正しい音と正しい聴き方(番外)
今日昼ごろ、神田のパン屋に行った。
古くて小さなパン屋で、昭和からあるパン屋といった風情である。
初めて入るパン屋である。
ここ数年の、私のちょっとした楽しみは、
こういう昭和のパン屋といいたくなる店で、いわゆる調理パンを買うことである。
カタカナで、しかも一度見ただけでは暗記できないような店名のパン屋、
きれいで広くて、パンの値段もやや高めというところも好きなのだが、
ますます数が減ってきている昭和のパン屋は、
あと十年もしたら、ほとんど見かけなくなるのではないだろうか。
いまはスマートフォンがあり、Google Mapを入れていれば、
パン屋と入力すれば、付近の店を表示してくれる。
いろんなところに行っては、こうやって探している。
今日のパン屋に入ったら、モーツァルトのピアノ・ソナタが鳴っていた。
BGMとしては大きめの音量だった。
店主が好きで聴いているような感じを受けた。
店内のテーブルに置かれたラジカセから鳴っていた。
特に高級なラジカセではないけれど、
店に入った瞬間に、グールドのモーツァルトだ、とわかった。
店主に確認したわけではないが、グールドのモーツァルトである。
鳴っていたのは特別な音ではない。
いわゆるラジカセの音でしかない。
それでもグールドのモーツァルトだ、とわかるほどに、
グールドのモーツァルトで聴ける清新さは、きちんと伝わってくる。
グールドのゴールドベルグ変奏曲が、
とても変な音で鳴っているのを聴いたことがある、と以前書いている。
一つは個人宅で、もう一つはある輸入元の試聴会だった。
そんな音で、グールドのモーツァルトが鳴っていたら、
誰の演奏かはわからなかったはずだ。