Archive for 10月, 2008

Date: 10月 28th, 2008
Cate: サイズ

サイズ考(その16)

1981年ごろのクレルとスレッショルドのパワーアンプのラインナップ構成は似ている。
最上級機がモノーラルで、下の2機種がステレオ構成で、規模も出力も価格に比例している。

こういうラインナップは川の流れに例えられる。
上流がいちばん小型の機種、中堅機が中流、最上級機が下流といったぐあいに、だ。

川の上流に行くにしたがい、川幅に狭くなり水流も少なくなる。
けれどわき出したばかりの水は勢いがあり、水しぶきも目にまぶしい。

中流に行くと川幅も広くなり水の量も増える。ただし水そのもの透明度や新鮮さは薄れている。

下流になると、圧倒的な水流になる。
天候の影響で水かさが増したとき、上流ではそれほど増えなくとも、下流ではものすごい水流となる。

クレルもスレッショルドも真ん中の機種、KSA100とSTASIS2が中庸といえる。
そのラインナップのリファレンス的な音であり、規模である。

下のモデル、KSA50、STASIS3になると、より反応がきびきびした印象が増してきて、
透明感も聴感上のSN比の良さもきわだってくる。
かわりに、やはりスケール感は、最上級機と比べるとあきらかに小ぶりになる。

KMA200、STASIS1は価格も規模も違うだけあって、たっぷりと音が出てくる印象をまず受ける。
すべてに余裕があり、SL6をKMA200で鳴らしたときのように、思わぬ驚きを聴かせてくれる。
これに、KSA50、STASIS3がもつ、反応の、きわだった良さが加われば
ほんとうに素晴らしいことだが、
残念ながら、80年代のアンプはこの傾向を克服できなかったように思う。

現在のアンプはどうだろうか。
同一ブランドのパワーアンプすべてをならべて聴く機会がないため、なんとも言えないが、
少なくとも技術は進歩している。
出力段に使われるトランジスター、FETにしても、
従来なら複数個並列接続して得ていた出力を、
いまなら1組、もっと少ない数の素子で実現できる。

もしかすると、いまは最上級機がすべてにおいて優れているのかもしれない。
けれど、それは案外、オーディオをつまらなくしている面もあるだろう。

以前のクレルやスレッショルドのような音の傾向の違いは、
何を求めるかによって──純度の高さを優先する人なら、
KMA200やSTASIS1を購入する経済力があっても、
KSA50やSTASIS3の選択があり得た。

KMA200やSTASIS1が買えなくて、KSA50、STASIS3をかわりに買ったとしても、
これならではの魅力に気がつけば、イソップ童話のキツネになることはない。

以前のパワーアンプには、こういう、必ずしもヒエラルキーに支配されない面白さがあった。
いまはどうなのだろう。

Date: 10月 27th, 2008
Cate: 伊藤喜多男, 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その4)

私がオーディオに興味をもったころ、
すでにマランツもマッキントッシュも真空管アンプの製造をやめていた。QUADもそうだ。
五味先生の著書に登場するアンプは、どれも現行製品では手に入らない。

自作という手もあるな、と中学生の私は思いはじめていた。
「初歩のラジオ」や「無線と実験」、「電波科学」も、ステレオサウンドと併読していた。
私が住んでいた田舎でも、大きい書店に行けば、真空管アンプの自作の本が並んでいた。
それらを読みながら、真空管の名前を憶え、なんとなく回路図を眺めていた時期、
衝撃的だったのが、無線と実験に載っていた伊藤喜多男氏の名前とシーメンスEdのプッシュプルアンプの写真だった。

伊藤先生の名前は、ステレオサウンドに「真贋物語」を書かれていたので知っていた。
その内容から、オーディオの大先輩だということはわかっていた。

それまで無線と実験誌で見てきた真空管アンプで、
「これだ、これをそのまま作ろう」と思えたものはひとつもなかった。

それぞれの記事は勉強にはなったが、どれもアンプとして見た時にカッコよくない。
そんな印象が強まりつつあるときに読んだ、伊藤先生の製作記事は文字通り別格だった。

Date: 10月 26th, 2008
Cate: 型番

型番について(その1)

