Archive for 9月, 2009

Date: 9月 9th, 2009
Cate: 真空管アンプ, 長島達夫

真空管アンプの存在(その53)

長島先生は、はっきりしておられた。
微小レベルの変化に鈍感なモノは、いくら愛情をもって使いこなそうとも、
鈍感なものは鈍感なままで、決して敏感、鋭敏になることはない。
本質は変らないからだ。

オーディオ機器だけでなく、演奏に関しても、そのことは共通していた。

1980年代後半、ステレオサウンドでも、よく試聴に使っていたエリアフ・インバルによるマーラーの交響曲。
第4番と5番は、なんど聴いたことか。
特集の試聴でも使い、新製品の試聴でも使う。
すべての試聴に立ち会っていた私は、おそらく当時、
もっともインバルのマーラー(一部だけだが)を、聴いた者だっただろう。

正反対のマーラーを聴きたいという欲求がたまりはじめていた。

Date: 9月 9th, 2009
Cate: 真空管アンプ, 長島達夫

真空管アンプの存在(その52)

「音の色数」「色彩」ということばからもわかるように、長島先生は、音の変化に対して、
鋭敏であるものを好まれていたし、その点を、集中して鋭敏に聴きとろうとされていた。

「オーディオで原音再生はとうてい無理」──、そう長島先生は言われていた。
けれど、ほんのわずかな変化にも鋭敏な音がきちんと出てくれば、
「ぼくは錯覚できる、ナマを感じる」とも言われていた。

音の帯域的なバランスがすこしおかしかろうと、微小レベルの音の変化が出ていれば、
音楽にのめり込んで、聴かれていた。

だからこそ、一見きれいな音を聴かせようが、見事な帯域バランスをもっていようが、
その点に鈍感なものに関しては、手厳しい評価を下されていた。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その41)

水にも、いろいろある。含有される各種ミネラル成分のバランス、量によって、
まず大きく分けて、軟水と硬水とがあり、口に含んだときの感じ方はずいぶん違う。

近い硬度の水でも、ミネラル成分の割合いによって、味は異り、
同じ水でも、温度が違えば味わいは変わってくる。
水のおいしさは、利き酒ならぬ利き水をするのもいいが、
そのまま飲んだときよりも、珈琲、紅茶、アルコールに使ったときのほうが、
違いがはっきりとわかることがある。味わう前に、香りの違いに気がつくはずだ。

料理もそうだ。
いつも口にしている料理、たとえば味噌汁を、ふだん水道水そのままでつくっているのであれば、
軟水のナチュラルミネラルウォーターでつくってみれば、何も知らずに出され口にした人は、
いつもとなにかが違うと感じるはず。

Date: 9月 8th, 2009
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その4・続々続補足)

AGIが特許を取ったというパワーアンプのバイアス回路の資料を、やっと見つけ出せた。

AGIもしくはAudio General Inc.で、Google Patentsで検索してもだめで、
511の設計者、デヴィッド・スピーゲル (David Spiegel) の名前で検索したら、簡単に見つかった。
スピーゲルのつづりが、さっきまでわからなかっただけ、ということである。

パテントナンバーは、4,237,425で、タイトルは”AUTOMATIC BIAS ADJUSTING CIRCUIT”。

Date: 9月 7th, 2009
Cate: 黒田恭一

黒田恭一氏のこと(その13)

「スーパー・ギター・トリオ」は、はじめて聴くレコードだった。

でも、このレコードの鳴りかたは、アクースタットが素晴らしいスピーカーであることを、
シャシュのレコードの時とは、別の角度から確認できた。
黒田先生は、こう発言されている。
     *
このレコードの聴こえ方というのも凄かった。演奏途中であれほど拍手や会場ノイズが絡んでいたとは思いませんでしたからね。拍手は演奏が終って最後に聴こえてくるだけかと思っていたのですが、レコードに針を降ろしたとたんに、会場のざわめく響きがパッと眼の前一杯に広がって、がやがやした感じの中から、ギターの音が弾丸のごとく左右のスピーカー間を飛び交う。このスペクタキュラスなライヴの感じというのは、うちの4343からは聴きとりにくいですね。
     *
大げさでなく、まさに、私もこう感じていた。
「スーパー・ギター・トリオ」のレコードに針を降ろしたとたんに、
ステレオサウンド試聴室の雰囲気がかわった。

いまでは、そういう音は当たり前のものとして、驚きを持って受けとめられることはないだろうけど、
1982年当時は、違っていた。

Date: 9月 7th, 2009
Cate: 黒田恭一

黒田恭一氏のこと(その12)

試聴レコードにない、聴きたいレコードを聴けるわずかな機会に、シャシュのレコードをかけたわけだ。
ノルマの「カスタディーヴァ」を一曲聴く時間は十分にあると思っていたし、
さらに二、三曲聴く余裕は、前日までの感じでは、あるはずだったが、
意外にはやく黒田先生、上杉先生たちが戻ってこられた。
あと20分ぐらいは、戻ってこられないと思っていただけに、いそいでボリュウムを絞り、針を上げようとしたら、
黒田先生が、「そのまま聴かせて」といいながら、椅子に坐られた。
聴き入られていたようすだった。

