Archive for category テーマ

Date: 8月 29th, 2020
Cate: 数字

300(その10)

オーディオの世界において、
300Wという出力は、スーパーカーの300km/hという速度と同じ意味あいをもっていた時期があった。

ほかの人はどうなのかはわからないが、
中学生、高校生のころの私には、
300Wと300km/hは、それぞれの領域での、その時点での突破すべき数値であった。

それにしても、なぜ300? なのか。
そういえば、オーディオの世界での、有名な300といえば、
ウェスターン・エレクトリックの300Bがある。

300Bは、いうまでもなく、真空管の型番である。
300Wや300km/hとは、もともと違っている。

それでも300なのである。
ウェスターン・エレクトリックの真空管の型番は、
開発時期、登場時期によってつけられているといっていいだろう。

これは、特別に優れた真空管だから、特別な型番にしよう、といった、
オーディオ機器の型番のつけ方ではない。

にも関らずの300である。
300Bが、ほかの型番だったら。
たとえば400Bとか200B、
そんなキリのいい数字ではなかったら、300Bという真空管の印象は、
まったく影響を受けないのだろうか。

300Bはアメリカの真空管だから、
300Bの読みは、スリーハンドレッド・ビーかスリー・オー・オー・ビー、
スリー・ゼロ・ゼロ・ビーのどれかだろう。

日本では、三百B(さんびゃく・びー)である。
ウェスターン・エレクトリックのほかの真空管は、
350Bだとサン・ゴー・マル・ビーと読む。
349Aもサン・ヨン・キュー・エーである。

300Bを、これまでサン・マル・マル・ビーとかサン・ゼロ・ゼロ・ビー、
こんなふうに読んだ人は、少なくとも私の周りには一人もいない。

300Bだけ、三百Bである。

Date: 8月 28th, 2020
Cate: audio wednesday

第115回audio wednesdayのお知らせ(夏の終りに)

9月5日のaudio wednesdayでは、タンノイ・コーネッタを鳴らす。
コーネッタで「CHET BAKER SINGS」がどう鳴ってくれるのか。

喫茶茶会記のアルテックでは、これから先、いつでも聴けるけれど、
コーネッタでの「CHET BAKER SINGS」は、今回限りとなる。

場所はいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

19時開始です。

Date: 8月 28th, 2020
Cate: 書く

毎日書くということ(親指シフトキーボードのこと)

1999年末に、audio sharingをつくろうとおもった。
それから20年。

Mac本体は変ってきた。
周辺機器もそうだ。

けれどキーボードだけは、1999年12月に購入したRboard Proを使い続けている。
キートップを外して、内部清掃もやっているが、
そろそろ寿命が近づいてきているかな……、と感じていた。

Macで親指シフトキー入力をする方法はいくつかある。
すべてではないが、評判のいいのはいくつか試した。
それでもRboard Proでの入力から離れられないままの20年間だった。

Rboard Proが壊れても修理は無理である。
どうしようもなくなったら、このブログを書くのをやめることになるかも……、と考えていた。
しかも、それはそう遠くないうちにやってくるだろうな、と思っていた。

富士通も親指シフトキーのサポートをやめてしまう。
親指シフトキーボードのいいモノが、これから先新製品として登場することは、まずない。
いま使っているRboard Proの寿命は、あと十年もつのか。
数年なのか。

次の日本語入力をどうするのか考えなければ……、と思いつつも、
40年近くつきあってきている親指シフトの快適さは、何者にも変え難い。

Rboard Proはかなり以前に製造中止になっている。
先日、ふと思いついてヤフオク!で検索してみたら、
Rboard Proが出品されていた。

写真をみる限り、未使用品のようだ。
価格は、二万円近い。
いまどきのキーボードの価格からすれば、高いということになるが、
Rboard Proは、1999年当時、五万円ほどしていた。

入札したのは私一人だった。
今回手に入れたRboard Proが、20年もってくれれば、もう十分である。

Date: 8月 27th, 2020
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その25)

