Archive for 4月, 2011

Date: 4月 22nd, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その9)

引用した岡先生によるショーターの論文の要約を見て気づくのは、
指向特性のことが、周波数特性、位相特性そのほかの項目よりも先に書いてあること。

ここでの順番については、ショーターの論文そのものをみなければはっきりしたことはいえないし、
それにショーターの論文どおりの並び方だとしても、
ショーター自身がそこに意味を持たせていたのかどうかもはっきりはしない。

牽強付会といわれそうだが、どちらかというと、こういとときの並び方では最後にきそうな指向特性が、
最初に記述してあることは見逃せない、と思う。

それからナマの音楽との比較試聴のところの記述では、
マイクロフォンの位置とその指向性についても考慮が必要とある。

LS5/1の開発において、音楽による試聴は1950年代半ばにもかかわらず、
すでにステレオの音源が使われていたように、上に挙げたことから推測できる、そんな気がする。

実際にLS5/1の指向特性がどうなのか知りたいところだが、
残念ながら実測データを見つけることはできなかった。

ただLS5/5の実測データは、
ラジオ技術社から1977年に出版された「スピーカシステム」(山本武夫編著)の下巻に載っている。

LS5/5は、30cm口径のベクストレン・コーンのウーファー、20cm口径のベクストレン・コーンのスコーカー、
トゥイーターはセレッションのドーム型HF1400(HF1300のマグネットを強化したもの)による3ウェイ構成で、
トゥイーターはウーファーとスコーカーのあいだにはさまれる形で、3つのユニットはインライン配置されている。

LS5/5でも、ウーファー、スコーカー、2つのコーン型ユニットは、フロントバッフルの裏側から取りつけられ、
開口部は円ではなく縦に長い四角なのはLS5/1と同じだ。

「スピーカシステム」には、LS5/5以外のモニタースピーカーの出力音圧指向周波数特性のグラフが載っている。
アルテックのA7-500、612A、JBLの4320、タンノイのレクタンギュラー・ヨーク、
ダイヤトーンのR305(2S305)などだ。

これらのどれと比較しても、LS5/5のグラフは見事だ。

Date: 4月 21st, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その8)

ステレオLPが登場したのは1958年(実際には前年暮にフライング発売したレーベルはある)。

デッカは1955年にはステレオ録音を行なっている。
実験的な録音ではなく、実際にLPとして発売されているし、CDにもなっている。
エーリッヒ・クライバー指揮のモーツァルト「フィガロの結婚」である。

BBCに関する詳しい資料をもっていないため推測で書くことになるが、
BBCもデッカと同じころか、
もしくはその前からステレオ録音・再生システムについて研究・実験をしていた可能性は充分に考えられる。

1981年春にステレオサウンド別冊として出た「ブリティッシュサウンド」号に、
岡先生が、BBCのモニタースピーカーに関する開発者ショーターの論文の要点をまとめられている。
     *
スピーカーの性能基準を客観的に定めるのはむずかしいことだが、リファレンスとなり得るスピーカーは、指向特性、帯域の広さ、位相特性、リニアリティ、高調波および混変調歪のそれぞれにおいて、すぐれていないければならないとする。
それらの諸特性の測定とあわせて、最終的にはヒアリングテストで判断されなければならない。ヒアリングテストは、主観的な性格をもつものだが、ノイズ(ランダムのイズ)、スピーチ、音楽の種々のソースによって、多角的に行なわなければならないとする。ノイズテストは、二種類のスピーカーをきりかえながら、ノイズのスペクトルを判断するのが有効な方法であり、スピーチは男声がとくにこの目的にふさわしいといっている。
音楽のソースのテストは、スタジオに隣接したリスニングルームで、たとえば音楽のリハーサル中に、スタジオとリスニングルームを自由に出入りして、ナマと再生音を自由に聴き比べる条件をもったところであることが望ましいが、奏法の遮音が充分なされている必要があり、超低域においては少なくとも35dBはとれている必要が或る。
さらに、マイクロフォン(の位置とその指向性)やミキシング・バランスがいかになされているかという考慮も念頭におくべきだとする。スピーチテストでも、話し手とマイクの間隔は不自然なバランスにならない位置にとられていなければならない。
     *
このショーターの論文が発表されたのは、1958年である。
すでにLS5/1の最初のモデルは完成していた。