途中からだったので、もう一度最初からかけ直すことになった。
午後の試聴が、こうしてはじまった。

シャシュのあとに試聴レコードの三枚、そして黒田先生が、「これを鳴らしてほしい」ということで、
アル・ディ・メオラ、ジョン・マクラフリン、パコ・デ・ルシアの「スーパー・ギター・トリオ」を聴くことになった。

Date: 9月 6th, 2009
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その4・補足の余談)

サンスイからスーパー・フィードフォワード・システム採用のAU-D907Fが登場したとき、
私が使っていたのは、AU-D907 Limitedだった。

高校生が使うアンプとしては高価なアンプだし、不満を感じていたわけではないが、
それでもスーパー・フィードフォワード・システムに関する記事や広告を読むたびに、
このアンプ(AU-D907 Limited)にも、搭載することはできないのか、という思いが募っていった。

それでサンスイに手紙を書いたことがある。
AU-D907 Limitedを改造してもらうことはできないのか、
スーパー・フィードフォワードシステムを搭載することは無理なのか、とたずねた。

返事はこないだろうと思って出した。
しばらくしたら、返事があった。

AU-D907 Limitedへの搭載は、技術的にまず無理だということ。
そして、907 Limitedは、完結したモデルであるから、大事に使ってほしい、と書いてあったことを思い出した。

Date: 9月 6th, 2009
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その4・続々補足)

サンスイは、NFBとの併用の、この方式をスーパー・フィードフォワード・システムと呼び、
パワーアンプの出力信号と、逆位相の歪成分が出合う箇所(サミングポイント)を、
正確なものとするために(ここの精度が甘いと逆に歪を増してしまう)、
スピーカーの負荷変動に影響を受けないサミングネットワークを開発し、特許を取得している。

さらに歪成分の検出は、電圧増幅部と出力段の中間でおこなっているのも、
サンスイ独自の工夫である。

AGIがフィードフォワード方式だけで、パワーアンプの開発を行なっていたのか、
NFBとの併用だったのかは、わからない。
サンスイの特許を回避してのフィードフォワード方式のパワーアンプが実用となるのかどうかも、
私の、いまの知識でははっきりとしたことは言えない。

技術には、いくつかの解決方法があるはずだから、AGIがあきらめずに研究をすすめていれば、
もうひとつのフィードフォワード方式のパワーアンプが誕生していたかもしれない。

Date: 9月 6th, 2009
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その4・続補足)

にも関わらず、あとに発明されたNFBが、大半のアンプに採用され、
アンプの発展をうながしてきたのは、フィードフォワード方式を現実の製品に組み込む難しさ、
回路構成の複雑さ、それにパワーアンプへの採用が、かなり困難だったこともあるだろう。

動的特性の改善を実現した511だけに、ペアとなるパワーアンプにも、
ほぼ間違いなくフィードフォワード方式を採用しようとしたはずだ。

けれど満足のいく特性、というよりも安定度を確保できなかったのではないだろうか。
フィードフォワード方式を、パワーアンプで、実際の製品に搭載したのは、
おそらくサンスイのプリメインアンプ、AU-D607F/707F/907Fが最初であろう。

サンスイのアンプは、フィードフォワードだけを採用しているのではなく、
NFB方式と組み合わせることで、実使用時の安定度を確保している。

言葉で書いていると、簡単なことのように受け取られるかもしれないが、
実際の開発には5年間の歳月と、2度の挫折があったときいている。

Date: 9月 6th, 2009
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その4・補足)

511で、あれだけ高い技術力を示したAGIが、なぜパワーアンプを開発できなかったのか、
その理由の正確なところは、開発者以外には、誰にもわからないことだけれど、
おそらくフィードフォワード方式にこだわったためであろう、と私は考えている。

あまり知られていないことだが、511はフィードフォワード方式を採用し、
歪率、周波数特性などの諸特性を改善している。

フィードフォワードは、1937年にフィードバック(NFB)理論を発明したH・S・ブラックが、
さかのぼること9年前に発明していた技術で、
アンプの出力信号から歪成分を検出し、これをいったん180度位相反転し、ふたたび加えることで、
歪のみを打ち消すという理論である。

NFBは、その名の通り、出力信号の一部を入力に戻す(バック)することで、特性を改善するわけだが、
歪率を低減化するためには多量のNFBが必要となる反面、1970年代後半に、
マッティ・オタラによって問題提起されたTIM歪に関しては、減らすどころか、発生のメカニズムになっている。

理論としては、先に発明されたフィードフォワード方式が優れていると言ってもかまわないだろう。

Date: 9月 5th, 2009
Cate: 使いこなし

使いこなしのこと(その13)

3012-R Specialの、瀬川先生の記事を読んだ時のことも、はっきりと覚えている。

「これは、絶対に必要なアイテムだ」と確信し、
とにかく、これだけは真っ先に手に入れておかねば、と思ったのは、
当時のハーマンインターナショナルの広告には、300本の限定販売と書いてあったからだ。

