTはカートリッジのTSD15のことではないし、
930stのことでもない。
927Dstのことである。

1977年ごろまでは927Dstは250万円だったが、
約一年後には350万円になっていた。
価格的にそうとうにアンバランスな組合せだが、
アルゲリッチの「狂気」が再現される、とある。

Date: 11月 9th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その16)

岡先生と瀬川先生の組合せの記事を読むかぎりでは、
BCIIIは、それほどアンプを選ぶようには思えない。

瀬川先生は予算の都合でサンスイのB2000にされているが、
予算があれば、もう少し上のクラス、
具体的にはラックスの5M20シリーズ、トリオのL07MII、オンキョーのIntegra M507を挙げられている。

おそらくコントロールアンプにC240を選ばれているから、
予算の制約がなければ同じアキュフェーズのP400にされたかもしれない。

とはいえ記事中では、
スタンドのこと、BCIIIのセッティングに関することに気をつけるようにくり返されている。

岡先生も、アンプ選びが難しいとは語られていない。
ヤマハのC2aとB3の組合せ以外に、
ラックスのLX38、パイオニアのExclusive M4は、
パワーが小さいこともあってか、
《レコードの音が完全に鳴りきっていないような》もどかしさを感じるとあるが、
100Wクラスのアンプであれば、十分というふうにも読める。

実際のところはどうなのだろうか。

facebookには、アンプ選びが重要なのかも……、とあったし、
中低域あたりにくぐもった印象があった、と聴いたことのある人のコメントがあった。

くぐもったという点に関しては、
元がBBCモニターということからしても、
使いこなし、セッティングの未熟さからくるものと思う。

アンプに関しては……、どうなのだろうか。

Date: 11月 9th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その15)

岡先生はBCIIIの組合せについて、
《第一級のレストランへ行って、そこのシェフのおすすめ料理を食べいている、といったところがある》
といわれ、
UREIの813の組合せは、
《たとえばリード線をかえるとこんなふうに音が変わるぞとか、そういったことの好きなファン向き》、
パイオニアのCS955の組合せは、
《自分の部屋で毎日いじってみたいなという意欲をそそられる》とされている。

瀬川先生は、違う。
     *
このBCIIIは、なかなか難しいところのあるスピーカーなんてす。イギリスのスピーカーのなかでも、KEF105に似た、真面目型とか謹厳型といいたいところがあって、響きを豊かに鳴らすというよりも、音を引き締めるタイプのスピーカーなんです。
 そして、やや神経質な面があって、置き方などでも高さが5センチ上下するだけで、もうバランスがかわってくる、といったデリケートなところがあります。そのへんをよく知ったうえで、使いこなしをきちんとやらないと十分に生きてきません。
     *
だから岡先生はBCIIIのスタンドをそのまま使われて、
スタンドの価格も組合せ合計に含まれている。

瀬川先生はステレオサウンド 44号の試聴記でも書かれているように、
専用スタンドを使われていない。組合せ合計にもスタンドの価格は含まれていない。

高さが5cm上下するだけでバランスが変ってくるし、
専用スタンドの高さより10cmぐらい下げた状態のほうが、
ステレオサウンドの試聴室ではよかった、ともいわれている。

いうまでもなく岡先生も瀬川先生もステレオサウンドの試聴室で聴かれている。
試聴中の写真をみると、ふたりとも部屋の長辺の壁側にスピーカーを設置されている。

それでもスタンドのことひとつにしても、岡先生と瀬川先生は反対のことをいわれている。
BCIIIの音は聴いていないだけに、
BCIIIの岡先生と瀬川先生の組合せの違いだけでなく、
そこでの鳴らせ方の違い、ここのところをもっと知りたいと思っても、
「コンポーネントステレオの世界 ’79」には、それ以上のことは載っていない。

Date: 11月 8th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その14)

瀬川先生の予算120万円の他の組合せは、
エレクトロボイスのInterface:Dの組合せ、
チャートウェルのLS3/5A(もしくはヤマハのNS10M)の組合せ、
JBLのL300の組合せがある。

LS3/5Aは、予算60万円から120万円へのグレードアップでも使われている。

瀬川先生の組合せは、
Interface:Dの組合せは価格的バランスがとれている、といえるが、
他の組合せは、
アナログプレーヤー重視、
コントロールアンプ重視、
スピーカーシステム重視となっている。