ラックスのLX38の前身は、SQ38FD/IIで、その前はSQ38FD、SQ38F、SQ38D、SQ38と遡る。

SQ38の「38」は、初代モデルが発売された年、昭和38年からきている。
2代目の型番末尾のDは、deluxe の頭文字である。
つまり初代SQ38の改良モデルは、SQ38 Deluxeというわけだ。
SQ38Dは昭和39年発売で、出力は10W×2で、当時の価格で58,500円している。

つぎの改良モデルは、昭和43年に登場したSQ38F。
Fはfinal の頭文字。このとき出力管が、NECが開発した50CA10に変わり、出力も30W×2となり、
SQ38FD/IIの原型といえる仕様となっている。

これで最後からと思ったら、昭和45年にまた改良モデル。またDがついている。
SQ38FDは、SQ38Final Deluxeの略だ。さらにその改良モデルということで、IIをつけている。

型番のアルファベットや数字には、わりと意味のあるものが多い。

マークレビンソンのLNP2は、Low Noise Pre-Amplifierの略であり、
あまり知られていないが、LNP1というモデルもある。
ML2、ML3のMLは、Mark Levinsonの頭文字だし、JC1、JC2はJohn Curlの頭文字だ。
HQDシステムは、使用スピーカーのブランドの頭文字、H(Hartley)Q(QUAD)D(Decca)である。
マークレビンソンから出ていた高品質レコード、UHQRは、Ultra High Quality Recordの略。

その他思いついたものから書いていくが、
ヤマハのスピーカーの型番の頭につくNSは、Natural Soundの略。
同じヤマハのパワーアンプのB-I、B-2のBは、Basic Amplifierからきている。

Date: 10月 26th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その3)

前にも書いているが、LX38はスペンドールのBCIIとの組合せで聴いた。

五味先生が書かれている、倍音の美しさに関しては、販売店でのイベントということもあって、
実を言うとそれほど感じられなかったが、音の湿りけには魅了された。

音の湿度感は、私にとってけっこう重要というか、乾き切った音は生理的に苦手なところがある。
例えが古いが、エンパイアの4000D/III(カートリッジ》は世評も高いし、
他のカートリッジでは聴けない、見事な乾きっぷりは、ドラムの音や打楽器の爽快感を体感させてくれ、
その魅力は理解できるし、そのためだけにお金が余裕があったら欲しい、と思っても、
4000D/IIIで、私が聴きたい音楽のすべてを聴きたいとは思わない。

断っておきたいのが、音の湿度感の感じ方、捉えかたは、
人によってずいぶん違うことを経験している。
私は4000D/IIIの質感を乾いている、乾き切っていると感じるが、
そんなことはいちども感じたことがはない、という人もいる。
反応の鈍い音を、湿りけをおびた音とネガティヴな意味で使う人もいる。

人の声を聴いた時の、口やのどの湿り、弦楽器の陰の部分の、ほのかな暗さ、
そういうものを無視したかのような音が、私にとっての乾いた音である。

Date: 10月 26th, 2008
Cate: 五味康祐, 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その2)