「聴感上のS/N比がよくなるって、どんな感じですか」と問われたことが数回ある。
音を鳴らしている場であれば、実際に音を聴いてもらえば、わかってもらえるかもしれない。

何度聴かせても分かってもらえない人がいることも、体験上知っている。
時に言葉で説明した方が伝わることがないわけでもない。

おかしいなことだ、と思うところもあるが、結局のところイメージの問題なのかもしれない。
訊いてきた人のなかに、まったくイメージがなければ、
音を聴いてもらってもダメなことなのかもしれない。

そしてイメージのきっかけでも与えることができれば、
音を聴いてわかってもらえるようになる。

オーディオでは、昔から、百読は一聴に如かず、という人がいる。
オーディオ評論家が書いたものをどれだけ読んだところで、
一回音を聴いたほうがよくわかる的な使われ方がされるし、
絶対的な感じで、これをいう人もいる。

聴いた方がはやい、という場合は確かに多い。
でも、上に書いているように、必ずしもそうでないこともある。
そのことをわかんていない人ほど、百読は一聴に如かずを使いたがる。

そしてオーディオ評論家不要論を、そのあとに続ける。
そんな人はどうでもいいのだけれど、
「聴感上のS/N比がよくなるって、どんな感じですか」という質問に、
前回書いたもやしのヒゲのことを答えたことがある。

ヒゲを取ったもやし炒めを食べてみれば、
聴感上のS/N比がよくなる、というどんな感じなのか、
そして雑共振が音に与える影響についての、なんらかのイメージは掴めるのではないだろうか。

ヒゲを取ってみたら、というと、決って返事は、
そんな面倒なことするんですか、である。

面倒なことかもしれないが、難しいことではない。
もやしのヒゲを取るだけである。
ただ本数が多いだけのことだ。

それなのに、やりもしないで、面倒だ、と決めつける人がいる。
もやし一袋のヒゲを取るのに、一時間くらいかかるのであれば、
私だってそんなにやらないし、人にすすめたりもしない。

でも、やってみると、そんなに時間はかからない。
くり返すが難しいことは何もない、このことをやらない人は、
アンプの自作はやらないほうがいい。

Date: 8月 26th, 2020
Cate: audio wednesday

第115回audio wednesdayのお知らせ(夏の終りに)

今週末から、ようやくツール・ド・フランスが始まる。
例年どおりだと7月の第一週の土曜日からの開催だったのが、今年はコロナ禍の影響で、
最悪中止なのかと思ったりもしたけれど、二ヵ月ほど遅れて開催となる。

自転車好きの私は、ツール・ド・フランスは夏の到来でもあり、
ツール・ド・フランスの最終日は、真夏ただ中であってせ、夏の終りというふうに感じてしまう。

9月のaudio wednesdayは、ツール・ド・フランスと重なる。
9月なのに、である。

一週間後も、まだまだ暑いはずだ。
それでも、もう夏の終りであり、
同時にツール・ド・フランスの開催によって夏の到来でもある、と個人的には感じている。

なので、9月のaudio wednesdayは、
そんな「夏」だからこそ聴きたいディスク、
誰かに聴かせたいディスクをテーマにしたい。

私はアストル・ピアソラの「Tango:Zero Hour」と、
チェット・ベイカーの「CHET BAKER SINGS」をもっていく予定。

「Tango:Zero Hour」はSACDで、
「CHET BAKER SINGS」はMQA-CD。

ジャズに明るい聴き手ではない私でも、「CHET BAKER SINGS」は聴いている。
どうやって、このディスクと出逢ったのかは忘れてしまったし、
頻繁に聴いているディスクでもないけれど、これから先もずっと思い出して聴いていくだろう。

MQAが聴けるようになって、e-onkyoで早い時期に検索した一つが、チェット・ベイカーだった。
「CHET BAKER SINGS」をMQAで聴きたいからだった。