この中で瀬川先生が気に入られているのは、アナログプレーヤー重視の組合せ、
スピーカーにLS3/5A(もしくはNS10M)を使った組合せである。

アナログプレーヤーにEMTの928を選択。
これだけで70万円だから、予算の半分以上を占めている。
928にはフォノイコライザーアンプが内蔵されているから、コントロールアンプはなし。
パワーアンプはルボックスのA740、538,000円で、
928とA740で予算を使い切っている。

スピーカーを買う予算がなくなってしまったので、
あと五万円を追加してのNS10Mという組合せである。
これで組合せ合計は1,288,000円。
できればLS3/5Aということで、こうなると組合せ合計は1,388,000円となってしまう。

記事では、この、価格的に相当にアンバランスな組合せについて、
多くを語られている。
「たいへん密度が高い音で、いかにも音楽を聴いているんだという喜びが感じられる」と。

岡先生はBCIIIの組合せをベストワンだ、といわれている。

Date: 11月 8th, 2017
Cate: 新製品

新製品(ダイナベクター DV1)

私にとってダイナベクター(Dynavector)は、
質量分離型のトーンアームDV505が、なんといっても代表的な製品として、
いまでもすぐに頭に浮ぶ。

それからルビー、ダイアモンドをカンチレバーに採用したMC型カートリッジ、
真空管アンプなどが浮ぶ。

いずれの製品も、型番はDVから始まる。

自転車への興味がなかったころは、
ダイナベクターはオーディオメーカーという認識だった。
一時期は輸入業務も行っていた。

1990年ごろから自転車に興味を持つようになって、
驚いたのはアレックス・モールトンの輸入元がダイナベクターだったことである。

DV505とモールトンのフレームが、イメージとして重なってきて、
そこに共通するものが見出せそうにも思えてくる。

そのダイナベクターから新製品としてDV1が発表になった。
といってもオーディオ機器ではなく、自転車のフレームである。

ベースとなっているのはアレックス・モールトンである。
モールトンのフレームは、イギリスのパシュレーが、一時期ライセンス生産していた。

今回のDV1は、ライセンス生産ではなく、
ダイナベクターによる開発である。

いま書店に並んでいるCyclo Graph 2017(ホビージャパン)に、
DV1の詳細が載っている。

Date: 11月 7th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その13)

岡先生はBCIIIの組合せについて、語られている。
     *
 じつは120万円の組合せで、ぼくがまっさきに頭に浮かべたスピーカーが、スペンドールのBCIIIだったのです。このスピーカーは、本誌のスピーカー・テストなどでいつも書いているように、ぼくがもんとも気に入っているスピーカーのひとつなんですね。そして価格が、ペアで専用スタンドを含めて45万円ちょっとですから、アンプその他にかなり予算をまわせられることにもなります。
 クラシックのプログラムソースを再生するという場合、この価格帯では抜群の安定感をもった、そして表現力のデリカシーのをもった、スピーカーである──というのが、このBCIIIに対するぼくの固定観念みたいなものなんですよ。だから、今回もためらわずに選んだわけです。
     *
岡先生の120万円の組合せは、他にもあって、
JBLのL220の組合せ、UREIのModel 813の組合せの他に、
予算60万円から120万円へとグレードアップする組合せでは、パイオニアのCS955を選ばれている。

瀬川先生のBCIIIの組合せは、アンプを重視した組合せである。
     *
瀬川 ええ、そういうことになります。ただ、アンプ重視といっても、これはなんとなく奥歯にものがはさまったようないいかたですが、プリメインではいくら最高級でも重視ということにはなりませんから、やはりセパレートアンプにしたいわけだけれど、その場合にコントロールアンプとパワーアンプの両方にぜいたくをするわけにはいかないんです。
 120万円の予算では、どこかひとつに充填をかけるといっても、50万円か、せいぜい70万円ということになるでしょう。そうすると、セパレートアンプの最高級機は、ちょっと手がとどきません。
(中略)
 これまでの組合せでは、価格の点でやや中途半端で使いにくかったスペンドールBCIIIを、ここにもってきたわけですね。これがペアで43万円、となると、アンプに7万円は仕えないことになります。
 そこでコントロールアンプとしては、アキュフェーズの新製品であるC240を選びました。価格が約40万円ですから、予算の枠の中に収まることと、最近のコントロールアンプの中では、ぼくのお気に入りのひとつということで、最初から120万円の組合せで使おうと思っていたわけです。
     *
同じ120万円の予算で、同じBCIIIの組合せであっても、
岡先生は積極的に、最初からBCIIIを使うことを考えての結果(組合せ)であり、
瀬川先生はコントロールアンプ重視で、C240を最初から使うことを考えての結果(組合せ)である。

Date: 11月 7th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その12)

ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’79」での、
岡先生と瀬川先生によるBCIIIの組合せのつぎのとおり。

岡先生は120万円の予算で、組合せ合計1,110,000円。
 スピーカーシステム:スペンドール BCIII(458,000円・スタンド込み)
 コントロールアンプ:ヤマハ C2a(170,000円)
 パワーアンプ:ヤマハ B3(200,000円)
 ターンテーブル・ラックス PD441(125,000円)
 トーンアーム:フィデリティ・リサーチ FR64S(69,000円)
 カートリッジ:フィデリティ・リサーチ FR7(55,000円)
 昇圧トランス:フィデリティ・リサーチ FRT5(33,000円)

瀬川先生は120万円の予算で、組合せ合計1,147,900円。
 スピーカーシステム:スペンドール BCIII(430,000円)
 コントロールアンプ:アキュフェーズ C240(395,000円)
 パワーアンプ:サンスイ B2000(120,000円)
 ターンテーブル・ラックス PD121(135,000円)
 トーンアーム:フィデリティ・リサーチ FR14(38,000円)
 カートリッジ:エラック STS455E(29,900円)

スピーカーシステムは同じ、
ターンテーブルはどちらもラックスの同クラスのモノ、
トーンアームもどちらもフィデリティ・リサーチ。
瀬川先生はステンレス製のFR64SやFR66Sよりも、アルミパイプの方を評価されていた。

ほぼ同じところも見受けられるBCIIIの組合せで、組合せ合計もほぼ同じであっても、
組合せの意図は違うし、そこで 鳴ってくる音(聴くことはできないが)、
ずいぶんと違っていた、と思う。

Date: 11月 7th, 2017
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(post-truth・その4)

知人が間違ったことをサイトで公開していることに気づいて、
すぐに電話した私に「いちばん信頼できそうなサイトにそう書いてあった」といって、
すぐには間違いであることを認めようとはしなかった。

結局、角速度、線速度について説明することから始めた。
知人は、サイトに角速度一定とか線速度一定と書いていながら、
線速度一定がどういうことなのか、角速度とはどんなことなのかを知らなかった。

線速度、角速度についての基本的な知識もないままに、
間違ったサイトに書いてあることを、そのまま自分のサイトに書き写したわけである。

つまり知人は角速度、線速度について知らないだけでなく、
角速度とは、線速度とは、ということをインターネットで検索すらしなかった。

角速度、線速度のどちらかにについて検索さえしていれば、
知人が参照したサイトが間違っていることに、彼自身で気づいたはずである。

知人は、よく私に言っていた。
「できるかぎり調べて書いている」と。

コワイな、とここでもくり返したい。
知人の「できるかぎり調べる」とは、その程度のことであったのだ。

Date: 11月 6th, 2017
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その70)

SUMOのThe Goldには、アンバランス入力とバランス入力がついていた。
SUMOのアンプの回路構成からいえばバランス入力のほうが本筋であるし、
アンバランス入力ではOPアンプによるアンバランス/バランス変換回路を通る。

The Goldのバランス入力の音も聴いていた。
アンバランス入力の音も聴いている。
コントロールアンプもいくつか試している。

マークレビンソンのJC2(初期のツマミの長いタイプ)、
それもジョン・カール監修のモディファイ版でも聴いている。
ここでも書いているように、GASのThaedraを、もちろん聴いている。
これ以外にも聴いている。

私がThe Goldとの組合せを聴いてみたかったのはコントロールアンプは、他にもある。
ひとつはビバリッジのRM1/RM2である。

山中先生がステレオサウンド 56号での組合せでは、
JBLの4343とアルテックの6041を鳴らすアンプとして、
RM1/RM2とThe Goldの組合せだった。

新世代の真空管式コントロールアンプとしてRM1/RM2の音はとても興味があったが、
いったい日本に何台輸入されたのか、一度も見たことがない。

もうひとつがマークレビンソンのML6(シルバーパネルの方)である。
ML6は一度買おうとしたことかある。
もちろん中古である。

めったに出ないML6の中古が、その店にはあった。
当時の最高回数である36回の分割払いならば、なんとか買えそうだった。
でも23歳の私は、分割払いの審査が通らなかった。

Thaedraを、山中先生から譲っていただいたのは、その後である。
Thaedraでの圧倒的な音を聴いて、無理してML6を買わなくてよかった、とも思った。

それでもML6のことを、ここであえて書いているのは、
ここでのテーマである朦朧体に関していえば、
ML6とThe Goldの組合せは悪くないどころか、
意外にも魅力的な音を聴かせてくれたかもしれない──、そう思えるからだ。

