真空管アンプの存在(その22)
新興ブランドの真空管アンプに使われることの多い真空管のひとつに6DJ8がある。
この6DJ8を最初にアンプに使ったのは、(民生用としては)マランツのパワーアンプ#9が最初のはずだ。
#9は、入力部(初段と2段目)に6DJ8を使っている。
まず6DJ8の半分を使ったP-K分割回路で、入力信号を、正相、逆相に切り換えられるようにしている。
6DJ8ののこり半分が、いわゆる増幅回路の初段にあたるわけだ。
不思議なのは、なぜマランツのパワーアンプの中で、#9にだけ位相反転機能がつけられているかである。
#9の発売は1960年。
このころ、アメリカではシステム全体のアブソリュートフェイズ(絶対位相)が問題になっていたのだろうか。
スピーカー端子のプラス側に電池をつないだときに振動板が前に動くのを正相と決っているように、
アナログディスクの再生にも、もちろん決り事があり、各メーカーは基本的に従っている。
ただしスピーカーでもJBLのように逆相のものがあるように、カートリッジの中にも逆相の製品がいくつかあった。
その代表格がEMTのTSD (XSD)15である。ただしEMTのプレーヤーに装着し、
内蔵イコライザーアンプを通した出力は正相になっている。
その他にも、たしかシュアーやデッカが逆相になっていた。
TSD15のトーレンス版のMCH-I(II)は、製造時期によって、逆相のものもあれば、正相のものも存在していた。
それだけでなくカートリッジ内部に高域補正のためのコンデンサーが並列に接続してあるが、
このコンデンサーの容量、銘柄も時期によって異っている。
CDは、井上先生からきいた話では、初期の頃は、正相、逆相の決り事は正式に決っていなかったらしい。
そのため一部には逆相出力のCDプレーヤーがあったようだし、逆相になっているディスクもあった。
私が知っている限りでは、プロプリウス・レーベルの「カンターテ・ドミノ」がそうだ。
1987年か88年だったか、「カンターテ・ドミノ」の輸入CDが店頭に並びはじめたころ、
すこし時期をずらして2枚購入したことがある。
最初に購入したディスクはレーベルが黒色、2枚目は赤色。
当時すでにレーベルの色の違いで音が変ると言われていたが、
この2枚のディスクの音の違いは、そういう差ではなく、絶対位相の違いだった。
もう手もとにないので記憶によるが、黒色レーベルが逆相、赤色が正相だった。
これが意図的になされたものか、そうでないのかは不明だが、
同じディスクの正相と逆相が揃っているのは、試聴の時にはけっこう便利なものである。
逆相と言えば、カウンターポイントとミュージックリファレンスのアンプもそうだ。
SA5とRM4は、ラインアンプは6DJ8の一段増幅。カソードフォロアーではない。
ラインアンプの出力は反転する。逆相アンプである。
もしマランツ#9が登場したころに、アメリカで絶対位相の問題が取りあげられていたとしよう。
その約20年後に登場した新興ブランドの真空管アンプは絶対位相に関心をはらっていないのか。
このことだけにとどまらず、真空管の使い方にも、技術の断絶と言いたくなるものを感じる。