チェット・ベイカーのMQAはあるけれど、
「CHET BAKER SINGS」はなかった。

ほぼ毎晩のように、e-onkyoの新譜をチェックしては、今回も出ないのか……、
そう思うのも慣れっこになっていた。

だから、9月2日にユニバーサルミュージックから、
ジャズのMQA-CDのラインナップに「CHET BAKER SINGS」を見つけた時の喜びは、
想像してもらうしかない。

「Tango:Zero Hour」は、暑い夏に聴きたい、と毎年のように思うディスクだ。

場所はいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

19時開始です。

Date: 8月 26th, 2020
Cate: ロングラン(ロングライフ)

定番(その9)

JBLのControl 1は、1986年ごろに最初のモデルが登場している。
現在はControl 1 PROである。

この間に何度かのモデルチェンジをしているし、
パワーアンプ内蔵モデルが登場した時期もあった。

つまり、それだけ売れているわけだ。

Control 1が登場した時は、ステレオサウンドにいた。
周囲の人たち、それもJBLのスピーカーを鳴らしている人たちの反応が、
どういうものなのかは知っていた。

私だって、その頃は、QUADのESLを鳴らしていたけれど、
4343への憧れはずっと抱いたままだったから、
Control 1登場のニュースは、複雑なものがあった。

この十年ぐらいで、JBLはずいぶん変った。
Control 1の登場が、いまのJBLにつながっているような感じを受けるし、
だからこそ、Control 1はPROとなり、いまも現行製品なのだろう。

4312が古くからの定番を引き継いでいる位置づけだとすれば、
Control 1は、はっきりといまのJBLの定番といえる。

Control 1 PROは、ペアで二万円前後である。
一ペアあたりの利益は小さいわけだが、
安価な製品だけに数は、かなり売れている、とみていいだろう。

おそらく安定して売れている製品だからこそ、
JBLは定番として、いまも製造している。

つまり定番をもつブランドは、ある程度の安定した収益が見込める。
定番をもっているからこそ、フラッグシップモデルの開発ができるし、そこに力を注ぎ込める。

冒険だって可能になる。

Date: 8月 25th, 2020
Cate: 日本のオーディオ

リモート試聴の可能性(その6)

なんらかの再生音を録音して、もう一度再生して聴くということは、
昔から行われていることでもある。

アクースティック蓄音器の音を録音してレコードにする、という企画は以前からあった。
いまもある。

この企画に否定的な人もいる。
SP盤の復刻ならば、そんなことをせずにダイレクトに電気信号に変換すべき、という意見である。

SP盤の復刻であっても、一つの手法に縛られる必要は、どこにもない。
アクースティック蓄音器で再生して、その音を録音する、というのも、
復刻の一つの方法である。

どちらが好ましいかは、きいた人が判断すればいい。
とにかく、再生音をマイクロフォンで捉えて、スピーカーを通して聴く、ということは、
なにもいまに始まったことではない。

ただ、そのことについてこれまでは、論議されることはなかったように思う。
それがここにきて、コロナ禍によるオーディオショウの中止が続き、
オンラインでのオーディオショウの開催も試みられている。

春のヘッドフォン祭も中止になったが、オンラインでは行われたし、
秋のヘッドフォン祭も中止なのだが、オンラインでの開催はある。

さらにAudio Renaissance Onlineという、
オンラインのオーディオショウが11月14日、15日に開催される。

Date: 8月 25th, 2020
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その24)

アンプの自作が初めて、という人にいいたいのは、
一時間自炊のすすめ、である。

これは伊藤先生から30年以上昔にいわれたことだ。
別項「伊藤喜多男氏の言葉」で書いている。

一時間自炊といっても、なにか特別なものを作って、ということではない。
特別な食材、高価な食材を用意しての自炊ということではない。
それこそ冷蔵庫の中にある食材を使って自炊、
近所の店で食材を買ってからの自炊である。