分解能や、音の細部の鮮明度ではあきらかに520がまさるにしても、音が無機物のようにきこえ、こう言っていいなら倍音が人工的である。したがって、倍音の美しさや余韻というものがSG520──というよりトランジスター・アンプそのものに、ない。倍音の美しさを抜きにしてオーディオで音の美を論じようとは私は思わぬ男だから、石のアンプは結局は、使いものにならないのを痛感したわけだ。これにはむろん、拙宅のスピーカー・エンクロージァが石には不向きなことも原因していよう(私は私の佳とするスピーカーを、つねにより良く鳴らすことしか念頭にない人間だ)。ブックシェルフ・タイプは、きわめて能率のわるいものだから、しばしばアンプに大出力を要し、大きな出力Wを得るにはトランジスターが適しているのも否定はしない。しかしブックシェルフ・タイプのスピーカーで”アルテックA7”や”ヴァイタボックス”にまさる音の鳴ったためしを私は知らない。どんな大出力のアンプを使った場合でもである。
     *
五味先生の、「オーディオ愛好家の五条件」のひとつ「真空管を愛すること」からの引用である。

これを書かれたのは1974年。
マークレビンソンのLNP2の輸入をRFエンタープライゼスがはじめたころで、
LNP2の登場以降、著しく進歩するトランジスターアンプ前夜の話とはいえ、
真空管アンプでなければ出ない音が確実にある、ということはしっかりと、
当時中学生の私の心には刻まれていった。

私が、この文章を読んだのは76年。LNP2だけでなく、SAEのMark 2500、スチューダーのA68、
スレッショルドの800A、AGIの511などが登場しており、
明らかに新しいトランジスターアンプの音を実現していたように、
ステレオサウンドを読んでも、感じられた。

76年は、ラックスからCL32が登場している。薄型のシャーシを採用することで、
ことさら真空管かトランジスターかを意識させないよう、
そういうコンセプトでつくられていたのかもしれないが、
76年ごろ、現行製品の真空管アンプの数はいまよりもずっと少なく、
ラックスの他にはダイナコとオーディオリサーチぐらいで、
しばらくしてコンラッド・ジョンソンが登場している状況だっただけに、
強烈に聴きたかったアンプのひとつであった。

実際に聴いた真空管アンプは、同じラックスのプリメインアンプのLX38だった。
もっとも私が生れたころ、家にあったテレビは真空管式だったので、
LX38がはじめて聴いた真空管アンプの音ではないわけだが、
五味先生の文章を読んだ後ではじめて聴いたのは、LX38である。

Date: 10月 26th, 2008
Cate: サイズ

サイズ考(その15)

クレルのPAM2とKSA100が印象ぶかく記憶に残っているのは、音だけではなくて、
独特の処理による、シルクのような白い質感のフロントパネルと、
クレルのブランドロゴを刻んだ金属プレートとマイナス・ビスの金色、
この対照的な金属の組合せが醸し出す雰囲気は、クレルの音そのものだった。

金色のプレートはその後も変らなかったが、
シルクの質感に近いパネル処理は、しばらくしてなくなり、青色になったり、
また白にもどっても、初期のパネルとは違う質感だったりと、入荷の度に変わっていた。

のちにわかったことだが、初期のクレルのパネルの処理は、ある職人ひとりの技術で、
誰にもマネできないものだったのが、
その職人の死により、技術そのものが消えてしまったときいている。
同じ質感を再現しようと、かなりの試行錯誤をくり返したが無理だったらしい。

クレルのパワーアンプのラインナップは、KSA100(100Wのステレオ機)のほかに、
KSA50(50Wのステレオ機)とKMA200(200Wのモノーラル機)から成っていた。
これと同じといえるラインナップを揃えていたのが、スレッショルドであり、
STASIS1、STASIS2、STASIS3の3機種だ。

STASIS1がトップモデルで、これだけがモノーラル構成、STASIS2が中堅モデルで、
STASIS3はもうすこし規模が小さくなる。

型番が示すように、3機種ともSTASIS(ステイシス)回路を採用している。

Date: 10月 26th, 2008
Cate: サイズ

サイズ考(その14)

クレルのデビュー作、KSA100は、A級動作で100W+100Wの出力を持つということもあって、
かなり大型のシャーシを採用しているが、自然空冷ではなくファンによる強制空冷である。

