Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 11月 9th, 2013
Cate: EXAKT, LINN

LINN EXAKTの登場の意味するところ(その3)

1981年にdbxから20/20が登場した。価格は480000円。
この価格にのイコライザーとしては、10バンド(31.5、63、125、250、500、1k、2k、4k、8k、16kHz)。
このスペックだけでみれば、この時代のグラフィックイコライザーとしてみれば割高におもえる20/20には、
それまでのイコライザーにはなかった機能がもりこまれていた。

20/20の登場の数年前から、
オーディオ機器の広告やカタログにマイコンの文字が使われるようになっていた。
マイコンがもっとも積極的に搭載されたのはカセットデッキだろう。

カセットテープが普及しカセットテープの高性能化にともないテープの種類が増えていった。
メタルテープも登場した。
それらの、通常のテープよりも高音質で録音できることを謳ったテープの良さを引き出すには、
ユーザー側にそれなりの使いこなしが要求もされていた。

そういう調整を楽しんでやる人もいればめんどうだと思う人もいる。
楽しんでやる人のすべてが正しく調整できていたとは思えない。
せっかくのテープの良さを、間違った調整で充分に良さを発揮できないで使っていた人もいても不思議ではない。

カセットテープは本来使いやすいものであっただけに、
どんなに高性能なテープであろうと、カセットデッキにセットして録音ボタンを押すだけで、
満足のいく音質で録音できるのが、カセットデッキ(テープ)の本来のあり方だとすれば、
これらの調整は、やはりめんどうなものでしかない。

日本のメーカーは、このところにマイコンを利用して、自動化していった。
こうやってオーディオ機器にもマイコンが使われるようになっていき、
dbx 20/20が登場した。

Date: 11月 8th, 2013
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その25)

アルテックの405Aを、SUMOのThe Goldの前に使っていたアキュフェーズのP300Lでも鳴らしている。
そんなに聴いていたわけではない。
とりあえず、どんな感じになってくれるかな、という軽い気持で聴いていたし、
1日だけだった、と記憶している。

そのときの405Aの印象はそれほど残っていない。
10cmのフルレンジで、さほど高級なユニットでもないし、これくらいの音だな、というあなどりがあった。

そのあなどりがThe Goldで鳴らしていた時にもあった。
405Aを鳴らしていた1週間、そのあなどりがあった。

あなどりがあったからこそ、スピーカーをセレッションにSL600に変えたとき、
その変化はP300Lとの経験をもとに、このぐらいになるであろう、と想像していたし、
405Aを聴いていて感じていた良さは、SL600でも同じくらいに出るであろうし、
もしかするともっとよく出るかもしれない、と思っていた。

それが見事にくつがえされた。

405Aをあなどっていたことが、音として出たわけだ。

P300LとThe Goldという、ふたつのパワーアンプの違いは、
SL600の方がよりはっきりと出してくれる、という思い込みがあった。
けれど結果は、405Aの方がよりはっきりと出してくれた、ともいえる。

Date: 11月 8th, 2013
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その24)

トータルでの音の良さということではセレッションのSL600に素直に軍配をあげるし、
その方が所有している者としてはうれしいわけだが、
それでもなおアルテックの10cm口径のフルレンジが聴かせてくれた良さにおいては、
SL600がかなわないこと。
それもセッティングをどうつめていこうとも適わない(敵わない)ということは、癪であった。

アルテックの405Aに関しては、SUMOのThe Goldの様子見のために鳴らしていたのだから、
セッティングもいいかげんだった。床に直置きだった。
スピーカーケーブルもそのへんに適当なものを接続しただけだった。

にもかかわらずSL600をきちんとセッティングして注意を充分にはらって鳴らしているにも関わらず、
405Aが易々と出してくれる良さが、どうしても出てこない。

それがスピーカーの面白さであることはわかっていても、
だからこそさまざまなスピーカーが存在している理由のひとつでもあるわけだが、
少なくとも価格が拮抗しているのであれば納得できても、
価格も製品としてのつくりもまったく違う、ふたつのスピーカーを鳴らして、
こういう結果になるのは腹立たしい部分もないわけではない。