一度も自炊をしたことのない人が、
一流の高級料理店で出される料理をつくろうとするだろうか。

たぶんやらないだろう。
なのに趣味の世界となると、
オーディオの世界となると、
初心者がいきなり300Bのアンプを作ろうとしたりする。

それも高価な部品をたっぷりと使って、である。

趣味の世界だから、という一言で片づけてしまえるところもあるといえばある。
でも趣味の世界だからこそ、段階を踏んでこそ、ではないだろうか、と思う。

五極管で真空管アンプを作ってみよう、と思う人がいるかもしれない。
そういう人は、まず自炊をしてほしい。
ありふれた食材での料理から始めてみる。

たとえば肉ともやしの炒め物。
もやしは安価だし、特に難しいわけではない。

誰にでもできる料理といえば、たしにかそうなのだが、
変に凝る人は、味つけに変った調味料を使ったりするかもしれない。

そんなことをしてほしいのではなく、
ごく当り前の味つけであっても、炒める前にもやしのヒゲをきれいに取っていく。

一手間かけるだけである。
これだけのことなのだが、ヒゲを取ったのを味わうと、次からもそうしたくなる。

Date: 8月 24th, 2020
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その23)

初心者が真空管アンプを作りたい、というのであれば、
私は五極管のシングルアンプではなく、プッシュプルアンプをすすめる。

位相反転回路にP-K分割を採用すれば、真空管の数も抑えられる。
よほどまずい配線をやらないかぎり、ハムの心配もない。

シングルよりもプッシュプルのほうが、当然だが出力はとれる。
大型の出力管を最初から使わなくても、よほど低能率のスピーカーでないかぎり、
実用的な出力は、十分とはいわないまでも確保できる。

とにかくポピュラーな出力管を使ったほうがいい。
EL34もいい球だし、ラジオ球とバカにする人もいるようだが6V6もいい球だ。

これらの球ならば、インターネットで検索すれば、製作例はけっこう見つかる。
回路は自分で設計するのもいいが、最初は基本的な回路のほうがいい。

まずは一台をきちんと作ってからのことだ。
創意工夫していくにしても、もっと大がかり、本格的なアンプに挑戦するにしても、だ。

EL34、6V6のプッシュプルアンプでは、
《他人(ヒト)とは違うのボク》を満足させられないかもしれない。

だからといって、変に凝ったレイアウトにはしないほうがいい。
オーソドックスなレイアウトでやったほうがいい。

使用する部品に関しても、オーディオ用を謳っているモノは使わない方がいい。
信頼性のある部品を、まず使ってみることだ。

オーディオ用を謳っている部品のなかには、サイズがかなり大きかったりする。
このくらいのサイズなら……、と楽観しない方がいい。

極端に小さな部品も作業がしにくいが、大きい部品もけっこう苦労する。

こうやって書いていると、
ますます《他人(ヒト)とは違うのボク》を満足させるところからは遠ざかる。

それでいい、と私は考えている。
一台目の真空管アンプを、佇まいを多少なりであっても感じさせることができれば、
それで十分《他人(ヒト)とは違うのボク》であるからだ。

プリント基板は使わない方がいい。
初心者だからといって、プリント基板に頼ることだけは止した方がいい。

Date: 8月 22nd, 2020
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(オーディオ店にて)

ホームシアターも扱っているオーディオ店、二店舗に行ってきた。
どちらも店も、スピーカーの展示コーナーには、
各社のスピーカーシステムが所狭しと並べてある。

昔のオーディオ店もそうだったのだが、
いまごろ気づいたのか、遅いな、といわれそうなのだが、
まず感じたのはスピーカーのサイズが全体的に小さくなっている、ということ。

小型スピーカーの数が増え、
日本のオーディオの特徴的といえるサイズのブックシェルフ型は、ほとんどない感じだ。

それだけでなく、日本のスピーカーも少ない。
まったくないわけではないが、それでも、棚の大半をしめているのは、
海外製、それもヨーロッパのブランドの、小型スピーカーばかり、といっていいくらいだ。

プリメインアンプのコーナーは、日本製が大半だったのは、昔と同じなのに、
スピーカーに関しては、ここまで様変りしていたのか──、
その現状をそのまま受け止めるしかない。