瀬川先生の文章を何度も読み返せば返すほど、それから先、どんなスピーカーを使うことになろうとも、
このトーンアームは絶対に必要不可欠なものはなるはず、とつよく思っていた。
だから、まだアルバイトも始めてなかった学生時代に、9万円弱のトーンアームを、12回払いで買った。
ステレオサウンド 58号を読んだのが1981年の3月。
一カ月後に手にしていたわけだ。

結局、3012-Rは、限定販売でおわることなく、継続して販売されることになったから、
無理して買うこともなかったのだが、
電車で帰宅するまでのあいだ、すこしの衝撃も与えないように、
両手で抱きしめるように持って帰ったものだ。

Date: 9月 5th, 2009
Cate: 使いこなし

使いこなしのこと(その12)

正確に記憶しているわけではないが、
1980年代のシーメンスのコアキシャルの広告に、伊藤先生の達筆で、こんなふうなことが書かれていた。

「ひどいアンプで鳴らされる良質のスピーカーほど、惨めなものはない」

まったくそのとおりだと、その時、思ったことを覚えている。
まだまだま経験の少なかった頃だったが、それでもグレードアップを図っていく順序は、
音の入口からだ、と感じていた。

スピーカーが優秀であればあるほど、アンプやプレーヤー、それに使いこなしの不備をあからさまにすることは、
少し考えれば、すぐに理解できることでもある。
音の入口のクォリティはそれほど重要であり、
だから、音の入口にあたるところは、つねに重視してきた。

東京に出て来た時に、実家で使っていた装置はそのまま置いてきた。
そして、東京で、とにかく、これだけは手に入れておかねば、と思い、
相当無理して買ったのは、SMEの3012-R Specialだった。

Date: 9月 4th, 2009
Cate: 使いこなし

使いこなしのこと(その11)

かなり以前の大型で、高能率のスピーカーは、当時から、うまく鳴らすのが難しい、と言われ続けている。
これに対し、井上先生は、疑問を投げかけられていた。

たしかに、当時は、なかなか、その手のスピーカーはうまく鳴らなかったのは事実だけれど、
それはスピーカーそのものの持つ性格が鳴らしにくいものではなく、
パワーアンプ以前の、装置の不備や、使いこなしの未熟さを、
スピーカーが、なまじ高感度ゆえに、そのままストレートに出していたのではないか、と、
私は、井上先生の言葉を、そう解釈している。

物理的なSN比の高さは、もちろん高能率スピーカーを鳴らす上では重要だが、
聴感上の高SN比も求められる。
このSN比が悪いアンプ(とくにパワーアンプ)をつなごうものなら、それは聴くに堪えぬ音になるだろう。

当時の高能率スピーカーが、いま新品同様のコンディションで存在していたとして、
現代のアンプで、現代のプログラムソースを鳴らしたら、
当時の苦労の多くは、もとより存在しなかったものだったのかもしれない。

あくまでの仮定の話であって、確かめる術は、誰にもないけれど、
それでも、スピーカー以外のオーディオ機器の基本性能が高くなれば、
それだけスタート地点が変ってくることは、確実にいえる。

だから、QUADのESLは、発売された当初よりも、アンプをはじめとする周辺機器の進歩と音質向上にともない、
その評価は確実に高くなっているのは、ESLの真価が、発揮できる環境が整ってきたからである。

くりかえしになるが、これはESLに関していえるのではなく、
ESLと同時代の、当時高い評価を得ていたスピーカーならば、同じことが言えて、当然であろう。

Date: 9月 3rd, 2009
Cate: 書く

2年目

2008年9月3日の19時7分に、最初の記事を書いているから、今日から2年目に入った

毎日書いていても、達成感みたいなものは感じられないけれど、
今日はちょっとだけ、達成感らしきものを感じている。

Date: 9月 3rd, 2009
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その38)

マークレビンソンのアンプが登場して、何が変ったかというと、
いくつかあるなかでまず挙げられるのは、それまでオーディオコンポーネント(組合せ)において、
主役はあくまでもスピーカーであったのが、特にML2Lの登場以降、
アンプのほうが主役になってきたように感じている。

さらに80年代にはいり、アポジーのスピーカーの登場で、
低インピーダンス・低能率のスピーカーを十全に駆動するために、パワーアンプの規模が大きくなり、
アンプの顔つきも変ってきたのではないだろうか。

パワーアンプはスピーカーを鳴らすための、ある意味、裏方という考えは、さも古い、といわんばかりに、
パワーアンプが、存在を自己主張しはじめてきた──、そんな印象すらある。

早瀬さんが導入したクレルのEvolution 302は、出力が、8Ω負荷で300W+300Wだから、
お世辞にもコンパクトなサイズとは言えないが、パネルフェイスといい、
ヒートシンクを筐体内におさめたコンストラクションといい、
受ける印象は、どことなく地味で質素なところがあり、オーディオコンポーネントの主役は、
アンプではなく、スピーカーである、と語っているようにも受けとれる。

これは、ダゴスティーノがスピーカーを手がけたことと、決して無関係ではないはずだ。