しかもその部分は、どんなに強力なパワーアンプをもってきたところで、うまく鳴らない。
結局のところ、フルレンジユニットが鳴らす音の良さが身にしみた。

フルレンジユニットをそのまま鳴らす。
ユニットとパワーアンプの間にはネットワークを構成する部品(コンデンサーやコイル)を介在させない。
介在するのはスピーカーケーブルと端子ぐらいにしたときの、
フルレンジの良さは、マルチウェイのスピーカーシステムを聴くことがあたりまえになりすぎている世代にとって、
どういう位置づけになるのだろうか。

Date: 11月 7th, 2013
Cate: EXAKT, LINN

LINN EXAKTの登場の意味するところ(その2)

世の中には、いったいどれだけの道具が存在するのか。
どれくらい昔から道具が存在してきたのか。

文明とともに、それらの道具の大半は洗練され、電動化されていった。
電動化されたことで、人の手で動かしていた時よりも、ずっと高速に動き、高効率化された。

その電動化されたことによって、これまでにさまざまな試みがなされてきたのが自動化である。

すべての道具が電動化され、そして自動化されているわけではないけれど、
自動化への試みはいつの時代にも、どの道具に対しても試みられている。

オーディオにかぎっても自動化への試みは、これまでにもいくつもなされてきている。
アナログプレーヤーにかぎっても、そうだ。
簡単なところではレコードの最内周にカートリッジがくれば自動的にリフトアップする機構から、
フルオートプレーヤーのようにレコードをターンテーブルの上に載せ、スタートボタンを押すだけで、
あとの操作はいっさい必要なしになった。

オートチャンジャーのプレーヤーではレコードかけかえもプレーヤーがやってくれる。
実物を見たことはないし、日本には輸入されなかったはずだが、
1970年代の終りごろにCEショウには、自動的にレコードを裏返すプレーヤーも登場していた。

さらにフルオートプレーヤーは、
それまでメカニズム中心の設計から電子制御が加わり、
レコードのサイズを検出して回転数の設定から選曲も可能になっていった。

カセットデッキについても自動化は、カセットテープへの自動対応、
オートリバース機構など、いくつもの試みがなされてきた。

どんなに自動化されようとも、これまではディスク(テープ)の選択は、人まかせだった。
レコード棚から聴きたいレコードを選んで取り出して、
プレーヤーのところにまで持ってきて、ジャケットからレコードを取り出してターンテーブルに乗せる。
そしてクリーニングする。
少なくともここまでは自動化されることはなく、聴き手がやることだった。

自動化はあくまでも限られた範囲での自動化であった。

私が、この項で書いていくのは、この自動化について、である。
オーディオにおける自動化(オートマティック)だ。

Date: 11月 7th, 2013
Cate: EXAKT, LINN

LINN EXAKTの登場の意味するところ(その1)

今年登場したすべてのオーディオ機器を聴いているわけではない。
今回のオーディオショウで見て聴いたモノ、
ステレオサウンドを始めとするオーディオ雑誌での情報、
それらを総合して、私にとっての今年登場したオーディオ機器のなかで、もっとも注目すべきは、
LINNのEXAKTである。

音だけに関していえば、私にとっての今年最大の注目すへきオーディオ機器はVOXATIVであるが、
オーディオについて、オーディオのこれからについて、あれこれ考えさせられる、
その意味でEXAKTということになる。

二日前に別項「オーディオ・システムのデザインの中心(LINN EXAKT)」でも、
EXAKTのことについて書いた。
オーディオ・システムのデザインの中心に関してもそうだが、
それ以上に私がEXAKTに強い関心を抱くのは、
オーディオが音楽を聴くための道具として考えるのであれば、
オーディオの道具考として、EXAKTの機能は、
人間(聴き手)と道具(オーディオ機器)との関係性について再考を求めてくるところがある。

