Archive for 12月, 2008

Date: 12月 17th, 2008
Cate: ベートーヴェン

ベートーヴェンの「第九」(その6)

ジュリーニ/ベルリン・フィルの「第九」のCDを見かけたのは、
リハビリからの帰りに立寄った吉祥寺のレコード店の新着コーナーの棚だった。
11月の半ばごろの、小春日和の天気のいい日だった。

1990年の夏の終わりに左膝の高原骨折と内側靭帯損傷で一カ月半ほど入院。
このころは毎日リハビリで通院していた。仕事は、していなかった。
(正直、こんなにリハビリが大変だとは思っていなかった。)

部屋にあったオーディオ機器はすべてなくなり、
アナログディスクもCDも、ほんとうに愛聴盤と呼べるディスク以外はなくなっていた。

だから、このCDを買っても聴く術がない。
それでも無性に聴きたい衝動におそわれ、
余分なお金は使えない、使いたくない状況にも関わらず、手を伸ばしてしまった。

CDプレーヤーは、当時住んでいた西荻窪駅近くの質屋に、新品同様の携帯用のモノがたまたまあったので、
他に選択肢があるわけでなく、やっぱりすこし迷ったものの、購入した。

モノが極端に少なくなった部屋に、南向きの窓からは暖かい日差しがはいってくる。
ぽつんとひとりで坐り聴いた。

この日、この瞬間から、ジュリーニ/ベルリン・フィルによる、このディスクは愛聴盤になった。
いまも聴き続けている。

Date: 12月 16th, 2008
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その6)

QUADのESLを、はじめて聴いた場所は、オーディオ店の試聴室でもなく、個人のリスニングルームでもなく、
20数年前まで、東京・西新宿に存在していた新宿珈琲屋という喫茶店だった。

当時のサウンドボーイ誌に紹介されていたので、上京する前、まだ高校生の時から、この店の存在は知っていた。
ESLを鳴らすアンプは、QUADの33と50Eの組合せ。記事には場所柄、電源事情がひどいため、
絶縁トランスをかませて対処している、とあった。
CDはまだ登場していない時代だから、LPのみ。
プレーヤーはトーレンスのTD125MKIIBにSMEの3009SII、
オルトフォンのカートリッジだったように記憶している。

新宿珈琲屋の入っていた建物は、木造長屋といった表現のぴったりで、2階にあるこの店に行くには、
わりと急な階段で、昇っているとぎしぎし音がする。
L字型のカウンターがあり、その奥には屋根裏に昇る、階段ではなく梯子があって、
そこにはテーブル席も用意されていた。

ESLは客席の後ろに設置されていた。
濃い色の木を使った店内にESLが馴染んでいたのと、パネルヒーター風の形状のためもあってか、
オーディオに関心のない人は、スピーカーだとわかっていた人は少なかったと、きいている。

鳴らしていた音楽は、オーナーMさんの考えで、バロックのみ。LPは、たしか20、30枚程度か。
そのなかにグールドのバッハも含まれていた。

この装置を選び、設置したのは、サウンドボーイ編集長のOさん。
Mさんとは古くからの知合いで、相談を受けたとのこと。

新宿に、もう一店舗、こちらはテーブル席も多く、ピカデリー劇場の隣にあった。
ふだんMさんはこちらのほうに顔を出されることが多かったが、
ときどき西新宿の店にも顔を出された。
運がよければ、Mさんの淹れたコーヒーを飲める。

ふだんはH(男性)さん、K(女性)さんのどちらかが淹れてくれる。
Kさんとはよく話した。

よく通った。コーヒーの美味しさを知ったのはこの店だし、
背中で感じるESLの音が心地よかった。

いまはもう存在しない。
火事ですべてなくなってしまった。

その場所の一階に、いまも店はある。名前が2回ほど変っているが、基本的には同じ店だ。
ただMさんはもう店に出ないし、HさんもKさんもいなくなった。

オーディオ機器も、鳴らす音楽も、他店とそう変わらなくなってしまった。

Date: 12月 15th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その4)