Date: 11月 6th, 2017
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(post-truth・その3)

それにしても知人は、
CDが角速度一定、LPは線速度一定は間違ったことを書いているサイトを信じたのか。

CDの方が線速度一定なのだから、
検索すれば、正しいことを書いてあるサイトの方が圧倒的に多い。
なのに、ごく少数の間違った、正反対のことを書いているサイトを信用するのか。

知人は、そのサイトがいちばん信用できそうだったから……、と言っていた。
私を含めて、ほとんどの人が、
CDは角速度一定とあるサイトに書いてある技術的なことは疑ってかかるだろう。

知人は、反対だったわけだが、
なぜ、そういう選択をしたのかまでは、本人もよくわかっていないようだった。

サイトの見た目なのだろうか。
それはありそうなのだ。

パッと見た目のサイトの印象。
あとは、そのサイトにある文章だろう。

技術的に正しいことを書いているサイトの文章が、
いわゆるうまい文章とは限らないし、
間違ったことを堂々と書いている文章のほうがうまかったりもする。

これも見た目といえば、そういえる。
知人は見た目だけで、そのサイトを信用してしまったのか。

「人は見た目が9割」(新潮新書)という本も出ているし、
「人は見た目が100パーセント」というマンガと、
これを原作としたドラマもあったくらいだから、
ウェブサイトも見た目が100パーセントなのかもしれないし、
知人のように見た目で、ほぼ判断してしまう人もいよう。

しかも知人は、検証を怠っている。

Date: 11月 6th, 2017
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL 4301・その17)

オーディオ機器を家電製品という括りで捉えている人にとっては、
JBLブランドの製品が、昔では考えられなかったほどの低価格で買えるのは、
文句をいうことではないのかもしれないが、
オーディオは家電製品とは違う。

そういうと、日本では家電メーカーがオーディオをやっていたではないか、と返される。
そんなイメージが残っているようだが、
オーレックス(東芝)、Lo-D(日立)、ダイヤトーン(三菱電機)は、
家電も製造しているけれど、重電メーカーである。

テクニクス(松下電器)は家電メーカーといわれれば確かにそうだったが、
オーディオを家電製品として見られるのには、抵抗したくなる。

家電メーカーの製品として見る目には、
Control 1は身近なJBLブランドの商品なのだろうが、
4301が欲しくとも買えなかった時代を送った者にとっては、
羨ましいことだと全く思えない。

私もJBLのJBL Goは持っている。
Control 1よりさらに安いJBLであり、Bluetooth対応のスピーカーである。

でも、それは4301が欲しいと思ったのと同じ気持なわけではない。
JBLというロゴのステッカー、しかも音が出る立体的なステッカー、
そういう気持もあって買った。

なのでオレンジ色を買った。
ブログを書いているとき、常に視界に入ってくるところに置いている。

その15)で、4301にヴィンテージとつけて売る中古オーディオ店があることを書いた。
時代の軽量化だ、とも書いた。

時代の軽量化はControl 1から始まった。
さらに軽量化は進んでいる。

Date: 11月 6th, 2017
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL 4301・その16)

私の世代にとって、4301はもっとも身近な、
いいかえればどうにかすれば手が届きそうなところにいてくれている存在だった。

当時のJBLの輸入元サンスイからは、
LE8Tを搭載したSP-LE8Tもあったが、わずかとはいえ4301のほうが廉かった。
それにユニットはどちらもJBLとはいえ、
フロントバッフルにJBLのロゴがあるのとないとは、
10代の若者にとっては、大きな違いでもあった。

つい先日のヘッドフォン祭にもJBLの製品は展示されていた。
ヘッドフォンがあり、イヤフォン、Bluetooth対応のスピーカーなどがあった。
ずいぶん身近に(安く)なったものだ──、と思ってしまうのは、
歳をとったからだけが理由ではないはずだ。

1986年にControl 1が登場した時も、同じように思っていた。
憧れの存在といえたJBLが、こんなに身近なところまで降りてきたことを、
素直に喜べない自分は、オーディオマニアからそうなのか、
それともなにか釈然としない気持は、他のところに理由があるからなのか。

Control 1でも、JBLのスピーカーである。
それでもBOSEの101MMの登場と、あの売行きがなければ、
Control 1は登場してこなかったスピーカーともいえる。

Control 1は43,800円(ペア)だった。
暫くしたから円高ドル安のおかげで四万円を切っていた。

Control 1はロングセラー商品でもあった。
コンシューマー用のControl 1は製造中止になったが、
プロフェッショナル用のControl 1 Proは現行製品だ。