Archive for category テーマ

Date: 10月 19th, 2013
Cate: フルレンジユニット

シングルボイスコイル型フルレンジユニットのいまにおける魅力(その5)

音像に関して、自分でも少し気にしすぎではないかと思うくらい気になる時はすごく気になる。
四六時中そうではなくて、あまり気にならなくなるときもある。
けれど、どちらかといえば、気になる(気にする)方だと思う。

なぜ気になるのか、と自問すれば、
これは別項「EMT 930stのこと」でも書いているように、
再生音に関して、できるだけ不安定さをなくしていきたいと思っていることと深く関係しているようだ。

とにかく音楽に没頭したい、
音のことを気にせずに没頭するために、まず私が求めているのは音の安定なのだ、と気がついた。
音の安定があるからこそ、こまやかな音の表現は可能になるし、
脆い、儚げとでも表現したくなるような音を、腫れ物に触るように愛でる趣味は、基本的には私にはない。
そんな音を、繊細な音だと曲解・誤解することも、もうない。

そんな音を愛でていくのもオーディオの趣味のありかたとして理解はできても、
そういう音では、私が聴きたい音楽を鳴らすことはできない、とわかっているし、
そんな音を愛でることと、繊細な音とすることとは同じことで決してない。

見せかけだけの、上っ面だけの繊細さは、私はいらない。
だから音の安定を求めてやまない。

Date: 10月 19th, 2013
Cate: audio wednesday

第34回audio sharing例会のお知らせ(瀬川冬樹氏のこと・再掲)

11月のaudio sharing例会は6日(水曜日)である。
翌7日は、瀬川先生の命日であり、33回忌となる。

だから、前日6日のaudio sharing例会では、
私が所有している瀬川先生の未発表原稿(未完原稿)、
デザインのスケッチ画、かなり若いころに書かれたある記事のプロットといえるメモ、
瀬川先生が考えられていたオーディオ雑誌の、いわば企画書ともいえるメモ、
その他のメモなどを持っていく。

これらはいずれきちんとスキャンして公開していくつもりだが、
原稿、メモ、スケッチそのものを公開するのは、この日(11月6日)だけである。

時間はこれまでと同じ、夜7時からです。
場所もいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 10月 18th, 2013
Cate: ショウ雑感

2013年ショウ雑感(その5)

晴海で行われていたころのオーディオフェアは一週間ほどの期間だったし、
会場も広く人もほんとうに多かった。

来場者が多いのはあらかじめわかっていたことではあったけれど、
オーディオに関する催物で、これほど人が集まるのか、と、
数カ月前までの田舎では想像できない人出の多さに嬉しさを感じながらも、
人が半分くらいだったらいいのに……、とも思っていた。

とにかくはじめてのオーディオフェアだった。
それまではオーディオ雑誌の記事を読むだけだったオーディオフェアに来ている。
前年までステレオサウンドからは、オーディオフェアの増刊号を二回出していた。
二冊とも購入していた。
一冊まるごとオーディオフェアだから、オーディオ雑誌の記事よりもずっと写真も文章も多い。
一回のオーディオフェアで一冊の増刊ができていたのが、当時のオーディオフェアだった。

もしかすると元気になられて、
瀬川先生がオーデックスのブースでロジャースのPM510の試聴をやられるかもしれない──、
そんな期待ももって会場に着き、歩きまわっていた。

Date: 10月 18th, 2013
Cate: 「スピーカー」論

トーキー用スピーカーとは(その1)

いまでも高値で売買されているウェスターン・エレクトリックのスピーカーは、
トーキー用として開発されて実際に劇場で使われてきた。

アメリカにウェスターン・エレクトリックがあれば、
ドイツにはクラングフィルム(シーメンス)があり、
イギリスにはロンドン・ウェストレックスがあった。

映画用のスピーカーと書かずに、トーキー用とするのは、
アンプとの関係性において違いがあるからである。

いまでは大出力アンプといえば、いったいどのぐらいの出力より上をいうのだろうか。
いまや100Wの出力は大出力(ハイパワー)とはいわない。
200Wでも300Wでも、いわないのではないだろうか。
500Wを超えると、さすがに大出力という感じがしてくるし、
1000Wを超えると、大出力(ハイパワー)! ということになる。