4ウェイ・スピーカーシステムといっても、開発の方向性はいくつかある。

3ウェイ・システムをベースにして、スーパートゥイーターもしくはサブウーファーを加えたもの、
同じく3ウェイ・システムのベースでも、中低域に専用ユニットを加えたもの、
2ウェイ・システムを中心にして、スーパートゥイーターとサブウーファーを加えたもの、などがある。

スペンドールのBCシリーズを参考例としてあげる。
スペンドールは、1969年に第一作のBCIを開発した。
ウーファーは、BBCがBC2/8MKIIと呼ぶ20cm口径のベクストレン振動板のコーン型。
トゥイーターはセレッション製のドーム型HF1300。
型番のBCはベクストレン(Bextrene) の頭文字Bとセレッション(Celestion) の頭文字Cを組合せを表している。

このBCIをベースに、ウーファーの耐入力を向上させ、
スーパートゥイーターとして、当時ITT参加にあったSTCの4001を追加し、3ウェイとしたのが、
1973年に発表され、日本でもロングセラーモデルとなったBCIIである。

BCIIの成功は、BCIIIの開発へとつながる。
BCIIIは、BCIIの低域のワイドレンジ化を図ったモデルで、BCIIと同じユニットに、
30cm口径のベクストレン・コーン型ウーファーを追加し、
エンクロージュアもひとまわり大きなものとなっている。

BCIIのクロスオーバー周波数は、3kHzと13kHz。BCIIIは、これに700Hzが加わる。

BCI(2ウェイ)から始まり、BCII(3ウェイ)、BCIII(4ウェイ)へと、BCシリーズは発展し完結している。

Date: 12月 15th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その3)

1978年から80年ごろにかけて4ウェイ・スピーカーを開発・発売してきたソニー、テクニクス、
ビクター、Lo-D、パイオニア、ダイヤトーンで、その後も4ウェイシステムを継続して開発したのは、
ダイヤトーン、一社だけと言ってもいいだろう。

テクニクスも4ウェイ・システムをいくつか開発しているが、そのたびに製品コンセプトは変わっていき、
ひとつの製品をじっくり発展していっているとは、私は思っていない。

その点、ダイヤトーンはDS5000(1982年)をベースに、
88年にDS-V9000、翌89年にDS-V5000と発展させ、
84年には、すこし小型化したDS3000というヴァリエーションも出すなど、
4ウェイ・システムの完成度を高めていこうという姿勢があった。

Date: 12月 15th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その2)

テクニクスは、1978年にSB-E500、1981年にSB-M1 (Monitor 1) を出している。

SB-E500は、38cmコーン型ウーファー、25cmコーン型ミッドバス、ミッドハイとトゥイーターはホーン型という、
4343と同じユニット構成となっている。
クロスオーバー周波数は、350、1500、8500Hz。
外形寸法は、W72×H103×D56cm。価格は70万円(ペア)。

SB-M1はmonitor 1の名称がつけられていること、
エンクロージュアの仕上げがグレイ塗装とウォールナットの2つが用意されているなど、
4343をかなり意識した製品づくりといっていいだろう。

ユニットはすべて丸形の平面振動板で、口径はそれぞれ38、22、8、2.8cmとなっている。
クロスオーバー周波数は、280、900、4000Hz。
外形寸法は、W63×H105×D43.9cm。価格は70万円(ペア)。

ウォールナット仕上げのSB-M1 (M)は、エンクロージュア下部に台輪がついているため、
高さが112cmとすこし大きい。価格はちょうど2倍の140万円(ペア)。

ビクターは、1981年にZero-1000を、85年にZero-L10を発表。

Zero-1000は、ブックシェルフ型の4ウェイスピーカーで、
ユニット構成は、ウーファー32cmコーン型、ミッドバス7.5cmドーム型、
ミッドハイ3.5cmドーム型、トゥイーターはリボン型。

