かなり以前の大型で、高能率のスピーカーは、当時から、うまく鳴らすのが難しい、と言われ続けている。
これに対し、井上先生は、疑問を投げかけられていた。
たしかに、当時は、なかなか、その手のスピーカーはうまく鳴らなかったのは事実だけれど、
それはスピーカーそのものの持つ性格が鳴らしにくいものではなく、
パワーアンプ以前の、装置の不備や、使いこなしの未熟さを、
スピーカーが、なまじ高感度ゆえに、そのままストレートに出していたのではないか、と、
私は、井上先生の言葉を、そう解釈している。
物理的なSN比の高さは、もちろん高能率スピーカーを鳴らす上では重要だが、
聴感上の高SN比も求められる。
このSN比が悪いアンプ(とくにパワーアンプ)をつなごうものなら、それは聴くに堪えぬ音になるだろう。
当時の高能率スピーカーが、いま新品同様のコンディションで存在していたとして、
現代のアンプで、現代のプログラムソースを鳴らしたら、
当時の苦労の多くは、もとより存在しなかったものだったのかもしれない。
あくまでの仮定の話であって、確かめる術は、誰にもないけれど、
それでも、スピーカー以外のオーディオ機器の基本性能が高くなれば、
それだけスタート地点が変ってくることは、確実にいえる。
だから、QUADのESLは、発売された当初よりも、アンプをはじめとする周辺機器の進歩と音質向上にともない、
その評価は確実に高くなっているのは、ESLの真価が、発揮できる環境が整ってきたからである。
くりかえしになるが、これはESLに関していえるのではなく、
ESLと同時代の、当時高い評価を得ていたスピーカーならば、同じことが言えて、当然であろう。