BBCモニターのLSナンバーの区分については、BBC engineering のサイトのページを参照されたし。

このページをめくっていくと気がつかれるはすだが、LSS/1とかLSS/2という型番がでてくる。
これはLS5/1、LS5/2のことである。
どうもこれらのページは、印刷物をスキャンしてOCRソフトでテキスト化したもののようで、
校正が不十分で、5がSと誤認識されたまま公開されている。

Date: 4月 21st, 2011
Cate: 素朴

素朴な音、素朴な組合せ(その13)

日本人と欧米人とでは体臭の違いから、同じ銘柄の香水をつけても、
香ってくる匂いはかなり異ってくる、といわれる。
街を歩いてすれ違う人から香りから判断するしかないのだが、
たしかに同じ香水かなと思われる匂いでも、日本人では、その香水の匂いがわりとストレートに、
欧米の人の場合には、体臭が濃いせいなのか、匂いの密度そのものがずいぶん濃くなっているように感じる。

そんな感じを、シャルランのCDにも感じる。
ふたつのスピーカーの周囲に漂っている空気の密度が濃くなっている。
それは、シャルランの録音に収められているアンドレ・シャルランの「体臭」がそこに加味されているからなのか。

同じワンポイント録音でも、デンオンはもうあきらかに日本人の「体臭」(音)である。
どちらが録音テクニックとして優れているかということよりも、
とにかくまず「体臭」の濃さが醸し出す響きが、シャルランにはあり、デンオンには感じられない。

聴く人によっては、シャルランのこの濃さを拒否してしまう人もいるかもしれない。
なかには強烈と感じる人もいるだろう。

だけどここでいう体臭は、匂いであって、決して臭いではない。
それに、何かを誤魔化そうとして香水をたっぷりつけた結果という性質のものでもない。

アンドレ・シャルランという人物が何を望んでいるのか、それをストレートに伝えてくれる匂い、
というよりも香りであり、この香りこそが、じつのところ、シャルランの響きのように感じられた。
しかも、実は素朴な響きであり、スポイルすることなく表現してくれる音もまた装飾のない音なのだろう。

Date: 4月 20th, 2011
Cate: サイズ, 冗長性

サイズ考(その70)

以前、冗長性について書いた。

冗長性とは、
言語による伝達の際,ある情報が必要最小限よりも数多く表現されること。
冗長性があれば雑音などで伝達を妨げられても情報伝達に成功することがある。余剰性。
と辞書(大辞林)にはある。

オーディオ機器のサイズを考えていく上で、冗長性と切り離すことはできないのではないか。

オープンリールデッキのテープ速度も、トーンアームのロングサイズも、
アナログプレーヤーのターンテーブルの慣性モーメントを増していったことも、
パワーアンプにおけるA級動作など、これらはすべて冗長性といえよう。

Date: 4月 19th, 2011
Cate: TANNOY

タンノイとハーマンインターナショナルのこと

タンノイは1974年にハーマンインターナショナルの傘下に入っている。
この年から、アーデン、バークレイ、チェビオット、デボン、イートンなどの、
いわゆるアルファベット・シリーズを発表し、
これらの価格は、従来のランカスター、レクタンギュラー・ヨークなどよりも低く抑えられていた。

しかもこの年、創業者のガイ・R・ファウンテン引退、3年後の77年、77歳で逝去。

1981年、タンノイと日本の輸入元のティアックが協力して、ハーマンインターナショナルから下部を買い戻し、
GRFメモリーを発表する。
往年のタンノイ・ファンにとって、やっと満足できるタンノイの久方ぶりの登場でもあった。
翌82年にはウェストミンスターとエジンバラ、83年にはスターリングと、
現在のプレスティージ・シリーズにつながっていくスピーカーシステムを続けて発売し、
タンノイの名声は回復していった──、
そんなふうに受け止められていることだろう。

1974年から81年までを、人によっては、タンノイの暗黒時代、とまでいう。
もしあのままハーマンインターナショナルの傘下だったら……、
いまのタンノイとはまったく異るタンノイに成り果てていただろう、ともいう人もいる。

GRFメモリーが最初に見たときは、私も、タンノイの復活だ、と思っていたし、
ハーマンインターナショナル傘下から離れたからこそ出てきたスピーカーシステムだとも思っていた。