色合いは異るが、フロントバッフルはブルー、側板、天板はウォールナット仕上げと、
言葉だけで表すと4343WXの仕上げと同じ。
とはいえ、フロントバッフルはカーブしているし、どちらかといえば水色ということもあり、
見た目の印象はずいぶん違う。
クロスオーバー周波数は、500、5000、12000Hz。
外形寸法は、W44×H79.3×D37.1cm。価格は42万円(ペア)。

Zero-L10は、1985年と、発売が遅いこともあって、専用ベースST-L10が別売りで用意されている。
フロアー型なのに? と思われる方もいるだろうが、
この考えが発展して、90年発売のSX1000 Laboratoryの専用ベースへとつながっている。
Zero-L10のユニット構成は、ウーファー39cmコーン型、ミッドバス21cmコーン型で、
振動板は紙ではなく、セラミックとカーボンの複合素材を使用している。
ミッドハイとトゥイーターは、セラミック振動板のドーム型で、口径は6.5、3cm。
クロスオーバー周波数は、230、950、6600Hz。
外形寸法は、W58×H100.5×D47cm。価格は160万円(ペア)。

ダイヤトーンもビクター同様、ブックシェルフ型の4ウェイを先に出している。
1980年発売のDS505は、ウーファー32cmコーン型、ミッドバス16cmコーン型で、
アラミドハニカム振動板を採用している。ミッドバス4cm、トゥイーター2.3cmのドーム型。
クロスオーバー周波数は、350、1500、5000Hz。
外形寸法は、W44.2×H72×D42.5cm。価格は38万円(ペア)。

フロアー型のDS5000は、1982年に登場した。
ユニット構成は、ウーファー40cmコーン型、ミッドバス25cmコーン型で、
アラミドハニカム振動板採用はDS505と同じだが、
成型の難しい、この素材で、ミッドバスはカーブドコーンとしている。
ミッドハイ、トゥイーターは6.5、2.3cmドーム型。
クロスオーバー周波数は、30、1250、4000Hz。
外形寸法は、W63.5×H105×D46cm。価格は99万円(ペア)。

ヤマハからもGF-1が登場しているが、1991年と、ずいぶん後になってのことなので除外した。

Date: 12月 14th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その1)

4343は、ペアで140万円超えるスピーカーとして驚異的な売行きと言われる。
これだけ売れたスピーカーは、いわゆる売れ筋の価格帯のスピーカーでも、そう多くはない。

そのため、といってもいいだろう、4343の成功に触発されて,
国産メーカーからも4ウェイ・スピーカーシステムが登場しはじめた。
それらのスピーカーとの対比で4343を見ていくと、
当時の国産メーカーのスピーカー技術者が4343をどう捉えていたのかが、わかってくるというものだろう。

どういう4ウェイ・スピーカーが出ていたのか、ざっと振り返ってみる。
ソニーからは、1978年にSS-G9が登場した。4343と同じ38cm口径のウーファー、20cmのミッドバス、
8cmのミッドハイ、3.5cmのトゥイーターという構成。
ミッドハイとトゥイーターは、ソニーが新たに開発した、
ドーム型とコーン型を一体化した形状の振動板のバランスドライブ型。
クロスオーバー周波数は、300、1200、5000Hz。
外形寸法はW60×H108×D45.5cm。価格は57万6千円(ペア)だ。

さらにソニーは翌年、エスプリ・ブランドで、平面振動板の4ウェイ・システム、APM8を出す。
クロスオーバー周波数は、320、1250、4500Hz。
外形寸法はW65×H110.5×D45cm。価格は200万円(ペア)だ。

パイオニアからは、平面振動板の4ウェイ同軸ユニットを搭載したS-F1が、1980年に出ている。
クロスオーバー周波数は、500、2500、8000Hz。
外形寸法はW70×H117×D47cm。価格は170万円(ペア)だ。