あれだけの大きさのシャーシであれば、ヒートシンクをシャーシの両サイドに配置することで、
自然空冷も可能だろうが、KSA100は、かわりに内部のパーツ配置に、
それまでの他のアンプでは見られなかったほどの余裕を割いている。
熱の問題に対処するためだというパーツ配置だが、
電源トランスからはフラックスが出ているから、あまり近くにパーツがないほうがいい。
それに平滑用の電解コンデンサーからもフラックスは出ている。

1980年代のパイオニアのアンプやCDプレーヤーの内部を見ると、
電解コンデンサーに銅箔テープを巻いている。これもフラックス対策のひとつだ。

プリント基板のパターンや部品のリード線に銅箔テープが接触しないように注意するだけで、
あとはコンデンサーに巻くだけだし、結果が芳しくなくても、剥がせば元どおりになるのだから、
試して、どのくらいフラックスが音に影響を与えているのか、確認するのも難しいことではない。

KSA100の出力段のパワートランジスターは、A級動作ゆえ、発熱量はかなり大きい。
ファンを使うことのデメリットはあるが、もちろんメリットもある。
自然空冷よりもシャーシ内の温度は低くできる。
一般に、電子機器のシャーシ内温度が5度高くなれば、故障率は2倍になるという。
あまり温度が低くても、また別の問題が発生するが、
あまりに高温になりすぎて、故障にいたらなくても、
アンプ内部には高温に弱いパーツがいくつもある。これらは確実に劣化の度合いが早まる。

パワーアンプ内で振動発生源として大きいのは、電源トランスと出力段(ヒートシンクを含む)である。
振動をできるだけ発生させないのはもちろんだが、起こった振動の影響からどう逃げるか。
いろんな対処法があるが、熱や電磁波、フラックスと同じく、
出来るだけ距離をとるのは、有効である。

アンプやCDプレーヤー、スピーカーが見た目そのままの大きさではなく、
それらが出している振動や熱、電磁波、フラックスなども考慮することで、
見た目以上のサイズをもつのと同じように、
アンプに使われているパーツも、必ずしも見た目そのままの大きさではない。

パーツ同士の相互干渉をできるだけ取り除くことも、地味だが、大事なことである。

クレルのパワーアンプのパーツレイアウトは、
それらのことが反映されていると、私は捉えている。
もっとも不用意にパーツを離しすぎると、配線が長くなることで、
インダクタンス成分の増加の悪影響が出てくることになる。

Date: 10月 25th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その1)

小学校低学年のころ、ひどいゼンソクで、学校を早退したり休んだりが多かった私は、
この時間を利用して、世の中に出ているマンガのすべてを読んでやろう、と思っていた。
でも数年もすれば、いかに無謀なことか小学生でもわかる。
それでは、と考えたのは手塚治虫作品をすべて読もう、ということ。

いまでこそ講談社から手塚治虫全集が出ているが、当時、そんなものはなく、
初期の作品「新宝島」(トレース版)が復刻されたのが、ひじょうに珍しいことだった。

「鉄腕アトム」ももちろんまっさきに買って読んでいた。

オーディオに興味をもちはじめてから読みなおすと、
アトムの腹部には真空管が3本使われていることに気がついた。
真空管が切れたから、といって交換するシーンがある。

ウェスターン・エレクトリックの211Eのような、大型の真空管だ。

なんと強引なこじつけだと自分でも思うのだが、
鉄腕アトムが、他の漫画家の描くロボットに比べ、表情がゆたかで、多くのひとに愛されるのは、
真空管が使われているからだ、と。

五味先生は、オーディオ愛好家の五条件に、「真空管を愛すること」と書かれている。

Date: 10月 24th, 2008
Cate: Celestion, SL6, サイズ

サイズ考(その13)