たまたま寄ったところがそうだった可能性も考えられるが、
どちらも、名前をいえば誰もが知っている店舗である。

ペアで30〜40万円あたりまでのスピーカーシステムということになれば、
どこもこんな感じの展示になっているのではないのか。

だからといって、さびしいという感じは、特にない。
それにあと5年から10年先には、中国のオーディオ・ブランドのスピーカーが、
棚の大半を占めている可能性も高い、と考えられる。

Date: 8月 22nd, 2020
Cate: ロングラン(ロングライフ)

定番(その8)

企業にとっての定番と、
ユーザーから見ての定番は同じなのだろうか。

定番といえる製品は、その企業(ブランド)の、いわば顔といえるモノ、
そして、時代が変っても売れ続けるモノであろう。

たとえばJBLにとっての定番といえば、どれになるのか。
オーディオマニアからみれば、LE8Tだったり、D130、375といったスピーカーユニット、
パラゴン、オリンパス、ハーツフィールドといった家具的雰囲気をもつスピーカーシステム、
4320、4343、4350といったスタジオモニターシリーズあたりを思い浮べるのは、
50より上の世代だろう。

でも、ここに挙げたモデルは、ほんとうに定番といえるのか。
いえるのは、スピーカーユニットぐらいである。

LE8TにしてもD130にしても、ほかのユニットもながいこと現行製品だった。
つまりは売れ続けていたわけだ。

4343はたしかに、ペアで百万円をこえるスピーカーシステムとしては驚異的な本数が売れている。
それでも4343は、1976年秋ごろに登場し、1982年頃には4344になっている。

そうやって考えてみると、4312こそが定番なのかもしれない。
4310の時代も含めれば、そうとうにながい。

とはいえ4312になってからは、4310(4311)のスタイルを大きく変えてしまった。
それでも流れを受け継ぐモノとはいえる面もある。

JBLというブランドの定番だからこそ、
JBLは70周年記念モデルに4312を選んだ、ともいえる。

それでも……、と思うところも残る。
4310(4311)は、上下逆転のユニットレイアウトとともに、
30cm口径のウーファーはアンプとのあいだには、ネットワークが存在しない。
表からは見えないものの、この特徴こそが4310(4311)といえたのだが、
70周年記念モデル以降、ウーファーにローパスフィルターが入るようになった。

この変更点は、スピーカーシステムとしての完成度という点からではなく、
あくまでも定番といえるかどうか、という視点で捉えるならば、違う、と思ってしまう。

JBLの現在の定番となると、Control 1ではないだろうか。

Date: 8月 21st, 2020
Cate: カタチ

趣味のオーディオとしてのカタチ(その13)

スマートフォンからなのだろうか、
その分野の先端のモノに、スマート(smart)がつくようになったのは。

スマートフォンの次には、スマートスピーカーが登場した。
その次は、何が来るのだろうか。

スマートアンプ、スマートプレーヤーが登場してくるのかもしれない。
そしてスマートオーディオということになっていくのだろうか。

スマートオーディオとは、どういうものになっていくのかよりも、
スマートのかわりにつけるとしたら、何があるのか、だ。

スマートの反対語をつけたいわけではない。
オーディオというもの、スピーカーというもの、アンプというもの、
それらについて考えていくうえで、まずつけたいのは純粋である。

純粋オーディオ、純粋スピーカー、純粋アンプ、純粋プレーヤー。
純粋は英語ではpureだから、
オーディオ・ヴィジュアルが登場したころ、
区別するためにピュアオーディオといわれるようになった。

私は、あまりピュアオーディオといういいかたは好きではない。
オーディオですむことだから。

それでも、純粋オーディオとしてみるのは、
ピュアオーディオと同じことじゃないか、という指摘があるのはわかっていても、
ピュアオーディオといったときと、純粋オーディオといったとき、
さらに純粋スピーカー、純粋アンプといったときに、
あらためて純粋スピーカーとは、いったいどういうモノなのか、と考えるからだ。