Lo-Dは、1978年に、
コーン型、ドーム型ユニットの凹みに発泡樹脂を充填した平面型4ウェイのHS10000を発表している。
HS10000には、スーパートゥイーターを追加した5ウェイ・モデルも用意されていた。
使用ユニットは、30、6、3.5、1.8cm口径(0.9cm:5ウェイ仕様のスーパートゥイーター)。
クロスオーバー周波数は、630、2500、4500Hz(9000Hz:5ウェイ時)。
外形寸法はW90×H180×D60cm。価格は360万円(ペア)だ。
このスピーカーは、いわゆる2π空間使用前提の設計は、4343と共通しているし、
コンセプトからして、プロトタイプ的性格が強い。

Date: 12月 13th, 2008
Cate: 五味康祐, 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その23)

五味先生は、オーディオ愛好家の五条件として、次のことをあげられている。

①メーカー・ブランドを信用しないこと。
②ヒゲのこわさを知ること。
③ヒアリング・テストは、それ以上に測定器が羅列する数字は、
 いっさい信じるに足らぬことを肝に銘じて知っていること。
④真空管を愛すること。
⑤金のない口惜しさを痛感していること。

それぞれについては、ステレオサウンドから刊行されていた「オーディオ巡礼」を読んでいただくとして、
ここでは、④の「真空管を愛すること」から、もう一度引用する。
     *
分解能や、音の細部の鮮明度ではあきらかに520がまさるにしても、音が無機物のようにきこえ、こう言っていいなら倍音が人工的である。したがって、倍音の美しさや余韻というものがSG520──というよりトランジスター・アンプそのものに、ない。倍音の美しさを抜きにしてオーディオで音の美を論じようとは私は思わぬ男だから、石のアンプは結局は、使いものにならないのを痛感したわけだ。これにはむろん、拙宅のスピーカー・エンクロージァが石には不向きなことも原因していよう(私は私の佳とするスピーカーを、つねにより良く鳴らすことしか念頭にない人間だ)。ブックシェルフ・タイプは、きわめて能率のわるいものだから、しばしばアンプに大出力を要し、大きな出力Wを得るにはトランジスターが適しているのも否定はしない。しかしブックシェルフ・タイプのスピーカーで”アルテックA7”や”ヴァイタボックス”にまさる音の鳴ったためしを私は知らない。どんな大出力のアンプを使った場合でもである。
     *
五味先生は、倍音の美しさを真空管アンプに認めておられる。

ステレオサウンドの筆者の中で、真空管アンプのよさを積極的に認めておられた長島先生は、
「真空管アンプの方が、トランジスターアンプよりも音の色数が多い」とよく言われていた。

五味先生も長島先生も、表現は違うが、同じことを言われている。

カウンターポイントの主宰者、マイケル・エリオットも、同じ趣旨のことを言っていた。
真空管を使いつづける理由は?、という問いに、
「ローレベルのリニアリティが優れていること、
それと真空管でなくては得られない音色があるから」と答えていた。

真空管だからこそ得られる音色とは、五味先生、長島先生が感じられていたことと同じだろう。

カウンターポイントの初期の製品、SA5、SA4を聴くと、納得できる。
けれど、少なくともSA5を聴いて、私はローレベルのリニアリティが優れているとは感じられなかった。

マイケル・エリオットの言葉どおりのアンプは、SA5000になって、はじめて実現できたと思っている。

Date: 12月 13th, 2008
Cate: 927Dst, BBCモニター, EMT, TSD15

BBCモニター考(余談)

トリオ(現ケンウッド)の会長だった中野英男氏の著書「音楽、オーディオ、人びと」の中に、
「秘蔵のBBC放送局専用のTSD15」なる言葉が出てくる。

このTSD15は「英国でしか手に入らず、佳き往時の香りを今に伝える名品として
識者の間で珍重されているカートリッジ」で、
「河村電気を経て我が国にもたらされるEMTは『今様に』改良された製品で、
F特と解像力には勝れるが、気品と底力では遠くこのモデルに及ばない」と書かれている。