これだけの出力が得られる時代だから、
スピーカーの能率は、昔ほど重要視はされなくなっている。
高い音圧が必要ならば、耐入力とリニアリティに優れたスピーカーを、
大出力のパワーアンプで駆動すればいいからだ。

だがトーキー時代には、アンプは真空管によるもので、出力は10Wあれば大出力だったこともある。
一桁の出力のアンプもあった時代だ。

この時代のスピーカーには、だから高い能率(出力音圧レベル)が求められる。
10W程度のアンプでも、劇場いっぱいに満足できる音を出さなければならないのだから。

トーキー用スピーカーは、だから大型で能率が高い。
100dB/W/mを超えるモノばかりである。

Date: 10月 17th, 2013
Cate: オーディオのプロフェッショナル

こんなスピーカーもあった(その3)

ステレオサウンド 57号にテクニカルノートという連載がある。
前号から始まった企画である。
57号では長島先生がマッティ・オタラにTIM歪、NFBのことについてインタヴューされている。
その他に、編集部によるテクニクスとビクター、サンスイのエンジニアへのインタヴューも載っている。

57号のテクニカルノートは、いずれもNFBに関する内容である。

このころ、テクニクスはリニアフィードバック、
ビクターはピュアNFB、サンスイはスーパーフィードバックという技術をそれぞれ開発して、
NFBという古くからの技術を、当時の現代技術によって見直している。

これらの詳細については、ここでの話とは関係ないが、
それでもここで話題にしているのは、テクニクスのインタヴューの中に、
ここでのことと関係しているエピソードが出てきていて、
それを読んだ時(1980年)、エンジニアとはそういうものなのだと感心したからである。

その部分を引用しておく。
     *
──リニアフィードバック(LFB)回路はテクニクスのオリジナルですか。
テクニクス これにはエピソードがあるんです。私どもに28歳の若い技術者がおりまして、あるとき彼が、もう裸特性の追求にも行きづまりがきたということで、このLFBのアイデアを出したんです。それでは彼のアイデアでやってみようということで、ちょうどSE−A5を出来ていたので急きょA5にこのLFBを搭載したわけです。そうしたら、クォリティが俄然上ったんですね。価格は安いけれどもA3のクォリティが得られたということで、一応満足したわけです。それで、一応特許関係を出そうということで調べたんですが、出るわ出るわ、そういう関連の特許が山ほど出てきたんです。アンプに詳しい数人の方からも、それに似た回路は二十数年前にもあったよ、というお話を伺いました。
 担当者にしてみれば、そういうベースなしにたどり着いたわけですから、「やった」と思ったんでしょうね。ところが、そういうわけで「ショボン」としてしまいました。
 確かに、20年ほど前の真空管アンプ時代に、無限大フィードバックの手法があります。しかし、実現はしなかったようです。クリップした時に発振してしまうので、みんなおやめになったようですね。
 ですから、オリジナリティがあるかといわれたら、基本的にはありません。しかし、アイデアはいただきましたが、実現したのはテクニクスの技術です。単にPFBを初段にかければいいというわけにはいきません。実現させるためのテクニックがいるのです。
     *
この事例はテクニクスに限ったことではないはずだ。
どのメーカーでも同じのはずであり、プロのエンジニアとして当然のこととしてなすべきことなのだから。

だが、そうでない人がいることを、
ステレオサウンド 57号を読んだ時からずいぶん経ってから知った。

Date: 10月 16th, 2013
Cate: オーディオのプロフェッショナル

こんなスピーカーもあった(その2)

昔、日本のスピーカーに、松ぼっくりをエンクロージュア内部に取り付けたスピーカーシステムがあった。
そのことは以前書いている。

今日、twitterを見ていたら、
道端に落ちている松ぼっくりを見て、同じようにエンクロージュア内の音の拡散に有効なのではないか、
とひらめいた、というツイートを目に留まった。