でも、いまは違う見方をしている。

1974年は、火災によってコーン・アッセンブリー工場を失っている。
それにアルファベット・シリーズのつくりの合理化についてあれこれいう人がいるが、
すでにその前から、タンノイのスピーカーシステムのつくりには変化が生じていて、
タンノイという会社の経営が順調ではないことを感じさせてもいた。

もしハーマンインターナショナルがこのときタンノイを傘下に収めていなかったら、
もしかしたらタンノイという会社はなくなっていたかもしれない。

タンノイに歴史にふれた文章を読むと、ハーマンインターナショナルという固有名詞を、
あえて出さずに、この時代のことにふれているのがある。
ハーマンインターナショナルに遠慮してのことだろうが、
むしろそういう変な気の使いかたをするくらいなら、
もう少し違う視点から、このことを捉えてみることのほうが大事なはず。

私は、結果としてハーマンインターナショナルはタンノイに救いの手を差し延べた、と思っている。

Date: 4月 19th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その49)

タンノイのデュアルコンセントリックのオリジナルモデル(つまりモニターシルバーの前にあたる)は、
1947年に生れている。

もともとタンノイのスピーカーユニットは、
当時製造していたマイクロフォンの校正用音源として生れたものから発展してきたものだときいている。
いわば、この時点から、その時代におけるワイドレンジを目指していたものであり、
タンノイの解答が、高域にコンプレッションドライバーによるホーン型を採用し、
ウーファーのコーン紙をカーブさせることで、中高域のホーンの延長とするデュアルコンセントリック型である。

デュアルコンセントリックが発表された年の9月、ロンドンで、第二次大戦後初のオーディオショウが開催され、
注目を浴びることになるのだが、偶然というべきか、タンノイのブースの前に、デッカのブースがあった。
デッカは、すでにSPレコードで、
高域の限界再生周波数を従来の8kHzから14kHzあたりまでに拡張することに成功していた。
デッカの、このシステムこそがffrr(full frequency rahge recording)であり、
第一弾としてすでに発売されていたのが、アンセルメ/ロンドン・フィルによる「ペトルーシュカ」だ。

デッカのffrr、この広帯域録音システムを開発したのは、同社の技師長アーサー・ハディであり、
この技術の元となったのは、
第二次大戦初においてドイツの潜水鑑を探索する水中聴音兵器のトレーニング用レコード製作の委嘱である。
12kHzまでの広帯域録音が要求されたものらしい。

タンノイとデュアルコンセントリックとデッカのffrrが、1947年のオーディオショウで出逢う。
そして、デッカのデコラ(モノーラルのほう)への採用が決り、
デッカの録音スタジオスタジオモニターとしても採用されていく。

Date: 4月 18th, 2011
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その48)

タンノイ・オートグラフは、1953年のニューヨークオーディオショウにて発表されている。

1953年は、まだステレオLPは登場していない。
オートグラフはモノーラル時代の、つまり1本で聴くスピーカーシステムである。

翌54年にはヨーク(これもコーナー型、ただしバスレフ)、
55年にはオートグラフからフロンショートホーンを省き、いくぶん小型化したGRFが出ている。
いうまでもないことだが、GRFもコーナー型だ。

ヨークは、のちにコーナーヨークと呼ばれるようになったのは、
1960年代にはいり、一般的な四角い箱のレクタンギュラーヨークが出て、はっきりと区別するためである。
GRFにも、ご存知のようにレクタンギュラー型がある。
ヨークを小型化したランカスター(1960年発売)も、コーナー型とレクタンギュラー型とがある。

ステレオLPの登場・普及、
それにARによるアコースティックサスペンション方式のブックシェルフ型スピーカーの登場、
スピーカーのワイドレンジ化ということもあいまって、
コーナー型のスピーカーシステムは次第に姿を消していくわけだが、
オートグラフが登場した頃は、イギリスだけでなく、
アメリカにおいても大型の高級スピーカーシステムの多くはコーナー型が占めていた。

オートグラフはフロアー型のなかでも大型に属するスピーカーシステムだ。
しかもコーナー型で、複合ホーン型。
この手のスピーカーシステムを、ほんとうにスタジオモニターとして開発・設計されたといわれても、
ステレオが当り前の世代には、にわかには信じられないことだ。