私がステレオサウンドに入ったころの、試聴室でリファレンスアンプとして使われていたのは、
マッキントッシュのC29とMC2205の組合せだった。

セレッションのSL6も、最初、この組合せで聴いた(はずだ)。
まだCD登場前だから、プログラムソースはアナログディスクで、
プレーヤーはパイオニア・エクスクルーシヴのP3aと、
カートリッジはオルトフォンのMC20MKIIを使用。

この組合せから出てきた音に、驚いた。
そしてクレルのKMA200と、純正のコントロールアンプPAM2の組合せにつないだときの驚きは、
オーディオで体験した驚きの中で、いまでも強烈な印象を残している。

何がそこまで強烈だったのか。低音の再現力の素晴らしさであった。

JBLの4343BWX(もしくは4344)でも、当然KMA200の音を聴いている。
JBLでの、マッキントッシュとクレルの差よりも、SL6で聴いたほうが違いが素直に出てきた。
低域にその違いがはっきりと出た。

SL6のウーファーは、高分子系の振動板で、ダストキャップのないワンピース構造という特徴はあるが、
口径はわずか15cm。JBLは38cm口径。
にも関わらず、圧倒的な、最低域まで素直に伸びた、量感ある低音を聴かせてくれたのはSL6だった。

アンプを変えたことで、ここまでスピーカーの低域の再現能力が大きく変化するとは、
JBLで、KMA200を聴いた時には想像できなかった。だから驚きは倍加された。
しかも安定した鳴りかたで、まったく不安定さを感じさせない。
こういう低音は、聴いていて気持ちがいい。

そして、クレルのアンプも、サイズについて考えるのに好適の存在である。

Date: 10月 23rd, 2008
Cate: LS3/5A, サイズ

サイズ考(その12)

LS3/5Aも、価格的に不釣り合いなアンプ、
アナログプレーヤーやCDプレーヤーと組み合わされる例も多い。
相当に高額なアンプで鳴らされている例をネットで見たこともある。

そういう気持ちにさせる一面をLS3/5Aは持っている。
とはいえ、個人的には奢った組合せでも、やはりある程度の節度は保ってこそ、
LS3/5Aの魅力は、より活きてくると感じている。
ここに関しては個人差が、ひときわ大きいように思うけど。

もしLS3/5Aを、自由な組合せで鳴らせるとしたら、まっさきに組み合わせてみたいのは、
スチューダーのパワーアンプA68だ。
瀬川先生の愛機でもあったA68の、アメリカのアンプとはまったく違う音の出しかたが、
LS3/5Aの世界に寄り添ってくれそうな気がするからだ。

すこしでもいい音を出すために、制約をできる限り取り除き、
物量も惜しみなく投入してつくり上げられることの多いアメリカのアンプと比べると、
A68には最初から、ある枠が設けられているかのように、節度ある品の良さを感じさせるし、
それゆえに音楽のもつ情感がひたひたと迫ってくる様は、
いまでも、アメリカのアンプからはなかなか得難い特質のように感じられる。

音の情報量の多さでいえば、現代アンプの方が上であるし、
私も基本的には情報量は多い方がいいと思っているが、
単純に多ければいいというわけでもないと感じている。
情報量と音量は絡み合っているところがあるからだ。

音量の制約があるLS3/5Aには、だからこそA68だと思う。

それにしても、こんなことを書いていると、A68を手に入れたくなってくる。
それもできれば瀬川先生が使われていたA68そのものを。

Date: 10月 22nd, 2008
Cate: Celestion, SL6, サイズ

サイズ考(その11)

セレッションのSL6をはじめて聴いたのは、ステレオサウンドの新製品紹介の記事の試聴で、だ。
山中先生に試聴をお願いしていた新製品のいくつか聴いてもらい、最後に鳴らしたのがSL6である。

当時の試聴室のリファレンススピーカーのJBL(4343BWXだったり4344だったりしていた)を
どかした場所に専用スタンドの上に乗せたSL6を設置した。
小型スピーカー・イコール・LS3/5Aの印象が強いころだっただけに、
「この位置で、ほんとうに大丈夫?」と訝りながらも、出てきた音には素直に驚いた。