その人は炭化した松ぼっくりがいいのではないか、ということも書かれていた。
炭化した松ぼっくりは実際に売られていて、簡単に入手できる、とのこと。

このツイートをした人は、松ぼっくりを入れたスピーカーが、
過去に存在していたことを全く知らなかった人で、それでも松ぼっくりの形状を見ていて、
ひらめいた、ということだった。

この人はオーディオのアマチュアの方である。
つまりオーディオで収入を得ている人ではない、という意味でのアマチュアという表現である。

松ぼっくりを入れたスピーカーが存在していたのは、ずっと昔である。
私が井上先生から、その話をきいたのがすでに30年近く前のことで、
その時点で、井上先生は、昔はなぁ、といわれていたから、そうとうに前のことである。

人はこんなふうに同じことを発想することがある。
まったく何のつながりもない人が、同じことを発想する。

オーディオのアマチュアだからこそ、松ぼっくりを見てひらめいて、
まだ実際には試されていないけれども、
もし結果が良かったから、またツイートされるのかもしれない。
他にも同じことを考えている日とがいても不思議ではない。
その人も結果がよければブログなり、ウェブサイトで書かれるかもしれない。

こういうことができるのは(許されるのは)、アマチュアだからである。

これがメーカーのエンジニアならば、そうはいかない。
彼らはオーディオで収入を得ている、いわばプロフェッショナルである。

そのプロフェッショナルが、ここでの例と同じようにあることを発想したとしよう。
それが純然たる、その人自身の発明、発想であっても、
過去に同じ例がなかったのか、調べる義務がメーカーのエンジニアにはある。

Date: 10月 15th, 2013
Cate: 数字

100という数字(WIN LABORATORIES SDT10)

ウイン・ラボラトリーズというカートリッジメーカーがあった。
ステレオサウンド 43号に広告が載っていた。
当時は菅原商会というところが輸入元になっていて、その後別のところに変ったと記憶している。

ウイン・ラボラトリーズのSDT10というカートリッジに関する資料は少ない。
43号に掲載された菅原商会の広告の文章、
それにインターネットで検索して得られることぐらいである。

SDT10の型番は、Semiconductor Disc Transducerの略であり、
型式としては、Semiconductor Strain Gaugeとなっている。
半導体型のカートリッジと理解していいはずだ。

だからPOWER SOURCEと名づけられた外部電源を必要とする。

詳細についてあまりわかっていない。
実物をみることはできなかった。
いったいどれだけ日本に輸入されたのかもわからない。

でも、聴いてみたかったカートリッジのひとつであり、
いまも機会があればぜひとも聴いてみたい、と思い続けている。

SDT10はかなりの高出力型である。
たしか500mVで、負荷インピーダンスは500Ωとなっていた。
SDT10の出力電力は0.5mWとなる。

桁違いの出力電力の大きさである。
SPU-Synergyにしてもマイソニックの一連のカートリッジにしても、単位はnW(ナノワット)だった。
SDT10はmW(ミリワット)である。

オルトフォンのSPU-Synergyよりも、マイソニックのカートリッジよりも圧倒的に高い出力電力ではあるが、
オルトフォン、マイソニックのカートリッジが磁界中のコイルを動かして発電しているのに対し、
SDT10は発電をして、これだけの高出力電力を得ているわけではない。
あくまでも外付けの電源から供給されるバイアスを変調させているのだから。

とはいうものの、イコライザーアンプも原則として必要としない振幅比例型で、
しかも高出力ということでライン入力、ボリュウムつきならばパワーアンプに直結もできる。

SDT10は出力の高さから高効率といえるけれど、発電という意味ではない。
同じ高効率でも発電しての高効率との音の出方の違い、表現の違いがあるのかどうか。
そして高効率ということに共通する良さが、SDT10にもあるのかどうか──、
こうやって書いていると、一度でいいから聴きたいという気持はますます強くなってくる。

Date: 10月 14th, 2013
Cate: ショウ雑感

2013年ショウ雑感(その4)