だがオートグラフが登場した頃は、くりかえすが、モノーラル時代である。
スピーカーシステムは1本のみの時代である。

このことに注目すると、この時代、コーナー型のタンノイがスタジオモニターとして使われていても、
そう不思議ではないことかもしれない。

Date: 4月 17th, 2011
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その12)

まだステレオサウンドにいたとき、
あるときから井上先生からいわれたことがある。

メーカー、輸入商社から製品を借りるときに、必ず付属ケーブルの有無を確認して、
ラインケーブル、もしくはスピーカーケーブルが付属して製品として市場に出ているのであれば、
そのケーブルもいっしょに借りておくように、と。

正直、そのときも、ステレオサウンドにいたときも、井上先生の真意が理解できていたわけではなかった。
でも、いまはなぜ、そのようなことを言われたのか、
それぞれのオーディオ機器の領域について考えてみれば、よくわかる。

だからマランツのCD34の、リアパネルから出力ケーブルが直出しになっているのを指して、
そのことを高く評価されていた。

ケーブルを交換するのが好きな人にとっては、リアパネルに出力用のRCAジャックがついていなくて、
ケーブルが直出しになっている製品は、改造しないかぎり、ケーブルの交換はできないので、
そのこと自体がマイナス点として受けとめる人もいよう。

実は、当時、私も、ケーブルの交換できないのが残念とまでは思わなかったものの、
コスト的にはそれほど変らないはずなのに、なぜ出力ケーブルを直出しにしたのか、と疑問に思ったものだ。
それにケーブルが自由に選択できれば、もっとCD34の評価は高くなるだろうに、とも。

井上先生は、CD34は、ここまで(出力ケーブルの先まで)、いわば音を保証している、という旨のことをいわれた。

ジェームズ・ボンジョルノがAmpzilla2000で復活したとき、
日本のオーディオマニアの中には、Ampzilla2000は電源ケーブルが交換できないから、つまらない、
交換できれば、もっといい音にできるだろうに、といった声をネットに書き込んでいるのをいくつか見かけた。

けれど、私は、Ampzilla2000が電源ケーブルを着脱式にしなかったのは、ボンジョルノの良心だと思っている。

Date: 4月 16th, 2011
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その11)

「オリジナル」であることにこだわることは、細部に捕らわれやすくなる。
マランツModel 7の例のように、コンデンサーは Black Beauty、抵抗はアレーン・ブラッドレーとか。
でもアレーン・ブラッドレーは、以前はアメリカで生産していたのが、いつからははっきりと知らないが、
メキシコ製に変っていったし、Black Beauty にしても最初のものはカラーコードで容量を示していたのが、
いつのころからか数字で表すようになっていった。

部品そのものも、実は微妙に変化している。
徹底して「オリジナル」(初期製品の仕様)にこだわっていくとなると、
極端なことをいえば、部品の製造年月まで調べていく必要が出てくる。

不具合のあるモノを、どこまでオリジナル通りに復元できるかとなると、実のところ、
ある程度は自己満足になってしまうようにも思う。

それに目の前にマランツModel 7があれば、完成品として認識する。
でも、オーディオという系は、コントロールアンプだけでは音は出ない。
カートリッジ、トーンアーム、ターンテーブルからなるプレーヤーシステムがあって、
パワーアンプがあって、スピーカーシステムがあり、
そしてプログラムソースが存在して、はじめて音が鳴る。

オーディオの「系」こそを完成品として捉えるとしたら、スピーカーシステム、パワーアンプ、コントロールアンプ、
プレーヤーシステム、CDプレーヤー、といった個々のオーディオ機器も、ひとつの大きな部品と捉えられる。

それに別項の「境界線」のところで書いているが、スピーカーシステムとパワーアンプの境界線、
いいかえればパワーアンプの領域、スピーカーシステムの領域を考えたとき、
スピーカーケーブル、ラインケーブルは、どのオーディオ機器の領域に属するのか。
仮にスピーカーケーブルは、スピーカーシステムに属するものだとしたら、
あるスピーカーシステムに付属してきたケーブルを使わずに、他社製のケーブルを使用したら、
実は、それも「オリジナル」に手を加えた、ということになる。

これは、屁理屈では決してない。

Date: 4月 15th, 2011
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その10)

私は見たことがないが、グッドールのコンデンサーが最初から使われていたModel 7もあるときく。
Model 7のボリュウムは、クラロスタット社製だったのがのちに別の会社の部品に変更されている。
電源部のセレンもロットによって、色が違うときいている。