しかもこの再考は、考えれば考えるほど楽しくなっていく感じがしている。

EXAKTのシステム全体としての価格は、なかなか高価だ。
EXAKTの音に興味を持った人でも、おいそれと手が出せる人はあまりいないかもしれない。
そんな高額なシステムだから、最初から関心がない、なんてことはいわずに、
音よりもEXAKTというシステムの意味を考えていくことは、
つまりはEXAKTということにとどまらず、
こういう機能をそなえるオーディオ機器(というよりもオーディオシステム)が登場してきたことを、
どう受けとめ、どう考えていくか、では、今年のオーディオ機器のなかではダントツである。

Date: 11月 3rd, 2013
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, ショウ雑感

Bösendorfer VC7というスピーカー(2013年ショウ雑感)

Bösendorfer VC7というスピーカー」という項を立てて、(その28)まで書いている。
まだ書いて行く。

Bösendorfer(ベーゼンドルファー)からBrodmann Acousticsに変ってから、
日本へは輸入されていない。
現行製品ではあるけれど、日本ではいまのところ買えない。

だからこそ書いていこう、と思っているし、その反面、輸入が再開される可能性も低いだろう、と思っていた。

今年のインターナショナルオーディオショウでの、予想していなかった嬉しい驚きは、
Bösendorfer(Brodmann Acoustics)のスピーカーシステムが、
フューレンコーディネイトのブースの片隅に展示されていたことだった。

目立たないように、という配慮なのだろうか。
うっかりすると見落してしまいそうな感じの展示である。

今日の時点ではフューレンコーディネイトのサイトには何の情報もない。

Brodmann Acousticsのスピーカーシステムの日本での不在の期間(三年ほどか)がひどく永く感じられた。
このスピーカーシステムは、だからといって日本でそれほど売れるとは思えない。
思えないからこそ、このスピーカーシステムの輸入を再開してくれるフューレンコーディネイトには、
感謝に近い気持を持っている。

スピーカーのあり方は、決してひとつの方向だけではない。
そんなことはわかっている、といわれそうだが、
実際に耳にすることのできるスピーカーシステムの多くがひとつの方向に集中しがちであれば、
この当り前のことすら忘れられていくのではないだろうか。

その意味でも、Brodmann Acousticsが聴けるということは、
大事にしていかなければならないことでもある。
フューレンコーディネイトが、その機会をふたたび与えてくれる。

Date: 11月 2nd, 2013
Cate: VOXATIV

VOXATIV Ampeggio Signatureのこと(その2)

ジャーマン・フィジックスのUnicornの音は、帰宅したあとも思い出していた。
一晩寝て目が覚めたら、また聴きたくなった。
Unicornを聴くまでは、一日行けば充分だろうと思っていたのに、また行くことにした。

VOXATIVのAmpeggio Signatureの音を今日聴いてきて思い出していたのは、
2002年に聴いたUnicornのことだった。

UnicornとAmpeggio Signatureの音がまったく同じなわけではない。
かなり違うともいえる音ではあるのだが、
共通する音の良さを持っているとも感じるし、
それにスピーカーシステムとしての形態にも似ているところがある。

まずどちらもフルレンジ型ユニットを搭載している。
トゥイーターもウーファーもついていない。
エンクロージュアはスピーカーユニット背面の音を利用していることでは共通している。

もっともその利用方法は同じとはいえないところもあるし、
ジャーマン・フィジックスのユニットの場合、背面の音ではなく、内側の音ということにもなる。

それからどちらもドイツである。
(ADAMのColumn Mk3もドイツだ。)

Date: 11月 2nd, 2013
Cate: VOXATIV

VOXATIV Ampeggio Signatureのこと(その1)

2002年のインターナショナルオーディオショウにおいてタイムロードのブースで、
ジャーマン・フィジックスのUnicornを聴いた。

ウォルシュドライバーを搭載したスピーカーシステムが出ていたことは知っていた。
ウォルシュドライバーを搭載したスピーカーシステムは、昔からあって、
ステレオサウンドにいたころ、オームのそれを聴いている。
たしか伊藤忠商事が輸入元だったはずだ。