ステレオサウンドにはいって、このことをきいてみた。BBC専用のTSD15のことを知っているひとは、いない。
先輩のTNさん(彼は瀬川先生から譲ってもらった927Dstを使っていた)と、この話で盛り上がったこともあった。

旧型シェルのTSD15のことかと思ったが、違うようにも思える。

サウンドボーイ編集長だったOさんも、プレーヤーは927Dstだ。
彼は、ウェスターン・エレクトリック、シーメンス、EMTなどについて詳しい。
そのOさんも、はじめて聞く話とのこと。
現会長の原田氏も、このころは927Dstだった。

結局、真相はわからずじまい。

Date: 12月 12th, 2008
Cate: 川崎和男, 複雑な幼稚性, 言葉

「複雑な幼稚性」(その1)

「現代的な幼稚症! それはオネゲルにおいてすでに告知され、ショスタコーヴィッチにおいて全盛をきわめた。
まさにアルバン・ベルグやシェーンベルクなどの重荷を負った労苦とは正反対のものである。
幼稚症は、さらに無遠慮に、自己の心理的な状況を大衆のそれに優先させようとする。」

こう、フルトヴェングラーが「音楽ノート」で語っているのは1945年のときである。
60年以上前の言葉なのに、いまもそうじゃないか、と、
「現代的な幼稚症」という言葉が心にひっかかってくる。

いまは「複雑な幼稚性」が静かに蔓延っている時代のように思えてならない。
オーディオもそうだ。
複雑な幼稚性が、大事な本質を覆い尽くそうとしている、といったら言い過ぎだろうか。

具体的な例はあえて挙げない。

ただ「単純 (=Simple)」を、否定的、消極的な意味で捉えているようでは、
いつまでも答は見出せない。そう確信している。

そして「答には、3つある」
MACPOWER vol.3に掲載されている「ラディカリズム 喜怒哀楽」で、川崎先生は書かれている。
「応答 (=Reply)」、「回答 (=Answer)」、「解答 (=Solution)」の3つである。
バックナンバーは入手可能のようだから、ぜひお読みいただきたい。

Date: 12月 11th, 2008
Cate: ベートーヴェン

ベートーヴェンの「第九」(その5)

フルトヴェングラーの1942年の「第九」は、1951年のバイロイト祝祭よりも、
感嘆させられる、円熟期の完成度の高い演奏だと感じている。

とはいえ、「第九」を聴くとき、このディスクばかり聴いているわけではない。
むしろ、あまり聴かないように心掛けている。

フルトヴェングラーは「その時代時代の聴衆が求めているものを演奏している」、
そんな意味合いのことを言っている。

1942年の演奏は、1942年の聴衆が求めていたからなし得た「第九」ということになる。
その当時のドイツの聴衆が求めていてたものは、はたしてなんだろうか。

確かに第二次大戦中のフルトヴェングラーの、とくにベートーヴェンの演奏には
──第三番は44年のウィーンフィルとの演奏、第五番はベルリン・フィルとの43年の演奏──
言葉では言表し難い、凄みと言っていいのだろうか、なにか強烈な底知れぬものを秘めているかのようだ。

だから、あえて聴かない。
「第九」で、よく聴いているのは、ライナー盤であったり、ジュリーニ/ベルリン・フィル盤だ。

Date: 12月 11th, 2008
Cate: ディスク/ブック

カンターテ・ドミノのCD

カンターテ・ドミノのCDのことで補足しておく。
赤色と黒色、2つのレーベルが存在していたのは、そんなに長い期間ではないはずだ。

最初に発売されたCDではなく、あくまで1987年、88年ごろの輸入CDについてである。
知人がやはり同じ時期に購入したのは赤色レーベル(正相盤)だった。
逆相盤は、ほんの一時期、市場に出廻ったものなのだろう。