言葉遊びではない。少なくとも私にとっては、そうではない。
純粋スピーカー、純粋アンプからイメージするスピーカー、アンプは、
どういうカタチをしているのか。

Date: 8月 20th, 2020
Cate: 戻っていく感覚

戻っていく感覚(「風見鶏の示す道を」その15)

「遠い」という感覚を、
もしかすると、「風見鶏の示す道を」から読みとっていたのかもしれない──、
そんなふうに思うことが、最近ふとおとずれる。

ステレオサウンド別冊「子コンポーネントステレオの世界 ’77」の巻頭、
黒田先生の「風見鶏の示す道を」を、13歳の冬、読んだ。

黒田恭一という人がどんな人なのかはまったく知らなかった。
知らなかったけど、「風見鶏の示す道を」をいろんなことを、
オーディオに興味をもったばかりの少年に、いろんなことを考えさせた、といえる。

行き先を知らぬ乗客と車掌の会話が、そこには描かれていた。
行き先を知らぬ乗客の手荷物は、レコードである。
彼が聴きたいレコードである。

彼は目的を知らない。
けれど、それが「遠い」ことはなんとなく感じていたのかもしれない。

「遠い」という感覚のことは、
「KK塾が終って……」の(その2)、(その3)と(その4)や、
「川崎和男氏のこと(その3)」に書いている。

26年前に、「遠い」という感覚が私のなかにうまれた、といえる。
「風見鶏の示す道を」を読んでから18年経っていた。

それでも、すぐに、「風見鶏の示す道を」と「遠い」という感覚が、
私のなかで結びついていったわけでもない。

それからまたけっこう年月が必要だったのだろう。
ここにきて、やっと結びついていくような気がしている。

Date: 8月 19th, 2020
Cate: ユニバーサルウーファー

電子制御の夢(ウーファーの場合・その3)

NFBをかけることでアンプの特性が改善される。
周波数特性、S/N比、歪率などが、NFBの量に比例するかのように改善される。

ある時期までは、安定して、どこまでNFBを深くかけられるかが、
高い技術のように考えられていた。

けれど、NFBを極端にかけたアンプは音が芳しくない、とか、
アンプの静特性よりも動特性のほうを重視しなければならない、とか、
さらにNFBのかけすぎによってTIMという歪が発生していることもわかってきた。

MFBの、この点はどうなんだろうか。
NFB同様かけすぎることで、TIM歪のようなものが発生しているのだろうか。
何も起っていないとは考えにくい。

私がMFBという技術を知ったころよりも、
インフィニティが製品化したころよりも、センサーに関してはずっと進歩している。

ボイスコイルの動作だけでなく、ウーファーの振動板の動きまでも、
MFBでコントロールしようと思えば、かなりのレベルで可能なはずだ。

それでもスピーカーが動かすのは空気である。
振動板が入力信号に応じて、完全なピストニックモーションをしてくれれば、
それでいい音が得られるのか。

振動板の前にある空気こそが、入力信号に応じて完全な疎密波になってこそ、
MFBの目的は達した、といえるはずである。

Date: 8月 19th, 2020
Cate: 老い

老いとオーディオ(若さとは・その5)

むき出しの才能、
むき出しの情熱、
むき出しの感情、
これらをひとつにしたむき出しの勢いがあってこそ、スピーカーからの音と徹底的に向きあえる。

むき出しをよしとしない人がいる。
それはそれでいいけれど、そういう人はオーディオマニアではない。

音に関心があっても、オーディオマニアとは呼べない人のことだ。

老成ぶるオーディオマニアがいる。
私は、そんな人が嫌いだ。

老成ぶることで、人とは違うのだ、とアピールしたいのか。
老成ぶる人に、むき出しの勢いを感じることはない。

むき出しの才能、
むき出しの情熱、
むき出しの感情、
これらがないわけだ。

むき出しになっていないだけだろうか。
もとから才能も、情熱も感情もないのだろう。

《オーディオでしか伝えられない》ことを持っていない人たちなのだから。
《オーディオでしか伝えられない》ことを持っている人ならば、
なにかがむき出しになっていくものだ。