1981年春から東京で暮すようになった。
とにかく楽しみにしていたのは、瀬川先生に会える機会が圧倒的に増えることであった。

けれど体調を崩されていた瀬川先生の、メーカーのショールームでの定期的なイベントはなかった。
だからこそオーディオフェアを、心待ちにしていた。

オーディオフェアが近づいてきたころに出たオーディオ雑誌には、
フェア期間中のイベント(試聴会)の案内が載っていた。
瀬川先生は、当時ロジャースの輸入元であったオーデックスのブースでやられる。
しかもPM510の試聴である。

これだけは万難を排してでも、と思って楽しみにしていた。
まだフェアまでは二ヵ月ほど待たなければならなかった。

フェアの直近に出たオーディオ雑誌を見た。
なぜかそこには先月号まではあった瀬川先生の名前がなかった。
どうしたんだろう……、また体調を崩されたのか……、とおもうとともに、
瀬川先生に会える機会がなくなったことにがっかりしていた。

瀬川先生に会えるはずだったオーディオフェアが、私にとってはじめてのオーディオフェアになった。

Date: 10月 14th, 2013
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(ヒンジパネルのこと・その4)

ヒンジパネルのオーディオ機器というと、
資料も何もみずに記憶だけに頼ると、思い出すのは日本のオーディオ機器が大半である。

ヒンジパネルを採用したオーディオ機器は、どれが最初なのかについてはきちんと調べていない。
なのであくまでも私の記憶にあるものだけという条件がついてのことになってしまうが、
JBLのコントロールアンプ、SG520は、早い時期からヒンジパネルを採り入れたデザインであった。

SG520以前に登場したオーディオ機器で、ヒンジパネルのモノはあるのだろうか。

SG520は1964年に登場している。
私はまだ一歳だったから、SG520の登場が与えた衝撃については、文字の上だけで知っているだけである。
瀬川先生も書かれているし、菅野先生も書かれている。

菅野先生がステレオサウンド 50号に書かれた文章を引用しよう。
     *
JBLは、元来一般家庭用の最高級機器のメーカーであって、その卓抜のデザイン感覚によるハイグレイドなテクノロジーの製品化に鮮やかな手腕を見せてくれてきた。このSG520というコントロールアンプは、そうしたJBLの特質を代表する製品の一つで、アンプの歴史の上でも重要な意味を持つ製品だろう。このアンプが作られたのは一九六四年、もう15年も前である。ソリッドステート・コントロールアンプならではの明解・繊細なサウンドは、管球式アンプの多くがまだ現役で活躍していたときに、大きな衝撃を与えたものだ。それまでのソリッドステートアンプは、管球式に対して常に欠点を指摘され続けていた時代であったように思う。おそらく当時、その新鮮なサウンドを、違和感なく魅力として受けとめられた石のコントロールアンプは、このSG520とマランツの7Tぐらいのものだったであろう。そして、その音は現在も決して色あせない。事実、私個人の常用アンプとして、音質面でもSN比の面でさえも、最新のアンプに席をあけ渡さないで頑張っているのである。当時のアンプとしては画期的といえる斬新なデザインは、パネル面に丸形のツマミをツマミを一切持たず、すべて直線的なデザインだ。コンピューターエイジの感覚を先取りした現代センス溢れるものだけに、今でも古さは全く感じさせない。
     *
SG520の衝撃は、音とともにデザインでの斬新さ・新鮮さにあったことが読みとれる。

Date: 10月 14th, 2013
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(ヒンジパネルのこと・その3)

ヒンジパネルには、その形状、大きさ、配置によって、
大きくふたつに分けられるわけだが、
このふたつにはもうひとつの違いがある。

開けた時のサブパネルの扱いの違いである。

一般的にオーディオ機器に多いシヒンジパネルのタイプは、
フロントパネルの下部に横幅いっぱいのタイプである。

このタイプでは開いた状態で、サブパネルは、いわば垂れ下ったままである。
垂れ下った、という表現は使っていて、あまりいいとは感じていないけれど、
だらしなく斜め下に向っている状態は、
口を開けた状態にも似ているし、何かが垂れ下っている感じにも似ていて、好ましいとは思わない。

これに対して、ヤマハのCT7000、オーレックスSY77に採用されているタイプは、
サブパネルが本体内部に収納される。
完全に収納されてしまうと閉じる時に面倒になるから、
閉じる際につかみやすい(指でおしやすい)ように収納される。
とにかくサブパネルがだらしなく垂れ下っているわけではない。