使用部品の変更の少ない、と思われてきたマランツの7でも、部品の変更はなされている。

マークレビンソンのアンプは、部品に関しては、その変遷だけで本が一冊まとめられるくらいに思えるほど、
頻繁に変更されている。
もしかするとまったく同じ部品で作られたLNP2は、どのていど存在するのだろうか、と勘ぐりたくなる。

それでもLNP2は、やはりLNP2である。
LNP2同士を、初期ロットから最終ロットまで、何台かあつめて比較試聴すれば、少なからぬ差が聴きとれる。
初期と最終ロットでは、同じLNP2でも、ここまで違うのかと思う。
でも、くり返すが、それでもどちらもLNP2であって、他のアンプとくらべることで、はっきりとしてくる。

つまり部品の違いで変化する音(というよりも性質というべきか)と変らない性質とがあって、
変らない音(性質)をしっかり見極めて、
ここのところを変質させなければ、製品に手を加えたとしても、オリジナルを改変したとはいえない。
そういう考え方も成り立つ。

だからといって、製品に手を加えることをすすめているわけではない。
ただ、オリジナルであることよりも、オリジナルという言葉に捕らわれてしまうことに気をつけたい。

マランツ Model 7のコンデンサーはスプラーグの Black Beauty、ボリュウムはクラロスタット等々。
実のところ、Black Beautyという言葉、
クラロスタットという言葉だけに捕らわれてしまっているだけなのかもしれない。

Date: 4月 15th, 2011
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その9)

実際に市場に出廻ったModel 7に使われていたのは Black Beauty だから、
Model 7を元に戻すためには Black Beauty でなければならない、とするか、
それとも設計者が本当に使いたかったのはグッドールのコンデンサーなのだから、
その意図通りにグッドオール(のちのTRW、さらに社名がかわり現在はASC)を使うのか、
「オリジナル」をどう捉えるかによって、選択が変ってくる。

Model 7を、発表当時に、新品(オリジナル)の音を聴いていれば、
Black Beauty にこだわる気持が私にも生れてくるかもしれない。
それほどに、当時Model 7の音は衝撃的だった、ときいている。
けれど、1963年生れの私が最初にModel 7の音を聴くことができたのは、1980年代の中頃。
すでに製造中止になって20年以上が経過していた。

だから、もし私がModel 7を使うことになったら、コンデンサーは Black Beauty にはしない。
またダメになることがわかっているし、シドニー・スミスの頭の中にある「オリジナル」のほうを尊重したいから、
グッドール(現ASC)に置き換える。

Date: 4月 15th, 2011
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その8)

マランツの管球式コントロールアンプModel 7は、最初ソウル・B・マランツの設計だと伝えられていたが、
ほんとうのところは、Model 2、5、8、9などの一連のパワーアンプを設計していたシドニー・スミスによるもの。

そのシドニー・スミスが、1990年代に台数限定でModel 7のメンテナンスを行っている、ときいたことがある。
当然劣化した部品を外して交換するわけだが、
Model 7に使われていたコンデンサーのBlack Beauty はすでに製造中止。
仮に未使用の新品の Black Beauty が、
広いアメリカのことだから、丹念に探していけばどこかで見つかるかもしれないけれど、
シドニー・スミスは、Black Beauty ではなく、TRW社のコンデンサーに交換していた、ときいた。
このことは、ラジオ技術誌で、石塚氏も同じことを書かれていたと記憶している。

シドニー・スミスが、Model 7に使いたかったコンデンサーは、実は Black Beauty ではなくて、
Goodall(グッドール)製のもので、それの現代版がTRWということらしい。

マランツModel 7の音は、Black Beauty でなければならない、という人が少なからずいるのは知っている。
けれど、Black Beauty は信頼性が低い。特に日本のような高温多湿の環境では、モールドが割れてしまい、
湿気が内部に入り込んでしまう。これでは初期特性はまったく維持できない。

アメリカ国内で、環境のいいところで保存されていた Black Beauty を手に入れることができたとしても、
それに交換したとしても、日本で使っているかぎり、遅かれ早かれ、Black Beauty は確実に劣化する。