実を言うと、それほど記憶に残っていない。
聴いたことは確かに憶えているし、当時のステレオサウンドの新製品紹介のページにも登場している。

2002年のインターナショナルオーディオショウは、ひさしぶりにでかけたオーディオショウだった。
もうどのくらいオーディオショウに足を運ばなくなってたつだろうか。
そくらい久しぶりだった。

四階のフロアーにつき、とにかく端から順番に各ブースの音を聴いていこう、ということで、
エレベーターを降りて左にまがり、当時は端っこにあったタイムロードのブースが入った。

入ってすぐに、ジャーマン・フィジックスのUnicornの音に驚いた。
こうも違うのか、とも思っていた。
とにかくオームのスピーカーシステムとはずいぶん違う。
違うだけでなく、いままで聴いたことのない類の、いい音だった。

そのまま椅子から立ち上らずにずっと聴いていたかった。
でも、とにかく他のブースをも、ということで、すべてのブースを廻ってきたあと、
もう一度タイムロードのブースに戻ってきていた。

Date: 10月 25th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(続余談・ベイヤー DT440 Edition2007)

「Hi-Fiヘッドフォンのすべて」が出た1978年でのDT440の価格は14800円。
ベイヤーのラインナップではいちばん安価なヘッドフォンだったし、
高価なヘッドフォンはこの当時もいくつかあった。

それにDT440は瀬川先生が書かれているように、
《ユニット背面の放射状のパターンなどみると、決して洗練されているとは言えず見た目にはいかにも野暮ったい》
外観だった。およそ高級ヘッドフォンとはいえない、見た目の印象だ。

それから30年が経過して、DT440 Edition2007になっているわけだが、
DT440の放射状のパターンはなくなっている。野暮ったさはなくなっているが、
高級ヘッドフォンという趣は感じないし、買う前から予想していたことでもあるのだが、
ドイツで製造しているわけではないようだ。

現在のベイヤーのラインナップで、より上級機はドイツ製を謳っているモノがある。
DT440 Edition2007はオープンプライスになっているが、実質30年前の定価とほぼ同じである。

そんなこともあって、ほとんど期待せずにiMacのヘッドフォン端子に接いでみた。
きちんとしたヘッドフォンアンプで鳴らしたわけではない。
おそらく中国で製造しているであろう、普及価格帯のヘッドフォン。

鳴ってきた音を聴いて、まず私が思っていたのは930stの帯域バランスと同じだ、ということだった。

瀬川先生がステレオサウンド 55号で書かれている文章そのものの帯域バランスがここにあった。
     *
中音域から低音にかけて、ふっくらと豊かで、これほど低音の量感というものを確かに聴かせてくれた音は、今回これを除いてほかに一機種もなかった。しいていえばその低音はいくぶんしまり不足。その上で豊かに鳴るのだから、乱暴に聴けば中〜高音域がめり込んでしまったように聴こえかねないが、しかし明らかにそうでないことが、聴き続けるうちにはっきりしてくる。
     *
もちろん930stの音そのものがDT440 Edition2007で聴けるわけではない。
だが、少なくとも930stの美点ともいえる、瀬川先生が書かれているとおりの帯域バランスは聴ける。

Date: 10月 25th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(余談・ベイヤー DT440 Edition2007)

30年以上前ならばEMTの930stをオーディオ店で見たり、聴くこともできたであろうが、
いまはその機会も少なくなっている、と思う。

ここで930stのことをいくら書いたところで、
930stに関心をもってくれても聴くことがなかなかかなわないのは時代の成り行きとはいえ、
残念なことだし、さびしくもあり、もったいない感じもする。

中古を専門に扱っているところに行けば、930stはあることにはある。
けれど、それがどの程度のコンディションかといえば、はっきりとしたことは何も言えない。
いいコンディションの930stにあたるかどうかは、運次第ともいえる。

完全整備と謳っているところは少ないないけれど、
私はほとんど、この謳い文句は信用していない。
店主の人柄がいいから、といって、そこで扱っている930stのクォリティが保証されるわけでもない。