この開いた状態のサブパネルの扱いの違いは、ささいなことかもしれないが、
デザインの面からみれば、デザイナーの美意識の違いともいえる、と思っている。

Date: 10月 13th, 2013
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(ヒンジパネルのこと・その2)

たまたま例として挙げたパイオニアのExclusive F3とヤマハのCT7000だが、
ヒンジパネルといっても、このふたつのチューナーではヒンジパネルの扱い方に違いがある。

一般的にヒンジパネルといえば、Exclusive F3のタイプということになる。
つまりフロントパネルの下部に、横幅いっぱいに設けられている。
この手のヒンジパネルは高さはあまりないのも特徴だ。
そのため閉じた状態では、オーディオに関心のない人がみれば、
そこが開いて中にツマミやボタンがあるとは思わないかもしれない。

CT7000のヒンジパネルは少し違う。
CT7000と同じヒンジパネルのオーディオ機器として、
オーレックスのコントロールアンプSY77がある。

横幅はExclusive F3タイプとは違い、短くなる。
その分高さが増していて、その配置も違ってくる。
そして閉じた状態でも、はっきりとそこにサブパネルがあることを使い手にわからせるようになっている。
誰がみても、そこが開くようになっていると思わせるデザインといえる。

中学、高校時代に、あれこれオーディオ機器のスケッチをしていたことは何度書いているとおりである。
欲しいオーディオ機器のスケッチだったり、自分で考えたオーディオ機器のスケッチだったりしたわけだが、
もちろんヒンジパネル付のコントロールアンプのスケッチも描いていた。

私が描いたヒンジパネルは、CT7000、SY77タイプだった。
理由はいくつかあって、大きな理由は薄型のコントロールアンプの場合、
Exclusive F3タイプのヒンジパネルは難しいから、ということだった。

Date: 10月 13th, 2013
Cate: ショウ雑感

2013年ショウ雑感(その3)

オーディオフェアにも、メーカーのショールームにも足を運ばなかった、その人はこういう。
「人の多いところは苦手だ、極力そういう場所は避けたい」
「フェアやショールームで音を聴いたところで、満足に鳴っていた試しがない」

人の多いところが積極的に好き、という人の方がむしろ少ないのではないだろうか。
誰だって人いきれのするところにできれば行きたくない。私だってそうだ。

それでも、そこに行くことで会いたい人に会えるのならば、行くというものだ。
だから、熊本に住んでいた時、片道約一時間バスに揺られて熊本の中心地にまで出て、
それから20分ちかい距離を歩いて、瀬川先生が定期的に来られていたオーディオ店に行っていた。

中心部からオーディオ店までバスももちろんあったけれど、
高校生の小遣いは限られたものだから、少しでも節約したかったから歩けるところは歩いていた。

そういうところにいた私からすると、
東京はなんと交通の便のいいところだろう、と感じていた。

私が熊本にいたころの、そのときの移動距離にかかる時間も短く、
電車も頻繁に来るから時刻表を確かめておく必要もない。
それにかかる費用も、ずっと安い。

それでも行っていたのは、瀬川先生に会えるからである。

Date: 10月 13th, 2013
Cate: 数字

100という数字(補足)

MC型カートリッジで、出力電力が100nWを超えているのはオルトフォンのSPU-Synergyであり、
その出力電力の高さを超えるものは現れないだろう、と書いた後に、
マイソニックのカートリッジの存在を忘れていたことに気づいた。

マイソニックのMC型カートリッジは、
Webサイトのトップページ
「Source(ソース)インピーダンスは低く、出力エネルギーは高く!」と表示されているように、
どのモデルもインピーダンスは確かに低く、出力電圧を二乗して、インピーダンスで割った値は100nWに達する。
出力電力の高いMC型カートリッジばかりである。

マイソニックのことを忘れていたのは、うっかりでもあるし、
マイソニックのカートリッジを聴く機会がなかったこともある。

オルトフォンのカートリッジは、私にとって最初のMC型はMC20MKIIだったし、
その後もいくつものオルトフォンのカートリッジは聴く機会があった。
いわば馴染みのあるカートリッジのブランドであり、存在だから、
カートリッジに関することを書く時でも、すぐに頭に浮んでくる。