もちろん24時間365日、温度も湿度も一定に管理した部屋に置いておければ、
劣化の心配もそれほどしなくてもすむだろう。

そういえば、五味先生が、「いい音いい音楽」の中に、次のようなことを書かれている。
     *
彼を訪問して参考になったのは、アンプ内のコンデンサーが経年による容量変化をきたし、音の劣化する事実を端的に見せられたことである。カリフォルニアは日本と違い、ほとんど雨は降らない。したがって湿気によるトラブルはないのだが、それでも、何年も使いこむうち、容量が変わり、その分、確実に音質はわるくなっていく。感心したのは、彼がわざわざ日本へ発送された米国製の有名なアンプ(それも昨今〝幻のアンプ〟といわれている)で、永年、日本で使用されたものを二台、取り寄せ、一台は旧のまま、一台はコンデンサーを全部新品に取り替えたのを比較試聴させてくれた。聴きくらべてあまりな音の違いに私は絶句したのだ。とても同一メーカーのアンプとは思えなかった。
 私は忠告する。〝幻のアンプ〟をいまでも使っている愛好家は日本にかなりいると思うが、それは鳴っているだけで、工場を出荷当時の音質とはずいぶん劣下したものと考えるべきであり、ぜひコンデンサーを新品と取り替えてごらんなさいと。忘れていたそれこそ名アンプの美音が、甦るでしょう、と。
     *
この〝幻のアンプ〟は、たぶんマランツの7か、マッキントッシュのC22のどちらかだろう。
どちらにしても、コンデンサーは Black Beauty だ。

Date: 4月 14th, 2011
Cate: 選択

オーディオ機器との出逢い(その4)

出逢いがあれば、必ず別離がある、とはずっとずっと以前から云われていること。

出逢うべくして出逢ったオーディオ機器との別離が、いつかきっとくる。
大切なモノを失うことはつらい。

ときに、その別離が、大切な「こと」を見失っていたのに気づかせてくれることもある。

Date: 4月 14th, 2011
Cate: ショウ雑感

2008年ショウ雑感(その2・続×二十 補足)

A-Z1、S-Z1がいつまにか消えてしまっているのに気がついて、
実のところエソテリック自身も、この2つのモデルに関しては失敗作だと考えているんだな、
と、実は勝手に思っていた。

ところがA-Z1a、S-Z1aとなって復活している。
このことが、A100のデザインに対して感じていた疑問を、確信に変えた。

なぜ、これらを復活させるのか、
もしかするとエソテリックという会社は、A-Z1、S-Z1は出すのが早すぎた。
そのせいでユーザーに受け入れられなかった。
あれから時間も経ち、世の中も変り、A-Z1、S-Z1のデザインも受け入れられるようになった……、
そんなふうにでも考えているのだろうか。

そうとでも考えないかぎり、A-Z1、S-Z1を復活させる意味が理解できない。
これを堂々と復活させる感覚は、あきらかにおかしい。

Date: 4月 13th, 2011
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その43)

ステレオ再生だから、スピーカーシステム2本。
聴取位置からみて、それぞれのスピーカーシステムの内側の側面が見えるように振るのと、
外側の側面が見えるように振っていくのとでは、エンクロージュアの響きの加味のされ方は当然違う。

どちらがいいか、どちらが好ましいのかは、
使用するスピーカーシステムによっても、聴く人によっても異ってくるけれど、
スピーカーの振り角度を調整するときには、この点にも注目して聴いてもらいたい。

セレッションのSL600と、この点、どうかというと、私個人としては、
聴取位置からはエンクロージュアの側面が見えないようにしたい、と感じていた。

良質の木のエンクロージュアの響きと、SL600のハニカム・エンクロージュアの鳴き(響きとはいえない)は、
どちらがいいとか悪いとかではなく、響きと鳴きの違いがある。
もちろん木のエンクロージュアの全てが、響きではなくて、鳴き、といいたいものを確かにある。
その鳴きとは、素材、構造が違うから当然とはいえ、SL600の鳴きは、また異質である。
この鳴きは、積極的に活かしていくことは、あの頃は私にはできなかった。
おそらく、いま使ったとしても、この鳴きは極力耳につかないようにセッティングしていくと思う。

勘違いしないでいただきたい。
なにもSL600のハニカム・エンクロージュアが本質的な欠陥をもっているといいたいのではなくて、
よくできた良質の木のエンクロージュアとは、捉え方を変える必要がある、といいたいのと、
このことが、私が求めている、このカテゴリーのテーマでもある「朦朧体」ではない、ということだ。