結局、自分の目で判断できなければ、ということになる。

それでも930stの音がどういう音なのか、
その良さを、なにか別のモノで聴くことはできないのか──。

いまから三年前、iMacで使うヘッドフォンを探していた。
ちょうどそのころ、瀬川先生の文章を集中的に入力作業していたころで、
しかもステレオサウンド別冊の「Hi-Fiヘッドフォンのすべて」にとりかかっていた。

iMacで使うものだから、高価なものでなくてもいいし、日常使いとして適当なヘッドフォンがあればいい、
という気持で探しに来ていた。
たまたま目についたのが、ベイヤーのDT440 Edition2007だった。

価格も手頃だし、「Hi-Fiヘッドフォンのすべて」で瀬川先生が購入されていたことを知っていたから、
試聴もせずに、これに決めた。

Date: 10月 24th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その9)

これも衝動買いといえば、そうなるのかもしれない。

衝動買いとは、パッとひと目見て気に入り、その場で買ってしまうことだとすれば、
私の930stに関することは、13歳のころから、このプレーヤーが音楽を聴いていく上では必要だ、
いつかは930stと思い続けてきたわけだから、いわゆる衝動買いとはすこし違うのかもしれない。

でも、買えるかもしれない、とわずかでもそうおもえた時に、
ごく短時間で買う! と決意して買ってしまうのも、衝動買いかもしれない。

21で930stは、分不相応といわれればそうであろう。
でも、13のときからずっと思い続けてきたプレーヤーである。
そのプレーヤーを手に入れるチャンスであれば、なんといわれようと買うしかない。

それでもOさん、Nさん、Sさんたちの「買いなよ」が後押しになっていたし、
ノアの野田社長のおかげでもある。

ロジャースのPM510を買った時もそうだった。
PM510はペアで88万円していた。
そのPM510を20までに買えたのは、輸入元の山田さんのおかげである。

山田さんは、瀬川先生のステレオサウンド 56号のPM510の文章に登場する山田さんである。
山田さんがいなければ、私はPM510を買えなかったかもしれない。

惚れ込んだオーディオ機器を買う、ということは、私の場合、誰かのおかげである。
山田さんがいてくれたし、野田社長がいてくれて、
私はなんとかPM510、101 Limitedを自分のモノとすることができた。

縁があったからこそである。
よすがも、縁と書く。
だから縁が必要だったのだろう。

Date: 10月 24th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その8)

EMTの930stというプレーヤーは、私にとっては特別な意味をもつプレーヤーでもある。
ただ単に音のよい、信頼できるプレーヤーということだけではなく、
五味先生の「五味オーディオ教室」からオーディオの世界にのめり込んでいった私にとって、
五味先生が、誠実な響きとされていたからだ。
     *
どんな古い録音のレコードもそこに刻まれた音は、驚嘆すべき誠実さで鳴らす、「音楽として」「美しく」である。あまりそれがあざやかなのでチクオンキ的と私は言ったのだが、つまりは、「音楽として美しく」鳴らすのこそは、オーディオの唯一無二のあり方ではなかったか? そう反省して、あらためてEMTに私は感心した。
     *
オーディオの世界に足を踏み入れようとしていた13の中学生にとって、
この文章の意味は重かったし、大事なことだということはわかっていた。

音と音楽の境界ははなはだ曖昧である。
音楽を聴いているのか、音を聴いているのか、
とはよくいわれることである。

そういう危険なところがあるのは「五味オーディオ教室」を読めばわかる。
わかるからこそ、
《「音楽として美しく」鳴らすのこそは、オーディオの唯一無二のあり方ではなかったか?》
これをよすがとした。

930stがあれば、どこかで踏みとどまれるかもしれない。
そういう意味で、特別なプレーヤーが930stであり、
その色違いの101 Limited見てわずかのあいだにを買う! と決意して、
私のところに、この特別な意味をもつプレーヤーが来ることになった。

Date: 10月 24th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その7)

EMTの930stは河村電気研究所が取り扱っている時に生産中止になっている。
そのあとEMTがバーコに買収され、輸入元がエレクトリに移ってから再生産が一度なされている。
そのときの価格がいくらだったのか記憶にない。