マイソニックのことを忘れていた(というよりも頭になかった)のは、そのためである。

マイソニックのカートリッジ、
どういう音を聴かせるカートリッジなのだろうか。

Date: 10月 13th, 2013
Cate: ショウ雑感

2013年ショウ雑感(その2)

現在のオーディオ・ホームシアター展がオーディオフェアと呼ばれていたころ、
オーディオ雑誌でオーディオフェア開催の記事を読むたびに、
東京および東京近郊に住んでいる人はいいなぁ、と思っていた。

熊本と東京では遠すぎる。
学生が小遣いを貯めてオーディオフェアに行ける距離ではない。

とにかく東京で暮らすようになったらオーディオフェアに行く、
10代のころ、そう思っていた。

それに東京はオーディオフェアだけではない。
メーカーのショールームもいくつもある。
そこでは定期的なイベント(試聴会)が行われていて、
このことも地方に住むオーディオマニアにとっては、羨ましいかぎりだった。

東京にずっと住んでいる人にとっては、それが当り前のことであって、
特にありがたいこととは思っていないのかもしれない。

たとえば瀬川先生のファンの人で、
東京生れ、東京育ちにも関わらず、
オーディオフェアにもメーカーのショールームにも行ったことがない、という。
それも、どこか誇らしげに、である。

そんなところには、私は行かない──、そんな人がいた。

行く行かないは、その人の勝手だから、私がとやかくいう筋合いのことではないのだが、
その人が不思議なのは、瀬川先生に会えなかったことを悔しがっていたことだ。

なぜなの? と私は思っていた。
オーディオフェアでも瀬川先生は講演を何度もやられていたし、
ショールームでもいくつかのところで定期的にイベント(試聴会)をやられていた。

その人が住む東京で、これらは開かれていたにも関わらず、
その人は一度も行かずに、瀬川先生が亡くなられてから、
会えなかった……、と悔しがる、その心境が正直理解できなかった。

その人は、簡単に会場まで行けば、そこで瀬川先生と会うことができたにも関わらず、
自分の意志で一度も行かなかったのだから。

Date: 10月 12th, 2013
Cate: 数字

100という数字(その4)

SPU-Synergyは磁気回路にネオジウムマグネットを採用している。

実は、この点もSPUシリーズの乱発とともに気にくわなかったところでもある。
ネオジウムマグネットが強力であることは、
スピーカーユニットに搭載されていることでも知ってはいても、
なんとなく「ネオジウムマグネットは優れた磁石です」という謳い文句を素直に信じられない。

どんな物質にもメリット・デメリットがあるわけだから、
ネオジウムマグネットの良いところばかり喧伝されているのを目にしてしまうと、
なんとなく眉に唾をつけてしまいたくなるところがないわけではない。

そんなわけで、SPU-Synergyの出力電力を計算してみたのは、
登場から一年以上は経っていた、もっとだったかもしれない。

0.5mVの二乗を2Ωで割る。
その値は125nWとなる。

出力電力100nWを超えるカートリッジが、オルトフォンから登場した。
しかもSPUシリーズの中からである。

99nWではなく100nWをはっきりと超えているどころか、
SPUの41.66nWの三倍以上の出力電力という高効率である。

電卓があれば数秒で終る計算なのに、SPU-Synergyが登場した時にやらなかった。
計算していれば、SPU-Synergyに対する見方もずいぶん変っていた。
登場時に気づけたはずのことを、一年以上経ってから気がつく。
何事も先入観はよくない──、このことをあらためて思い知らされた。

今後も、この100nWを超える出力電力は破られないだろう。

SPU-Synergyは、幸いいまも現役のSPUである。
まだまだこれから先も、SPU-Classicとともにずっと作り続けてほしいSPUであるし、
JBLのD130のパートナーとして考えているカートリッジが、このSPU-Synergyである。

高効率同士の変換器の組合せから得られる「音」がきっとあるはずだと信じているからだ。