SL6が登場したときは、まだCDが出ておらずアナログディスクでの試聴なのだが、
ウーファーのフラつきがなく、いささかの不安も感じさせずに安定した低音を響かせる。
LS3/5Aよりもサイズはたしかに大きいが、あきらかに時代の違いが現われている。
とにかく音だけ聴いていると、目の前にあるSL6のサイズを想像できない。

山中先生も興奮されている。
「これで鳴らしてみようよ」と言われた。

さっきまでJBLで聴いていたクレルのモノーラルパワーアンプのKMA200は、
A級動作で200Wの出力をもつ、筐体の大きさはSL6よりも大きい。
価格もSL6がペアで156000円に対し、KMA200はたしか258万円だった。

ここでもう一度驚くことになる。

Date: 10月 22nd, 2008
Cate: BBCモニター, Celestion, LS3/5A, SL6, サイズ
6 msgs

サイズ考(その10)

ロジャースのLS3/5AとセレッションのSL6、どちらもイギリスで誕生した、いわゆる小型スピーカーだが、
LS3/5Aが可搬型モニタースピーカーとして、サイズ自体の設定から開発が始まったのに対し、
SL6は、技術者が求める性能を満たすために必要な仕様として、逆にサイズが割り出されたものであること、
最初から小型スピーカーとして開発が始まったわけではない、という点が、
開発年代の違いとともに、2つを比較すると浮び上がってくる。

セレッションはSL6の開発にあたり、従来の開発手法を用いるのではなく、
技術部長のグラハム・バンクが数年前から取り組んでいたレーザー光線とコンピューターによる
スピーカーの振動モードの動的な解析技術を導入している。

この解析法で、スピーカーユニットの振動板の形状から素材まで徹底して調べ研究することで、
ユニットの口径・構造、システム全体の構成、エンクロージュアの寸法まで決定されている。
SL6は小型スピーカーをつくろうとして生れたきたものではなく、
セレッションが、当時の、持てる技術力で最高のスピーカーをつくろうとした結果のサイズである。

Date: 10月 21st, 2008
Cate: BBCモニター, LS3/5A, サイズ, 黒田恭一

サイズ考(その9)

1978年ごろに、テクニクスからコンサイスコンポが登場したとき、
黒田先生がステレオサウンドに、LS3/5Aを組み合わせて楽しまれている記事を書かれている。

キャスター付きのサイドテーブルの上に、LS3/5Aとコンサイスコンポ一式と、
たしか同時期に出ていたLPジャケットサイズのアナログプレーヤーSL10もふくめて
置かれていた写真を、こんなふうに音楽が楽しめたらいいなぁ、と思いながら眺めていた。

コンサイスコンポは、A4サイズのコントロールアンプ、パワーアンプとチューナーがあり、
どれも厚みは5cmくらいだったはず。
パワーアンプはスイッチング電源を採用することで薄さを可能にしていた。

手元にその号がないのでうろ覚えの記憶で書くしかないが、
黒田先生は、気分や音楽のジャンルに応じて、サイドテーブルを近づけたり遠ざけたり、と
メインシステムでは絶対にできない音楽の聴き方をされていた。

コンサイスコンポ・シリーズのスピーカーも発売されていたが、
黒田先生はLS3/5Aと組み合わされていたのが、この、音楽を聴くスタイルにまたフィットしているし、
省スペース・小型スピーカーだからこそ、活きるスタイルだと思う。

セレッションのSL6の登場以降、小型スピーカーの在りかたは大きく変化していったいま、
LS3/5Aに代わるスピーカーがあるだろうか。

Date: 10月 21st, 2008
Cate: BBCモニター, LS3/5A, サイズ, 瀬川冬樹

サイズ考(その8)