同じディスクを複数枚購入するとわかることがある。
グレン・グールドのゴールドベルグ変奏曲の輸入CDも、最初の頃は日本プレスだったが、
途中からアメリカ・プレスに変わっている。

ケイト・ブッシュのCDも、最初のドイツ・プレスだったのが、イギリス・プレス、
それも最初はニンバスによるプレスに変り、EMIのプレスと、少なくとも3回変わっている。

プレス工場が違えば音も変ってくるのは当然だが、国内盤で、同じディスクを3枚買って聴きくらべてみると、
プレスの微妙な差があるのか、3枚とも、わずかとはいえ音が違う。

3枚も購入したのは、当時、ステレオサウンドの試聴でもよく使われていた
インバル指揮のマーラーの交響曲第4番の金蒸着CDだ。

私が3枚とも購入したわけではなく、頼まれた分も含めてで、
こういう機会はあまりないからと、試しで3枚とも聴いてみたわけだ。

このころ、CDを乗せたトレイを一度引っ込めて、また出して、ディスクには手をふれずに、
もう一度トレイを戻して再生すると、ディスクのセンタリングがきちんと出ているか出ていないか、
そのせいでサーボ量が変化するのだろうか、少なくない音の変化のするCDプレーヤーが少なくなかった。

うまくセンタリングがピシッと決ると一回目で、いい音が出るが、
たいてい2回目の方が好ましい結果が得られることが多かった。

こういったことをふまえた上での比較試聴でも、やはり3枚のディスクに差はあった。
やや平面的になるものがあった。

アナログディスクのころ、同一スタンパーからプレスされたディスクでも、
つまり同じロットのディスクでも最初の方でプレスされたものと、最後の方のプレスとでは、
音が違うと言われていた。
だから音にこだわるレコード会社はスタンパー1枚あたりのプレス数を制限していたときいている。

CDもそれと同じような理由かもしれないし、まったく違う理由によって音が変ってくるのかもしれない。

Date: 12月 11th, 2008
Cate: ベートーヴェン

ベートーヴェンの「第九」(その4)

写真は、光景の一瞬を切り取る。
川や滝を撮った同じ写真でも、水の流れ、落ちる様、水しぶきをまったく感じさせない写真もある。
構図が悪いといったことではなく、それは撮影者が、川や滝をどう捉えているのか、
センスとしか言いようがない。

フィギュア(ここで言うフィギュアは人型のもの)も、一瞬を切り取って立体化している。
フィギュアは、すべて何らかのポーズをとっている。ボーズというよりも姿勢といったほうがいい。

姿勢という単語は、姿と勢いから成っている。

フルトヴェングラーのフィギュアには、この姿勢が感じられなかった。
水の流れ、水しぶきを感じさせない写真と同じように。
勢いを失った姿は、それこそポーズ(poseではなく、一旦休止のpause)だ。

Date: 12月 11th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その22)

新興ブランドの真空管アンプに使われることの多い真空管のひとつに6DJ8がある。
この6DJ8を最初にアンプに使ったのは、(民生用としては)マランツのパワーアンプ#9が最初のはずだ。

#9は、入力部(初段と2段目)に6DJ8を使っている。
まず6DJ8の半分を使ったP-K分割回路で、入力信号を、正相、逆相に切り換えられるようにしている。
6DJ8ののこり半分が、いわゆる増幅回路の初段にあたるわけだ。

不思議なのは、なぜマランツのパワーアンプの中で、#9にだけ位相反転機能がつけられているかである。
#9の発売は1960年。
このころ、アメリカではシステム全体のアブソリュートフェイズ(絶対位相)が問題になっていたのだろうか。

スピーカー端子のプラス側に電池をつないだときに振動板が前に動くのを正相と決っているように、
アナログディスクの再生にも、もちろん決り事があり、各メーカーは基本的に従っている。