930stの1980年での価格は本体が1258000円、専用のサスペンション930-900が295000円。
930stは930-900込みでのパフォーマンスの高さだから、1553000円ということになる。
1981年には930stの価格は1399000円になっている。

101 Limitedが登場した1984年までにいくらになっていたのか正確には記憶していない。
このころのステレオサウンドには河村電気研究所の広告も載っていない。
載っていたとしても価格は掲載されないことが多かったから、いまのところ調べようがない。

EMTのプレーヤーの価格は不思議なところがあって、
1975年の時点では、930stは980000円、927Dstは1300000円だった。
930stと927Dstの価格差は小さいものだった。
サイズの違い、出てくる音の凄さの違いは大きいものであったにもかかわらず、である。

それがいつしか927Dstは2580000円になり、3500000円、最終的には450万円を超えていたときいている。
1975年の価格から三倍以上になっているのにくらべると、930stの価格の上昇はそれほどでもないのだが、
それでも150万円は150万円の重みがあることには変りはない。

「買います」といったものの、
支払い能力があやしい者には売れない、といわれればそれまでである。
そういわれるかと思った。ことわられるかも、とも思っていたけれど、
ノアの野田社長は、あっさりと「いいよ」といってくださった。

もう撤回はできない。

Date: 10月 24th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その6)

少年とは、私のこと。18でステレオサウンドで働くようになったので、少年ということだった。
このときいたNさんも、同姓の人がサウンドボーイ編集部にいたので、Jr.(ジュニア)と呼ばれていた。
私も、Nさんと呼ぶことはなくて、ずっとジュニアさんといっていた。

当時のステレオサウンド編集部は、そういう雰囲気があった。
いまは、おそらくそんなことはないと思う。

「少年、これ買えよ」

私だって支払えるだけの経済力があれば、欲しい。
EMTの930stは、五味先生も愛用されていたし、瀬川先生も927Dstにされるまで使われていた。
買えるものならば、いますぐ欲しいプレーヤーだった。

けれどトーレンスの101 Limitedは150万円だった。
21歳の若造が買える金額ではない。
そうでなくてとも、ロジャースのPM510を買ってから一年ほどしか経っていなかった。
余裕は、まったくなかった。

Oさんの「少年、これ買えよ」に続いて、
NさんもSさんも「買いなよ」と、簡単にいってくれる。

このとき930stは製造中止だといわれていた。
101 Limitedにしても、型番が示すように101台の限定である。
この機会をのがしたら、新品の930stを手に入れることは難しくなる。

無理なのはわかっている。
でも、これしかない、とおもったら、「買います」といっていた。

Date: 10月 19th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その5)

HiVi(このときはまだサウンドボーイ)編集長のOさんは、
以前は930stを、そして937Dstにされた人だから、
そして非常に凝り性の人ということもあって、EMTのプレーヤーに関しては非常に詳しい。

Nさんは、ステレオサウンドの編集後記を丹念に読んできた人ならば思い出されることとと思うが、
瀬川先生の927Dstを譲ってもらった人である。
私はNさんの部屋によく行っては音を聴かせてもらうとともに、
瀬川先生のモノだった927Dstを見て触れていた。

SさんはEMTのプレーヤーは所有されていなかったけれど、
EMTのプレーヤーの良さは認めている人だった。

こういう人たちがオーディオ談義をしていたところにトーレンスの101 Limitedは届いたものだから、
すぐに開梱され、EMTの930stと同じなのか、それとも違いがあるのかがチェックされていった。

この日、ステレオサウンド編集部に来た101 Limitedは、シリアルナンバー102番だったモノ。
サンプル用として二台の101 Limitedがはいってきて、
一台はシリアルナンバー101番、つまり101 Limitedのシリアルナンバーは101から始まっている。

シリアルナンバー102番の101 Limitedは、930stとブランド名が違うこと、
デッキ部分の塗装が金色になっていること、トーンアームのパイプの塗装が違うこと、
そういう違い以外はなく、930stそのものだという、いわばオスミツキがもらえた。

ノアの野田さんは、それを聞いて満足げだったようにみえた。

そして、その次にOさんの口から出て来たのは、
「少年、これ買えよ」だった。