左右のスピーカーと自分の関係が正三角形を形造る、いわゆるステレオのスピーカーセッティングを正しく守らないと、このスピーカーの鳴らす世界の価値は半減するかもしれない。そうして聴くと、眼前に広々としたステレオの空間が現出し、その中で楽器や歌手の位置が薄気味悪いほどシャープに定位する。いくらか線は細いが、音の響きの美しさは格別だ。耐入力はそれほど強い方ではない。なるべく良いアンプで鳴らしたい。
     ※
ステレオサウンド 43号に、瀬川先生はLS3/5Aについて、こう書かれていた。

一辺が1m未満の正三角形のセッティングで聴くLS3/5Aの音は、まさにこのままで、
ミニチュアの音像が見えるかのように定位する箱庭的世界は、他のスピーカーでは味わえない。

ただしウーファーのフラつきは絶対に避けるべきで、その意味ではCDになり、
より安定した音が容易に得られるだろう。
井上先生はQUADのパワーアンプ405との組合せを推奨されていた。
405は、あまり知られていないが巧みな低域のコントロールを行なっている。
小出力時はそのままだが、ある程度の出力になると、低域を適度にカットオフしている。
だからこそ、当時の技術で、あのサイズで、100W+100Wの出力を安定して実現できていた面もある。
この特性こそ、LS3/5A向きと言えよう。

私がこれまで聴いたなかで、強烈だったのが、GASのThaedra(ティアドラ)で鳴らした音だ。
ティアドラはコントロールアンプだが、ラインアンプの出力は、
8Ω負荷で約数W(うろ覚えだが3Wだったはず)をもつ。しかもA級動作で、だ。
スピーカー端子はないから、RCAプラグにスピーカーケーブルをハンダ付けして聴くことになる。

そこそこの音で鳴るかな、という期待は持っていたが、それを大きく上回る、
新鮮で、楽器固有の艶やかな音色を、過不足なく描写する。
LS3/5Aの線の細さが薄れるのは、人によって魅力がなくなったと感じるかもしれないが、
それ以上の瑞々しさに聴き惚れてしまう。気になるボケが感じられない。

ティアドラのラインアンプの出力は、トランジスターのエミッターからではなく、
コレクターからとり出している。このことも効いているのかもしれない。

Date: 10月 21st, 2008
Cate: BBCモニター, LS3/5A, サイズ

サイズ考(その7)

LS3/5Aに搭載されているウーファーのKEFのB110は、
1970年代、ステレオサウンドから出ていたハイファイステレオガイドをみると、
スコーカーのページに掲載されていた。
ハイファイステレオガイドは、編集部での校正だけでなく、
国内メーカーや輸入商社に取扱い製品のチェックも依頼しているので、
校正ミスでスコーカーに分類されているわけではない。

スコーカーだが、小口径ウーファーとしてなんとか使えそうな特性も持っているユニットと捉えた方が、
LS3/5Aを理解するうえではいいかもしれない。

アナログディスクがプログラムソースの主役だったころからLS3/5Aを鳴らされている人なら、
LS3/5Aは近距離で聴いてこそ魅力を発揮するスピーカーだと感じとられていると思う。

CDが登場して、サブソニックの発生がなくなったこと、
それにLS3/5Aのネットワークが新型(11Ω)になったことも関係しているのか、
以前にくらべると、ある程度パワーを入れても不安さを感じさせなくなった。

そのためかだろうか、いまどきの小型スピーカーと同じように、
左右、後ろの壁から十分に距離をとり、聴取位置もそれほど近くない設置で聴いて、
短絡的に評価をくだし、ネット(掲示板や自身のサイト)に書いてあるのを読んだことがある。

LS3/5Aが、箱庭的な描写力で聴き手を魅了するのは、
手を伸ばせばLS3/5Aに届くぐらいの近い位置、1m以内の近接位置で聴いてこそ、である。
ほとんどヘッドフォン的な聴き方に近い。