ただしスピーカーでもJBLのように逆相のものがあるように、カートリッジの中にも逆相の製品がいくつかあった。
その代表格がEMTのTSD (XSD)15である。ただしEMTのプレーヤーに装着し、
内蔵イコライザーアンプを通した出力は正相になっている。
その他にも、たしかシュアーやデッカが逆相になっていた。

TSD15のトーレンス版のMCH-I(II)は、製造時期によって、逆相のものもあれば、正相のものも存在していた。
それだけでなくカートリッジ内部に高域補正のためのコンデンサーが並列に接続してあるが、
このコンデンサーの容量、銘柄も時期によって異っている。

CDは、井上先生からきいた話では、初期の頃は、正相、逆相の決り事は正式に決っていなかったらしい。
そのため一部には逆相出力のCDプレーヤーがあったようだし、逆相になっているディスクもあった。

私が知っている限りでは、プロプリウス・レーベルの「カンターテ・ドミノ」がそうだ。

1987年か88年だったか、「カンターテ・ドミノ」の輸入CDが店頭に並びはじめたころ、
すこし時期をずらして2枚購入したことがある。

最初に購入したディスクはレーベルが黒色、2枚目は赤色。
当時すでにレーベルの色の違いで音が変ると言われていたが、
この2枚のディスクの音の違いは、そういう差ではなく、絶対位相の違いだった。
もう手もとにないので記憶によるが、黒色レーベルが逆相、赤色が正相だった。

これが意図的になされたものか、そうでないのかは不明だが、
同じディスクの正相と逆相が揃っているのは、試聴の時にはけっこう便利なものである。

逆相と言えば、カウンターポイントとミュージックリファレンスのアンプもそうだ。
SA5とRM4は、ラインアンプは6DJ8の一段増幅。カソードフォロアーではない。
ラインアンプの出力は反転する。逆相アンプである。

もしマランツ#9が登場したころに、アメリカで絶対位相の問題が取りあげられていたとしよう。
その約20年後に登場した新興ブランドの真空管アンプは絶対位相に関心をはらっていないのか。

このことだけにとどまらず、真空管の使い方にも、技術の断絶と言いたくなるものを感じる。

Date: 12月 11th, 2008
Cate: 書く

毎日書くということ

「音楽は、案出されたり構築されたりしたものではなく、成長したもの、
いわば直接に『自然の手』から生まれ出たものである。この点において、音楽は女性に似通っている。」
そう、フルトヴェングラーは「音楽ノート」で語っている。

音楽を文章に置き換えても、そのまま通用する気がする。

「自然の手」がどういうものかについては語られていない。
前後の文章もない。これだけ、である。

それは人が生れたときから持っているものなのか、それとも身につけるものなのか……。
「自然の手」から文章を生み出せるようになるには、どうしたらいいのかはわからない。
それでも、書くことを、一日たりとも忘れてはならない。これだけは言える。

Date: 12月 11th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その21)

ユニットからエンクロージュアに伝わる振動の大きさや周波数分布、Qの鋭さなどは、
ユニットの反作用が大きいか少ないかで、ずいぶん異ってくるはずだ。

ユニットのフレームから伝わってきた振動はエンクロージュアを震わす。そして放射される。
これも一種のノイズである。
このノイズの質(たち)や量が、聴感上のSN比に深く関係している。

トランジスターアンプと真空管アンプのノイズの聴こえ方が違うように、
スピーカーの方式、設計思想などによって、やはりノイズの聴こえ方が違ってくるのは当然のことだ。

そして、このことはアンプのノイズがどう聴こえてくるかにも関係してくるだろう。
もしかすると、新興ブランドの真空管アンプのノイズも、アメリカでそのころ台頭してきた、
フィルム状の振動板(振動膜といったほうがいいだろう)のスピーカーで聴くと、
JBLの4343で聴くよりも、案外気にならないのかもしれない。
それはスピーカーの能率の問題というよりも、ノイズの相性なのではないだろうか。