真空管アンプの存在(その3)
前にも書いているが、LX38はスペンドールのBCIIとの組合せで聴いた。
五味先生が書かれている、倍音の美しさに関しては、販売店でのイベントということもあって、
実を言うとそれほど感じられなかったが、音の湿りけには魅了された。
音の湿度感は、私にとってけっこう重要というか、乾き切った音は生理的に苦手なところがある。
例えが古いが、エンパイアの4000D/III(カートリッジ》は世評も高いし、
他のカートリッジでは聴けない、見事な乾きっぷりは、ドラムの音や打楽器の爽快感を体感させてくれ、
その魅力は理解できるし、そのためだけにお金が余裕があったら欲しい、と思っても、
4000D/IIIで、私が聴きたい音楽のすべてを聴きたいとは思わない。
断っておきたいのが、音の湿度感の感じ方、捉えかたは、
人によってずいぶん違うことを経験している。
私は4000D/IIIの質感を乾いている、乾き切っていると感じるが、
そんなことはいちども感じたことがはない、という人もいる。
反応の鈍い音を、湿りけをおびた音とネガティヴな意味で使う人もいる。
人の声を聴いた時の、口やのどの湿り、弦楽器の陰の部分の、ほのかな暗さ、
そういうものを無視したかのような音が、私にとっての乾いた音である。